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フリースケール、「夏休み電子工作教室」を開催

~マイコン制御扇風機を作る

夏休みの自由研究に最適!

【写真1】フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン主催の「夏休み電子工作教室」の様子。小・中学生24名と保護者がグループごとに参加
 フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは8月14日、小学校高学年や中学生を対象とした「夏休み電子工作教室」を開催した。工作の題材は、この7月に催された「第一回電子工作キット制作コンテスト」において、小中学生向けキットの部門賞を受賞した「HC08ミニマイコン扇風機」(川野亮輔氏による設計)である。夏休みの自由研究として、手づくりの電子工作の面白さを親子で実体験した【写真1】。

 HC08ミニマイコン扇風機は、乾電池とモータで動作する卓上型の扇風機だ【写真2】。電子部品以外の部分は印刷済みの厚紙でつくられている。基板上には電源オン/オフ、5分後に切れるタイマー、風量が自動的に変わる「ゆらぎ」のプッシュスイッチ×4を搭載し、マニュアルで速度を調整できるツマミ(ボリューム)も付いている。スイッチを押すと圧電ブザーから確認音が鳴り、LEDが点灯・点滅する。

 これらのすべての機能は、フリースケールの8ビットワンチップマイコン「HC08」によってコントロールされる仕組みだ【写真3】。今回のイベントでは、あらかじめマイコンのフラッシュROMにプログラムが焼き付けられているが、後述のようにプログラムを変更すれば、動作やブザー音などを自分好みの仕様に変更することもできる。


【写真2】今回製作する「HC08ミニマイコン扇風機」(川野亮輔氏による設計)。「第一回電子工作キット制作コンテスト」において、小中学生向けキットの部門賞を受賞した作品 【写真3】フリースケールの8ビットワンチップマイコン「HC08」で扇風機の動作を制御。このマイコンは、小型汎用品に属する低電圧駆動タイプ(2.2~3.6V)のデバイスだ

【写真4】教材として使用されたHC08ミニマイコン扇風機キットの内容。主要部品はコントロール基板、DCモータ、電池ボックスなど。扇風機本体は厚紙を切り抜いてつくる。ツクモロボット王国において4410円(税込み)で購入できるので、興味のある方はチャレンジしてみては?
 では、教室で実施されたミニマイコン扇風機の工作過程を紹介していこう。

 キットの同梱部品は以下のとおり【写真4】。ツクモロボット王国において購入可能で、価格は4,410円。(ただし、市販キットは電子部品が未実装、スペーサーや回転板が未添付、プログラムの一部が異なる、といった違いがある)。

・コントロール基板(電子回路)×1
・DCモータ×1
・圧電ブザー×1
・速度調整用ボリューム(つまみ)×1
・プッシュスイッチ×4
・ACアダプタ
・単2電池ボックス×2(合計4本の電池を使用)
・スペーサ(発泡材)×6
・厚紙×3(扇風機本体の構成要素)
・回転板×2


3時間で組み立ては完了! 動作やブザー音の変更も可能

1.電子部品のはんだ付け

 キットに同梱されている基板は、誰でも製作できるように半完成品となっている。はんだ付けする部品は、圧電ブザー×1とプッシュスイッチ×4のみ【写真5】。【写真6】のように合計18カ所にはんだ付けするだけなので簡単だ。まずプッシュスイッチを基板にはめこみ、基板の裏からはんだ付けしていく【写真7】。圧電ブザーは両面テープで仮止めしてから、はんだ付けするとラクに作業できる。次にボリューム用のつまみをはめ込む。はめ込むときは、ボリュームを左に回しきってから、つまみの印が左下になるようにする。これでコントロール部の基板は完成だ。


【写真5】はんだ付けする前の電子部品。コントロール基板に圧電ブザー×1とプッシュスイッチ×4をはんだ付けする。このほか、速度調整用のボリュームのつまみも取り付ける 【写真6】コントロール基板を裏面からみたところ。はんだ付けする部分は合計で18カ所なので短時間で作業できる 【写真7】真剣にはんだ付けをする子供。事故がないように、作業用の防護メガネとマスクも用意されていた

