Robot Watch logo
記事検索
バックナンバー
【 2009/04/17 】
月刊ROBOTウォッチング
~心機一転、MANOI企画設立!
[12:03]
【 2009/04/15 】
ノモケンの「素組でロボット」
バンダイ 1/100スケール MG「RX-78-2 ガンダム Ver.2.0」(その2)
[14:24]
【 2009/04/09 】
ノモケンの「素組でロボット」
バンダイ 1/100スケール MG「RX-78-2 ガンダム Ver.2.0」(その1)
[15:40]
【 2009/04/06 】
世界最小級の二足歩行ロボット「ROBO-Q」レビュー
~全高3.4cmの超小型ロボットが自律動作する!
[14:09]
【 2009/04/03 】
石井英男のロボットキットレビュー
ヴイストン「Beauto Balancer」
~倒立振子制御を手軽に学べる工作キット
[12:59]
【 2009/03/27 】
通りすがりのロボットウォッチャー
男の憧れか? 女性型ロボット
[01:19]
【 2009/03/24 】
「新型ASIMO」のフィギュアが登場!
~フィギュアで実感、ASIMOの進化~
[02:00]
【 2009/03/18 】
ノモケンの「素組でロボット」
バンダイ 1/72スケール「VF-25F メサイアバルキリー アルト機」(その3)
[14:28]
【 2009/03/11 】
ノモケンの「素組でロボット」
バンダイ 1/72スケール「VF-25F メサイアバルキリー アルト機」(その2)
[00:05]
【 2009/03/06 】
月刊ROBOTウォッチング
~2月はエンタメ路線を爆走!?
[11:31]
【 2009/03/04 】
ノモケンの「素組でロボット」
バンダイ 1/72スケール「VF-25F メサイアバルキリー アルト機」(その1)
[13:05]
【 2009/02/27 】
通りすがりのロボットウォッチャー
脳とロボットを直接つなぐBMI
[00:10]

FA屋の発想で実用ロボットを目指す~株式会社テムザック

ロボット業界キーマンインタビュー 【ベンチャー社長編】
Reported by 森山和道

 ロボット業界で活躍する人々にお話を伺っていく「ロボット業界キーマンインタビュー」。今回はベンチャー社長編として、援竜などでおなじみの株式会社テムザック 高本陽一氏にお話を伺った。



株式会社テムザック代表取締役社長 高本陽一氏
 留守番ロボット「番竜」。二足歩行の鎧武者ロボット「キヨモリ」。留守番インテリアロボット「ロボリア」、災害レスキューロボット「援竜」――。株式会社テムザックは、かなり異色なロボットベンチャー会社である。同社ウェブサイトに並ぶロボット群を見て分かるとおり、強いインパクトを持つロボットを世に問い続けている。

 福岡県と福岡市、北九州市は「ロボット開発・実証実験特区」に選ばれている。公道でロボットの実験ができるのだ。テムザックが、その一翼を担っていることは言うまでもない。いまや地域の期待の星である。


ロボット事業に関わったきっかけ

 テムザックがロボット専門の会社として誕生したのは2000年のこと。もともとの親会社は「株式会社テムス」という製造ラインメーカーだ。テムザックの社長 高本陽一氏は「3代目」である。

 高本氏(注:タカはハシゴ高で表記)は'56年生まれ。神奈川大学法学部法律学科を卒業後、'84年に祖母がおこした会社「高本商会」に入社。'91年、それを父親から継いで株式会社テムスとした。

 最初は漁業に用いられる船内ベルトコンベアーなどを作っていたが、200カイリ問題でトロール船が減少。見切りをつけてFA(ファクトリー・オートメーション)の会社とした。高本氏自身もコンピュータ制御そのほかを勉強し、人を雇い入れ、冷凍うどんや、おにぎりの製造ラインなどを製造していた。このときに北九州の油圧シリンダーやモーターなどの部品メーカーを調査したそうだ。これが同社の後々の財産になっている。


