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ロボット業界キーマンインタビュー
ただ、仲間が欲しい――ロボットフォース・岩気裕司氏

Reported by 森山和道

株式会社エルエルパレス 代表取締役 岩気裕司氏
 「うちが何をやっているかというとね、虚勢を張ってるんですよ。大きく見せてるんです」。インタビューの最中に何度か、岩気氏はこう繰り返した。

 岩気裕司氏は、株式会社エルエルパレスの代表取締役。大阪を拠点とする同社は、同人誌や同人ソフトの通信販売を中心とした年商3億円の会社だが、ホビーロボット事業部を持ち、大阪で「ロボットフォース」を主催している。アニメ、漫画に続くホビーコンテンツとしてロボットを捉えているのだ。

 「ロボットフォース」の事業内容は、ホビーロボットイベントの実施、映像コンテンツの作成、イベントでのロボットデモンストレーションなど。特に将来は、ロボット・コンテンツのクリエイターを発掘し、そのクリエイターが作成した映像やモーションデータなどのダウンロード販売の受け皿、プラットフォームを提供することを目標としている。

 岩気氏らが開催しているロボットバトルイベントは「ロボファイト」「ロボゴング」という名称で知られているが、これはロボットフォースの一事業という位置づけだ。このほか、簡単な二足歩行ロボット「Roppo」の開発販売、近藤科学「KHR」シリーズを中心とした2足歩行ロボットが出演するロボットドラマ「ロボ男」、二足歩行ロボット劇団「マジマシーン」などに携わっている。いずれも独自の取り組みであり、岩気氏の思い入れ、そして事業者としての思惑が込められている。

 今回は、ロボットファンでもあり、ロボットイベント主催者でもある岩気氏のインタビューをお届けする。背景を伺うと、現在のホビーロボットを取り巻く現状や課題が色々と見えてきた。ファン、事業者、それぞれの立ち位置から重ね合わせて見ることができるはずだ。


事業としてのロボットイベント

 ファン交流イベント「ロボゴング」、そしてより本格的なバトル大会「ロボファイト」をエルエルパレスが始めたのは2005年4月、5月のこと。もともとの主催理由は「自分の練習相手がほしい」という気持ちからだったと振り返る。だが「自分で大会を主催すると、自分自身が出場できないという間違いには気づかなかった」と笑う。しかし、イベントを始めた理由は、もちろん、それだけではなかった。

 ホビーロボットの存在を知ったのは、2004年のロボカップのときだ。AIBOによるサッカー、4脚リーグがお目当てで、仲間と見に行った。肝心のAIBOが動いている様子はあまり見ることができなかったのだが、その場で二足歩行ロボットのバトル大会「ROBO-ONE」のビデオ映像を目撃した。おそらく第5回ROBO-ONE大会の映像ではないかと思われるこのVTR映像が、ホビーロボットとの初対面だった。

 いっぽう、岩気氏の同行者はテレビで見たことがあったという。当時はまだ「AIBOとASIMOくらいしか知らない段階」だった岩気氏はロボットにも驚いたが、既に知っている人がいるくらい有名なんだという事実にも驚いた。


岩気氏製作のロボット「ケルビム」
 ヴイストンの「VisiOn」と、ROBO-ONEでも有名な「マジンガア」がステージで調整している様子も見た。「Robovie-M」が40万円程度と、まったく手が出ない価格ではないことも知った。本物の「ロボット」が手に入る――。

 もともとアニメファンでもあり、心をガッと掴まれた岩気氏は、帰宅して早速、インターネットで情報を検索した。そして専門雑誌「ロボコンマガジン」(オーム社)の存在を知り、6月には株式会社ベストテクノロジーから発売されていたロボットキット「BTH021(FD Jr.シリーズ)」を購入した。なおちょうどこのとき(2004年6月)、近藤科学からロボットキット「KHR-1」が発売されている。もちろん岩気氏も早々に購入したという。そんな時代だった。

 岩気氏は「それまでは本当に全くホビーロボットの存在を知らなかったんですよ。ゼロの段階で見たので、よけいにインパクトが強かったんでしょうね」と当時を振り返る。

 キットを組み上げただけではなく早速、改造にも走った。中学生以来初めてだったという半田ごてを握り、スチレンボードやバルサと格闘した。図面は、最初は使い慣れたPhotoshopで描いた。

