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激突! 迫力満点の新競技
~第2回高校生ロボットアメリカンフットボール全国大会が開催


どこに転がるか予測できないフットボールを運ぶ面白さ

 2月18日、神奈川県のパシフィコ横浜において、「第2回高校生ロボットアメリカンフットボール全国大会」が開催された【写真1】【写真2】。主催は社団法人 全国工業高等学校長協会、富士ソフト。

 この競技は'90年から全日本ロボット相撲大会を主催している富士ソフトが、新しいロボットの団体競技として考案したもので、昨年初めて開催されたイベント。今年で2回目になる。アメリカンフットボールを模したルールで、7×3mのコートにおいて自作のラジコンロボットを操作し、相手のゴールエリアに楕円型のボールを持ち込むというルールだ。ゴールエリアにボールが一部でも入れば(タッチダウンすれば)得点になる。なお、スコアが7点差になった場合には、コールドゲームで終了となる。


【写真1】神奈川のパシフィコ横浜。この展示ホールA会場にて、「高校生ロボットアメリカンフットボール全国大会」が開催された 【写真2】大会の模様。写真はコートAで行なわれた大沢野工と足利工の予選リーグの模様。コートは4面あり、同時並行して試合が進められた

 ロボットのサイズは20×20×20cm以内、重さ3kgまで。1チーム5台までエントリーできるが、そのうち実際に試合に参加できるのは4台。残りの1台は控えの機体となる【写真3】【写真4】。また、今回からラジコンの無線システムとして、富士ソフトが新開発した「NRC-RCV10」【写真5】が使用されるようになった。

 市販ラジコンの場合、電波使用チャネルに制限があり、一度に動かせるロボットの台数が限られてしまう。複数の試合を同時に進行できるように、この新システムではIEEE 802.11bに準拠しながら、独自のプロトコルやフレームフォーマットを採用。同一チャネルで同時に195台までのロボットをストレスなくコントロールできるようにしている。同社では今後、これをロボット相撲などにも利用していきたい考えだ。


【写真3】ロボットのサイズは20×20×20cm以内、重さ3kgまで。写真は四日市中央工業高校のチーム四中校の機体 【写真4】1チーム5台までエントリーできる。そのうち1台は控えの機体となるが、これをうまく利用していくことが勝利のポイントのひとつになる 【写真5】富士ソフトが新開発した「NRC-RCV10」をプロポとして利用。IEEE802.11bに準拠しながら、独自のプロトコルやフレームフォーマットを採用(ペイロードのデータ部を少なくしている)。同一チャネルで同時に50組以上のロボットをストレスなくコントロールできる。実効通信速度は7Mbpsぐらいだという

 さて、この競技の面白いところは、なんといっても卵型のフットボールを使用するところにある。どこにボールが転がっていくのか予想もつかない。素早く捕捉するためにロボットに機動性と操作の俊敏性が求められるのだ。転がりやすいボールを、いかにホールドして運んでいくかという点も工夫を凝らさなければならない。

 また、激しいぶつかり合いがあるので、ロボットの耐久性も必要になる。試合が進むにつれ、ロボットの機体はかなり痛んでくる。控えのロボットをどのように利用していくのか、痛んだ機体を交換して整備をスムーズに進めていくこともポイントになるようだ。さらに4台のマシンをディフェンスとオフェンスに役割分担させる連携プレイも重要だ。チームが一丸となって戦うことが勝利をつかむ際に大切になってくるからだ。


見るものを圧倒させる激闘。素早い展開に目を離せない

【写真6】全国から集まった精鋭18チームが4組に分かれて、3分間ずつ予選リーグ戦を行った。総当たり戦なので、その組のすべてのチームと戦うことになる
 今年の大会は、予選リーグと決勝トーナメントによって優勝が争われた。まず全国各地から参加した18チームが4組に分かれて3分間のリーグ戦を行ない【写真6】、得点の高い各組の上位2チームが決勝トーナメントに進む。

 次に決勝トーナメントでは、前半と後半それぞれ3分(ハーフタイム1分あり)、合計6分間の試合時間が与えられる。もちろん選手交代、ロボットの交代もOKだ。アメリカンフットボールのルールと同じように、ボールを持っていないロボットへのタックルやブロックも反則にならない。実際にボールを奪いあう素早いロボットの動きを目の当たりにすると、その迫力に驚くかもしれない。

 予選リーグでは、四国の三豊工業の「MITOYOチーム」が無失点で4試合すべてコールドで通過したため、とても目をひいた。同校は昨年の大会に優勝しており、チームの役割分掌がしっかりできていたようだった。腕を広げて相手の行く手を阻んだり、ボールを囲うようなロボットもあった【動画1】。

