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「見せるロボットから、売れるロボットへ」セミナーレポート

~ロボット開発に求められているもの

日本のロボット市場を成長させる4つのキーポイント

【写真1】エボリューション・ロボティックス社日本支社長の山本豊氏
 1月25日、東大COE「ものづくり経営研究センター」において、「見せるロボットから、売れるロボットへ―ロボット開発に今何が求められているのか」をテーマに、定期セミナーが開催された。本セミナーは、NPO法人グローバルビジネスリサーチセンター(GBRC)との共催によるもの。講師としてエボリューション・ロボティックス日本支社の山本豊氏(日本支社長)が招かれ、現在のロボットビジネスの現状や今後の課題、同社が開発した製品などについて詳細な説明がなされた【写真1】。

 講師の山本氏は、日本IBMでThinkpadの初期モデルの開発などに携わった人物。その後、セガやプラネットウェブにおいて要職を歴任。現在はロボット要素技術などを開発するエボリューション・ロボティックスでアジア地域の統括をしている。同社は、米カリフォルニアに本拠を置くベンチャー。CEOには、NASAで火星探査ロボットを担当したPaolo Pirjanian氏が就任しているほか、アドバイザリーボードとして元コンパックの創業者や、ロボット界で著名な研究者らが同社を強力にバックップしている。

 さて、日本で最も有名なロボットといえば、まずASIMOを頭に浮かべる方が多いだろう。とはいえ、ASIMOのような高度なロボットはまだまだ特殊なもの。いまから十数年ぐらい前は、コスト低減や生産性を向上するために、産業用ロボットが人間の代替として数多く用いられていた。

 ところが、最近では環境変化や技術進展などにより、パラダイムシフトが起きているという。現在では、産業用ロボットのほかにも、自律型で人間と共存できるような知能型ロボットが求められている。本セミナーでは、触って楽しんで一緒にいられるような家庭内ロボットやサービスロボットをメインにして話が進められた。


【写真2】ロボット市場が成長するためのキーポイント。マス市場を形成するには、製品のもたらす価値がコストを超える必要がある。また逆にコストを下げるような量産体制、部品単体のコストダウンに加え、要素技術の向上も必要
 日本ロボット工業会の調査によれば、家庭内およびサービスロボットのマーケット規模は2005年に約4,300億円、2010年には約1兆1,000億円に拡大すると予測されており、この分野へのマーケットの拡大が期待されている。「すでに米国では、年間100万台を超えるロボット市場が確立され、認知されている。ロボット掃除機とロボットトイの分野だ。iRobotWowweeでは、3年間に300万台以上が売れている」と山本氏。一方、日本国内では、技術力はトップクラスであるにもかかわらず、まだ市場の確立には至っていないのが実情だ。山本氏は、将来に向かって日本のロボット市場が成長するためのキーポイントとして、以下のような要素を挙げた【写真2】。

・製品のもたらす価値>コスト
・要素技術の向上
・低コストでの量産・検証プロセス
・低コスト・高品質部品

 まず、ロボット市場が成長するためには、製品のもたらす価値がコストを超える必要がある。コストに見合う働きを得られるレベルにならなければ、マスに訴えかけられる市場を形成できない。次にロボットの要素技術の向上が挙げられる。ロボットはさまざまなコンポーネントによって支えらているが、これらの要素技術の技術精度を上げていくことが重要だ。センサ、アクチュエータ、CPUなどの部品単体の低コスト化や高品質化もしなければならない。また、量産体制になった場合に、低コストで提供できるような体制も整えておく必要もある。


ロボット製品の開発サイクルを向上する共通プラットフォームとは?

