JAMSTEC施設一般公開レポート

~地球シミュレータのマシンルーム見学ツアーや世界の水中ロボット紹介など


一般見学室からの地球シミュレータの眺め。左の5列が2代目地球シミュレータ

 「ハイパードルフィン」や「かいこう7000II」などの深海探査ロボットや、「しんかい6500」などの有人潜水調査船を擁する独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、横浜研究所の施設一般公開を7日に実施。スーパーコンピュータの「地球シミュレータ」(2代目)のマシンルームツアーや、JAMSTECが擁する各種水中ロボットなどの展示と解説、またサイエンスカフェでは「世界の水中ロボット」なども実施された。その模様をお届けする。

今年3月に生まれ変わったばかりの日本製スパコン2代目「地球シミュレータ」

 地球シミュレータは、「日本のスパコンの父」といわれる故・三好甫氏が中心となって開発したスパコンだ。

 初代はNEC製のスパコンを640ノード(1ノードはCPU8台からなり、CPUの合計は5,120台)接続して構成され、2002年2月末に完成して同年3月11日から稼働を開始した。スパコンの性能ランキングを出している世界的に権威のある「TOP 500 SUPERCOMPUTER SITES」のベンチマークテスト「Linpack」で35.61TF(テラフロップス:1TF=1秒間に1兆回の浮動小数点演算を行なえる)という値をマーク。同年4月18日にその値が認証されたことから、第1位の座を獲得したという経歴を持つ。日進月歩どころか秒進分歩のコンピュータの世界で、それから約2年半もの長きにわたってトップの座をキープし、独壇場としていたアメリカの関係者を慌てさせ、トップの座を奪還すべく国を挙げてのスパコン開発に走らせたという経緯がある。ただし、そんな地球シミュレータもさすがに2007年11月のランキング(年2回、6月と11月にランキングを発表する)では30位となり、また使用年数も経過して老朽化してきたため、リプレースを計画。2008年5月にNEC製の最新型スパコンを利用することを発表した。そして昨年末から今年の初めまでにシステムのリプレースやデータ移行が行なわれ、今年3月1日から、2代目(ES2)が稼働を開始したというわけだ。

初代地球シミュレータを構成したNEC製スパコン地球シミュレータのマシンルームの配置模型。オレンジ色は、2代目の装置一式が配置されているエリア

 2代目は、世界で初めて1チップベクトルプロセッサとしては100GFを突破したNEC製の最新型「SX-9」を160ノード(CPU1280台)接続して構成されている。OSは、UNIX系の「SUPER-UX」を採用(過去のSXシリーズのソフト資産を利用できる仕組み)。初代とのスペック比較は下に掲載したので詳しくはそちらを見ていただくとして、アプリケーションの実行速度はおよそ2倍となった。演算性能自体は3倍になるそうだが、プログラム次第で実行速度は変化するため、おおよそ2倍としている。リプレースによって、11月の最新ランキングでは31位となっている。昨年11月の時点で初代が73位まで落ちていたので、かなり回復したといえる(国内では1位)。ちなみに、システムの理論性能に対する実効性能の比を表す「実行効率」では、地球シミュレータは93.38%をマークし、11月の時点で5位だ。

2代目地球シミュレータを構成する「SX-9」2代目地球シミュレータの25分の1模型。SX-9計算機本体と本体の間にあるのはネットワーク装置2代目地球シミュレータの装置構成図

 利用されている研究のジャンルは多岐に及び、地球全体からビル風(大手町の辺り)まで結びつけた風(大気)の流れ、津波の伝播の様子、火山の噴煙シミュレーション、ロケットエンジンや自動車のタイヤの開発、新幹線など鉄道車両の空力形状のデザイン、製薬シミュレーション、二酸化炭素の地下埋設の未来への影響など多岐に及んでいる。