 このほか、決勝トーナメントに進んだ7チームは、宇部工業の「防長工友会」、四日市中央工業の「チーム四中工」、今治工の「瀬戸水軍・昇」、高松工芸の「稲バウアー」、茂原樟陽の「チーム樟陽」、加治木工業の「やんぱら」、石川県工の「石川県立工業」。総じて四国を中心とする西日本勢の強さが目立った【写真7】【写真8】。

 1回戦目のトーナメントで個人的に印象に残った試合は、三豊工業 vs.宇部工業と、石川県立工業 vs.高松工芸の試合だった。宇部工業は三豊工業に惜敗したものの、初出場で強豪から5点を奪取し、潜在的な実力とパワーを発揮した【写真9】。

 また、今回初出場となる高松工芸の稲バウアーチームも予選から強さを見せつけていた。稲バウアーは、「ロボットがひっくり返っても、また元に戻れるようにという気持ちを込めてつけられたネーミングだ」という。そのほかの試合も決勝トーナメント戦らしく、スピィーディな展開で激戦を繰り広げた。コートの枠に衝突して、枠が取れたりするハプニングもあった【写真10】。


【動画1】四国の三豊工業の「MITOYOチーム」の戦い。無失点で4試合すべてコールドで通過。腕を広げて相手の行く手を阻んだり、ボールを囲うようなロボットも 【写真7】決勝トーナメント戦の準備時間には、吹奏楽の演奏と、アメリカンフットボールらしいチアリーダーの応援が華やかさを添えていた 【写真8】決勝トーナメントに進んだ8チーム。大相撲大会と同様に、四国勢を中心として西部以南のチームが多かった

【写真9】宇部工業の機体(手前)。写真は予選時の今治工業との試合の様子 【写真10】激戦の様子。コートエリアからはじき出されてしまったアメフトロボットたち。至近距離から見ると迫力満点だ

 2回戦目のトーナメント(準決勝)では、三豊工業 v.s.茂原樟陽、高松工芸 v.s.今治工業の間で激突が繰り広げられた。三豊工 v.s.茂原樟陽の戦いは少し予想外の展開となった。前半戦で三豊工業が奮わず、茂原樟陽が4点を奪取。後半戦になって三豊工業が巻き返しをはかり、結局7対5で逆転勝利を収め、決勝戦に駒を進めた。両チームのロボットは機動力を備え、ロボットがサイドラインを飛び出す場面が何度もあり、まさに善戦と言える内容であった。

 一方、高松工芸 vs.今治工業の戦いは、くしくも四国勢同士の戦いとなった。実力は伯仲しており、前半戦は得点も3:3で両者互角。最終的に高松工芸の稲バウアーが決勝戦に勝ち上がったが、最後まで試合の行方がわからない手に汗握る展開となった。

 3位決定戦は今治工業と茂原樟陽の間で行なわれた。今治工業は昨年は第2位、茂原樟陽も第3位という実力の持ち主。前半戦は拮抗し、互いに激しいぶつかり合いの連続。後半になって茂原樟陽が勢いにのり、得点を稼ぎはじめた。最終的に7点の差がつき、茂原樟陽のコールド勝ちとなったが、こちらも両者ともに善戦し、とても良い試合だった【写真11】【写真12】【動画2】。


【写真11】3位決定戦の模様。今治工業vs.茂原樟陽の戦い。両者ともに昨年の入賞チーム 【写真12】前半戦は拮抗した。機敏な動きでボールを奪い合う連携プレーが見ものだった 【動画2】3位決定戦の模様。激しいぶつかり合いの連続で、まさにアメフトのような迫力満点の試合であった

 いよいよ決定戦。全国の頂点に立つ覇者は、三豊工業か? あるいは高松工芸か? いずれも同郷の香川代表チームであり、見学者の注目が集まった【写真13】。さすがに決勝まで勝ち残ると、機体もかなり痛んでいたようだ。試合前には、ネジを締めなおしたり、バッテリを交換したりと、機体を急いで最終調整する場面も見られた【写真14】【写真15】【写真16】【写真17】。

 決勝前半戦は高松工芸が先取、そのすぐ後には三豊工業が得点を入れた。しかし、また高松工芸が点を取り、三豊工業が取り返すという展開。まさにシーソーゲームであった。見るものも息を飲むような、とても緊迫した試合運びだったが、後半戦になってから、三豊工業の隙を縫うように、高松工芸が速攻を決め、ついに9点を奪取。栄えある、全国の頂点に輝いた【動画3】【動画4】。