 コンシューマ向け製品に対するビジネスモデルを考える場合、一般的に小売流通では価格が製造コストの3倍ぐらい、オンライン販売でも製造コストの1.5~2倍ぐらいになるように設定されている。いかなるビジネスモデルにおいても、コストが成功の重要な鍵を握っているわけだが、特にロボットビジネスにおいては、消費者に受け入れられるコストを実現する新しいビジネスモデルを考えていく必要があるという。

 たとえば、ロボット産業に対して政府主導で力を注いでいる韓国では、情報通信部が「URC(Ubiquitous Robot Companion)」プロジェクトを実施している。これは、サーバーと高速ネットワークを利用した携帯型ビジネスモデルをロボットによって実現しようという動きだ。

 クライントとなるロボットには最低限のハードを搭載し、サービスやアプリケーションはサーバー側で提供する。これにより、まずクライアントロボットを低価格で普及させてから、ネットワーク加入料によって利益を還元するかたちだ。いずれにしても、まだまだロボットは気軽に家庭に普及するほど安いものではない。ではコストを下げるにはどうすればよいのだろうか?

 山本氏は「現在のロボット開発では、新規の製品ごとに開発サイクルをまわすため、非効率的で開発費が大変かかる。また技術の再利用や互換性なども難しい状況で、改良する際に柔軟性もない」と指摘。そこで開発効率をいかに上げていくかという点が重要になる。

 具体的にソフトウェアの観点からは、ミドルウェアを共通化することによって、プラットフォーム上でさまざまなアプリケーションや要素技術の互換性を保ちながら、なおかつハードウェアを新しく変えたとしても、上位アプリケーションレイヤーに影響を与えない環境で開発を進められることが開発効率の向上につながるという【写真3】。

 同社では、ソフトウェアプラットフォームの標準化に向け、「ERSP3.1 OS for Robotics」(Evolution Robotics Software Platform)を開発している。これは、ロボット工学用のミドルウェア機能に加え、画像認識や自律走行など各種の要素技術をサポートする統合型プラットフォームだ。

 ERSPは【写真4】のように、ハードウェアの管理階層(HAL)、複雑な用途に使用されるビヘイビアの開発階層(BEL)、目標指向アプリケーションの開発階層(TEL)という3層構造になっている。


【写真3】ミドルウェアを共通化することで、プラットフォーム上でさまざまなアプリケーションや要素技術の互換性を保つ。ハードウェアもさまざまなものに対応 【写真4】「ERSP3.1 OS for Robotics」の構成レイヤー。ハードウェア管理階層(HAL)、複雑な用途に使用されるビヘイビアの開発階層(BEL)、目標指向アプリケーションの開発階層(TEL)という3層構造になっている

 まずHALによってハードウェア(ドライバ)やOSの依存性を取り除く。その上のレイヤーのBELは、センサで検知した情報を行動として実行する75種類以上のビヘイビアモジュールなどで構成されている。ビヘイビアはセンサ入力に対して即座に動作する「ふるまい」となる。そしてTELにおいて、これら一連のビヘイビアをつなぎ合わせることで、1つの仕事(タスク)を実現できる。たとえば、ロボットが部屋を動き回り、目標物を発見し、それを拾い上げる、といった具合だ。

 ただし、これだけではまだ不十分だと山本氏は言う。「ロボットが部屋を動き回るときに、ドアが閉まっていたら目標物を発見できない。予想外のことが起きたときに、どう対処するか。この例ならば、ドアを開けるのか、他のドアを探して開けるのか、元の位置に戻るのか、といった判断が必要になる」

 そこでTELでは、あるイベント(前述の例ならドアが閉まっているという状態)が発生した際に、あらかじめタスクに優先順位(重み)をつけておき、それらを組み合わせることによって行動を決定できるしくみを提供する。


AIBOにも採用された視覚パターン認識技術「ViPR」

 ERSPのもう1つの特徴は、さまざまな要素技術を組み込んで利用できる点だ。知能型ロボットでは、いかにして人間が持つ機能を機械に落とし込んでいくか、ということが重要になる。山本氏は、人間が持つ機能とロボットの構成要素を比較して、さまざまな要素技術を説明した【写真5】。

