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ミミズにアメンボ、カタツムリ~生物に学び、安全なロボットを目指す

中央大学 バイオメカトロ研究室訪問
Reported by 森山和道

 アメンボ型ロボットを発表した、中村太郎助教授の中央大学理工学部 精密機械工学科 バイオメカトロ研究室は2004年4月に発足し、今年で3年目を迎えたばかりの若い研究室だ。中村助教授本人も75年生まれと若い。

 研究テーマは「生物規範型ロボティクス」、「人間共存型マニピュレータ」、「次世代アクチュエータの開発と制御」という3つのグループに分けられている。話を伺った。

 生物は長い年月かけて進化している。その中には、お手本にして人間の役に立つものが色々あると中村助教授は語る。例えばミミズは、前方の体節を縮めて、次に後方の体節を収縮させて動いていく、蠕動と呼ばれる動き方で移動する。体節の収縮によって摩擦力を発生させ、体節を伸ばすことで前進するのだ。

 この動き方なら、ごく狭い空間でも移動できる。「ヘビ型だと横の幅が必要ですが、ミミズ型はただ膨らんだり縮んだりするだけですので、一番狭いところで移動可能です」(中村助教授)。

 現在作っているロボットは3号機。実際に、管の中を上がったり降りたりする様子も見せてもらった。不整地を走行することが容易である点も特徴だという。

 将来は例えば、管中で穴を掘らせるようなことをしたいという。ミミズは土のなかで土に含まれる腐葉土やバクテリアを食べて土を排出することで、地面全体を耕すような役割を果たしている。それと同じように、土を「食べて」、排出するような機構を組み込むことを考えているという。具体的なアプリケーションとしては、たとえば惑星探査などが考えられるという。実際に宇宙航空研究開発機構(JAXA)からのコンタクトなどもあったそうだ。またもちろん、医療用カテーテルや、レスキューロボットなども用途として挙げられている。


ミミズ型ロボット。細い管の中にも入っていける 体節のなかには体節を膨張・収縮させるためのサーボモーターが1つと、ジョイントを曲げるためのモーターが1つ、合計2つ入っている サーボが1つだった前世代の体節。前後軸が縮むと体節が横方向に膨らむ

【動画】ミミズ型ロボット。有線でコントロールしている 【動画】管のなかを登っていくミミズ型ロボット

【動画】管のなかの動き。体節を膨縮させる様子がよく分かる 【動画】管のなかでの体節の動き。将来は表面に触覚センサーを張りたいという

アメンボ型ロボット

中村太郎助教授
 いっぽうアメンボはどうか。アメンボを元にしているといっても、本来のアメンボは表面張力で浮いているのであって、今回発表されたロボットのように浮力で浮いているわけではないのではない。また、そもそもスケールが全く違う。こう質問すると、中村助教授は「そのとおりです。アメンボは昨年10月に始めたばかりで、実は突っ込みどころが満載なんですよ」と苦笑しながらも、基本的コンセプトについて教えてくれた。

 もともとは、例えば突然方向転換したり浅瀬でも移動可能な、アメンボの自在な水面移動機構を「船舶+ロボティクス」として応用できないかと考えたことが始まりだった。また、アメンボは水面を移動するだけではなく、地上も移動できる。さらに飛ぶこともできる。いわばスーパー昆虫だ。その機能を少しでも真似ることができれば、という興味から始まった研究だという。

 たとえば、アメンボ型なら、岩礁が海面下にあってもそれを避けるように脚を動かすことで、浮力を確保したまま、別の脚で作業することもできる。


 アメンボ型ロボットの研究は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の「Robostrider」や、カーネギーメロン大学(CMU)でも行なわれているが、中村助教授らはバッテリを搭載して自立移動することにこだわっている。また、アメンボの機能を真似たいという目的で始まった研究ではあるが、他の研究とは違って、表面張力にはこだわらず、あくまで移動機能を実現することを目指しているという。

 今回のロボットの基本構成は、実際のアメンボと同じく6本脚。重量は150gで、長さは270mm。毎秒25cmで移動する。バッテリはリチウムイオンで、無線で操縦する。

 アメンボ型ロボットは樹脂製の脚先端に付けられた発泡スチロールで浮いている。浮きも、初期型は平らな板状だったが、現在では丸い形のものを選んでいる。そのほうが抵抗が少ないからだ。同スケールで比較すると、移動速度は表面張力で浮いているアメンボに劣るものの、旋回性能はアメンボにできない動きもできることから高くなっているという。

 ただし今回製作したロボットの場合、前後4本は稼動しない。真ん中の中脚2本をPICで制御したサーボモーターを使ってオールのように動かすことで、移動する。方向転換も中の2本を使う。ちなみに生物のアメンボも同じように中脚を使って移動している。

 将来的な用途としては、大型化し、さらに複数台で協調動作することで、海難救助などに使えないかと考えているそうだ。たとえば遭難事件が発生したら、複数台のアメンボ型ロボットを海面に投下し、人間が捜索できない環境下での稼動を狙うわけだ。そのためにはカメラの設置や、水面の揺動――波による揺れに対する制御なども必要となるが、その辺りも今後検討していきたいという。

 いっぽう、このアメンボロボットはかなりシンプルな構成である。メーカーと共同で、オモチャあるいは教材としてキット化する方向性も、検討してもらいたい。水面をすいすいと移動できる、アメンボ型のラジコンで遊ぶことができたら……。けっこう楽しそうだと思うのだが、興味を持つメーカーはないだろうか?


