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ロボットで楽しい未来の実現を目指す~株式会社ゼットエムピー

ロボット業界キーマンインタビュー【ベンチャー社長編】
Reported by 森山和道

株式会社ゼットエムピー 代表取締役 谷口 恒氏
 教育、エンターテイメント、そして研究開発。柔らかそうに見えるが芯は硬い会社。それが株式会社ゼットエムピー(ZMP)なのかもしれない。

 ZMPは他のロボットベンチャーと比べると、かなり毛色が違って見える。2004年3月に行なわれた二足歩行ロボット「nuvo」の記者会見のときのレポートをご覧頂ければ分かるとおり、同社の発表はかなり大がかりで本格的だ。ミズノやセイコーのような大手と組んでいる点も特徴である。

 nuvoはその後、高級デザイナーズ家具で知られる「hhstyle」でも展示・デモされたのだが、工業デザイナー 奥山清行氏がデザインし、機械系・電装系の部品がいっさい外に見えない構造のnuvoは、hhstyleの家具のなかに全く違和感なくはまっていた。nuvoの58万円という価格帯を考えると、現状のロボットは確かに高級家具並みではあるものの、なかなか真似できることではない。同社のオフィスには松井秀喜選手とnuvoの2ショット写真が飾られていた。

 そもそもZMPが2001年に設立されることになった理由の1つは、宇多田ヒカルの「Can you keep a secret?」に北野共生プロジェクトで開発された「PINO」の出演が決まったことにあった。当初は、「PINO」をはじめとしたヒト型ロボットの技術移転を受け、事業化することを目標として事業計画が立てられた。設立は2001年1月30日。科学振興事業団(JST)とライセンス契約などを経て、実際の営業開始は6月となった。

 六本木に事務所を開き、谷口 恒(ひさし)社長、比嘉勝孝営業部長、それとアルバイトの女性、合計3人での船出だった。そのときには既に日本科学未来館へのPINOの納品と、ツクダオリジナル(当時)でのPINOのキャラクタービジネス展開、つまり玩具販売が決まっていた。

 代表取締役の谷口氏は、元自動車の制御システムの開発エンジニアだった経歴の持ち主だ。今年3月からロボット学会理事になった。「ロボットをひろく見ていって、ロボット業界に貢献できるといいなと思ってます。まわりの雰囲気も以前とは変わってきましたし」と語る。


同社設立の切っ掛けとなった「PINO」 家庭用二足歩行ロボット「nuvo」

 PINOは、よたよたと歩く、というより動いただけでも話題になった。だが、今やラジコン用の部品でも良いものが出て、きちんとロボットに使えるようになった。同社の事業領域ではないが、ロボット競技とホビー市場も、今後衰えることなく続いていくだろうと谷口氏は見ている。

 また、nuvoに採用されている「CAN」も、車載LANシステムで標準として活用されるに至っている。ロボットは動くものだ。もともと自動車関連の出身だった谷口氏は、PC用の規格よりもクルマ用の規格のほうがロボット向きなのではないかと考えていたのだという。

 nuvo開発にあたって社内で実験機を作った。それが「e-nuvo」だ。大学や企業の研修用に販売されている。たとえば自動車の部品メーカーが制御や組み込み系のエンジニア育成に使うのだ。仕様は研修内容に応じて対応しており、一式70万円程度だが、現在、300台ほどが出荷されているという。「研究と教育」が同社の主な市場だ。


大学などの研修用として販売されている「e-nuvo」 e-nuvo用の教本。中国語版も

 現在、同社の主力製品はnuvoとe-nuvoだが、ライセンス事業もまだ続いているという。たとえばPINOは昨年もドイツのコーヒーチェーン店から発注があり、関連グッズが4万個出荷されているそうだ。また、アジアなどからも数万個単位で注文が来るそうだ。

 現在、社員は20名程度で、募集もしている。また新卒も昨年から採っているそうだ。年商は、昨年はクライアントの事情で納期が遅れたこともあって2億円くらいだが、今年は「4億円くらいいく」という。通信関連関係や、製造業関連に投資するベンチャー・キャピタルからの出資を受けている。


nuvoと同時に発表された360度監視カメラ「nuvo_sensor」
 nuvo発表のときには、監視カメラも同じく発表された。また、ロボットテクノロジー一般の話として、まずは監視カメラのようなセキュリティ用途からという話は多い。だが、谷口氏はセキュリティ用途では、ロボットテクノロジーの普及は実際には難しいと語る。たとえばZMPのカメラは全方位を監視できるが、数が出るビル内のセキュリティシステムとしては高価すぎる。いっぽうで、店舗ならば欲しいと言われても、それでは数が出ないし生産コストがかかりすぎる。そもそも実際に営業しても、実績がないと導入は厳しい。