2.扇風機本体をつくる

 キットには【写真8】のように3枚の厚紙が入っている。まず、モータを取り付ける「塔」にあたる部分をつくる。はさみとカッターナイフで各パーツを切り抜いて組み立てていく。厚紙でモータを包みこむようにして、両面テープで固定する。次に台にあたる部分を同様に切り抜き、組み立てていく。台の裏側に電池ボックスを両面テープで貼り付け、穴を開けて電源コードを引き出す【写真9】。この過程で、羽の部分も切り抜き、組み立てておく。すべてのパーツを組み立て終えたら、先ほど組み立てた塔と台を固定する【写真10】。


【写真8】扇風機の本体となる3枚の厚紙。右から羽、塔、台の部分。厚紙を基にアクリルボードなどを加工すれば、より頑強な扇風機ができるだろう 【写真9】台を組み立てたら、裏側に電池ボックスを両面テープで貼り付ける。さらに台に穴を開けて電源コードを引き出す。奥に見えるのはモータを取り付けた塔の部分だ 【写真10】組み立てた塔と台を両面テープで固定する。強度補強のため、塔の正面部も取り付ける。DCモータは塔の先端から1cmほど突き出ている

【写真11】モータのリード線、電池ボックスのリード線をコントロール基板にはんだ付けする。次に、基板にスペーサを貼り付けて台部に設置。電池ボックスは台の裏側に貼り付けてある
3.配線と基板の取り付け

 扇風機のモータから出ているリード線を基板にはんだ付けする。次に、2つの電池ボックスのリード線を2本ずつまとめて、それぞれ+3V端子とGND端子にはんだ付けする。はんだ付けが終わったら、基板の4隅にスペーサを貼り付け、台の上(塔の後側)に設置する【写真11】。


【写真12】いよいよ完成まじか。電池ボックスに単2電池×4本を挿入して、コントロールボードの動作をチェックする
4.回転板を取り付け、動作チェック

 電子回路が正しく動作するかどうかを、回転板を取り付けて調べてみる。回転板の中央にスペーサを貼り付け、千枚通しで穴をあけ、モータの回転軸に差し込む。電池ボックスに単2電池×4本を挿入し【写真12】、電源スイッチを押すと回転板が動き出す。

 回転板には青や緑のパターンがプリントされており、ボリュームのツマミをまわしてモータの回転を変化させると、板の色が混ざり合い、回転板の色が変化することがわかる。同様にゆらぎスイッチを押して、ゆらぎのパターンなどもチェックしてみる。

 また、タイマースイッチを押して、タイマーが正常に働いているかを確認する。初期設定では5分間となっている。


5.羽を取り付けて完成!

 ゆらぎのパターンなどを確認したら、最後に羽をモータ軸に取り付けてホットボンドで固定する【写真13】。ボンドが冷めて羽が固定されたら、羽の形を整えて、風量が出るように調整する。


【写真13】動作チェックが済んだら、最後に羽をモータ軸に取り付ける。ホットボンドが冷めて、羽が固定されるまで待つ 【写真14】手作りのマイ扇風機が完成! 写真は背後からのショット。羽の角度を変更して、風量が出るように調整する

6.プログラムを変更して動作やブザー音を変更する

 今回の工作教室では、制御プログラムの変更も応用として実施された。マイコンのフラッシュROMに焼き付けられたプログラムの一部(パラメータ)を変えることで、ゆらぎの動作パターンや、ブザーの吹鳴パターンを変えることができる。変更には開発ツールの習得が必要となるため、参加した子供たちは【写真15】のような表に、ゆらぎ、またはブザーのいずれかの動作パターンを書いて、これをもとにサポーターの技術者が作業する形をとっていた【写真16】。

 プログラムを変更するために、まずコントロール基板からマイコンを取り外し、デバッグツールのソケットにマイコンを換装する【写真17】。プログラムを書き換える際には、フリー版の統合開発環境「CodeWarrior Development Studio for HC(S)08/RS08 Microcontrollers v5.1C」(Special Edition)を利用していた。これはフリースケールのWebサイトからダウンロードすることが可能だ。


