12月8日、マクソンジャパン株式会社は、創立20周年を記念した記者会見と謝恩パーティーを開催した。マクソンジャパンはスイス・マクソングループの日本法人。軽量で高出力のコアレスモータ、ブラシレスモータを中心としたモータ駆動装置、コントローラなどの製品を展開している。
ロボット関係者の間でも知名度の高い同社が設立されたのは1986年12月10日。法人設立時のもともとの社名は株式会社カルテックで、デジタルポテンショメータやデジタルスイッチの開発、製造販売を目的としていた。設立当初からスイス・マクソンモータの代理販売の話があり、翌年から日本総代理店となった。1987年にネオジム磁石を搭載した「REモータ」を発表。
その後、現在までの取引社数は2,000社以上に及んでいる。社員数は15名。今年度売り上げ予想は16億円。うち、98%は国内でのマクソンモータ関連製品の売り上げが占める。
FA関連や業務用機器のほか、同社の製品はロボット用途としても使われている。ロボットのなかでは産業用ロボットが一番多いが、最近はサービスロボット用途も徐々に増えつつあるそうだ。およそ6割のサービスロボットには、マクソンの製品が使われているという(同社調べ)。
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「wakamaru」
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どの会社の部品を使用しているか明らかにされていないロボットも多いが、たとえば三菱重工業の「wakamaru」にはマクソンのモータが使われている。台車・肩部分に同社のコアレスモータ「REシリーズ」と減速機、頭・肘部分にコアレスモータ「A-max」シリーズと減速機が用いられている。
また日本SGIと電気通信大学の松野文俊教授、稲見昌彦助教授らが共同開発したレスキューロボット「FUMA」や、FUMAをベースに日本SGIが開発して販売している走行ロボット開発支援プラットフォーム「BlackShip」にも同社製品が用いられている。
宇宙開発分野でも実績があり、NASAの火星探査用ローバー「オポチュニティ」、「スピリット」の駆動用モータのほか、日本の探査機「はやぶさ」から小惑星イトカワに向けて打ち出された小型ロボット「ミネルヴァ」にも、マクソンのモータが動作制御用として搭載されていた。
また、同社は教育にも力を入れている。1996年からロボコンに出場する学校向けに「コンテスト向け学校サポートキャンペーン」を実施している。教育用には安価で提供していることから大学でのユーザーも多い。
会見にはマクソンジャパン株式会社代表取締役の兼子純夫氏のほか、マクソンモータ 社主 カール・ヴァルター・ブラウン(Karl-Walter Braun)氏、マクソンモータ セールス/マーケティング担当 バイスプレジデント執行役員で本社副社長のオイゲン・エルミガー(Eugen Elmiger)氏らも同席した。
ブラウン氏は、「スイスには時計産業をはじめ、小型のメカを作るモノづくりの伝統と、技術面の性格がある。また日本同様、資源のない国であるため輸出に力を入れてきた。そのためマクソン製品は各国に入り込むことができている」と語った。
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マクソンジャパン株式会社代表取締役 兼子純夫氏
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マクソンモータ社 社主 カール・ヴァルター・ブラウン氏
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マクソンモータ社 副社長 オイゲン・エルミガー氏
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兼子氏は会見で、これからは医療、サービスロボット、環境の3分野に力を入れていく方針だと述べた。
1つ目の医療分野では「広い意味でのロボット化」が進みつつある。たとえば、重粒子線治療など、がんを対象にした先端機器のなかには、遮蔽板を動かすために180軸以上の多軸制御などが必要とされ、また多くのモータが使われるため市場の拡大が期待されている。また内視鏡などには小型アクチュエータが必要だ。
同社ではこれまでにも自動輸液ポンプや点滴用シリンジポンプなどの自動投薬機器用のモータなどを開発・提供している。マクソンモータ全体では医療分野でも3割のシェアをとっているが、日本市場ではまだ15%程度であり十分に市場に入り込めてないため、これから積極的に展開していくという。
2つ目はサービスロボットだ。兼子氏は「いずれにせよロボット分野が伸びていくのは間違いない。スイス本社も数年前まではサービスロボット市場が本当に拓けるのかどうかについては懐疑的だったが、いまは世界的にも日本を発信地としてサービスロボット開発が1つの傾向になりつつある。今後も福祉、家庭用のサポート分野が拡大するのは間違いない」という見方を述べ、産業用ロボットだけではなく、それ以外のサービスロボット分野にも力を入れていくと語った。
3つ目が環境。会社としても環境をポリシーにしていこうとしているという同社は、2004年には環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001を取得。Energy、Efficiency、Ecologyをスローガンに掲げ、高効率モータの供給によるエネルギー有効活用、環境負荷物質の排出を低減する機器への搭載、新エネルギーへの対応の3点で環境分野にも力を入れているという。
