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『バイオメカニクス整体技研』体験レポート
~機械工学と整体のコラボレーション

Reported by せとふみ

 ロボット系の研究員として勤め始めて早2カ月、職業柄、パソコンに向かって夜中まで作業をしたり、ノートPCを入れた重いカバンを肩にかけて移動したりと、まったくもって目・肩・腰に優しくない生活をしています。肩こりと眼精疲労はもはや職業病と諦めていたのですが、週末に一人、部屋で「いでででで」とか奇声を発しながら肩の筋を押したりしていて、このままではいかん、そう思ったのです。

 「そうだ、整体に行こう」

 折りしも先日知り合いの研究者の方から、画像処理やロボット工学の技術を整体治療に利用しているという、元は機械工学のエンジニアだった整体師の方の話を聞いたばかり。『ロボット』と名がつくと何であっても気になってしまうのは、肩こり以上の職業病。というわけで痛い肩を慮りつつ、その整体院、その名も『バイオメカニクス整体技研』へと、予約のメールを送ったのでした……。


葛飾区白鳥、下町情緒がたっぷり残る街の一角に、『バイオメカニクス整体技研』の看板が 院内の壁には人間の運動解析に関する資料や、ZMPの計算に関する記述などが貼られ、どこかの研究室に来たかのよう 『バイオメカニクス整体技研』代表、整体師の篠崎博文さん

 そして予約当日、京成線のお花茶屋駅から徒歩8分でたどり着いたのは、オレンジの屋根と緑の看板に『バイオメカニクス整体技研』の文字が躍る小さな整体院。「ごめんください」と、やや緊張しつつ引き戸を開けると、まず目に入ってきたのは壁に下げられた白い幕と、どーんとパソコンが鎮座したパソコンデスク。その隣の机にはロボット工学や画像処理関連の書籍が並び、壁には人間の運動解析に関する論文や計算式が書かれたホワイトボードが所狭しと貼られています。一瞬、自分の研究所の席に戻ってきたかのような錯覚を覚えてしまいました。

 そんな中で、パソコンに向かってなにやら作業をしている白衣姿の男性の姿が。この人こそが『バイオメカニクス整体技研』の代表、整体師の篠崎博文さんです。とりあえず椅子に座って、問診から治療が始まります。

 「自覚症状としてはどんなものがありますか?」
 「肩が張って痛いのと、ずっと椅子に座っているとときどき腰痛が……」
 「じゃあ、まず写真を撮って姿勢解析を行ない、身体のバランスを見てみましょう」

 と、白い幕の前に立たされて、前後左右から全身をデジカメにて撮影されます。時間がかかるので普段は患者さんが帰ったあとに解析を行なうそうですが、今回はお願いして解析の様子をその場でやっていただきました。正直、自分の身体バランスがどれだけ曲がっているのか、目の前に突きつけられるのは緊張します。


背後から全身を撮影、腰の位置に取り付けられたマーカーは現在は使っていないが、今後の更なる計測への応用を検討中らしい 撮影した画像から腕以外の身体の輪郭を取る

 「背後からの画像を使って、全身の輪郭をとり2値化、さらに細線化処理を行なって姿勢解析を行ないます」

 普通に撮影した画像からして、右肩が落ちているような気がします、ああもう怖い。この画像から腕以外の身体の輪郭を取って塗りつぶし、さらにその画像を2値化して身体のシルエットを得ます。さらにその画像を細線化処理することによって、身体バランスを線として表示するのです。さらにその線を元画像の人体に重ね合わせた上で、重力作用線(地面に垂直な線)と比較します。


二値化したところ。このシルエットに細線化処理(2値化画像を幅1ピクセルの線画像に変換する手法)を施し、身体の歪みの線を求める 得られた白色の身体の歪みの線を緑色の重力作用線(隣に下がっている錘の線を使う)と比較してみると、身体バランスがどう傾いているかどうか分かる

 「ちょっと左重心ですね、ほら」

 パソコンの画面を見ると、自分の背後画像上に身体の歪みの線と重力作用線が重ね合わされて表示されています。こうして見ると、確かに白い線の方がやや左に傾いていて、左にバランスが偏っていることが一目瞭然です。ううむ、いつも左肩にパソコンの入ったカバンを掛けているのがよくなかったのか……? データで示されると、有無も言わさず納得させられてしまいます。

 「じゃあ次は、加速度センサを用いてZMPを計測します」

 Robot Watchの読者の方々なら一度は聞いたことがあると思われるZMP(Zero Moment Point)、普段は足裏など床面に設置している領域内に発生する床反力の圧力中心として定義されることが多いですが、ここでは3軸加速度センサを人体に取り付け、人間の重心に作用する重力と計測される加速度から、ZMPを求めます。腰の位置に加速度センサを帯で固定し、まずはその場でじっとして40秒、安静立位時のデータを計測。じっとして、と言われると逆に身体が揺れてくるような気がします。その次にその場で40秒足踏み動作をし、運動時のデータも計測します。


