「CEATEC JAPAN 2009」基調講演「未来予測2010-2025」レポート
~エレクトロニクス産業と自動車産業は融合する
セグウェイジャパンの秋元氏 |
最先端IT・エレクトロニクスの総合展示会「CEATEC JAPAN 2009」で2日目に開催された基調講演「-未来予測2010-2025 ~Sustainabilityによるエレクトロニクス・自動車産業の変貌~」では、ロボットに関連する話題が取り上げられた。本稿ではその内容についてレポートする。
●3人のキーパーソンによる講演
この講演では日経BP社から「未来予測レポート」シリーズとして、「2008-2020食の未来・編」や「自動車産業2009-2025これから始まる三つの革命」といった書籍をリリースしているアクアビットの代表取締役でチーフ・ビジネスプランナーである田中栄氏が、3人のキーパーソンを招いて対談しながら、ゲストにそれぞれの題材を講演してもらうというものだ。
アクアビット代表取締役でチーフ・ビジネスプランナーの田中栄氏 | 講演のプロローグでは次々と今回の題材につながるモノクロ画像が映し出され、中にはロボットの姿も |
その中で、田中氏自身はプロローグとして「今社会とビジネスに求められる『サスティナビリティ』とは」と題した講演を実施。今後、自動車産業は大きな変化を迎えるとした。そして、田中氏がゲストとして呼んだキーパーソン3名が、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構希少金属備蓄部部長の馬場洋三氏、株式会社ピューズ代表取締役社長の小野昌朗氏、セグウェイジャパン株式会社取締役マーケティング部部長の秋元大氏というわけである。
第1部となる馬場氏の講演は「レアメタル、そして限界資源」というタイトル。あと10年以内になくなるレアメタルもあると予想されているが、実は金属は回収可能であること、埋蔵量や静的可採年数(あと何年掘り出せるかの年数)に関するデータを発表しているアメリカ地質調査所の情報収集能力の低下から正確性が薄れているといったことから、「もう新たに掘り出すことはできない」という状況はそう心配する必要はないという。そのため、いうまでもないのだが、環境負荷低減への取り組み(使用原単位を低下させる省資源、省エネルギー、3Rの推進)が重要になる。また、中国など特定の一国が重要な金属の算出を独占していたりすることから、そうした資源国や企業との良好な関係の構築などの方が重要だとした。
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構希少金属備蓄部部長の馬場洋三氏 | アメリカ地質調査所が発表しているデータだが、近年予算削減などから信頼性が落ちているという | 問題は、中国など一部の生産国のみが寡占している状況。良好な関係の構築が重要だとした |
●ロボット開発にも力をいれているピューズ
「電動スクーターから電気モビリティへの将来性」というテーマで講演を行なったのはピューズの小野昌朗氏。ピューズは電気自動車(EV)用モータ、インバータ、電池パックなどを手がけており、ロボットとも大いに関連があったりする。2007年の国際ロボット展では、千葉工業大学と共同でブースを開いていたし、トヨタのパーソナルモビリティシリーズの最新型「i-REAL」(運転レポート記事はこちら)の電源関連部分と充電装置部分の開発に協力していたりもするのだ。
また、小野氏は日本のカロッツェリア(自動車のデザインも含めた研究開発を行なっている企業)のひとつとして有名な東京R&Dの社長も兼任しており、レース専用車両などの開発のほか、両企業の技術を結集してEVや電動バイクの開発している。実例としては、慶應義塾大学電気自動車研究室教授の清水浩氏の「Eliica」(エリーカ)や、東京大学教授の堀洋一氏の電気自動車モーション制御評価用試験車両「White EV」や、ホンダの電動マラソン先導用大型スクーター「DreamQueen」、オーテックジャパンの小型EV「マイクロUV」などだ。ただし、これらは公開のOKが出た特例であり、実際にはもっと多くの企業とのコラボレーションによるEVやロボットなどの開発に携わっているのだという。
ピューズおよび東京R&Dの代表取締役社長を務める小野昌朗氏 | 慶應義塾大学の「Eliica」の開発にも協力。ヘルメットからして、ドライバーは片山右京選手? |
小野氏の講演は、最初の馬場氏の講演が終わったあと、再び登場した田中氏が「エレクトロニクスと自動車産業の融合」を2番目のテーマとしてまずはスタートした。エネルギー面などからら電動モビリティが今後大きく伸びるとして、21世紀で最も大きく変化する産業は『自動車』である」として簡単なプロローグ的な話を展開。そのあとに小野氏をステージ上に呼び、「電動スクーターから電気モビリティへの将来性」がスタートした。今回、小野氏は東京R&D製(パワード・バイ・ピューズ)がかつて市販していた電動スクーター「ELE-ZOO」ですぃ~っとステージ上手から聴講者の前に登場した。
乗ってきた電動スクーター「ELE-ZOO」と小野氏 | ステージ左手に展示されていたのが、東京R&D製電動スクーターの試験車両「es-X2」 |
講演では、田中氏と小野氏が対話するような形で行なわれ、これまでピューズと東京R&Dで実際に製作してきたEVが紹介された。小野氏は、「モータとバッテリから構成されているので、EVとロボットに差はないです」とコメントした。最終的にこの第2部は、電機メーカーならEV産業に参入しやすいという結論で田中氏が結んでいる。
●セグウェイのロボット用モジュールとは?
