パワーアシストスーツや最先端の義足、デザイン性の高い車椅子まで
~第36回国際福祉機器展レポート
「第36回国際福祉機器展」が東京国際展示場(ビッグサイト)にて9月29日(火)~10月1日(木)の日程で開催された。主催は財団法人保健福祉広報協会、全国社会福祉協議会で、15カ国・地域から491社・団体が出展。この記事では既にお知らせしたパナソニックの変形ベッド型ロボット「ロボティックベッド」以外のロボット関連展示についてレポートする。
●パワーアシストスーツ
まずはパワーアシストスーツからご紹介しよう。介護者、あるいは将来的には要介護者(介護される側)が着用することで力や制御を増幅することが可能かもしれないパワードスーツは、さまざまな面で一つの「夢」だろう。今回の福祉機器展では、大和ハウス工業株式会社のブースでCYBERDYNE株式会社/筑波大学山海研究室が開発しているロボットスーツ「HAL」、そして神奈川工科大学 ロボット・メカトロニクス学科 山本研究室のブースと、東京理科大学小林研究室/戸部電機株式会社/神田通信工業株式会社のブースでそれぞれパワーアシストスーツがデモを交えてプレゼンテーションされていた。どのブースも多くの人たちの注目を集めていた。神奈川工科大学と東京理科大のブースではそれぞれ体験も可能となっており、興味を持った来場者がその感覚を確認していた。
また、本田技研工業株式会社(ホンダ)も福祉車両展示の横で「リズム歩行アシスト」の体験スペースを設置していた。「リズム歩行アシスト」はこれまでにも何度も公の場で出展されているが、試作品だけに治具など部分的には細かい改良が繰り返されているようだ。もちろん、腕や足に不自由がある人用の車運転システムも出展されていた。このような機器のニーズの規模について伺ったところ、昨年の全メーカー合わせた数字で、おおよそ8,000台が出荷されているとのことだった。なお福祉車両展示に関しては僚誌「Car Watch」でレポートされている。
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ホンダ「リズム歩行アシスト」 | SMLとサイズもある | 効果などもパネルで紹介 |
運転補助装置テックマチックシステム。手先で操縦可能 | 各部品はオプションで実際には必要に応じて付けて行くことができる | 先進安全研究車モンパル。ITSで衝突などを防ぐ |
●食事支援、上肢支援
食事支援機器としてはセコム株式会社がお馴染みの食事支援ロボット「マイスプーン」をデモ展示し、日欧7カ国で用いられていることをパネルでアピールしていた。独立行政法人産業技術総合研究所は9月28日に記者発表したばかりの上肢支援ロボット「RAPUD(Robotic Arm for Persons with Upper-limb Disabilities、ラプド)」を出展、デモを行なっていた。
このロボットは産総研の産学官連携プロジェクト「ユーザー指向ロボットオープンアーキテクチャ(User Centered Robot Open Architecture:UCROA、)」で開発されたプロタイプロボットの一つ。実用化を目指しており、開発した産総研知能システム研究部門サービスロボティクス研究グループ研究員の尹 祐根(ゆん うぐん)氏は産総研技術移転認定ベンチャーとして「ライフロボティクス株式会社」を設立、取締役(CTO)に就任している。今後、80万円程度での販売を目指す。尹氏は「技術よりも実用化が重要」と語る。ロボットとしては安いが、80万円という価格がどのように福祉市場に受けとめられるかが課題となる。
セコム株式会社「マイスプーン」 | 日欧7カ国で用いられている | 【動画】「マイスプーン」のデモ |
産総研/ライフロボティクス株式会社の「RAPUD(ラプド)」 | 【動画】直動機構によりアームを伸ばして食事支援などができる | 把持力は500mlペットボトルが持てる程度 |