たとえば太陽電池が太陽を追うためには角度制御技術が必要だ。そこには同社の角度制御ユニットが用いられている例があり、今後も市場の拡大が見込まれている。
兼子氏は「当社のモーターは非常に高効率。当社のモーターにすればエネルギーを節約できる。環境を改善する、あるいは環境汚染を防止する側面でも当社は強い」とアピールした。スイスの汚濁検査装置にもマクソンモーターが使われていると紹介し、広い意味での応用をターゲット分野としている、と述べた。
記者会見では、新製品も3つ紹介された。同社ではこれまでアクチュエータの開発が多かったが、これからはアンプや駆動回路の開発にも力を注いでいくという。
1つ目はモーション制御のプログラミングが可能な位置制御ユニット「EPOS P」。120WまでのDCモータあるいはブラシレスモータのモーション制御に対応する。
2年前に発表された「EPOS」の改良版で、特徴はPLC(Programmable Logic Controler、FA用制御装置)を内蔵したこと。CANバスを使うことで最大127軸までの多軸位置決め制御が上位ホストシステムなしの単独で組める。リアルタイムではないがほぼリアルタイムの制御が行なえるという。
応用分野は、FA用途として既存ラインへの組込みのほか、医療分野でのロボットなど。日本メーカーが強い日本のサーボ製品市場に参入することがねらい。価格は9万円程度。
2つ目は回転数制御アンプ「AEC 30/3K」。PCB面積48×25mmと小型で、50Wまでのホールセンサ内蔵電子整流ブラシレスモーターに対応する。サンプル価格は3,000円。市場導入は1,000円くらいの価格を目指す。
特に扁平型のブラシレスモーターとの組み合わせを想定している。同社製品では特に直径45mm程度、10W程度のモータが医療分野などで応用が広がっているという。兼子氏は「汎用性の高いアンプなので、医療分野環境分野に限らず、小型化が要求される応用分野に進めていきたい」と述べた。
3つ目は多機能コントロールユニット「MEC 70/10X」。700Wまでのホールセンサ電子整流モータを対象している。特に高速駆動用に適したコントロールユニットだという。
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プログラマブル位置制御ユニット「EPOS P」
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回転数制御アンプ「AEC 30/3K」
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多機能コントロールユニット「MEC 70/10X」
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会見終了後には「創立20周年記念パーティ」が開催され、関係者で賑わう会場では、アクチュエータとしてマクソンモーターを使っている三菱重工業の「wakamaru」がデモンストレーションを行なった。
また、装着型ロボットスーツ「HAL(Hybrid Assistive Limb)」のビジネス化を進めている筑波大学大学院システム情報工学研究科の山海嘉之教授、レスキューロボットやそれを応用した床下点検ロボットの開発を行なっている千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)の小柳栄次副所長が、それぞれ開発しているロボット技術について
プレゼンテーションを行なった。
小柳副所長は、マクソンモーターを使う理由として、小型・軽量・高効率であること、豊富なバリエーションがあるので設計の自由度が高いこと、また、さまざまな環境での動作が必要とされるレスキューロボットとしては信頼性が重要だ、と述べた。
【お詫びと訂正】初出時、小柳氏のお名前と役職について誤った表記をしておりました。お詫びと共に訂正させていただきます。
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パーティ会場で愛嬌をふりまく「wakamaru」
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【動画】体操するwakamaru
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筑波大学大学院システム情報工学研究科 山海嘉之教授
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HALはグッドデザイン賞も受賞した
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HALの研究は脳神経リハビリへも応用展開されはじめている
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千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo) 小柳栄次副所長
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小柳副所長らによるレスキューロボット「Hibiscus」
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「Hibiscus」にはマクソン製品が使われている
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■URL
マクソンジャパン
http://www.maxonjapan.co.jp
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