福岡市博多のロボスクエアに展示されているテムザック1号機(奥)と3号機
 ロボットに参入することになったきっかけは'93年のことである。業績好調だったので本社の新社屋を建て替えた。そのときに、無人搬送台車に手と足をつけて受付案内させようと考え、ロボットを作った。これが第1号機だ。もともとはテムスの技術力を示すために作ったものだったという。「テムザック(TMSUK)」とは「高本商会受付警備」の頭文字からとったものだ。

 '96年には35通りの会話が大阪弁でできる2号機を作った。これは北九州市の広告代理店の事務所に納品したが「うるさい」と不評だったそうだ。'97年にはPHSを使って遠隔操作できる3号機を作った。商店街でソフトクリームを配るデモをしていたら道路交通法違反として警察に怒られるなどのトラブルもあったが、北九州(門司)-東京間での遠隔操縦に成功した。このときのトラブルは、後の特区申請に繋がった。現在でも特区以外ではロボットの公道実験は原則できないのである。


テムザック4号機
 '99年には27自由度を持つ4号機を製作。女性型、あるいはガンダムに出てくる「ジオング」のようなシルエットのロボットである。4号機はマスタースレイブでの操縦装置も作り、15台製造され、大学そのほかに11台が売れた。このロボットはROBODEXをはじめとした多くのイベントのほか、テレビ番組『THE!鉄腕ダッシュ!!』にも登場した。いまもテムザックというと、このロボットのシルエットを思い浮かべる人が多いだろう。4号機はいまも現役で、イベント等で大人気である。


 だが、事業として見ると、あくまで道楽レベルに過ぎなかった。当時、テムスの売上高は6億円程度。ところがロボットには4億円も研究資金を注ぎ込んでいたのである。さすがに4号機でやめようと思ったときに、福岡県 工業技術センターにいた知人から別会社でやってみたらどうか、と言われた。


現在同社の中核商品となっているロボリア
 高本氏が周囲に声をかけたところ、60人くらいの個人や地元の経営者、オムロンや三洋電機などの企業が出資、8億円近く集まった。こうして、2000年1月にロボット開発部門が分離独立し、株式会社テムザックが誕生する。テムスは一度は引退していた父親に復帰してもらい、現在、高本氏はロボットに専念している。なおテムザックの年商は「2億円程度」だという。現在の主力商品は留守番ロボットの「ロボリア」だ。初期ロット3,000台を売る見込みは立っているという。

 もともとFA屋であることから「役に立つものじゃないと機械ではない」というのがテムザックのポリシーだ。信頼性や安定性の高さは言わずもがなである。


ロボット産業の“喜望峰”を探す

「うちはベンチャー会社というよりアドベンチャー会社」と語る高本社長
 高本氏は「我々は一番追いつめられている」と笑う。大手自動車会社や家電メーカーなどロボット以外の本業がある会社と違い、ロボットベンチャーは、ロボットだけで食っていくしかない。そのためには、「こういうものがあったら便利でしょうというものを作って証明していくしかない」。

 「うちはベンチャー会社というよりアドベンチャー会社」だという。かつて大航海時代に「地球は丸い」と信じて出航した船乗りたちのように、ロボットベンチャー会社は「きっと地球は丸い=ロボット産業は立ち上がるに違いない」と信じて会社を立ち上げて出航してしまった。もはや喜望峰を回ってインドを目指すしかない。だが、もしかしたら喜望峰はないかもしれず、地球も平らかもしれない。「産業があって、それに合わせて会社を作っていくというより、産業ごと作らないといけない」状態である。これはまさにアドベンチャー以外の何物でもない、というわけだ。

 新航路を発見しないと戻って来れない。そのためには「片っ端から機械を出して証明するしかない」。高本氏は「どうせ勝てないから、人間や犬の真似をするつもりはない。むしろ人間や生物ができないことができる機械を作って『これができたら便利でしょ!』と提案したい」という。たとえばロボリアは録画ができて、遠隔地にいる人間に通報することができる。犬が吠えるよりも遠くの人に警告できるというわけだ。