 「センサからの情報を受けて、それをどうやって行動に移すか。センサと思考アルゴリズム、この2つを開発しなければならない」とし、一例として視覚に関する機能について着目した。特にカメラはセンサとして成熟度が高く、情報量も豊富なため、これを利用した画像認識技術が進んでいるという。

 ビジョン開発には「人の視覚で実現できない認識」と「人の視覚で実現できる認識」のアプローチがある【写真6】。前者は、人間の目よりにはるかによい精度を実現するもので、主に機械部品のアセンブリなど産業用ロボットで用いられている。また、指紋・虹彩・静脈などを認識する技術もこれにあたる。一方、後者の場合は、物体・顔などや、色・文字・光・位置・距離などを検出するもので、家庭用ロボットやクルマの技術などで利用されている。視覚認識技術は、環境に関わらず、常に認識が動作する必要がある。


【写真5】人間の持つ機能とロボットの構成要素を比較。黄色で書かれたものは成熟している技術。音の認識などは雑音の中で必要とする音を抽出できるような指向性のあるマイクがまだ登場していないという 【写真6】ビジョン開発のアプローチ。人の視覚で実現できない認識と、視覚で実現できる認識がある。家庭用ロボットで主に利用されるのは後者のほうだ

 同社では、照明や物体の位置が管理されていない現実的な環境でも、2次元と3次元の物体を認識できる「ViPR」と呼ばれる視覚パターン認識技術を開発。これは、ソニーのAIBOなどにも採用された技術として有名だ。山本氏はノートPCにCCDカメラを接続し、ViPRの技術を応用した「ERSP Vision」のデモを披露した。ViPRによる認識率は80~100%(認識対象となる物体の特性による)で、広範囲の視野角を持つ。レンズの歪みやノイズがあっても、照明が暗くても動作する。また、パターンの大部分(最高 90%) がさえぎられても動作し、複数の物体を同時に認識することも可能だ。

 まずCCDカメラで画像をキャプチャし、そこから認識を行なうための特徴点を抽出して、データベースに登録する。【写真8】のような黄色の点が特徴点である。そしてデータベースを利用して、特徴点を使った画像認識を実現している。

 山本氏はViPRのアルゴリズムについて、「他の認識技術は比較するものが異なる場合に弾くという原理だが、ViPRではそれが異なっていても認識するので、考え方の基点が違う。たとえば、人間ならば、いったん部屋から出て戻ってきて、部屋の状況が変わっていたとしても、元の部屋であることを認識する。ViPRも人間と同じようなアルゴリズムで認識できる」と語る。

 さらにERSP Visionは、画像を認識したときに、それをイベントとして、サウンド、テキストスピーチなどと関連付けて実行できる点も特徴だ。たとえば、絵本の文字を画像として認識させ、それにテキストを紐付けておけば、本の内容を読み上げるロボットが簡単につくれる【写真9】。


【写真7】ERSP3.1のデモの様子。CDジャケットをカメラにかざすだけで音楽を鳴らしているところ。CDジャケットとそれに収録されている楽曲を紐付けている 【写真8】ERSP3.1の画面。1万円札を例に、画像認識をするための特徴点を抽出している。黄色い丸の部分が特徴点だ

 またCDジャケットとそれに収録されている楽曲を紐付ければ、CDジャケットをカメラにかざすだけで音楽を鳴らすことも可能だ。このソフトウェアは無料で試用版を利用できるが、試用版はサウンドのみの紐付けに対応している。

 筆者もERSP Visionを試しに利用してみた。その結果は【写真10】【写真11】【動画1】を参照していただきたい。なお製品版のERSP Visionでは、ロボットなどのセンシングに対して、さまざまなアクションを実行できるようになっている。これを応用し、画像認識とモーションピクチャを組み合わせて、モーションをトリガーとするアクションを選択することも可能だ。


【写真9】本の内容を読み上げるデモ。字を読んでいるのではなく、画像に対して音声ファイル(WAVファイル)を紐付けている。絵を認識すると音声が鳴るので、あたかも本を読んでいるようにみえる。これを応用すれば、目の見えない人に対して有効なロボットをつくれる 【写真10】試用版で実験その1。画面の大きなウィンドウの赤で囲まれたラインがマッチングの表示。小さなウィンドウの左側上はカラー画像、左下は輪郭の抽出を表示。下側のサムネイルは登録された画像のデータベース