 ロボットとの出会いの影響は、趣味の範囲に留まらなかった。本業は紙の本の通信販売からダウンロード販売中心に移行し、省力化しようとしていたのだが、ロボットを見たことで方向ががらっと変わってしまった、と笑う。

 「いまはオタクブームなんですが、同人誌業界も、マイナー系は浮き沈みが激しいんですよ。2004年頃は大型店が出てきて中小は淘汰されていったころでした。小さくてもできるものといえばダウンロード販売でしょう。でもロボットを見て『実物のほうが訴求力はぜんぜん違うよね』と思った。3Dのゲームのほうが動きはいいです。でも、目の前で音がして動く。リアル感がぜんぜん違う」

 こうしてホビーロボットの世界に足を踏み入れた岩気氏だが、最初からイベント開催を志したわけではなかった。もともとゲームソフトや本、すなわちソフトを販売していた会社だけに、最初はロボットバトルの映像を売ろうと思った。

 こうして撮影されたのが2004年12月末に販売したDVD「ロボファイト00(ダブルオー)」である。ロボットバトルに実況音声をかぶせた23分のビデオだった。なかには岩気氏自身によるパンフレットも同梱されていた。そのパンフレットには、当時の熱い気持ちがそのまま書かれている。

 また市販ロボットの大会として「ロボファイト」を企画したこと、ちょっとした外装の作り方、そして「次号は2005年2月発売予定っっ!(目指せ隔月発行DVDマガジン)」などとも書かれていた。「同人ビデオ」だ。


2004年12月に発売したDVD「ロボファイト00(ダブルオー)」 ロボファイト00のパッケージデザイン

 当時、大阪ではロボット事業がいろいろと動き始めたところで、関西初のロボット専門店「ロボットファクトリー」(当時は日本橋まちづくり振興株式会社が運営。2006年6月以降は有限会社ジャングルが運営)も2004年12月にオープンしていた。そこでも販売していた。

 ちなみに大阪のロボットベンチャーの雄・ヴィストンによる「ロボプロ」が始まったのも2004年11月である(過去記事参照)。このような時代の潮流も無意識のうちに岩気氏の心にさらにアクセルをかけたのかもしれない。

 だがビデオよりも「生で見せたほうが迫力がある。生で見せないとちゃちい」というのが本音だった。またそもそもロボットバトルというイベントそのものの知名度があがり、裾野が広がらないとビデオも売れない。こういうわけでイベント開催となった。

 なお、同人誌即売会を手伝った経験はあったものの、イベント主催経験そのものはなかったそうだ。また、当時は「イベントのほうがおまけという気分だった」という。今でも基本的にロボットをコンテンツとしたビデオやモーションデータの販売を採算の取れる商売にしたいという気持ちは変わっていない。

 繰り返しになるが、あくまで同社は「アニメ、マンガに続くコンテンツ」としてロボットを捉えているのである。だから同社のビジネスモデルも、アニメ、マンガの同人市場でのそれと全く同じなのだ。ユーザーたちがデータを売り買いする場所を同社が提供し、その上でユーザーたちがいろいろなやりとりをすることで利益が発生するというのが理想だという。ちなみに現在の同人コンテンツのダウンロード販売では、手数料を30%取っている。

 「お手本」としてのビデオコンテンツの製作も諦めてはいない。2006年頭には実際に8人のプレイヤーを集めて数日間にわたって撮影を行なった。実際の試合を撮影するのではなく、ストーリーを持たせ、見せ場を強調したセミドキュメンタリーのようなビデオ製作を目指した。

 ところが「いまはこっちの閾値が高くなっちゃって」編集途中で完成させることは断念した。「ただ単にきれいに繋ぐことはできるけど、迫力や臨場感が出ないんです。『この技こんなんじゃなかったよ。もっと決まったときはバチッと倒れる、もっときれいに動くはずだ』と」

 強調しておくが、このビデオ製作は岩気社長の「趣味」ではない。エルエルパレス・ホビーロボット事業部の業務として行なったものだ。このときはギャラも出すという話でプレイヤー仲間にも集まってもらったが、結局ボツになったので「メシを奢る程度で勘弁してもらった」そうだ。


 また繰り返しになるが「ロボットフォース」は、市販ロボットを使った遊び方の提案、そしてモーションクリエイターの育成や市場形成を目指している。同人誌がクリエイターたちを育てたときと同様に。現在までのイベント実施そのほか関連出費は全て投資だ。こういえば格好はいいが、いわば「持ち出し」である。その金額はこれまでに「1,000万円級」に達するという。