 地球シミュレータのスペックは以下の通りで、2つある数値の内、左が初代で右が2代目のもの。カッコ内は性能が何倍になったかの数値だ。

・CPU
クロック(GHz):1/3.2(3.2)
ベクトル性能(GF):8/102.4(12.8)
メモリ転送性能(GB/s):32/256(8)
・ノード
CPU数:8/8(1)
ベクトル性能(GF):64/819.2(12.8)
メモリ容量(GB):16/128(8)
ノード間転送性能(GB):12.3×2/64×2(5.2)
・システム
ノード数:640/160(1/4)
演算性能(TF):40/131(3.2)
メモリ容量(TB):10/20(2)
ネットワークトポロジ:フルクロスバ(回線交換方式)/2段ファットツリー(パケット交換方式)(-)
接続ケーブル総延長(km):約2400/220
OS:SUPER-UX(初代、2代目ともに)

・2代目のみデータが確認できたスペック
使用電力:3000kVA(一般家庭約6000戸相当)
データ保存用ディスク装置(PB):1.5(ペタバイト:1PB=1024TB≒1000兆B)
計算用ディスク装置記憶容量(PB):0.5
ネットワーク通信速度(GB/s):64

地球シミュレータが稼働する専用施設「地球シミュレータ棟」

 地球シミュレータが設置されているのが、1999年に建設が開始された、かまぼこ型をした専用の建物「地球シミュレータ棟」だ。鉄骨構造の2階建てで、幅65m×奥行き50m×高さ(最高部)17mとなっている。

探検ツアー前のレクチャーで紹介された地球シミュレータ棟の全景シミュレータ棟の内部構造図地球シミュレータ棟の横で撮影。この距離からだと画面に収まりきらない

 地球シミュレータの設置されているマシンルームは棟の2階にある(2階といっても通常の建物の4階相当の高さで地上10mほど)。なぜ2階にあるかというと、冷却の問題があるからだ。1階には大型の空調設備があり、ここで冷やした空気を猛烈な勢いで2階のマシンルームに送り込んでおり、地球シミュレータから発生する膨大な熱を空冷する仕組みとなっている。

 空気は天井に当たるとカーブに沿って両脇の壁まで移動し、そこに設けられたリターンダクトを通って再び1階の空調設備まで戻る仕組みだ。棟内を循環する空気の流れが人工的に作られているのである。ちなみに、大型空調装置がフル稼働しているおかげで、マシンルームは隣の人とですらまともに会話ができないというほどうるさい。

地球シミュレータのあるマシンルームは2階だが、左の建物の4階から渡り廊下でつながっている空中に向かって唐突にある2階の搬入口。やぐらを組み、クレーンで吊って各種装置をここから運び込んだサイエンスカフェでのプレゼン画面の1枚。実際に運び込んでいる様子
巨大空調設備。ここで棟内を循環する人工的な流れを作り、地球シミュレータを空冷している2階のマシンルームへのダクト入口。ここから冷気が送られる

 また、建物の構造として、わざわざ揺れやすい2階建てにしているのは、地下に流れている迷走電流からの影響を受けないようにしているから。建物は一見すると通常の建物のように地面に固定されているように見えるかも知れないが、実は11箇所の基礎部分で支えられているのみ。1階に出入りする際に上り下りする階段や、隣の施設からの渡り廊下など、すべてつながっているようでいて、わずかに隙間があり、地下を走る迷走電流が地球シミュレータの計算作業を乱してしまうようなことがないようにしてある。

 地震に対しては、その基礎部分に免震積層ゴムを使用し、制震ではなく免震構造になっている。そのほか、落雷対策の独立架空地線方式を採用した高さ24mの8本の避雷塔(塔というよりは電柱ぐらいの太さ)や、アルミめっき鋼板による電磁シールド(棟内では携帯電話が利用できない)、床や壁、天井には導電性材料と、徹底的に電磁的な悪影響を受けないように工夫されている。光源ですら電磁波が発生しないよう配慮されているほどで、ライトチューブという特殊な光源が採用されている。ライトチューブは、マシンルームの外に光源があり、ルーム内に送り込まれた光が間接的に周囲を照らしているのである。

免震構造になっており、棟は11箇所の基礎でしか地面と接しておらず、このようによく見ると隙間がある免震積層ゴムとアラミド繊維補強筋による構造落雷対策の避雷塔。これが8本立っている
ライトチューブ。これ自体が発光しているわけではなく、送り込まれた光で光っているライトチューブの根元。壁の向こう側に光源があるので、根元ほど明るい

