IRS、軽量・小型・高速のレスキューロボット「UMRS-2009」を公開

~暗闇迷路の探査活動、100kgの台車牽引、階段昇降など


迷路状の暗い室内を遠隔操縦で探索走行する「UMRS-2009」

 NPO法人国際レスキューシステム研究機構(IRS)は15日、神戸市民防災総合センターにおいて、最新型レスキューロボット「UMRS-2009」の公開実証実験を実施。階段昇降や暗闇の建物内で要救助者探査などを披露した。

 IRSは、産官学共同で災害時の建物内や地下街などで被災者の発見・情報収集を行なうレスキューロボット・システム「閉鎖空間内高速走行探査群ロボット」の研究開発を2002年から進めている。今年2月に独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」ステージゲートを通過し、現在は、2011年以降の事業化を目指して開発を継続中。事業化の検討は、ビー・エル・オートテック株式会社が担っている。

 今回発表したUMRS-2009は、事業化に向け神戸市消防局のレスキュー隊員の意見を取り入れて開発された。IRSはこれまでも、消防局と積極的に意見交換を行なってきた。従来のUMRSシリーズを見た隊員から、「この重いロボットをどうやって現場に運ぶのか?」という指摘があり、ビー・エル・オートテック株式会社が「小型軽量・一人で搬送」というコンセプトでイメージ図を描き、それに沿った開発を行なったという。

UMRS-2009開発イメージ現場までレスキュー隊員が背負って運ぶ前後のフリッパーアームを使い、自律で階段を登る

 UMRS-2009の外装はFRP、骨格やフリッパーアームにカーボンなどを用い、各部品も小型化。従来品の約1/3に当たる21kgと大幅な軽量化に成功。本体サイズは、サブクローラ収納時で500×590×220mm(幅×奥行き×高さ)。電源はリチウム鉄バッテリで約2.5時間稼動する。前後に照明付きカメラ、上部に鳥瞰カメラを搭載、遠隔操縦でロボットの周囲を認識しながら半自律で移動する。最高速度は5kmで、前後のサブクローラーを動かし不整地や階段など45度の傾斜走行が可能。走行機構部分には、急発進・急停止時の過剰負荷回避を行なう平ベルト駆動型ロバスト高速アクチュエータを搭載している。可搬性を重視し、センサー類は内部に収容しコンパクトでフラットな外観に仕上げた。

 UMRS-2009は、ステージゲート通過後わずか2カ月で開発をしたという。「これまでの技術の蓄積があり、短期間で開発できた」とグループリーダーの高森年氏(IRS理事)は語った。

UMRS-2009前方の中央にカメラ、左右にLEDが搭載されている後方にもカメラと照明。赤いボタンが電源
鳥瞰カメラでロボットの周囲を確認。白いのが無線アンテナ左右にも照明があり、周囲を照らすメンテナンス性を考慮し、ユニット化されている
下からみたところフリッパーアームを畳むと非常にコンパクトになる専用キャリア。キャスター付きなので、ロボットを乗せ引いていくことも可能
遠隔操縦を支えるメッシュネットワークシステム(株式会社シンクチューブ)平ベルト駆動型ロバスト高速走行アクチュエータ(バンドー化学株式会社)で急発進・急停車の衝撃を吸収UMRS-2007-DOORと並べると、小型化されているのがよく分かる

 実証実験には、レスキュー隊員がUMRS-2009を背負って登場。ロボットを固定しているベルトを外し、アンテナを立てて電源を入れれば瞬時に起動する。「準備よし!」と声をかけると、オペレータが遠隔操縦でロボットを動かし、キャリアから降りて要救助者がいる室内へと向かった。

 今回は、暗闇迷路での探査活動の実証実験ということで、ロボットが室内に入るとドアが閉められた。目視では周囲の様子が分からないような室内を、ロボットは前後とサイドのLEDで自分の周囲を照らして進む。出口付近で要救助者を発見して退室した。

 オペレータは、別室でロボットから送信され映像だけを頼りに遠隔操縦を行なう。カメラの切り替えなどはタッチパネル方式になっている。ロボットの前方に伸びる2本の緑ラインは、ロボットの車幅を示している。横切る赤いラインで対象物までの距離を掴み、ゲーム用コントロラーでロボットを操縦する。

