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通りすがりのロボットウォッチャー 人にできないことをやらんとね
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Reported by
米田 裕
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今と違って、家にテレビがやってきたのは物心がついてからだ。テレビ放送が始まったのは昭和28年だが、受像機は年収の何倍もする高価なものだったので、なかなか家にはやってこなかった。
子供のころにすぐに夢中になったのは実写のスーパーヒーロー物だ。『スーパーマン』といった輸入物ヒーローや、『ナショナルキッド』、『少年ジェット』などの和製ヒーロー物もよく見たものだ。
こうした、人間以上の能力を発揮するヒーローは子供のあこがれの的だった。いつかは自分も空を飛べるかもしれないなどと、風呂敷をマントにして塀から飛び降りたりしていたのだ。
もう少し大きくなると、スーパーヒーローは「宇宙人」だったりするために超能力が使えることが、番組内で「説明」されていることが理屈としてわかるようになる。いくら自分たちが努力してもスーパーヒーローにはなれないのだ。
「ちぇーーー!」などと、口をとんがらせた子供となった。
そうして始まった日本のテレビアニメの創成期、ヒーローに新しく登場したのはロボットだった。実写ではうまく表現できなかった特殊能力も、アニメの中では「空を飛んだり」、「ビルを持ち上げたり」、「弾よりも速く動けたり」と表現され、ロボットたちは縦横無尽の活躍を見せてくれた。
● ぼくら科学の子!
やはり、科学の可能性を信じ、その力が人間を幸せにすると信じられていた時代のなせる業だろう。科学の子である機械人間たちは、人間を超える活躍をして、僕たちを魅了してくれたのだ。それは「宇宙人」や「未知の生物」、「妖怪」とは一線を画した「人間の手で作られた」存在だった。
こうしてロボットは「人間にはできないこと」ができる能力を「科学的に」持ったものとして子供の頭に刷り込まれていった。
さてそれから約40年後、つまり現在であるが、人間を超えた能力を持ったロボットは数少ない。
もちろん、産業用ロボットであれば、人間の持てない重い物を持ち上げて作業をしたり、人間より早く溶接をしたりといったロボットはある。
だが、人間の能力を超えたロボットとして求められているのは、人間の活動ができない場所でも活躍できる能力ではないだろうか。
深海や宇宙、火事の現場などのように温度の高い場所。それに放射線にさらされる環境では、人間はほとんど生身では活動できない。だから、そこで活躍できるロボットが欲しいと思う。
● 宇宙は結構あぶないところ
宇宙というのは、実は危険な場所である。宇宙空間に静止しているように見える物体も、相対的に等速度で飛行しているためにお互いが止まって見えているだけだ。だから、もし軌道がずれれば、時速数十万kmでぶつかることになる。いくら無重力といっても加速重力は変わらない。質量のある物同士がぶつかればひどいことになる。
こうした環境で人間が宇宙服を着ただけで作業しているのだから、のんきに宇宙遊泳だよーんと見ていても、その危険性については大きいと知らないといけない。
また、衛星やロケットの破片による宇宙のゴミ、デブリも複雑な軌道で地球のまわりを回っている。
中国の衛星破壊実験などというバカなことで、現在は地上100Km~400Km近くまで複雑な軌道のデブリが飛び交っている。
これらが人間に衝突すれば、銃で撃たれたようなものだ。人間がデブリを増やすおろかなことを続ければ、地球から宇宙へ出て行くことも難しくなってくる。
ロケットには穴が開き、打ち上げ軌道へ投入できなくなる可能性もある。そうしたデブリの掃除は、ロボットにでもやらせないと人間ではあぶなすぎる。
真空で空気がなくてもロボットは動けるが、温度や放射線には弱い。宇宙では太陽光の当たる側は数百度になり、陰側はマイナスの温度になる状況と、ふりそそぐ宇宙線がある。
ロボットはコンピュータを積んで動いているので、まぁ動くコンピュータと考えることができるだろう。このコンピュータのCPUは、熱や放射線に弱い。
いまのデスクトップコンピュータでさえ、夏場に熱がこもりすぎると熱暴走をする。こんなものが温度差の激しいとこで動けるのかね? となる。CPUまわりだけでも温度管理は必須だろう。