直動機構のブロック部分。 | 下側から。複数のブロックを繋げたものであることが分かる | ベッドに装着することもできる |
株式会社医療福祉工学研究所も「食事支援ロボットシステム」を出展。これは同社が持つ「視線インターフェイス」の技術を応用例の一つとして食事支援ロボットに適用したもの。ディスプレイ上で視線を使って目標の皿を選択、その結果に応じてロボットが動く。全国で約58万人存在すると考えられている上肢障害者のQOLを上げるものだとしえている。なお株式会社医療福祉工学研究所は山口大学発のベンチャー会社で、画像技術を使った遠隔医療事業などのほか組み込み教育事業なども行なっているという。
医療福祉工学研究所の視線インターフェイスの応用としての食事支援ロボット | ロボットは皿に小分けした食物をスプーンで押し出す機構 | 【動画】動作デモ。視線でアイコンを選んでロボットにコマンドを出す |
●読書支援機器
読書補助器具も、ボタンや呼気で読書支援を行なう「ブックタイム」(株式会社西澤電機計器製作所)が2008年「今年のロボット大賞」の「最優秀中小・ベンチャー企業賞」を獲得したように、注目されるべきロボットアプリケーションの一つである。国際福祉機器展でもダブル技研株式会社がページめくり機「りーだぶる2」とその改良機「りーだぶる3」を出展していた。
現在発売中の「りーだぶる2」 | 間もなく発売予定の「りーだぶる3(仮称)」 | 【動画】動作デモ。小型化など改良を施した |
●「福祉機器開発最前線」コーナー
また特別企画として「福祉機器開発最前線」というコーナーが設置されており、そこでは人間工学やセンサー技術の導入など最新のテクノロジーを活用した福祉機器、義手や義足のほか、一般社団法人ベーダ国際ロボット開発センター(早稲田大学、テムザック、九州大学病院リハビリテーション部など)が開発したユニバーサルビークル「Rodem(ロデム)」などを出展していた。このコーナーでは定期的にデモが行なわれており、展示とデモで市販を目指した高度な機器開発の現状が解説されていた。
株式会社長崎かなえ、株式会社今仙技術研究所による大腿義足膝継手「NAL-Knee」のデモでは実際に切断者が着用して階段を昇降。オットーボック・ジャパン株式会社が出展した下半身が不自由な人でもゴルフを楽しめるカート「PaRaGoLFER」などは来場者体験も可能で、記者自身も試させてもらった。膝部分をがっちり固定し、上半身をベルトすることで、まったく不安感なく直立し、クラブを振ることができた。また有限会社高松義肢製作所が筋電義手普及のためには安価であることが重要と簡易型筋電義手「SEハンドTS-1」をアピールする一方で、パシフィックサプライ株式会社はCPUや学習機能、高精度モーターを内蔵した世界最先端の義足を出展。米国では主に退役した傷病兵に用いられている。日本国内では未発売ながら既に使用者もいるという。
株式会社長崎かなえ、株式会社今仙技術研究所による階段昇降用大腿義足膝継手「NAL-Knee」 | 動力は使わず、バウンサーと油圧シリンダーで階段昇降が可能 | ソケット部はそのままで膝継手だけを交換することで機能する |
有限会社高松義肢製作所による簡易型筋電義手「SEハンドTS-1」 | 部品点数は極力減らし、使われるためには安価にすることが何よりも大事だという | 電極一個で指を開閉でき、ちょっと手をそえるといった作業が可能になる |
パシフィックサプライ株式会社「プロプリオ足部」。足首部分のモーターで自動的につま先の上げ下げを行なう | リオ・ニー。センサー、人工知能、磁気粘性流体を組み合わせた義足膝継手。負荷や振り出し速度を自動収集、解析し判断する | パワー・ニー。世界初の動力機構を持つ義足膝継手の初期型。大腿切断者用で、能動的に膝の曲げ伸ばしを行なう |
オットーボック・ジャパン株式会社「PaRaGoLFER」 | 下半身が不自由な人でもゴルフを楽しめるカート | 膝と、補助として腹をベルトで固定 |