 なお、2代目へのリプレースで省スペース化を達成したことから、残りの4分の3のスペースはがら空きかというと、実はそんなことはない。現在のところ無理して撤去する必要がないことから、経費節約のためにSX-6やその周辺機器はそのままにしてあるというわけだ。同様に、初代の各ノードを接続するために使用されていたケーブルもそのままになっている。実は初代で使用されたケーブルは本数も総延長もとんでもない数値に達しており、合計8万3,200本、総重量で140t、総延長はなんと約2,400kmもあったそうだ。2,400kmというとほぼ日本縦断するわけだが、1日当たり1,280本ずつ敷設しても3カ月強かかったという。

 光ファイバー製ケーブルを利用する2代目はノード数が格段に少なくなったこともあり、総数は約1万本、総延長は10分の1以下の約220kmにまで短縮されている。初代のケーブルがそのまま残っている2階のケーブル配線用フリーアクセス(2階の床下)はものすごいスパゲティ状態かというとそうでもなく、数はスゴイがきれいにまとめられている様子も紹介されていた。

初代地球シミュレータを構成していた装置の大半はそのままにされている初代で使用されていたケーブルは水色。このように床下にそのまま残されている床下の様子。本数と長さはスゴイが、ちゃんと整理されている

マシンルームは独特の雰囲気

 実際に棟を訪問することになり、まずは1階の空調設備へ。もう騒音というよりは轟音で、案内スタッフが拡声器を使って説明してくれても、もう何も聞こえないという具合。風もかなり強く吹いており、進入禁止を示すテープがかなりの勢いでたなびいているのも見られた。そして隣の施設の4階から渡り廊下を通ってマシンルームのある棟の2階へ。入ると、そこはマシンルームを見下ろせる窓のある部屋だ。ここまでは誰でも見学できるが、抽選に見事当たった見学ツアーの参加者は、靴に保護カバーをつけ(極力泥などをマシンルーム内の床に落とさないようにするため)、少し降りたところに入口があるマシンルームへ向かう。

 マシンルームは実際に入ってみるとかなりの広さが感じられ、高さ2mほどのSX-9や記憶装置などが林立して稼働している。一方で、すでに稼働していない初代地球シミュレータの機材やその周辺装置がそのまま残っていて、稼働していないために少々怖い雰囲気もある。ライトチューブは正直微妙な光量なので、それも手伝って、特にマシンルームの中央付近では、そういう雰囲気が強い。林立するマシン群の間から、何かがやってきそうな、または角を曲がった先に何かが待っていそうなどと想像してしまう感じだった。

SX-9を斜めから。奥行きがあるのがわかってもらえるはず2代目地球シミュレータで使用されているのはオレンジ色の光ファイバーケーブル手前と奥のSX-9の列の間にあるネットワーク装置の裏側
黒い装置類が地球シミュレータの制御装置とデータ保存用ディスク装置SFっぽいと同時に、ホラーっぽい雰囲気もあるマシンの間。初代のSX-6は電源が入ってないのでなおさら

JAMSTECの要する研究開発中の水中ロボットや高度な機能を持ったセンサーたち

 続いては、施設内の各所で展示された水中ロボットやセンサーたちを紹介。先頃、JAMSTEC所属の3,000m級水中探査ロボット「ハイパードルフィン」の動作試験の様子をレポートさせてもらったが、その時にそろっていた「かいこう7000II」、「ABISMO」以外にもまだまだ研究開発中の水中ロボットがある。