【写真15】応用として、プログラムの改造に必要なパラメータを変更する課題も。ここでは「ゆらぎ制御」のパラメータを変更するための説明をしている。時間と16段階の強さ(速度)を指定する 【写真16】サポーターの技術者と共にプログラムの改造にチャレンジ。子供たちは興味深そうに「魔法の石」の焼付け作業を見学していた。実際に動きが変わると驚きの声も 【写真17】マイコンに内蔵されているフラッシュROMにプログラムを書き込むためのデバッグツール。ノートPCとはRS-232Cケーブルで接続する

 参考までに、CodeWarriorでのプログラム変更、および書き込み終了時の画面を【画面1】【画面2】に示す。プログラムはC言語で書かれているが、この開発ツールはC/C++ソースレベルでのデバッグからコンパイル、書き込み・転送までをサポートしている。

 最後に、参加者の子供たちが自分たちの手で完成させたマイ扇風機を手に取り、記念撮影が行なわれた【写真18】。半数ほどの子供たちは電子工作が初めての経験だったというが、プログラム変更で動作が変わった扇風機を見て感嘆の声を上げる子供も多数おり、ものづくりの楽しさを実感できたようであった。夏休みのひと時に、親子で参加した今回のイベントは、きっとよい思い出になるに違いない。


【画面1】フリー版の統合開発環境「CodeWarrior Development Studio for HC(S)08/RS08 Microcontrollers v5.1C」(Special Edition)を利用して、C言語で開発されたプログラムのパラメータを書き換える。画面は書き換える部分のパラメータ(ゆらぎテーブルとブザー吹鳴パターンデータ)
(C)R.Kawano&S.Hashimoto
【画面2】ソースプログラムをコンパイルし、フラッシュROMへの転送が終了した際の画面。C/C++ソースレベルでのデバッグ開発からコンパイル、書き込み転送までサポート 【写真18】セミナーの最後には記念撮影も。完成したミニマイコン扇風機を手に満足気な未来の技術者の卵たち。夏休みのよき思い出の1つになるだろう

ワンチップマイコンを利用した扇風機の制御回路

【写真19】今回のキットの電子回路図。すべての機能は中枢となる8ビットワンチップマイコン「MC68HLC908QY4」によって制御される
(C)R.Kawano
 今回のイベントでは小・中学生が対象のため、電子回路について簡単な説明がなされた。ここでは、回路に関していくつか補足しておく【写真19】。

 キットで使用されているマイコンは、8ビットワンチップマイコン「MC68HLC908QY4」だ。このマイコンはフリースケール・セミコンダクタが提供するHC08ファミリーの中で、小型汎用品に属する低電圧駆動タイプ(2.2~3.6V)のデバイスである。M68HC08 CPUコア(CPU08)を採用しており、4KB・フラッシュROM、128Byte RAM、4ch・ADC(8ビット)、2chタイマー、4MHzの発振器(OSC)などを装備している。

 汎用のI/Oは14ポートあり(1ポートは入力専用)、キットの回路では、そのうちの4ポートが入力ポートとして、電源のオン、オフ、およびタイマー、ゆらぎ用の入力スイッチにそれぞれ接続されている。さらに1ポートぶんは速度可変用としてボリュームとつながっている。

 一方、出力については2つのポートを利用し、赤色LED(電源スイッチオン時に点灯)や黄色LED(タイマースイッチがオン時に点滅)を駆動させる。またブザー用の出力ポートも確保。このほか、モータを駆動させる制御用として4つの出力ポートを使用。ゆらぎ制御を行なうためのパターン信号を出力させ、これを「はしご回路」によってDA変換する仕組みになっている。


ものづくりの楽しさを知ってもらい、組込技術の基礎を学べる場を提供

【写真20】フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン代表取締役社長の高橋恒雄氏。「電子工作の楽しさを実感してもらい、未来のエンジニアの育成や、日本の科学技術力の向上に貢献したい」と、今回のイベントの趣旨を説明
 電子工作教室と並行して、プレス向けの説明会も行なわれた。この説明会では、フリースケール・セミコンダクタの事業内容や、今回のイベントを企画した経緯などについて、同社の代表取締役社長 高橋恒雄氏から説明がなされた【写真20】。

