狂言を披露する「踊る! 和ボット」がハウスクエア横浜のロボットイベントに登場

~常設のロボットパーク施設で神奈川県産ロボットも展示


踊る! 和ボット。KHRシリーズを使ってプロジェクトは進められている

 日本最大級を誇る総合住宅展示場ハウスクエア横浜で、キッズ向け無料体験イベント「ロボットに和のダンスを踊らせよう!」が8月21日(金)に開催された。同時に、ロボット組み立て教室や複数のメーカーのロボットなどもデモンストレーションを実施。その模様をお届けする。

ハウスクエア横浜は神奈川のロボットの拠点のひとつ

 神奈川県横浜市都築区中川にあるハウスクエア横浜は、多数のメーカーのモデルハハウスが建ち並び、また家造りに必要な情報を1カ所で入手できるという、日本でも最大級の総合住宅展示場だ。それと同時に、神奈川のロボット関連拠点の1つという顔も持つ。

 神奈川県といえば、ロボット分野に力を入れている自治体として有名だ。同展示場の中核施設である「住まいの情報館」には、神奈川県とかわさき・神奈川ロボットジネス協議会が運営するロボット関連の施設が2つ備えられている。1つが、家庭内でのロボットの運用実験を行なえる「神奈川環境プラットフォーム」だ。モデルルームのひとつとして設置されており、「ユニバーサル・デザイン・ウィズ・ロボット~ロボットが活躍できる環境づくりプロジェクト~」という実験が進められている。今年の2月にはここを利用して、内閣府総合科学技術会議の推進する「科学技術連携施策群」の1つである「次世代ロボット連携群」の「平成20年度第4回講演会/見学会 次世代ロボット共通プラットフォーム技術神奈川環境プラットフォーム」が実施された。また、3階には「『ロボットパーク』実証実験サポートルーム」もある。かわさき・神奈川ロボットビジネス協議会認定プロジェクトの支援を受け、神奈川県内の企業が開発したロボットをまだ少数ではあるが紹介している。なお同ルームに関しては、今後展示ロボットの拡充などを行なう予定だ。

ハウスクエア横浜内にある住まいの情報館。この1階のハウスクエアホールでイベントは行なわれた神奈川環境プラットフォーム『ロボットパーク』実証実験サポートルーム

日本の先端技術と伝統が融合した「踊る! 和ボット」とは?

 今回の主役ロボットである「踊る! 和ボット」は、日本の伝統的な踊りや所作を普及させるために開発されたロボットだ(過去の記事はこちら。特定非営利活動法人 和のメソッド代表で女性日本舞踊家の林千永(はやし・ちえ)氏と、神奈川を代表するロボットメーカーの1つであるイクシスリサーチ代表取締役の山崎文敬(やまざき・ふみのり)氏とのコラボレーションで誕生したプロジェクトで、2004年から行なわれている。林氏によれば、もっと和の伝統への興味を子供たちに持ってもらいたかったことから、フック的な存在であるロボットに踊ってもらおうという考えに至ったという。そして知人にイクシスリサーチの山崎氏を紹介してもらったというわけだ。山崎氏も、ヒューマノイドロボットを利用した狂言や舞踊といった日本の伝統芸能の保存と普及、日本の様式美の普及、動作の記号化などに興味を持ち、それらを目的に協力をすることにし、ロボットの組み立てとモーションデータの作成・入力などはイクシスリサーチが担当したというわけだ。

 踊る! 和ボットのリアルさを追求するため、さまざまな専門家が監修として関わっている。今回は狂言ということで、監修は大蔵流狂言法能楽師で、重要無形文化財総合指定保持者の善竹十朗氏が担当。この日は、その善竹氏本人も来場し、子供たちと楽しいやり取りをしながら、狂言を体験させてあげていた。ちなみに狂言以外にも、落語家として三遊亭圓窓氏、三味線演奏家として杵屋五司郎氏、きもの研究家として山下悦子氏、伝統芸能コーディネーターとして清水司子氏、そして舞踊家・振付家として林氏自身が監修として加わっている。

