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今はロボット元年以前、ネットでロボットを群れに~スピーシーズ株式会社
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ロボット業界キーマンインタビュー【ベンチャー社長編】
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Reported by
森山和道
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スピーシーズ株式会社の春日知昭代表取締役。左は二足歩行ロボット「Speecys」、右はネットワークコンテンツ配信ロボット「ITR」
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ロボットは手足の付いたPCである――。スピーシーズ株式会社の春日知昭代表取締役がよく口にする言葉だ。
渋谷駅から徒歩数分、坂を上がったところに建つ綺麗なマンションの中にスピーシーズのオフィスがある。中では、4月3日に発表したインターネットに接続することを前提としたロボット「ITR」の調整が行なわれている真っ最中だった。これまでに発表していた「Speecys」というロボットが研究開発向けだったのに対して、ITRはコンシューマ向け。3年後にはなんと3万台を目指すという。
とはいっても現状では、実際に稼いでいるのは研究開発用の「Speecys」のほうだ。こちらは50万円と78万円のモデルがある。最大の特徴は高性能なCPUと同社が開発したOSが乗っていること。ロボットを専門にやっているというよりは、ロボットを使って何かをやりたいのだが、自分でロボットを作るのは大変だ、という人が主たるターゲットだ。
「Speecys」は、大学・企業などを対象に着実に売れているそうだ。現在、年商は7,000万円。社員数4、5人であれば、十分に成り立つ金額だ。だが、もっと大きくしたいと考えると、ターゲットは必然的にコンシューマ向けになる。同社では、エヌ・アイ・エフ、みずほ、商工中金などから出資を受けて資金を調達し、本格的なロボットビジネスに乗り出すことを決めた。現在9人の社員とともに「ロボットをメディアにする」ことを目標に頑張っている。
● 感情移入しやすいからこそロボットを
代表取締役の春日氏は、いわゆる「鉄腕アトム」を作るつもりは全くない、と強調する。ロボットはあくまでプラットフォーム、歩くPCであり、自律性にもこだわっていない。
2001年末に独立する前は、ソニー株式会社でVAIOの設計や、AIBOのユーザー向けSDK開発に従事していた春日氏は「ロボットは自律していなければ」と言われ続けたことにうんざりしているようだった。彼からすればロボットは動き回る能力を持ったPCに過ぎないのだ。だからこそインターネットに接続する能力は本来必須であり、同時に「形」が重要だという。
「まだネットワークにちゃんと繋がるロボットはない。まだないんだから評価しようがないというのが現実だと思う。僕はロボットは人の形をして動くことに意味があると思っています。感情移入がしやすいからです。PCが情報を見に来いと言ったらむっとしますが、ロボットに言われるのならそうでもないでしょう?」
人間側が主体として認識し、感情移入しやすい端末。それがロボットだというのだ。ただ、端末をどのように機能強化していけば役に立つのか、そこはまだ多くの人が答えを持っていない。春日氏らは、取りあえず現状のロボットでは仕事をさせるよりも情報提供のみに徹するほうが賢明だと考えている。
春日氏は「ロボットはまだ『元年』でもない。ワンボードマイコンくらいのレベル」だと捉えている。ちょうどTK80が出た頃と似たようなレベルではないかというのだ。そもそも「ロボット業界」と呼ばれるものもあるのかないのか分からないという。
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ITRはスピーシーズの工房で組み立てられる
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ITRの構成パーツ
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ソフトウェア開発室の様子
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確かに、ロボットが歩く機能は上がった。技術的には向上している。だが、ビジネスモデルは、ほとんど進んでいない。AIBOの失敗は、ソニー型、あるいは、家電メーカー一般のやり方では駄目だったことを如実に示している。
同社では、ITRを使ってコンテンツをたくさん撒き、取りあえずイベントや、お笑いタレントや歌手との共演、キャラクターとして使ってもらうことを考えている。家庭では、バックグラウンド・ロボット(BGR)として、ロボットが何かしらの動作を通じて軽い情報提供をするような用途を考えているそうだ。
● 自律にこだわるとロボットは失敗する
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ITRは自律性にこだわらずコンテンツ配信に徹する
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同社が株式会社セックと共同で進めているRTML(Robot Transaction Markup Language)標準化については、海外から進めていくつもりだという。
春日氏は、他団体が進めようとしている標準化手法――全く違うロボットを繋ぐという標準化の方法には無理があると考えている。「まったく違うアーキテクチャのロボットに対して共通のコマンドで命令するということは、曖昧なコマンドになってしまうということです。例えば『関節を何度にしろ』といった細かい指示はできない。デモで色んなロボットが一斉に挨拶するといったことはできるかもしれないけれど、それ以上のことはできない」。
曖昧に機械の差を克服しようとするのは、PCの標準化の歴史を見ても無理だろうと語る。「これが標準だ」という形で同じロボットを広めるしかないと。
そして、「ロボットは自律してなければロボットではないという発想から抜け出さないと、ロボットの未来はない」ともいう。ネットワークを通じて複数のロボットが繋がり、「群れ」として何かしらの知的なサービスを提供する。いわば、セマンティックウェブの環境が実現したなかで人に情報を提供するエージェントのようなものだ。野望は「マイクロソフトのように世界制覇」と笑う。
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スピーシーズ株式会社事業戦略部部長 高橋一幸氏
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だがしかし、ITRは売れるのだろうか。同社事業戦略部部長 高橋一幸氏は「自分が欲しいと思うロボットになれば売れると思う」と語る。高橋氏自身は、ロボットに特に思い入れがあるわけではないし、ロボットキットの類を買うつもりも全くないという。だが、そういう氏自身が買いたいと思えるロボット、あるいはロボットサービスを提供できれば、売れるだろうと。確かにそのとおりだろう。現在は、他のロボット系企業というよりはむしろ、コンテンツ・プロバイダー、サービス・プロバイダーであるIT系企業が乗ってくるかどうかがカギだと考えているそうだ。
「今は待っている時代ではない。いきなり10万台は無理ですが、台数がある程度普及すれば、いろいろなビジネスプランが立ち上がります」(高橋氏)
仮に万の単位に乗れば、マーケティングの調査媒体としても使えるようになる。問題は、最初に火を点けるのは何か、だ。
「それは考えている最中ですね」と春日氏も認める。「えいやで発表しちゃったんで(笑)。方向性はまだ分からないじゃないですか。でも、今はケータイとPCとロボットがシームレスに繋がる時代になったんです」
それを踏まえて何ができるか。普及しさえすれば大きな可能性があるネットワーク・ロボットのサービス。常に前向きな春日氏らスピーシーズの活動に注目していきたい。
■URL
スピーシーズ
http://www.speecys.com/
【2006年4月4日】スピーシーズ、インターネットを利用したコンテンツ配信ロボット「ITR」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0404/speecys.htm
【2006年6月29日】スピーシーズ、燃料電池搭載二足歩行ロボットを発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0629/speecys.htm
2006/05/31 00:03
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