一般社団法人ベーダ国際ロボット開発センターのユニバーサルビークル「Rodem(ロデム)」 | 「Rodem」の詳細は記者会見のときの記事を参照してほしい | 社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団、横浜市総合リハビリテーションセンターによる簡易型眼球運動検出装置 |
筋萎縮性側索硬化症の患者等のインターフェイス用途 |
●BMIとニューロリハビリテーション
国立障害者リハビリテーションセンター研究所は、BMI(ブレイン・マシーン・インターフェイス)技術の一環として脳波で操作するインターフェイスや、運動機能を機械で補助することで神経機能の回復を狙うニューロリハビリテーション関連の研究をパネルで紹介していた。同所のBMIの特徴は、脳波だけでなく視線運動を利用することで、ほとんど訓練なしでパッと使えること。家電などのコントロールを脳波で行なうことを目指しており、「生活環境制御システム(BMI-ECS)」と名付けている。
またロボット型歩行補助装置(Lokomat)を使って歩行動作を行なうことで脊髄自体に運動動作を学習したり訓練で神経回路を再構築させることを狙う研究なども出展されていた。経頭蓋磁気刺激(TMS)と伸張反射装置を組み合わせた研究なども行なわれているという。神経系の回復や可塑性の仕組みを解き明かすことができれば、リハビリテーション分野にブレイクスルーが起きる可能性がある。そこにロボット技術が貢献しているのだ。
国立障害者リハビリテーションセンター研究所。BMI研究などをパネルと展示で紹介 | 脳波で家電をコントロールする「生活環境制御システム(BMI-ECS)」 | 生活環境の制御を目指す |
ロボット型歩行補助装置(Lokomat)。 | 背面。屋外にも出られるようになったそうだ。 | 大きなブレイクスルーに繋がる可能性も |
●自動採尿ロボ、3Dカメラ、デザイン性の高い車椅子そのほか
ユニ・チャームグループは「自動採尿システム」を搭載した尿吸引ロボ「ヒューマニー」を出展。「ヒューマニー」は株式会社日立製作所のマイクロポンプ技術とユニ・チャーム株式会社の吸収体技術を融合させたもので、センサー内蔵の尿吸引パッドが尿を感知すると、ポンプが自動吸引する。主に夜間に使用するもので1,000mlまでの尿をためられる。ユニ・チャーム ヒューマンケア株式会社から発売されている。
島根県産業技術センターとオリンパスビジュアルコミュニケーションズ株式会社は3Dカメラセンサーインターフェイスや床圧力分布マットセンサー技術を使った、新しいトレーニングをデモで提案。リアルタイムに人の動きを捉えることでゲームのように遊びながらトレーニングを行なえる。若者の注目を集めていた。今後、大学病院等で効果検証・評価を行なう予定だ。
ユニ・チャーム尿吸引ロボ「ヒューマニー」 | センサーで尿を検知 | 1リットルまで溜められる |
島根県産業技術センターとオリンパスビジュアルコミュニケーションズ株式会社のブース | 床圧力分布マット |
当然のことながら会場内にはおおくの車椅子メーカーが出展していた。記者が個人的に注目したのは株式会社メックデザインによる屋内用木製電動チェア「吉田いす」だ。同社はもともと舞台照明の会社なのだが、社長の井上和夫氏が筋ジストロフィーの知人である吉田氏から良い電動車椅子が欲しいといわれ、モーターそのほか部品を選定していき開発したものだという。同社の電動車椅子は椅子の駆動部と椅子部分が分離しており、また何より洒落ている。
財団法人テクノエイド協会のブースでは、同協会が認定している可搬型昇降機安全指導員の制度を実際のデモンストレーションを通じて伝えていた。デモでは株式会社サンワの「ステアエイド」が用いられてた。この手の機械は各社から販売されているのだがまだ知らない人も少なくないそうだ。
2009/10/2 20:32