踊る! 和ボットのイベント会場の様子踊る! 和ボットが狂言を披露しているところ
着物を脱いだKHR。腕の動きなどが和の踊りという形になっている狂言のモーションの監修を行なった善竹十朗氏。子供たちを楽しませるのはさすがというお手並み

 踊る! 和ボットのオペレーションは、林氏のお弟子さんが2名で担当している。その内の1人で、本職はグラフィックデザイナー兼デザイン会社代表の廣田晴彦氏にうかがったところ、モーションについての興味深い話を聞かせてもらえた。ロボットのモーションというと、デジタルなイメージが強いが、作成した人の個性が非常に出る点が興味深いという。例えば、腕を持ち上げるために必要な少し反動をつけるといった予備動作を、踊りの一部として解釈して入力する人もいれば、いらない部分として入れない人もいるという。ロボットの踊りも、入力した人次第で個性が出るという点では、伝統文化の対極にいるようでいて、意外と通じるものがあるのということを感心させられたそうだ。

 逆に、ロボットの限界を感じる部分もあるという。狂言などの踊りは踊り手によってそれぞれ個性があるし、同じ人が踊ったとしても踊る度に微妙に間の取り方などが変化したりするのだが、それに関しては、現在のロボットでは採り入れたくても無理。決まった動きを毎回きっちり同じように動けることがロボットの強みでもあり、同時に変化を出せないという弱点でもあるのだが、動きの中にファジー的な柔軟さを採り入れるというコンセプトは、大学での研究課題になり得るほど難しい部分。ロボットが人間のような柔軟性に富んだ動作ができるようになるには、まだまだ遠いということである。そのほか、関節の自由度が人よりも少ないため、それをいかに似た動きに見せるかという点でも、イクシスリサーチの担当者とともに苦労したそうだ。

 今回収録したのは、そんな苦労の末に完成した狂言舞「杯」と、和のメソッドで振り付けたオリジナルの踊りである「花咲爺さん」のふたつ。残念ながら、著作権の問題があるためにフルにお見せすることはできないので、ちゃんと見てみたいという人は、定期的に和のメソッドがイベントを開催しているので、足を運んでみてほしい。

【動画】狂言舞の「杯」【動画】こちらは、子供たち向けの「花咲爺さん」。踊りは和のメソッド独自のもの

 人型二足歩行ロボットのモーション作成は、近年はソフトがどんどん便利になってきているとはいえ、やはり1つの難関。国内の大学などでも人の動きを参照してロボットが真似るといった研究がされているが、人の動きを映像で撮影してそれをロボットの自由度や体格などに翻訳して、複雑な設定を必要とせずに、ほぼ自動で個々のロボットに合ったモーションを作成できるようになると、もっと面白くなるのではないかと個人的には思う。それを実現するのは非常に大変なことだろうが、そんなモーション作成ツールが開発されれば、人型二足歩行ロボットの応用や楽しみ方がもっと増え、ロボットの普及にもつながるのではないかと思うのだが、いかがなものだろうか。

ロボットやロボットが題材のカードゲームなども

 また今回のイベントでは、踊る! 和ボットのほかにも、複数のロボットの展示や操縦体験、ロボット関連ゲームの操作体験、ロボット工作教室などが用意されていた。ニュースでお伝えはしてきたが、実機を撮影してのRobot Watchへの掲載は今回が初めてなのが、サイバーステップのネットワークロボット「CR-01」だ(過去の記事はこちらとこちら。同社はオンラインゲームを中心に手がけるメーカーで、CR-01はロボットとして誕生したいきさつが少し異色のプロフィールを持つ。同社は「世界中を楽しくするエンターテイメントを世に送り出す」という信念のもとに、先端技術開発室に「CyberStep Robot Project」を立ち上げさせ、次世代インタラクティブ装置の研究の一環としてロボット開発をスタート。その第1弾が、このCR-01というわけだ。Webブラウザを利用できる環境であれば、世界中から遠隔操作できるのが特徴で(現在はそのサービスを行なっていない)、この日も操縦環境を用意して公開デモとし、子供たちが遊べるようにしてあった。