 では一般家庭ではどうか。セキュリティ用としては実際には、高価なロボットカメラを使わなくてもFOMAをもう1台契約して天井からぶら下げるほうが現実的だ。また、本当にセキュリティニーズがある人は、警備会社と契約して、実際の警備員に来てもらうサービスを選ぶ。「セキュリティニーズが高まっている」とは言っても、地震と同じで、自分が実際に被害に遭わないと、本当の意味でのニーズはなかなか高まらない。このようなことから、ロボットテクノロジーを展開する市場としてはセキュリティは厳しい、というのが谷口氏の見方だ。

 ZMPが他のロボットベンチャーと違って、大手と組むに至っているのはどうしてなのだろう。そう問うと、谷口氏はこう答えた。

 同社がPINOをレンタル(デモ)しはじめたのは2001年7月からだ。やってみてすぐに分かったことがあるという。「ロボットはすぐに壊れる」そして「部品レベルから把握しないと故障に対応できない」ということだ。それで2つのことを決めた。

 1つは、部品1個ずつから技術を積み上げていくこと、もう1つは、ロボット製作を主眼にしないことだ。まずは、部品と基幹システムの開発に注力し、ロボットという形に組み上げるのは後回しにしたというわけだ。

 nuvoは、PINOにおいてギアで苦労したこともあり、ギアードモーターから他社と共同開発した。パートナーには非常に高い信頼性が要求される業界で用いられているモーターを作っている会社を選んだ。そういったことを1つ1つ積み上げていくことでnuvoは商品化に至った。


 基幹システムとは、色々なセンサーを使いながら自律して動くために統合したシステムのことだという。特定のロボットだけではなく、さまざまなロボット的なマシーンを作るための骨格となる技術だ。それをまず作り上げることに力を注いだ。

 このような開発コンセプトに大手企業が賛同してくれた。「そうすると、会社の価値が分かってくれるような、余裕のある人たちがだんだん集まってくれたんです」。それで自然と今のような形になっているのだという。

 また「大々的な発表は一見無駄にも見えるが大事」だと語る。「パートナー企業も喜んでくれますし、社員も喜びます。すごく達成感があるんですよね。それが結果的に、世の中全体に何らかの形で良いイメージとして伝わっていくんです。『ZMPってよく分からないところだけど、何か新しいイメージを提案してくれるんじゃないか』と。現状ではロボットって、夢を売っているようなところも強いですから」

 取材中に強く印象に残ったことがある。谷口氏は他社のさまざまな製品を非常に高く評価するのである。もちろんなんでも誉めるわけではないが、「あれはいいですね」と他社の製品を誉め、「あれはなかなかできない」と他社のノウハウや人を誉める。谷口氏本人は意識してないのかもしれないが、個人的には強く印象に残った。

 もちろん夢だけではご飯は食べられない。だが、夢やロマンは、やはり原動力となる。そもそも、なにか面白そうだと思ってない人間は、ロボット業界にはいないだろう。

 ZMPも夢だけ追っているわけではない。実際に商品開発に携わった人なら皆知っていることだが、きちんと品質が管理された製品化まで持っていき、生産ラインにのせるためには、開発の数倍以上の労力と時間がかかる。それがノウハウになるのだ。また、商品として売り出したあとのメンテナンスそのほかのシステム作りも重要だ。ロボットは新しい製品なので、そのあたりのノウハウを持っているメーカーは非常に少ない。部品レベルから1つの製品を開発して売り出した経験を持つZMPは、その中の1社だと言える。


 この製品開発ノウハウを活かして、ZMPはそろそろ次の製品を考えているという。それは「ロボット技術で生活が楽しく便利になるようなもの」だという。「モノを運んだりはしませんが、楽しく便利な要素を提供するモノです。びっくりすると思いますよ。『え、これができるの』と。ロボットには見かけの面白さがあると思うんですけれども、家のなかを自由に考えながら動いていくものはまだ世の中にはないですからね。ここは一つ先に行きたいなと思います」。

