3,000m級水中探査ロボット「ハイパードルフィン」動作試験取材レポート

~滅多に入れないコントロールルームも紹介!


ハイパードルフィン。3,000mまで潜行できる水中探査ロボット

 有人潜水調査船「しんかい6500」などを有し、世界的な海洋探査と研究を行なっている独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)で19日、3,000m級無人探査機「ハイパードルフィン」の整備点検が実施され、その場にお邪魔させていただくことができた。コントロールルームでの遠隔操縦や、ロボットアームなどの動作点検の様子を動画で撮影させてもらったので、その模様をお届けする。

海洋探査ロボット「ハイパードルフィン」とは

 3,000mまでの潜水能力を有する無人探査機ハイパードルフィンは、2本のロボットアームを備え、水中用ロボットといえる機能を有した1台だ。性能やや搭載している装置などについては、『深海3,000mに挑み続ける無人探査機「ハイパードルフィン」レポート ~母船「なつしま」とともに開国博Y150で一般公開』で詳しく紹介しているのでそちらを見ていただくとして、今回はそのハイパードルフィンの整備点検の様子を紹介したい。

 整備を行なっていたのは、JAMSTEC横須賀本部の無人探査機整備場。この日は、ハイパードルフィンのほか、7,000m級無人探査機の「かいこう7000II」のランチャーおよびビークル、大深度小型無人探査テスト機「ABISMO」(Automatic Bottom Inspection and Sampling Mobile)のランチャーおよびビークルもおり、JAMSTECが有する無人探査機が集結していた。

ハイパードルフィンを左側から無人探査機整備場の外観

 ハイパードルフィンは無人探査機整備場の入ってすぐの左側が定位置。この日は、母船の「なつしま」からハイパードルフィンと一緒に降ろされた、コントロールルーム(外観は大型コンテナ)や発電設備が整備場前に設置され、動作試験を行なう体勢となっていた。ちなみに、なつしまは現在、ハイパードルフィンを必要としない単独での調査に出ており、そのために整備期間に当てられたというわけだ。

 この日は午前中に動作試験の予備テストが一度行なわれ、問題ないかどうかをチェックし、午後に本格的なテストを実施。コントロールルームは完全に密閉してしまうことから、無線で操縦士の方と整備士の方がやり取りをしており、またハイパードルフィンに給電するために発電設備が大きな音を立てているなど、本物の整備場ならではの雰囲気がたまらない。今回は、ロボットアーム、上部に取り付けられたライトやCCDカメラを備えている左右の可動式ブーム、そしてスラスタなどの動作試験が行なわれていた。動画でご覧いただきたい。

ハイパードルフィンのロボットアーム(左)【動画】右アームの動作チェックの様子【動画】左アームで空き缶をつかむ動作テスト
【動画】続いて左アームで床上のスプレー缶をつかむ動作テスト右側の大きなレンズが超高感度ハイビジョンテレビカメラのもので、左がデジタルスチールカメラ「SEA MAX」【動画】カメラの動作テスト。まずは上下左右
【動画】さらにカメラの動作テスト。前進後退右側のブーム。CCDカメラ(左)とライトが備えつけられている。左はライトが2器【動画】右ブームの動作テスト
【動画】左ブームの動作テスト【動画】各ライトの点灯テスト後方にあるファンがスラスタ。見えているのは、2つある前進後退用の内の1つ
【動画】各スラスタの動作テスト

コントロールルームでロボットアームの操縦も拝見

 9月の一般公開の時もハイパードルフィンのコントロールルームは公開されておらず、実は記者も生で拝見するのは今回が初めて。なつしまの上部に設置されていることなどから、万が一足を踏み外したりすると危険なため、一般には公開されていないというわけである。外観はコンテナと前述したが、おそらく今回のようになつしま単独の調査もあるため、ユニット化してあるのだろう。それと合わせて、なつしまが元はすでに運用を停止している「しんかい2000」の支援母船だったため、ハイパードルフィンのコントロールルームを後から追加する必要があったことから、このような形を取ったのかも知れない。