 「ロボファイト」第一回目は機材をいろいろ買ったこともあり、それだけでも600万円以上かかった。当時はMC、ラウンドガール、カメラマンなども外注していた。だが今はもう自前だし、ラウンドガールはいない。当時それだけ投資を行なったのは「エンターテイメントとしていけるんじゃない? と思っていたから」だ。

 最初は、業界全体が急激に伸びていく可能性もあると思っていたそうだ。だが2回、3回と繰り返すなかで、いや、もっと早い段階から、それほどのスピードでは伸びないと判断し「持久戦でいこう」と方針転換した。看板やロゴも岩気氏がデザインし、知り合いのところでプリントアウトものをホームセンターで買ってきたものに貼り付けた手作りでまかなっている。

 「うちくらいの規模の会社でも、社長がキャバクラにはまってカネをそのくらい使いこんでいるところはありますからね(笑)。でも、それを言うと『社長の道楽』になっちゃうでしょ。そうじゃないんです。いまは『何か』を見つけるためにやってるんです。こんなことではダメかもしれませんが」

 しかし、多くのロボット関連企業がそうなのではないか。多くの企業が、ロボットに「何か」があると感じ、「何か」を探しているように思う。

 「『何か』は、自分の中にしかないんですわ。その気持ちを共有している人間が少ないのは、具体的なものを見せてないからですよ。現場の人間は確かに『何か』があると思っていても――」

 もちろん、エルエルパレスでも最終的には映像系のソフト販売を行なっていき、いずれは黒字にするつもりだ。そのためにも、実際に試合を行なっているという裏付けのあるなかで映像を作ることが重要だと考えている。

 岩気氏はこう強調する。「わたしがやりたいのは同人になぞらえた形なんです。同人は収入とセットになっていたんです。だから伸びた。ロボットにもそういう形をつくりたい。お金は評価でもありますから。だから大企業が入ってくる前に、いまは名前を売っておこうと。実績をつくっていく以外に方法がないので」

 時期はわからないが、やがては必ず市場が開ける、そう確信しているという。


ホビーロボットが先端技術の世界に対してできること

 岩気氏は「ロボット自体をマンガや小説と同じように著作物だと捉えている」。イベント自体は人を育てるインキュベーターだ。「人」とは参加者、プレイヤーだけではなく、観客も含めての話だ。現在の「ロボファイト」は見た目、ROBO-ONEと非常によく似ている。しかし、意識的には違う人も多いのではないかという。

 「私は、ロボットでの遊びは子犬や子猫のじゃれあいみたいなもんだと思っているんです。スキンシップのひとつだと。自分の分身同士でコミュニケーションをしているわけです。だから勝負がちゃんと決まるものでなければ、小さいロボットにはそうっと攻撃をしたりする。大きいロボット、強いロボットとバトルしたときには相手になってもらうだけでも楽しい。そんな、じゃれあいの場みたいなイメージでやっている。だから勝ちに行っている『ROBO-ONE』本戦とは、みんなの意識もだいぶ違うのではないか」

 また、ホビーロボットの位置づけも岩気氏の捉え方は違っている。「ホビーロボットは最先端技術ではない。個人でできるものは、昔からある8bitのマイコンとサーボモーター、そしてもっと歴史の古いアルミ加工です。そこには最先端技術は何も含まれていない。ホビーロボットはあくまで遊びの世界」。

 ただ、何も先端技術の世界に貢献できないわけではない、という。「ホビーロボットは人間とロボットの大きなインターフェイスの実験場だ」と捉えることもできるというのが岩気氏の考えだ。そもそも岩気氏は、人型ロボットは、究極のコンピュータ・インターフェイスだと考えている。ホビーロボットは、ロボットが当たり前にいる環境で何ができるか、人はどう変わるか、どんなロボットがいて欲しいか。そういうことを考えるための第一歩になるのではないかという。

 「将来、ロボット技術が進んで実際に使えるようなものになったとき、ロボットと人間との間に大きな溝ができていないようにするために、ホビーとしてロボットを個人でいじる意義はあるんじゃないのかな」

 だが、技術者にそれが伝わっているかというと、そこを橋渡しする手段はまだ確立されていない。現在のロボットイベントは技術に大きく偏っているが、そういう意味でも技術者が興味をもってくれる場で何かすることには意味があるという。