 ロボットの中では、今回実機が展示されていたのが、浅海用ハイブリッド型無人潜水機「MROV」。サイズは全長1,400mm×全幅700mm×高さ400mm。空中重量は80kg。最大使用深度は1,000mで、航行速度は2ノットで、4時間以上の連続行動を可能としている。操縦方法は3パターンを用意。光ファイバーケーブルを用いたUROV(Untethered Remotely Operated Vehicle:バッテリを探査機自身に搭載し、操縦や映像などの情報のみを直径1mmほどの光ファイバーで行なう方式の無人探査機)モードと音響及び磁場を用いた遠隔操縦モード、そして自律航行モードだ。水温、溶解気体、微生物などの海洋情報は、深度500mよりも浅い海域での変化が大きいため、その領域での広範囲に渡ってデータを取得することが可能な機体が望まれており、そこで株式会社広和とJAMSTECが20004年に共同開発したのがMROVというわけだ。条件を満たすために、MROVはAUV(Autonomous Underwater Vehicles:無人潜水機)とROV(Remotely operated vehicle:遠隔操縦潜水機)の両方の機能を持たされ、そして広域の水平方向移動を可能とし、なおかつ小型船舶での運用も可能な簡便さというメリットも有する。そのため、ハイブリッド型と呼ばれているわけだ。

浅海用ハイブリッド型無人潜水機「MROV」MORVを横から。ロボットアームがあるタイプとは異なり、水の抵抗を考慮したデザインとなっているMROVの後部

 続いては、自律的に移動することからロボット的な要素もあるセンサーの「アルゴフロート」。世界気象機関やユネスコ政府間海洋学委員会などの国際機関と、各国の関係諸機関が協力して実施しているアルゴ計画で使用されているセンサーだ。アルゴ計画は、全世界の海洋の状況をリアルタイムに監視・把握するシステムを構築するために進められている国際科学プロジェクト。日本では、JAMSTEC(文部科学省)のほか、外務省、水産庁、国土交通省、気象庁、海上保安庁が協力して計画を推進している。

 アルゴフロートは、船舶から海洋に投入されると1,000mの深度まで潜水し、10日間その深度を維持。さらに2,000mの深度まで潜水した後、水温、塩分を観測しながら海面まで浮上していく。そして海面に出たら人工衛星に向けてデータを送信し、再び1,000mまで潜行するというサイクルを3~4年繰り返し、投入された海域のデータを定期的に取得しているというわけだ。

 2009年11月現在で、アルゴフロートの投入数3,268台を数え、1,851台と最も投入しているアメリカに続き、日本は320台で2位と国際的に貢献している。日本の投入地点は北太平洋が最も多く、インド洋や南太平洋、オーストラリア周辺などにもいくつか投入済み。なお、アルゴ計画で得られた情報から、海水の塩辛さの地域による差が極端になってきているという。元々塩辛い海域はさらに塩辛く、甘い(塩辛くない)海域はさらに甘くなっており、地球全体での海水の循環が30年の間に約3~4%強まっており、地球温暖化の影響が現れている可能性があるのだそうだ。

アルゴフロート。深度を変えては計測を行なって、人工衛星にデータ通信を行なうセンサー部分。海水温や塩分濃度を測定できる

 また、非常に来るものがあったのが、地球深部探査船「ちきゅう」の掘削システム(4,000mの海底から7,000m下まで掘削できる)の先端で使用される「ドリルピット」。日本人なら、ましてロボット好きだと、「ドリルは男の憧れ」なんて人も多いのではないかと思うが、本物のドリルならではの重量感があった。柔らかい地層用と固い地層用と2種類あり、思わず両腕に取り付けてみたくなるようなパーツである。

固い地層用の「ドリルピット」。地球深部探査船「ちきゅう」の掘削システムの一番の働き者だろうこちらは柔らかい地層用。ゴツさでは柔らかい地層用の方が上

 そのちきゅうの掘削した穴の内部を地層の電気抵抗を利用して検査する「検層システム」も屋外で披露。今回は、日本で石油が出る新潟県や秋田県などで使用されている検層車とワンセットで公開していた。仏Schlumberger社の「MAXIS EXPRESS The Imaging System」という1台と、掘削した穴の中に投入する2種類の大型センサーである。このセンサーの内、電気抵抗でもって検査するセンサーが、これまたスーパーロボット系のロボットアニメで主人公ロボが使っていそうな巨大な槍みたいで非常にかっこよかった。しかも、これまたナイスなのが、先端がスイッチひとつで展開・収納を行なうこと。メカ好きはしびれること確実のセンサーであった。