 コンテナとはいったものの、実は通常規格のサイズのコンテナではないそうだ。多数のモニタと各種コンピュータなどの機器、3人分の操縦席(ハイパードルフィン自体の操縦士が左側、ロボットアーム担当者が右側、そして中央が責任者の方)でいっぱいになってしまうため、オブザーバーの研究者用のシートを備えつけるため、拡大してあるのだそうだ。ちなみに、操縦中はモニタや機器のインジケータなどだけが明かりとなり、かなり暗い。

コントロールルームの外観。サイズを拡大しているが、コンテナであるコントロールルーム内。操縦は3人でチームを組んで行なう。大型モニタは6面ある本来はこんな感じ。モニタは機器のインジケータなどの明るさだけで、
各種機器。サーバのようにラックに備えられている操縦席後方の科学者用やゲストのためのシート【動画】モニタの様子
【動画】カメラなどの操作をしている様子

 ロボットアームのコントローラはコンパクトな作りで、見ている限りではあるが、操作には結構コツがいりそうな雰囲気であった。ただし、本職の方に掛かればモニタ越しだろうとなんだろうと、床面に置かれたスプレー缶やサンプルバスケットの縁に載せられた空き缶をつかむことはたやすいようである。

ロボットアーム担当のシートロボットアーム操作用のコントローラ
【動画】左のアームを操作している様子【動画】右のアームを操作している様子

ABISMOはランチャーを分解整備中、かいこう7000IIはランチャーの一部カバーを取り外し

 せっかくJAMSTECの無人探査機がそろっているので、ハイパードルフィン以外の機体も観察させてもらった。まずハイパードルフィンの左隣が定位置のABISMOだが、その日はランチャーの分解整備中。特徴的なオレンジと白のカラーリングの外装パーツが外され、同じツートンカラーのビークルも移動させられており、素人目には、「その位置はABISMOだから」という逆算でしかわからない状態となっていた。

 ちなみに、ABISMOは、まだ実験機なのだが、すでに実績は世界でもA級の記録を持っており、2008年6月3日にマリアナ海溝のチャレンジャー海淵1万350mの海域(最深部ではない海域)において、1万258mまで潜行することに成功している。これによって現存する無人探査機で最も深く潜行可能な機体であることが証明されたというわけだ。

 またこの時は、水深1万350mの深海底の堆積物を1.6m柱状のコアを採取したこと、1万m以深までの鉛直多点採水を実施したことが世界初となっている。なお、無人探査機の世界記録は1999年7月に1万900mまで潜った、かつてJAMSTECにあった1万m級無人探査機「かいこう」が持っている。残念なことに、かいこうは2003年5月の四国沖での2次ケーブル破断事故でビークルが失われ、現在のかいこう7000IIは7,000m級細径光ファイバー式無人探査機「UROV7K」を改造した機体だ。ちなみに、クローラを備えているのが大きな特徴のABISMOのビークルの方は、この日は特に整備はされていなかったようだ。

ABISMOのランチャー。分解整備中で外装パーツが外されているABISMOのスラスタ。完全に外されていた本来のABISMOのランチャーはこんな感じ(展示模型)
ABISMOのビークル。キャタピラがあるのが特徴ABISMOのビークルを真横から見たところクローラの有効性はまだ明確になっていない模様。1万m以深の深海底はクローラで進める固さなのだろうか?

 ハイパードルフィンとABISMOが整備場に入って左側面に並んでいるのに対し、正面に並んでいるのがかいこう7000IIのランチャーとビークルだ。この日は、ランチャーの外装パーツが一部外されていたようで、通常は見えない内部メカが剥き出しになっていた。ただし、この日は整備が行なわれていたわけではないそうで、スタッフがランチャーとビークルの間に集まって、打ち合わせをしていたようである。ビークルの方は、特に整備などはされていなかったようである。

このような形で無人機たちは並んでいる。画像左上がハイパードルフィンかいこう7000IIのランチャー(左手前)とビークル(右奥)
かいこう7000IIのランチャーの前面左側は、外装パーツが外されて内部機構が剥き出しになっていたかいこう7000IIのビークル


(デイビー日高)

2009/11/2 00:00