 また、「そこまで大上段にいかなくても、ロボットに、どことなく未来的なイメージを感じていますよね。それも重要だと思います」。いま現在、そういうものとしてのロボットを購入でき、時間をある程度使える人たちにアピールするのであれば単なる「おもちゃ」ではなく、未来的なイメージを残すことも重要だ。だから「バトルしかやっていないのはひっかかっている」そうだ。だが、演技部門やダンス部門をもうけても、できる人は数少ない。一人二人いたとしても、結局はみんなが遊ぶ「バトル」へと流れてしまう。

 そのなかでの試みが、バトルとは隔離した形でのロボット劇団「マジマシーン」だ。「マジマシーン」には希望者が誰でも入れるわけではない。アート的なセンスがあり、年齢的に若い人に限定しているそうだ。バトルも、若い男女のプレイヤーがそれなりに格好いい姿で格好良く闘っていれば、フィクションのロボットバトルと同じくらの人気は集められるはずではなないかというのが岩気氏の皮算用だ。

 いずれにせよ、必要なのは「多様性」である。現状のホビーロボット業界は参加者の収入、価値観など「ものすごく狭い範囲でできあがっている」というのが岩気氏の見立てである。「それで楽しませてもらってきたんですが、打破しないといけない」。

 そのために岩気氏が構想しているイベントの一つが「剣(ツルギ)」(仮称)だ。「ROBO-ONE」ルールではアウトの手の長いロボット、特に槍とか刀に見立てた手を持ったロボット同士のバトルである。剣道やフェンシング、棒術のような大会だ。プロレスのように、敢えて「見せ場」もたくさん作ってエキシビジョンに近い形でやっていきたいという。

 そのためには岩気氏と世界観、あるいは「ロボットかくあるべし」といった価値観をある程度共有した仲間が必要である。「自分のロボットで設定やストーリーを持っている人。ロボットを著作物として、作品として、『このロボットで俺はこういうものを見せたい』という人たちにたくさん出てきてほしい」という。

 だが、なかなか人が集まらないのが悩みの種だ。「やっぱりね、ロボットの底は浅いです。いろんなジャンルがありますが、そのなかにロボットやってる人は一人。そんな感じですわ。たとえば刀をもって戦っている人と、ロボットやってる人の接点が少ない」。


 「ロボファイト」には、「ROBO-ONE」とはまた違ったレギュレーション、違った世界でのロボットバトルを期待している人も多い。例えば「発射体」ルールが良い例だ。ミサイルのようなものを飛ばして当たれば1ダウンといったものである。でもこれも「ちゃんとした発射体を作れる人がすくない」のだという。

 本当は、テーブルトークRPGのように、ゲームマスターがいて、マスターが許可すればなんでもルール化できるといった演出スタイルが理想だそうだ。たとえば回転ドリルを相手の体に5秒間押しつけることに成功したらワンダウン、といったルールを即興で認めるといった具合である。

 「いろいろやりたんですけど、ついてこれる人がいない。一人か二人しかいないんです。だんだん増えては来ているんですけど」

 しかし、イベントでの子ども達の反応は、圧倒的に武器を持ったロボットのほうがいい。それが支えだ。


ホビーロボットの世界はまだまだ小さい

92台のロボットが参加した「ロボファイト5」
 思っていた以上に、一部の層以外に現状のホビーロボットがうけない。このことを肌身に染みて感じている岩気氏は、いまのロボットが「キャラクターに興味がある人にいきわたっていないのが最大の問題」だという。「そこへいって初めて爆発するようになるんです。やっぱり敷居が高いんですわ。作るのは簡単でも、維持していくのが大変。時間もかかる。いまは、ある程度頑張れる人、やっていいと思っている人の数自体が少ない。まだまだ、告知というか情報がいろんな層に行き渡っていませんし」。

 いっぽう、「ロボファイト」でも岩気氏らはエルエルパレスという会社の宣伝をほとんどしない。「無駄だからです。逆も同じで、コミケ会場でロボットを動かしても興味を持つ人はものすごく少ないんです」

 同じオタクやマニアであっても棲み分けがされていて、目的がはなから違うのである。岩気氏も「ロボファイト」を仕掛けつつも2004年の12月にはもう気がついていたという。「かなり規模小さいよな、少なくともうちの客層とはぜんぜん違うよなと思ってました。興味を示す人は20代~40代の男性ばかりで、そのなかでも『点』でしかない」