専用キャリアで災害現場までレスキュー隊員がUMRS-2009を運搬する地面に降ろし、アンテナを立ててスイッチを入れれば、動き始める【動画】固定ベルトを外し、無線アンテナを立て電源を入れれば瞬時に起動する。遠隔操縦でキャリアから降りて動き出す様子
【動画】ドアを通り、災害現場を模した迷路に侵入。実証実験は、扉を閉め暗闇の中で行なわれた【動画】UMRS-2009から送信された映像で要救助者を発見する様子ゲーム用コントローラーでモニタを見ながら遠隔操縦
カメラの切り替えはタッチディスプレイで操作【動画】任務を終えて建物から出てきたUMRS-2009天井に取り付けられた無線システム

 その後、屋外で高速走行、35度の階段昇降、狭い踊り場での方向転換、台車の牽引実験を実施した。

 35度の階段と言われてもピンとこないが、実際に登って見下ろすとかなりな急勾配だ。この階段をUMRS-2009が前後のサブクローラーを動かして、自律で昇降した。踊り場では、オペレータが上部の鳥瞰カメラの映像で車体感覚をつかんで安全に方向転換している。事前のテストでは、同じ建物の上階にある45度の階段も踏破しているそうだ。

【動画】時速5kmの高速走行実験【動画】35度の階段を登り、狭い踊り場で方向転換して降りてきた【動画】上から見下ろすと、足もとが怖いほど急斜面に見える
【動画】ロボットの“目”で見た階段【動画】狭いスペースで方向転換ロボットの上部に搭載してある鳥瞰カメラの映像。左右の障害物を監視し、狭所の操縦を助ける

 小型軽量がUMRS-2009の特徴であるが、同時に災害現場で要求されるハイパワーも有している。牽引力は、平坦なコンクリート面上で22kgだが、台車に乗せれば100kgくらいは余裕で牽引するそうだ。実験では大柄な男性が搭乗した台車を牽引し、そのパワーを披露した。今後は、平坦な場所でロボットが救助資機材を運搬する専用台車の開発も検討するという。

【動画】台車があれば100kg以上の牽引が可能レスキュー隊員の方もロボットに興味を持ち操縦していたロボットが撮影した映像がリアルタイムでモニタに送信される。隊員の足もとがモニタに映っている

 実証実験後は、マスコミ各社の個別取材となり、テレビ局がUMRS-2009が階段を登り途中で止まるという絵の前で、高森氏のインタビューを希望していた。UMRS-2009がいかに軽量とはいえ、21kgの自重がある。斜面での無理な姿勢を2本のサブクローラーだけで支えているのだから、ロボットは次第にずり落ちてくる。それをオペレーターが微妙なコントロールで保持していた。当初5分程度の予定が伸び、一番サーボに負担がかかる姿勢のまま10分近く待機していた。極めて地味な場面だが、UMRS-2009の耐久性とオペレータの高度なコントロール技術を垣間見ることができ、非常に興味深かった。

インタビューを受ける高森氏の後で、UMRS-2009が階段を上る35度の傾斜で、この姿勢のまま10分間近く待機していた

 UMRSシリーズは、地下街のような人が集まる閉鎖空間で災害が発生した場合に、現場で情報収集し、救助活動をサポートする目的で研究開発されている。災害現場では、被災地の情報が不足し救助活動にあたるレスキュー隊員が危険にさらされるケースが多い。神戸では、今年6月に火災現場で消防隊員が死亡する事故が起きたばかりだ。被災現場でガス洩れの有無などロボットが集めた情報を元にレスキュープランを組みたてることができれば、迅速かつ安全なレスキュー活動が行なえると高森氏は語る。また、ダムや高速道路の法面(のりめん)などの危険を伴う斜面の調査への活用も視野に入れている。

 UMRSシリーズはユニット構造になっており、UMRS-2009を駆動ユニットとして共通化し、上部ユニットは各業務に応じて開発する。既に、ドア開放マニピュレータを搭載したUMRS-2007-DOORが公開されており、今後、同マニピュレータをUMRS-2009用に小型軽量化する。その他にもユーザーの意見を取り入れながら、オプション開発を進めていくという。

UMRSシリーズ開発の変遷。2002年探査ロボット「UMRS-M1」からスタートした2005年愛知万博に出展した「UMRS-NBCT」はNBCテロ対応。初めて前後にサブクローラーが搭載防災・防犯システムを構成する1次元、2次元、3次元情報収集ロボット。参考記事はコチラ
UMRS-2009開発目標UMRS-2009開発グループメンバー高森年氏(IRS理事)


(三月兎)

2009/7/17 10:00