【写真13】決勝戦の模様。三豊工業vs.高松工業。いずれも香川県同士の戦いとなった。同県は、昨年度の優勝県(三豊工業)として、2校の出場が認められている 【写真14】決勝トーナメントに向け、最後の調整と準備に余念がない三豊工業。機体にテーピング。本当のアメフトの選手のよう!? 【写真15】三豊工のアメフトロボット。機体は以前からあったロボットを改造したもので、製作時間は1ヶ月ぐらい掛かったという

【写真16】高松工芸の舞台裏。こちらも機体の調整とチェックを入念に済ます。稲バウアーはイナバウアをもじって、ひっくり返っても立ち上がれるようにとの思いをこめたという 【写真17】高松工芸のアメフトロボット。バッテリーやネジの緩みなどをチェック。操作パッドの滑り止めが印象的

【動画3】決勝の模様その1。シーソーゲームを繰り返す決勝戦前半。見るものも息を飲むような、とても緊迫した試合運び 【動画4】決勝の模様その2。高松工芸が即攻でゴールを決めたところ

ロボットは単なる部品の集まりではなく知的な財産

 試合終了後、表彰式が催された。優勝チームである高松工芸の稲バウアーは文部大臣賞も受賞した【写真18】。また、経済産業大臣賞には、強豪と戦っても壊れなかった頑強な機体が評価され、宇部工業が選出された【写真19】【写真20】。


【写真18】第2回高校生ロボットアメリカンフットボール全国大会の優勝チーム、高松工芸の皆さん。初優勝の栄冠に喜びもひとしお 【写真19】経済産業大臣賞に輝いた宇部工業の皆さん。来年は、強豪相手に善戦したハイレベルの技術にさらに磨きをかけて優勝を狙う 【写真20】入賞者全員のショット。中央上は優勝およびの文部大臣賞を受賞した高松工芸、左下から準優勝の三豊工業、経済産業大臣賞の宇部工業、第3位の茂原樟陽チームの皆さん

【写真21】千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター副所長の小柳栄次氏
 最後に千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター副所長の小柳栄次氏【写真21】が、本大会を振り返り、「まず今回このような大会が実現できたのはなぜか? ということを考えてみてください。ラジコンは通常12台ぐらいまでしか動かせませんが、本大会では同時に40台ぐらい動かしています。これは富士ソフトが最先端の新システムを開発したから。これからの社会は、チームが一員として問題解決することが求められます。このような技術が背景にあることも認識しておきたい。また、ものづくりの観点から見ると、ロボットは使われて初めて評価されるもの。単なる部品の集まりではなく、知的財産であり、壊れないように信頼性を高くする必要があります。総合的なものづくりをするためには、ひとつひとつの努力の積み重ねが重要になります」とアドバイスを加えた。

 全国大会に出場するだけあって、すべてのチームは技術レベルが高く、勝敗の差も紙一重であったように感じた。関係者によれば、「昨年よりも今年のほうが遥かにレベルが向上している」という。見学者も知らずのうちに引き込まれ、思わず力が入ってしまう良試合ばかりだった。来年はさらに進化したアメフトロボットが登場してくることを期待したい【写真22】。

 また本大会と併設して、富士ソフトのアメフトロボットのデモンストレーション、オフロードバギーやヘリコプターなどの新ラジコン体験コーナー、紙飛行機「フリー・フライトJr.」の製作教室も開かれていた【写真23】【写真24】【写真25】【写真26】。こちらは、ものづくりに興味のある見学者たちの目を引いていた。


【写真22】富士ソフトが特注でつくったという煎餅のお土産。アメフト用ヘルメットのイラストが入っている 【写真23】アメフトのヘルメットを模したデザインのロボット。富士ソフトがデモ用に開発したもの。新開発のプロポで動かせるようになっていた 【写真24】「ラジコン天国」のラジコンコーナー。市販のラジコンヘリコプターや飛行船などをデモで飛ばしていた

【写真25】ROVONOVA-1(ハイテックマルチプレックスジャパン)のデモンストレーションコーナー。中・上級者向けの2種類のプログラミングツールが同梱されている。このほかにエアプレーンも展示されていた 【写真26】紙飛行機「フリー・フライトJr.」の製作教室。ロボフトレフリー用ユニフォームの折り紙も。子供たちも高校生に負けじと、ものづくりに励む

URL
  全日本ロボットアメリカンフットボール大会
  http://www.fsi.co.jp/foot/
  富士ソフト
  http://www.fsi.co.jp/


( 井上猛雄 )
2007/02/20 00:07

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