 岩気氏自身は1960年生まれの46才だ。高校時代からマンガを描くことに興味があったという。松本零士のファンで、戦争マンガ、SFマンガが好きだった。いわゆる「ヤマト」世代で、キャプテンハーロックやエメラルダスが好きだったという。吾妻ひでおの影響も受けた。近畿大学に入ったあとも当然、マンガ研究会に入った。ところがマンガ研究会でも実際に描く仲間はあまりいなかったという。結局、オフセット印刷の個人誌を出した。

 かつて作った同人誌も家の倉庫にはあるが「過去のは汚点なんで、あまり昔のは出したくない(笑)」と笑う。「若気の至りです。もっとも若いときだけじゃなくて、ずっと間違えてますが」。

 大学を卒業したあとはスーパーマーケットに就職した。配属されたのは精肉部門。半年くらいでやめた。その後もマンガも描き続け、小学館の新人グランプリに通った。やっぱり漫画でいこうと思った。編集もつけてもらった。ところが書き直しばかりで、ものにならなかった。平行して同人誌もやっていたが、収入はない。一時、アダルト系にも行った。「ここに行くしかないよなあと。のりで(笑)」。


 そのころ同人誌の通販業を始めた。1985年ごろのことだ。同人誌を委託してもらって配送を請け負う。そうはいってもインターネットもない時代だ。読者も、誰がどんな同人誌を作っているか分からない。そこでカタログを作って全国の本屋に配って歩いた。漫画の専門誌を買うと専門書店の広告が入っていた。そこに片っ端から送った。

 「エルエルパレス」という名前は当時から使っている。名前の由来は「いまは太っているか痩せているかですが、当時のオタク界は、太っている人が圧倒的に多かったんです。だからサイズがLLの太っている人が集まると(笑)」

 そうこうしているうちに、だんだんお客さんもついてきた。軌道にのって一時は、かなり大きくなっていたという。「変わったところに目をつけるの早いんです」。

 やがて、ライバル企業が出てきた。また社内的にも問題があったりと「維持していくのはあまり得意なほうではなかったので」だんだん下火になってきた。そこで、ダウンロード方面に移った。でも、やがてそれも頭打ちになるかもしれない。次に何かないかなと思っていた。ホビーロボットに出会ったのは、そんなときだったのである。「ロボットに入ったのは必然性もなく突然なんです」。

 ただ、機械っぽいものは好きだった。アニメよりも実写、特にサンダーバードなどが好きだったという。「こういうふうに機構を改良して発射スピードが上がったとか、そんな設定を聞くとキュンとするんです」。また、「マジンガーZ」のエンディングに出てくるマジンガーの透視図がかっこいいなと思っていた。「当時は『SF』ではなく、『メカ系』と言ってました。スタジオぬえのインパクトが強かったですね」。

 だから、ロボットにまったく興味がなかったわけではない。だが、接点がなかったのである。それが、2004年に一気に開花したのである。先に述べたように、大阪で3つの動きが同年にあったように、そういう時代だったのだろう。

 「ロボットファクトリー」初代店長で、現在、システクアカザワのロボットクリニックの院長を務める大野一広氏の役割も大きかったという。だが、大阪は人材が少ないのも悩ましいところだ。社内でも人材は潤沢ではなく、何でもやりたいことができるわけではない。「結局、中小企業なので。たまたまもっていた人材があたりだといけるんですけれど」。


ロボットホビー市場を育てていける仲間を捜したい

 現在のエルエルパレスはバイトを入れて総勢10人くらいで回している。奥さんが専務だ。イベントのときには全員投入である。正直、「ロボファイト」を見ていて心配になった。あまりに大きな規模のイベントの負担が、一社に集中しているように思えたからである。

 岩気氏も「協賛企業を集めたりはやっていかなあかんなと」考えている。だが、一般客がいないと協賛は取りにくい。そのためにはスケジュール含めてさまざまな工夫が必要になるし、参加者ともども、コストもかかる。

 現在の「持ち出し」は一回あたり100万円はいかない、という。だが相当な金額である。しかし岩気氏はこう語る。「雑誌広告を載せていればこのくらいはかかりますから。それと同じようなものだと捉えています。ただ、収入につながる部門じゃないので、あまり出費するわけにいかないのも確かです。あくまで収益をあげるのはダウンロード一本です。部品売りは余業ですから」。できれば1年、2年の単位で、なんとかして本格的なビジネスにしていきたいそうだ。