仏Schlumberger社の検層車「MAXIS EXPRESS The Imaging System」地層の伝導率をチェックするセンサーの先端。先端部分は開閉する仕組みセンサー自体はこれだけの長さがある。これを掘削された穴の中に落としていく
【動画】オープンする様子。バネの力を使っているので、一気に開く【動画】閉じる様子。油圧を使っているのでゆっくり

 そのほか、音響ビームを移動しながら同一目標に向けて何度も照射してその情報をコンピュータ上で合成し、大型ソナーを使用した場合に等しい高分解能・低ノイズの画像を得られるビームステアリング合成開口ソナー「響」や屈折法地震探査で利用される「海底地震計」なども展示されていた。

ビームステアリング合成開口ソナー「響」「海底地震計」。今も同型機が海の底で人知れず孤独に耐えてがんばっているのだろう

サイエンスカフェなどで紹介されたJAMSTECの研究開発中の水中ロボットたち

 続いては、実機はなかったが、サイエンスカフェ「深海から宇宙まで」や「世界の水中ロボット」でも、JAMSTECで試験運用中の水中ロボットたちが紹介されていた。

 まずは、深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO」(ピカソ)から。PICASSOは、捕獲するには体組織がもろすぎるために研究がほとんど進んでいないゼラチン質プランクトンを研究するため、直接海の中で観察することで生態を調査すべく開発されたロボットだ。マリンスノーの観察なども行なう。

 従来の大型の無人探査機は支援船も大型となるため、柔軟で小回りの利く運用が難しいことから、機動力があって運用コストが抑えられる小型船舶でも利用できる小型ロボットが求められていた背景があり、そこで開発されたのがPICASSOというわけだ。PICASSOとは、「Plankton Investigatory Collaborating Autonomous Survey System Operon」の略である。サイズは、全長2,000mm×全幅800mm×全高800mmで、空中重量は200kg。最大潜行深度は1,000mで、巡航速度が2ノット、最大速度は3ノット。リチウムイオン電池搭載で連続潜行時間は5~6時間となっている。

 センサーは3台のビデオカメラで構成されるパノラマ式カメラシステムを中心に、ハイビジョンカメラまたは深海現場調査用実体顕微鏡(VPR:ビジュアル・プランクトン・レコーダー)のどちらかを選択して搭載できる。現在は母船から直径1mmの通信用光ケーブルを通して操縦されるROVだが、後はプランクトンを自動で追跡して観察するための生物認識及び自律追跡航行機能を搭載してAUV機能も持たせるという。

水中を行く「PICASSO」。捕獲の難しいプランクトンを観察するためのロボットPICASSOの陸上での画像「PICASSO」のイメージイラスト

 次は、広大な海洋を有線操縦方式のようにケーブルに束縛されることなく、広範囲にかつ3次元的に調査できる自律型(AUV)の深海巡航探査機の実験機として開発された「うらしま」。「今年のロボット」大賞2006(第1回)で、「優秀賞-公共・フロンティアロボット部門」を受賞したことから、覚えている人も多いのではないだろうか。プログラムに従って、自分の位置を計測しながら自動航行できるので、地球温暖化のメカニズムを解明するために必要な塩分濃度や水温などの海洋データを広範囲に渡って自動取得ができる。そのほか、高解像度で海底地形や海底下構造のデータの取得なども可能。1998年から開発がスタートし、2005年には巡航探査機の世界新記録となる航続距離317kmを達成した。電源としては、記録達成時には固体高分子電解質幕型の閉鎖型燃料電池を使用したが、リチウムイオン電池も使用できる。リチウムイオン電池の場合は、航続距離は100kmほどだ。サイズは全長10m×全幅1.3m×全高1.5m。リチウムイオン電池搭載時の空中重量は約8tで、燃料電池搭載時は約10t。速力は最大4ノット。自律航行のほか、音響遠隔操縦も可能で、母船追従などの機能も持つ。

自律型深海巡航探査機の実験機「うらしま」。MROVと同じように魚雷を縦長にしたような形をしているうらしまを別角度から。全長10m、空中重量10tというAUVとしては大型の部類に入る燃料電池を搭載する際の位置は中央よりわずかに後方