ピューズの小野氏との対談形式の講演第2部を経て、自動車の概念・基本形が変化してきていることに注目し、新たなモビリティの拡大からロボットにもつながっていくと田中氏はいう。そして、「メカニクス/モビリティ」(機械)+「エレクトロニクス」(電気・電子)+「コンピューティング」(ソフトウェア)+「ネットワーキング」(通信)によって、「ロボトロニクス」という技術集積・複合産業が生まれるとした。
自動車の概念・基本形が変化することで、ロボットにもつながっていくという | 既存の4つの分野を足し合わせると、「ロボトロニクス」が生まれると田中氏は唱える |
そこでステージ上手からセグウェイに乗って登場したのが、セグウェイジャパン株式会社取締役マーケティング部部長の秋元大氏。「セグウェイ、ロボット用モジュールとしての可能性」がスタートした。ちなみに、セグウェイジャパンは、社名からすると米セグウェイ社の日本支社的なイメージだが、一切資本は入っていない独自の企業であり、ブランドイメージで「セグウェイジャパン」としているのだそうだ。
セグウェイジャパン株式会社取締役マーケティング部部長の秋元大氏 | 秋元氏もまた先ほどの小野氏同様に静かにすぃ~っと登場 | 田中氏もちょっとおっかなびっくり感があったが、自分でも乗ってみた |
まずセグウェイに関する情報が披露され、現状でセグウェイの販売台数は全世界で6万台。一般道で乗れないのは、先進国では日本とイギリスのみという状況となっているとした(アメリカ国内では、47州で認可済み)。また、1台の単価が100万円前後と非常に高価なことから、セグウェイジャパンとしては、道交法の問題がクリアされたとしても、個人にはあまり売れるとは思ってないという。それよりも、訪ねた先でレンタルできるシェアリング方式でのサービスに力を入れていきたいとしている。私有地内であれば利用は問題ないため、テーマパークやショッピングモールなど、敷地面積があるのに移動手段はほとんど徒歩のみ、というような場所でのレンタルを想定しているというわけだ。
アメリカ国内と欧州の認可の様子 | 日本では一般道では乗れず、こうしたイベントの場合は許可を取り付けて行なっている | 私有地内なら問題ないので、イベント会場(写真は横浜赤レンガ倉庫)などで貸し出すスタイルを進めている |
また、セグウェイは空港などで利用する場合、トランクのような大きな荷物を持っていると利用しづらいという声に対して、「後ろから着いてくるもう1台のセグウェイに運ばせればいい」とした。そこで紹介されたのが、実験中の様子。セグウェイの製品のひとつに、ハンドル部がなく、ステップのみという形のロボットプラットフォーム「Segway RMP 200」がある。それに追従機能を持たせて、荷物運び役をやらせようというコンセプトなのだ。倉庫内で行なわれていた実験は、一定の間隔を置いてRMP 200が人の搭乗したセグウェイを追随していくという様子が動画で披露された。Webカメラとレーザーレンジセンサで追いかけているそうである。
ロボットプラットフォーム「Segway RMP 200」 | 実験の様子。前の人が乗ったセグウェイを後ろのRMP 200が追従 | 同じく実験の様子。RMP 200の上にノートPCが載っているのが見える |
その様子を披露し終えると、秋元氏は「人とのコミュニケーションが増え、人に優しくなれる社会になれるようセグウェイを使って進めていきたい」として第3部は終了となった。
エピローグとして田中氏は、いま必要なのは「改善」ではなく「革新」とし、100年に一度のビジネスチャンスなので「クレイジー・アイディア」がポイントだとして、今回の講演を終了した。
2009/10/23 19:00