 だが、ロボット市場を健全に育てていかないといけないという気持ちはやはり強い。あまり協賛企業にがんじがらめにされるよりは、小回りが利く体制のままでいたいという気持ちもあるようだ。なぜそんなことを考えるようになったのか。

 「自己複製ですよ。自分の仲間が欲しいだけなんです。ロボットにキャラクター性をもたせてストーリーを作れる人が少ないのが寂しいんです」


 同人雑誌の世界でもオリジナル・ストーリーを作れる人は少ないのだそうだ。「みんな誰かの焼き直しばっかりです。『ゼロから作ってみろ』といわれて、ゼロから作れる人はかなり少ない。でも広く探せば何人かいて、個性的なものが集まればショウ的な要素が広がる。そうするとまた人が集まってくる。だから同人のときのコースとまったく同じなんです。最初の人はクリエイティブな人たちがやり始める。そうすると人が集まってくるんです。今は、価値観が同じグループがひとつしかなくて、規模を大きくしてみんな楽しくというレベルでしかないですが……」。

 観客を育てることも重要だ。分かりやすい情報として、ロボットのバックストーリーを作って観客に示していきたいという。「リアルな人間がやっているのでやりづらいところもあるんですが、これとこれは敵同士とか、仲がいいとか」。バックストーリーも単独のロボットのそれではなく、他のロボットと繋がりやすいものでないとダメだ。そこで岩気氏らは「KHR 2ndアニバーサリー」では「東西対決」を演出した。「プロレスの団体のようなこと」をいろいろやろうとしたのだという。

 「人の興味を引くには、どんな舞台設定なのかと、どんな人達がどう活躍するのかという人間関係を説明しないといけないわけですが、今のロボットイベントはエンターテインメントといいながらも、観客に説明するのは機械的なスペックだけ、それすら出ていないことも多いですからね。機械に興味がある人ならそれでも面白いでしょうけど、それはごく一部ですから」

 一般人にわかりやすいキーワードを入れていくことも重要だという。たとえば、「マジンガア」や「キングカイザー」のマスタースレイブ操縦は分かりやすい「キービジュアル」だ。ああいうものがもっと必要なのではないかという。


人は人についていく

「楽しい雰囲気は必ず通じる」と岩気氏は語る
 また、ロボットキットそのものにもまだまだ課題がある。ラジコンを作っていた人たちなら、外装のポリカーポネートを切るのは当たり前かもしれないが、これまでラジコンに触れてなかった人にとっては、それだけで面倒な作業だ。もっと普及するためには、ラジコンから、せめて昔のプラモデルレベルへ上がる必要がある。だがそのようなものを出すためには、数が売れなくていけない。ここで堂々巡りに陥る。

 今はまず、楽しい雰囲気を作ることを心がけているそうだ。「楽しい雰囲気は必ず通じると思うんです。だから楽しい雰囲気をまず作ってしまう。仮に今回は仲間に入れなくても次回は入れるのではないかと思ってもらいたい」。

 実際、いまのホビーロボットユーザーたちは、かなり社交的だ。岩気氏は「一般の日本人社会のなかで異例なくらいフレンドリーだと思う」という。超外向的な人たちだ。だから逆に気兼ねする人もいるのではないかと心配になるくらいである。また、「ロボファイト」見学者には、2回目からはロボット片手にやってくる人が圧倒的に多いそうだ。

 だが、人間は人間に魅力を感じる。車やラジコンの雑誌を見ても、車やラジコン本体もさることながら、ユーザーの写真がドーンと大きく映っていることが多い。カリスマ的な人がいるのだ。岩気氏も、リアルなヒーローが必要だという。「人は人につくんです。だから憧れられる、カリスマ的な人を輩出する必要があります」

 そのためにロボットフォースでは、アニメのロボットヒーローのような演出を目指すつもりだ。将来は、ロボット、操縦者、コントローラー、全てが一体となったような形でのショーを演出していきたいという。

 岩気氏は、自分が持っているロボットに対してもかなり感情移入している。特定のロボットだけが出場できないような状況に陥らないように改造を繰り返しているという。「活躍の場は、平等に与えたい。ひとつだけあまり活躍できないロボットがいたら可哀想じゃないですか」。

 最後に、大阪らしく一緒に「イカ焼き」を食べながら聞いてみた。イベントを主催するのと、ロボットを作っているのと、どっちが楽しいですか、と。

 「もちろんロボット作ってるほうが楽しいですよ」。即答だった。


URL
  ロボットフォース
  http://www.robot-force.jp/

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2007/06/29 00:04

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