「世界の水中ロボット」で紹介された販売中の水中ロボットたち

 続いては、「世界の水中ロボット」で紹介された販売中の水中ロボットたちだ。有線による操縦型のROVと、自律型のAUVの2部門に分けて紹介された。

 まずROV部門だが、トップバッターは米ビデオ・レイ・LLC社の小型ROV「ビデオ・レイ・ディープ・ブルー」だ。全長360mm×全幅280mm×全高220mmで、空中重量は4.85kg。それでも、305mまでの深度を潜行できる性能を有しているし、マニピュレータも備えた立派な水中ロボットである。米国ではニューヨーク市警の沿岸警備隊が船舶の検査に使用するほか、水中に沈んだ落下物などの探索などで利用されたりするそうで、サンプリング装置も持つ。3台のカメラ、厚さ計測装置、ガイガーカウンター、ゾンデなどを備えている。最も安価なモデルで80万円前後。

 次は、スウェーデンの航空機・自動車メーカー(自動車メーカーは米GMの子会社となっているが)のサーブ系列の英サーブ・シーアイ社の「シーアイ・クーガー」。全長1,506mm×全幅1,000mm×全高745mm、空中重量335kg。最大深度は2,000mで、伸縮式カメラを備えるほか、カッターやクリーニング装置、各手工具などを有する人が潜水して作業するのが困難な深度での作業に利用する水中ロボットだ。同社ではほかに何種類もの姉妹機を販売中で、どのロボットも名称はすべて動物からつけられているのが特徴である。

米ビデオ・レイ・LLC社の小型ROV「ビデオ・レイ・ディープ・ブルー」英サーブ・シーアイ社のROV「シーアイ・クーガー」

 続いては、米オーシャニアリング・インターナショナル社の「ハイドラ・ミレニアム・プラス」。シーアイ・クーガーよりもグッと大型となり、全長3500mm×全幅1600mm×全高1820mm、空中重量も3991kgとなっている。最大深度は3048mで、さらに深海での作業を行える。2本のマニピュレータ、カメラ、ソナーなどを装備。同社公式サイトのトップページでは、水中ロボットが工具を使って作業をする様子などが動画で公開中だ。

 次は、今回紹介するROVの中では最も大型の「TM03」。仏LD トラヴォーシャン社のクローラ型の水陸両用ロボットだ。全長6200mm×全幅5700mm×全高2600mmで、空中重量は2万5,000kg。一見すると潜るか潜らないか程度の浅海で利用するように見えるが、実は120mまで潜水可能だ。カッター、掘削装置、トレンチツールなどを備え、こちらも作業用途。実際、水中ブルドーザーという具合だそうで、パイプラインの敷設などに利用されている。電動ながら、700馬力以上を発するという。5台のカメラ、2基のソナー、パイプトラッカー、音源探知装置などを装備。

米オーシャニアリング・インターナショナル社のROV「ハイドラ・ミレニアム・プラス」仏LD トラヴォーシャン社の大型ROV「TM03」

 続いてはAUV部門。2機が紹介された。まずは、米ブルーフィン・ロボティクス社の魚雷型の最も小型な「ブルーフィン-9」。直径230mm×全長1650mmで、空中重量は52kg。深度は200mで、連続航行時間は12時間となっている。バッテリ交換式なので、一度帰還して交換したらすぐにまた潜行させるということが可能だ。用途は、調査。

 ノルウェーのコングスバーグ・マリタイム社の「ヒューギン 1000 MR」。こちらはブルーフィン-9から比べると一気に大型化し、直径750mm×全長3500~5000mm。空中重量も650~800kgとなる。特徴は4ノットで24時間連続航行を行なえる点で、深度は3,000m。また、ブロック構造を採用しているので、パーツ交換などが容易となっている。それにより、目的に合わせて装備を変えられ、多目的に使用可能だ。

米ブルーフィン・ロボティクス社小型AUV「ブルーフィン-9」ノルウェーのコングスバーグ・マリタイム社の中型AUV「ヒューギン 1000 MR」


(デイビー日高)

2009/12/8 17:18