腰部に加速度センサを帯で固定。人間の重心の位置は床面から身長の55%の位置と簡易的に計算 秋葉原で購入したという3軸加速度センサ。測定周波数が低いのが悩みの種だそうで、20~50Hz程度でパソコンでデータ取得可能な、お手頃価格の3軸加速度センサがあったらぜひお知らせください! とのこと

 データを取り込んだらエクセルにデータを貼り付け、ZMPを計算し、床面上に投影することでリサージュ線図を表示します。また、フーリエ変換を行なってパワースペクトルを表示させたりします。安静立位時にも運動時にもZMPが原点を中心に分布するのが理想だそうですが、私の歩行はやや右後ろに片寄っているらしいです……。さらにフーリエ変換によって得られたパワースペクトルも表示。股関節や骨盤の異常、婦人科系の疾病によっては健常な場合では見られない点にピークが出ることが多いらしいのですが、それは出なくて一安心。


左が安静時の、右が足踏み動作時のZMPのリサージュ線図。確かに運動時では、右後ろの方に点が偏っているように見える フーリエ変換して求めた歩行時のパワースペクトル。前後方向はほぼ2周期の点(左右の脚での歩行1回分)に、左右方向は1周期の点(片脚での踏み出し分)にピークが出ていることが分かる 先の画像処理による全身バランス図や、ZMPのリサージュ線図の結果などを入れてカルテを作成。これらの計測の結果を治療そのものや、治療効果の確認に用いている

 このように、具体的に計測された結果を見せることで、患者さんを驚かせたり不安がらせたりするのではなく、計測によって上記の疾病の発見ができるのではないか? と篠崎さんは現在、更なる計測手法・解析手法の検討を行なっているそうです。また、現在計測しているデータは、もちろん治療そのものや治療効果の確認に使っているとのこと。データ取得・解析については料金はかからず、療術時間にも含まれません。それでもなかなか患者さんの理解を得るのは難しいと言います。私なんかは『何となく良くなった』というよりも、こうやって定量的にグラフ化されるとすごく納得してしまうのですが、それも理系の職業病なのでしょうか。


ある腰痛患者さんの治療前のZMPリサージュ線図(左)と、治療後の図(右)。治療前は後方に寄っていた重心が、治療後には前方に移動していることがわかる。このように治療の結果を定量的に評価できるのも利点 同様に、腰痛患者さんのフーリエ変換して得られる歩行時の前後方向の重心位置パワースペクトルも、治療前(上図)では通常歩行では見られない1周期の点にピークが出ていたのに対し、治療後(下図)にはそのピークが消えていることが分かる

 「じゃあ、大体分かりましたので、整体を実施しましょう」

 ということで、やっと整体院らしく(?)、枕やクッションが置かれた奥の部屋へ。国内で発明されたもののあまり実施されてなく、逆輸入のような形で入ってきたという経絡指圧整体を行なっています。今回は肩こりがメインということで、最初は座ったまま腕や肩を伸ばしたり曲げたり、その後、横になってストレッチのような指圧のような療術が行なわれます。


 「骨盤が2cmほど曲がってましたね、直します」
 「うーっ(え、そんなにかんたんに直るものなの?)」
 「ここ痛いですか? ロボットの先生はここ痛いと思いますよ~」
 「ううううっ! (な、何のつぼなんだろう……?)」
 「あー、眼の疲れひどいでしょ~」
 「ふぁーっ……」

 という感じで曲げたり伸ばしたり、仰向けになったりうつ伏せになったり、押したり引っ張ったりで数十分。眠くなる人も多いとのことですが、確かに肩の張りが取れ、ぽかぽか温まった気が(効果には個人差があります)。こんな感じで、一連の整体治療をしてもらいました。

 しかし大学では水素エンジンを研究し、卒業後は精密機械の会社でエンジニアとして20年以上働いていたという篠崎さん。母親が坐骨神経痛を患ったのをきっかけに整体に興味を持ち学び始めたそうです。整体をやりつつもエンジニアとしての発想が頭を離れずに苦労したこともあったといいますが、逆に整体と機械工学を組み合わせることができないか? と考えてたどり着いたのが、現在の『バイオメカニクス整体技研』のスタイルだったと言います。

 「整体をしようと思ったときから、ロボット工学や機械工学が治療に応用できるとは思っていたんです」

 という篠崎さん、ついに会社を辞めて整体を学びつつ、大学の聴講生としてロボット工学を学び、現在のデータ解析・治療法へと展開していったそうです。すべて独学で得たものですが、まだまだ先は長いといいます。

 「整体においてもロボット工学においても、まだまだ勉強しなければいけないことがたくさんある。ロボットの先生から計測技術や解析手法についていろいろ学びたいし、逆に先生の方から『こういう患者さんの知見・データが欲しい』と言われたら、ぜひ協力したい」

 そんな篠崎さんの話を聞き、物理的には軽くなったはずなのに、改めてロボット工学の幅広さやその可能性・必要性をひしひしと両肩に感じたのでした。


URL
  バイオメカニクス整体技研
  http://bio-seitai-giken.com/index.htm
  東京都葛飾区の整体! バイオメカニクス整体技研の日記
  http://blogs.dion.ne.jp/shino1214go/


2008/06/23 00:26

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