 ただ、ロボットは現状ではなかなか役に立たない。テムザックは、大型、中型、小型と3種類のロボットを作って何とか推し進めていこうとしている。大型は人間以上の力が出せる、中型は人件費削減、そして小型のロボットは簡単な仕事だ。「用途を絞って色々なモノを作って証明していかないといけない」と高本氏は笑う。


同社のもっとも大型なロボットとなる「援竜」 中型サイズに相当する警備ロボット「リグリオ」 小型のロボットとしてはロボリアや、写真の「番竜」が相当する

 「うまくいけばいいですけどね。分からないですね。最初に言ったように、喜望峰を越えてインドがみつかればいいけど、もしかしたらこのアフリカ大陸は南極大陸に繋がっているかもしれませんから(笑)」

 おそらく世の中は、テムザックに、突破口と成り得るようなシンボリックな機械を作ってくれることを期待している。ただ、彼ら自身は特に意識はしていないという。だが産業にしていかなければならないという気持ちが強く出た結果、例えば援竜のようなロボットが生み出されているようだ。


役に立つものを作り、提案する

 行政に期待することはあるかと聞いてみた。「一番期待するのは、意欲的な企業がロボットを導入しようと思ったときの予算措置や援助ですね。燃料電池や太陽電池に援助するように、ロボットのような新産業導入に対しても援助をしてもらいたい。ユーザー側への援助ですね。そういう仕組みもやってほしい」。

 もう1つの課題は、行政における実績主義だという。まずどこかに納めることができれば実績ができるわけだが「最初の1台」には実績がない。

 「今のままだと、外国に持っていって実績を作って日本に持って帰るしかない。例えばアメリカには実績を作らせてくれるような組織があるんです。日本もそういうのをやってほしい。ロボットを実際に国の予算で購入して実績を作る。そうやってデータを蓄積して反映させると。ロボットに限らないことですが、そういうことをやらないと普及しないと思いますね。この2つですね」

 もちろん最初の1台を導入した場合は、失敗もあるだろう。だがノウハウが溜まる。そういう面から考えると、国として積極的な取り組みを見せつつある韓国や中国、EUなどにおける今後の展開はこわいという。現状では日本がリードしているが、何らかの行政措置が執られないと、追い抜かれるかもしれない。ロボットに限らずしばしば指摘されていることだが、日本は確かに技術的にはリードしているのかもしれない。だが、リーダーシップが不足しているのかもしれない。


プロジェクタを内蔵する案内・掃除ロボット「RIDC-01(リディック)」 早稲田大学と共同開発された人間搭乗型二足歩行ロボット「WL-16RIII」

 クルマでさえ、初期は馬車と比較され、すぐに壊れるようなものは役に立たないと言われた。だが当時の自動車屋たちがコツコツと技術を積み上げることで有用性を証明していった。ロボットも同じだと高本氏は強調する。「これがあったら便利でしょうということを、うちだけじゃなくてみんなで証明していかないといけない。まだまだ必要性が分かってもらえませんが、徐々にだろうと思います」。


URL
  テムザック
  http://www.tmsuk.co.jp/
  【2006年4月27日】早大とテムザック、人を乗せる二足歩行ロボット(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0427/tmsuk.htm
  【2006年2月2日】テムザック“援竜”、新潟県で雪害対策性能テスト(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0202/tmsuk.htm
  【2005年11月29日】テムザック、プロジェクター付き掃除ロボット「RIDC-01」を開発(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1129/tmsuk.htm
  【2004年12月8日】テムザック、新型留守番ロボット「ロボリア」(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1208/roborior.htm
  【2003年4月3日】ROBODEX2003プレスプレビューレポート(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0403/robodex.htm


2006/05/29 00:01

- ページの先頭へ-

Robot Watch ホームページ
Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.