【動画1】本物のアメンボの動き
【動画2】【動画3】アメンボロボットの動き(動画提供:中央大学)
アメンボロボットの構成。前世代のもの 中脚の駆動機構

スーパー昆虫をロボット化する

 中村研究室で行なっているもう1つの生物規範型ロボットは、かたつむりである。かたつむりはミミズとは違って、後ろから前に体を縮めながら進行しているのだという。かたつむりは剣山のようなところでも安定して移動できることがよく知られている。これを真似できると面白いだろう、と考えたのだという。現在このロボットは色々と検討中とのことだ。

 基本は全て、「この生物をまねすると面白いだろう」という気持ちから始まるのだという。まずは生物をじっくり観察し、基本的な機構を学ぶ。そのあとで、こんなところで使えるんじゃないかと考えるのだそうだ。

 今後はどんな生物を真似る予定なのか聞いてみた。「これまで、ミミズ、アメンボ、カタツムリとやってきました。『手のひらを太陽に』という歌がありますが、あのとおりに行くとすると、次はオケラかなと思ってます(笑)」。

 もちろん、歌の歌詞だけが理由ではない。オケラは、水中を泳ぐこともできるし、穴も掘れる。また音を出すこともできる。つまり虫がやることは全部できる、やはりスーパー昆虫だという。「オケラで、掘る研究をやってみたいなと思ってるんです。オケラで掘って、ミミズで地表に土を出すとか。分かりませんけれども」。

 昆虫ということなら、やはりもう1つの特徴である飛行能力にも挑戦してもらいたいところだ。だが飛行するためには、高速で軽くて電源がいらないアクチュエータが必要になる。


構造的に柔らかい材料で安全なロボットを

 中村研究室では、次世代アクチュエータの開発も行なっている。超音波モーターを長時間駆動させるためのモデルの研究や、非イオン性の高分子ゲルを使った研究、そして空気圧ゴム人工筋アクチュエータだ。

 特に後者は、天然ラテックスゴムのなかに、管の軸方向にガラスロービング繊維を内包させた「軸方向繊維強化型人工筋肉」を作成し、一般的によく用いられているマッキベン(McKibben)型の人工筋よりも、より人間の筋肉に近い特性を出すことに成功している。マッキベン型が20%の収縮率だったのに対して、35%の収縮率を達成し、従来の2倍のパワーが出せたという。


軸方向繊維強化型人工筋肉。内部は中空でゴムを積層して作られており、1本ずつ研究室で手作りしていく 人工筋肉システムの構成

研究中で分解されていた ゲルを使った研究は学生の都合で現在は一時停止中とのこと

 「人間と共生するロボットはフェールセーフでなくてはいけない」というのが中村助教授の基本的な考え方だ。万が一ロボットが故障しても、危険側の状態になるのではなく、安全側でなければならないということだ。だからモーターを制御して柔らかい機能を実現するではなく、構造的に柔らかい材料で構築することが重要だという。

 その1つとして、電流を使って数ミリ秒でレオロジー(物質が持つ流動と変形の性質)を可逆的にコントロールできる「機能性流体」の一種である「ER流体(Electro Rhological fluid)」を使って粘弾性を変化させる機構も研究だ。

 例えば、普段は電流を通電することで粘弾性をコントロールして、固くする。そして腕を動かすのだが、万が一ぶつかったときには電流が切れてぐんにゃりと柔らかくなるようにするのである。そのほか、保持トルクの増加やブレーキ、クラッチ機構に使える。家庭に入るロボットだけではなく、より人間に近い場所で働くことが想定されている次世代産業用ロボットへの応用を想定している。

 現在、同研究室で開発した人工筋肉を使って、6軸を持った人間の腕のようなロボットを設計中だという。空気圧を使っているのでコンプレッサーは必要だが、もし出力が倍になれば、コンプレッサーも小さくできる。中村助教授は、家庭の水道圧を使うリハビリ用機材の開発も視野に入れているという。将来に期待しよう。


URL
  中央大学
  http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/index_j.html
  バイオメカトロニクス研究室
  http://www.mech.chuo-u.ac.jp/~nakalab/index.html

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中央大学、水上移動が可能なアメンボ型ロボットを開発(2006/06/15)


2006/06/20 00:01

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