 CR-01は全高約1,500mm、全長(前後幅)約500mm、全幅(左右幅)約450mm、重量はリチウムイオン電池1個を含めて約12kgというスペック。最高時速は約3km/hで、連続走行時間で約4時間の動作が可能だ。カメラ、マイク、スピーカーを備えており、操縦者が現場の人と会話をすることなども可能。また、モニタも用意されており、カメラで撮った映像を流したり、操縦者の顔を映したりといったことも可能だ。カメラは約30万画素、視野角は75度、映像はH.264という仕様。センサーは距離、タッチ、タイヤ回転数を搭載する。

CR-01の頭部。モニタの映像は上が操縦席のもので、下が頭のカメラで撮影したものCR-01の全身(側面)
足下操縦には、カメラのチルトとパンの操作があるので、ハットスイッチの付いたジョイスティックを使用

 動画を見てもらうとわかるが、無線での操縦ながら、屋内でもかなりの距離を移動できる。4分強と少々長いが、住まいの情報館1Fのハウスクエアホールを出て、ロビーなどを移動する様子を収録してみたので、その実力を吟味してほしい。ちなみに、操縦席のモニタにはCR-01がとらえた映像が表示されているのだが、身体感覚というか、どれぐらいの幅員なら通り抜けられるかといった感覚がつかみにくい。操作は広いところなら問題ないが、ちょっと狭いところは慣れないと難しいので、今後は画面にガイドラインのようなものを出すといいのではないかと思う。ちなみに、ジャパンロボットフェスティバル in TOYAMAでも公開デモを行なう予定だ。

【動画】CR-01の冒険。思った以上に遠くまで移動できる感じだ【動画】カメラは視野が広めで、よく動く。次のロボットではもっと視野を広くするという

 それから、子供たちの人気を集めていたのが、KHRを題材にしたカードゲーム機の「カードDEチャレンジSimROBOT」(過去の記事はこちら)。近年、アーケードで人気のゲーム機といえば、バーコード付きのカードを複数枚用いて遊ぶタイプのコレクション性の高いゲーム。そのロボットを題材にしたバージョンとして、イクシスリサーチが近藤科学とのコラボレーションで開発したのが同ゲーム機というわけだ。浅草で開催されるKHRアニバーサリーなどにも出展しており、関東のKHRシリーズのファンの方なら見たことも多いかと思うが、無料で遊べてちゃんとカードが排出されるものだから、性能のいいパーツのカードをゲットするため、子供たちが列を作って何度も並び直して遊んでいるという具合である。

 ゲーム内容は、100mダッシュ、マラソン、卓球、ゴルフ、カンフー、相撲の6種類からどれか1つの競技を選択し、その競技で勝つためのロボットを自分が所有するパーツカードの中から選択してロボットを組み立てていくというもの。筐体には誰でも使えるようにノーマルのフレーム、サーボ、バッテリ、コントローラ、センサーなどのカードがつり下げられており、まずはそれで遊ぶと、新しいパーツのカードが排出されるという仕組みだ。ゲームを進める過程でロボットの組み立てに必要なパーツの役割や性質などを学習でき、実際のロボットの組み立てはまだ難しい小学校低学年以下の層に、ロボットの仕組みやものづくりの楽しさを知ってもらうことを目的として開発されたそうである。

 そのほか、ロボットが踊るマット形のコントローラを利用した音ゲー「DANCING ROBOT!!」や、ロボット工作教室なども開かれていた。

カードDEチャレンジSimROBOT。子供たちが途切れることなく並んでいた音ゲー「DANCING ROBOT!!」。テーブルの上のKHRが踊るソーラーロボットの工作教室で、高学年用のカエルと低学年用のバッタが用意されていた