【写真11】試用版で実験その2。データベースに登録された画像データのプロパティウィンドウ。ここでサウンドやテキストスピーチの紐付けをする 【動画1】エボリューション・ロボティックスのロゴ、画像、文字部をそれぞれキャプチャして、サウンドやテキストスピーチのファイルを紐付けている。それぞれの部分を認識すると、サウンド(ここではWinowsのTADAサウンドを利用)や音声(テキストスピーチ)が鳴る

市場が立ち上がるまで、要素技術でロボット分野以外にもアプローチ

 ViPRの技術は、画像の認識=認証だけでなく、画像を使ったデータベース検索によって、幅広い分野に応用が利く。山本氏は、同社の視覚技術の展開について、【写真12】のような分野を挙げた。コンシューマ向けのロボットはもちろん、携帯電話やモバイル、スーパーマーケットでの利用も考えられる。スーパー向けには「LaneHawk」という視覚スキャナを開発した。カート底部に置かれた商品を検知・認識し、商品コードをPOSシステムに送信することで、商品を逃さず会計対象とすることができる。

 また、山本氏は、これ以外の要素技術として、視覚認識によるロボットの自律移動を初めて実現した「vSLAM」や、屋内位置検出用のソリューション「NorthStar」【写真13】なども紹介しながら、「ロボット市場が大きくなるまで待っていても、すぐには立ち上がらないだろう。市場が形成されるまでは要素技術を作って、ロボット分野以外にもアプローチすることで開発コストを回収する方針。しかし、我々の軸足はロボットにある。これらの技術がロボットで使われるようになった暁には、製品を安く提供できるような状況にしたい」と、同社の戦略について説明した。


【写真12】同社の視覚技術の展開。コンシューマ向けのロボットはもちろん、携帯電話やモバイル、スーパーマーケットでの利用も 【写真13】屋内位置検出用のソリューション「NorthStar」。赤外線を利用し、周波数の異なるスポットを点滅させることで、位置以外に方向も検出できる点が大きな特徴

 最後に山本氏はあくまで私見としながらも、今後の課題として以下の4点を挙げてセミナーを終えた。

・ロボットプラットフォームの標準化

 ロボットプラットフォームについては、企業や国を越えた技術交流が重要。また、コスト意識などの観点からは、研究成果というよりも実製品から生み出されたほうがよい。標準化については、OMGなどに直接飛び込んで世界標準の作業を進めるよりも、まずは日本国内で足元を固め、ものづくりの拠点であるアジア諸国などと協調しながら規格をまとめていくことが重要。

・ロボット製品に対する安全規格などの法整備

 ロボットの世界では、まだ安全規格が確立されていない。そのため国内で人気が高い2足歩行のロボットは製品化しにくいという背景がある。各国での情報交流をより活発にする必要がある。

・ロボット市場の創造に対する国・地方行政の支援

 成熟していない市場に対して、一企業として市場を切り拓いていくのは大変。対応できるリスクにも限界がある。米国ではWowweeのようにベンチャーがロボット市場を開拓しているが、これはVCからの資金が多くあるため。国内ではVCからの資金提供も限られているので、国・地方行政の支援も必要。

・製品開発サイクルの向上

 各要素技術の完成度・再利用・相互供給が製品開発サイクルを向上させる。アジアの先端企業は自前ですべてを作ろうとする傾向があるが、米国のようにフォーカスを絞った技術戦略と大胆なアウトソーシング戦略によって、開発効率を上げたほうがよい。


URL
  エボリューション・ロボティックス日本支社
  http://www.evolution.com/jp/
  東大COE「ものづくり経営研究センター」
  http://www.ut-mmrc.jp/about/index.html


( 井上猛雄 )
2007/01/30 00:02

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