 フリースケール・セミコンダクタは2004年にモトローラの半導体事業部門が完全分離して設立されたメーカーである。同社はネットワーク、自動車、ワイヤレス(RF)、家電などの産業分野で、組み込み用の半導体を供給しているトップメーカーだ。

 高橋氏は、同社が今回のような電子工作教室を開催した背景について、「半導体の進化に伴って、エレクトロニクス製品のブラックボックス化が進んでおり、設計・製作の過程が見えにくくなってきている。最近は理系離れも著しく、ひと昔前なら誰でも普通にできたはんだ付けなどの作業でも、子供たちはできなくなってきているようだ。ものづくりの楽しさを知ってもらい、組込技術の基礎を学べる場を提供していきたい」と説明した。

 特に、高橋氏のように外資系の半導体メーカーに在籍していると、現在の日本の立ち位置が明確に見えるという。BRICs(ブリックス)という新しい経済用語が登場しているように、技術分野で中国やインドなどの台頭が目覚しく、ビジネスチャンスが日本を飛び越えていってしまう現象を目の当たりにしているからだ。高橋氏は「我々にとっても日本の産業界にとっても、こういった現象は大きな問題」と危惧する。このような背景から、「組み込み用のリーディングカンパニーとして、子供たちに電子工作の楽しさを実感してもらい、未来の技術者の育成や日本の科学技術力の維持に貢献したい想いが強まった」という。

 同社では教育への取り組みの一環として、東北大学、大阪大学、筑波大学などに対してユニバーシティプログラムを実施している。一方、マスマーケットへの展開としては、すでに九十九電機などと協業して、8ビットのマイコン評価ボードやセンサーモジュールの販売も開始している。この4月には電子工作キット製作コンテストを開催し、さまざまな作品も募った。


【写真21】「どこでも加速メータ」(濱原和明氏)。3軸方向の加速度センサーを内蔵し、リアルタイムで目に見えない加速度を表示できる。最優秀作品賞を受賞 【写真22】「ステッピングモータとモータドライバの作成」(鈴木浩之氏)。自作のステッピングモータと、「DEMO9S08QG8」を利用した制御・駆動回路 【写真23】「HC08ボクシング・コンピュータ」(川野亮輔氏)。タミヤ製の「2チャンネルリモコンボクシングファイター」に装備して、攻撃判定をLEDの点灯とビープ音で知らせることが可能。川野氏は今回のイベントで利用されたHC08ミニマイコン扇風機の作者でもある

【写真24】「瞬間記憶・順序記憶トレーナーキット」(中込知治氏)。LEDの点灯パターンにより記憶力と脳力を鍛えられるトレーナーキットだ 【写真25】秀逸なアイデアで一般者向け教材部門を受賞した「表面実装リフロー装置」(小寺 匠氏)。マイコン、熱電対、ヒーター制御用トライアックを取り付けて温度を制御。適切なリフロー条件をクリアーしないと、表面実装部品(SMD)のはんだ付けは難しい。この装置は市販オーブントースターを使って問題を解決。まさに目から鱗の作品

 今回のイベントの教材もここから生まれたもの。来る8月24日には、仙台市泉区明通にある同社の半導体設計拠点「仙台デザイン研究開発センター」において同様の工作教室が開催される予定だ。また2007年にはアジア太平洋地域と協力したコンテストなども計画されている。今年の後半には32ビットマイコン搭載の工作キットも発売する予定で、「68000」を応用した大人向けの工作コンテストも考えているという。


URL
  フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン
  http://www.freescale.co.jp/
  ニュースリリース
  http://www.freescale.co.jp/media/news2006/0814_summer_workshop.html

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フリースケール、第一回電子工作キット製作コンテストを開催(2006/07/04)


( 井上猛雄 )
2006/08/22 17:11

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