また、放射線も脅威だ。現在でも宇宙で使うコンピュータのCPUはプロセスルールの古い物を使う。その理由は、最新の65nmやら45nmといったプロセスだと、回路の幅が狭く、そこへ高エネルギーを持った荷電粒子が当たると、回路が壊れたり、動作にエラーが出てしまうからだ。
宇宙で使うCPUはプロセスルールは必然的に古くなる。なので、処理能力もおのずと高いものではない。となると、高度な計算を素早く行なわないといけない自律的ロボットは難しいかもしれない。それで、宇宙でのロボットは人間が乗って操縦して戦闘するのかもしれないね(笑)。
● ロボットの敵、放射線
地球上でも放射線にさらされる場所がある。それは原子力施設だ。高レベルから低レベルまでさまざまな放射能レベルがある。
ちなみに、放射線を発生させる能力を放射能というのだね。
そうした施設で、もし事故があれば、人間では対処が難しい。放射線によってDNAがズタズタに壊されてしまうからだ。
もはや風化させてはいけない記憶に、1999年の東海村JCOの臨界事故がある。これは遮蔽も何もされていない空間に核分裂反応を起こす炉が出現したものだ。
「青白い光を見た」という作業員の証言に、「チェレンコフ光か?」と驚愕した記憶がある。それがどれだけ深刻な状態か、すぐに想像できてしまったのだ。
そして、制御も何もなく、遮蔽もない核分裂反応を起こす炉に対して、それを止める作業をしなければならない。人間としては躊躇したと思う。
そのとき、とある民生用ロボットメーカーに打診があったそうだ。
「お宅のロボットは使えないか?」と。
メーカーとしては「無理」との返事をするしかない。
腕や手があるといっても、重い物を持てるわけでもなく、プラスチックのボディでは、放射線の遮蔽もできないからだ。
放射線でロボットが動かなくなる可能性があるのは宇宙と同じだ。さらに、そうした環境で使うことを考えてなければ、CPUのプロセスルールはその当時の最新の物を使うのは当然だ。
ますます放射線に弱いということになるのだ。
結局、JCOの場合は、社員が防護服を着て、短時間での作業を多人数でこなしていくという方法で、なんとか核分裂を止めることができた。
その教訓から、近年、やっと原子力施設での防災ロボットが開発されている。
実はその昔、通産省の音頭取りで、「極限作業ロボット」構想というのが1983年~1990年にあった。原子力施設内での動作を想定していたものだった。
4足歩行の形態から「ケンタウロス」と命名されていた。その検証モデルは実用に向けて生産されることなく終わった。
もし、そのまま実用に向けて生産されていれば、JCOの事故のときには使えたのだ。
だが、現実は使える災害用ロボットもなく、ホビーに近い民生用ロボットにすがるという寂しい結末だった。
その教訓から、2003年に原子力施設災害向けロボットとして、三菱重工のMARS-A(マルス・エー)やMARS-T(マルス・ティー)が開発された。
駆動部分に東京工業大学の広瀬茂男教授の協力を受け、狭い場所での階段の上り下りや、段差のある場所をキャタピラのある足で移動できるようになっている。
災害時には不整地になっている可能性もあり、そうした場所での走行が考えられたのだ。階段や不整地というと、二足歩行と考えがちだが、二足歩行でないといけない理由は何もない。
移動速度は時速2kmだが、80kgの重い物を持てたり、マニュピレータでは、バルブの開け閉めなどの作業ができる。
放射線に当たっても、人間のように即死することはない。まさに人のできないことをするわけだ。
しかし、こうしたロボットは一般的には知らない人も多いし、その存在もあまりアピールされない。原子力災害は存在しないことになっているからだ。
だが、こうしたロボットの存在はもっとアピールしてよいと思うし、どんどん開発もしていってほしい。備えあれば憂い無しで、作っておいていけないことはない。
1999年、あのとき、むき出しの原子炉に立ち向かうロボットがあればスーパーヒーローになれたかもしれない。それは、人類を救う稀有な能力を持っていたわけだからね。
それ、ロボットは人のできないことをやれ~。
■URL
三菱重工業 原子力防災支援ロボット
http://www.mhi.co.jp/kobe/mhikobe/products/atomic/mars/index_h.html
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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員
2007/06/22 14:57
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