神奈川環境プラットフォームと『ロボットパーク』実証実験サポートルーム

 今回のイベントとは直接的には関係ないのだが、案内していただくことができたので、簡単ながら紹介したい。神奈川環境プラットフォームは、先ほども軽く触れたが、一般家庭においてロボットが活動できるようにするための実験のための場である。この後に触れるが、かわさき・神奈川ロボットジネス協議会と神奈川県が実施している「ロボットパーク事業」のひとつだ。この日は、特に何かの実験が行なわれているわけではなかったが、ロボットにとっての目印となる「CLUE」(Coded Landmark for Ubiquitous Environments)と呼ばれるQRコードを簡素化したようなコードがあちこちに貼られていたり、RMS(Room Management System)経由でロボットに物の位置情報を伝えるためにCLUEをロボットの代わりに探し出すカメラが3台設置されていたり、ロボットも人も使いやすいようデザインされてCLUEも貼り付けられたユニバーサルハンドルが設置されたりしているのを見て取ることができた。

こうしたカメラが3カ所に設置されており、CLUEで物の所在地を確認しているCLUEが貼られた上に、ロボットが握ることも考慮した取っ手がついた家電製品冷蔵庫の中のタッパーにもCLUEが貼られている

 一方の『ロボットパーク』実証実験サポートルームは、その名の通り、ロボットパーク事業を支える常設施設。ロボットパーク事業は、ロボットの実用化に向けた実証実験が可能な、実際の住宅や街に近い実験空間のことで、神奈川環境プラットフォームが現在はハウスクエア横浜に常設されているほか、これまで神奈川県内の数カ所で行なわれてきた。サポートルームは、公開実証実験などに先立ち、リハーサル・プレ実験に利用できるほか、過去の開発事例などを展示紹介している。なお、実証実験に関しては、かわさき・神奈川ロボットビジネス協議会の会員になれば誰でも申し込むことができ、使用料は無料だ。

 現在サポートルームでは、かわさき・神奈川ロボットビジネス協議会認定プロジェクトで開発されたロボットがいくつか展示中だ。そのひとつが、アサンテの家屋点検・シロアリ防除ロボット「ミルボI」。ダブル技研で開発されたのが、ページめくり機の「ページめくり機」だ。昨年の「今年のロボット大賞」で、西澤電機計器製作所の自動ページめくり器(こちらはメーカー表記で「機」ではなく「器」)「ブックタイム」が最優秀中小・ベンチャー企業賞(中小企業庁長官賞)を受賞していたが、りーだぶる2はその遥か前、1998年に福祉機器コンテストで「最優秀賞」を、翌年には神奈川技術開発大賞で「奨励賞」を受賞した製品である。

 サポートルームはスペース的にもそれほど大きいわけではなく、展示ロボットも少ないのだが、前述した通りに今後は拡充させていくという。まだまだ神奈川発のロボットはあると思うので、今後はここに来れば神奈川の企業が開発したロボットをすべて見られる、というラインナップにしてもらいたいものである。

サポートルームは展示品もパネルもまだ少ないので、ぜひ充実させていただきたい神奈川県産のロボットのひとつで、アサンテの家屋点検・シロアリ防除ロボットのミルボI
こちらも神奈川県産のロボットのひとつで、ダブル技研のページめくり機のりーだぶる2こちらはイベント会場で展示されていたイクシスリサーチのクローラ型の点検業務用ロボット「iTs05」

 神奈川環境プラットフォームや『ロボットパーク』実証実験サポートルームは常設なので、興味のある方は、プライベート、ビジネス問わず訪ねてみてほしい。特にロボットビジネス面では、なかなか利用できない環境なので、何かアイディアを思いつくかも知れない。横浜市営地下鉄ブルーラインの中川駅出口から敷地内まで徒歩1分(信号に引っかからなければ)だし、駐車場も完備されているので、都心からは距離があるのは否めないが、決してアクセスは悪くない。日本中を探しても、ロボットコーナーもある総合住宅展示場などなかなかないと思うので、ロボットのいる家造りをしたいなんて人がいたら、ぜひ相談してみるのはいかがだろうか。



(デイビー日高)

2009/9/2 21:24