 当然のことながら詳細は教えてくれなかったので期待するしかない。個性のあるデザインと移動能力を持った、楽しい機械であることは間違いないようだ。

 その次の製品などを足がかりにして、2年後くらいには上場を考えているそうだ。上場したら、早いうちに100人体制をとりたいという。そうすれば大手と肩を並べられるからだ。

 「いま狙っている製品が市場に受け入れられるかどうかで決まると思いますけれども、技術、環境、収益基盤は揃ってきた。あとはそこをどういうふうに応用していくかですね。コストダウンして、一般的なアプリケーションをのせて市場に問うだけですから」

 一般的なアプリケーションとは何か? 谷口氏は、「答えはある」と自信を見せた。「2004年の10月くらいからずっと構想は練っていたんです。しばらく様子を見ようと、基礎研究をずっとやっていたんですが、今年一気にゴーしようと思ってます」

 現在は教育市場を主なターゲットにしているが、本当に市場として大きいのはやはりカスタマー市場だ。そして何より「夢があると思う」と笑う。「僕は人にロボットをふつうの工業製品のように使ってもらいたいんです。自分で使いたいというのが大きいんですけどね。それで『便利だな』と思ってもらいたい。毎日使ってもらいたいんですよ。nuvoを出してみたことで、用途が完全に絞れてきましたし」


社内の様子 社内にはロボットの動作検証用としての和室も 入り口ではnuvoがあいさつで出迎えてくれる

 では、今後、20年くらいのスケールでのロボット市場の展開はどう見ているのだろうか。谷口氏は「今年来年が1つのターニングポイントかもしれませんね」と語る。

 経済産業省はロボットのロードマップを作り、いくつかの分野で重点開発を行なっていく方針をまとめている。だが「あれができるのは大手だけ」だ。もともと経産省のロードマップそれ自体は大手企業が10年かけて実現していく分野でもあり、大手企業は大手企業なりのやり方で、それを確実に実現していくだろう。

 「でも、それだけの流れであれば失速しますよね」と谷口氏は指摘する。「ロボットへの関心はしばらく続きます。でもそろそろ飽きられてくるころ」だと見ている。ベンチャー会社は大手とは違う。10年後も重要だが、今年来年のことはもっと重要だ。確実に2年後くらいに次の市場を作らないといけない。

 ZMPでは、来年は教育市場だけでも5億円くらいの売上は立つと見ている。そこに加えて「これまでとは違った10億、15億円くらいの違う市場を自社製品で作らなくてはいけない」という。

 「2年、3年後にベンチャー企業何社かが、それぞれ、そういった売上になるようなものを出してこないと沈むんじゃないかなと思いますね」。つまり、ロードマップに出ていないものが出てこないとダメだということだ。

 そのためには、「切り口を変えないといけない」という。環境にある程度適応できるインテリジェントな移動機能を持ったもの。そこに、使う頻度が高いアプリケーションを載せる。それしかない。

 ただし、谷口氏はロボットの未来には楽観的だ。ZMPは、2010年までに売上100億円を達成することを目標に掲げている。

 「カメラ、無線ネットワークも普及してきたし、家電も進化してきた。あとは移動させるだけです。移動に価値があるかどうかですが、『これだ』というアプリがあると一気に普及するでしょうね。ただ、うちの製品は実用性はないです(笑)。そちらの道は選んでない。楽しく便利にというのがコンセプトです」

 楽しいロボットを目指すZMPでは日本ヒューレット・パッカードと共同で、ロボットのデザインコンテストも実施している。大学・短大・専門学校の在校生を対象としたもので、第一回のメカニカル部門大賞は東京大学大学院情報工学系研究科知能機械情報学専攻の林摩梨花さんが、デザイン部門対象は東京工芸大学芸術学部ヒューマンプロダクトコースの宇井健人さんが受賞した。第2回も実施する予定だという。

 綺麗でかなり広く、名目としては家庭環境テスト用の畳敷きの部屋まであるZMPのオフィスだが、以前は社員全員が「マイ寝袋」持参だった時期もあった。もっとも最近は夜10時には帰るようにしているそうだ。

 オフィスからは天気さえ良ければ富士山が綺麗に見えるという。ZMPは、富士山のように美しくどっしりと聳えることができるだろうか――。


URL
  ゼットエムピー
  http://www.zmp.co.jp/
  【2005年4月13日】ゼットエムピー、家庭用二足歩行ロボット「nuvo」受注開始(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0413/zmp.htm
  【2004年3月2日】服とスニーカーつき二足歩行ロボット「nuvo」(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0302/zmp.htm


2006/05/31 00:02

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