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246号沿いにそびえる高層複合ビル「セルリアンタワー」の地下2階にある「能楽堂」。能・狂言をはじめとする伝統芸能の鑑賞や発表の場として幅広く活用されている
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10月10日、東京・渋谷区のセルリアンタワー能楽堂において、和のメソッド第二回公演 創作舞台「和のおもちゃ箱」が催された。
この公演は、NPO法人「和のメソッド」の主催により実施されたもの。和のメソッドは、日本舞踊や能・狂言など、日本の伝統文化を基本とした身体表現技法の普及活動によって、芸術文化の活性化と教育・福祉・医療の分野での社会貢献に寄与することを目的として、2年前に発足した。
公演内容は、新作舞踊、創作落語、語りと邦楽と踊りによるステージ、創作狂言とバラエティに富んていたが、中でも最後の創作舞踏狂言「巨人国漂流記」~ガリバー旅行記では、大蔵流狂言方能楽師の善竹十郎氏らとともに、狂言ロボット「踊る! 和ボット」が登場し、伝統芸能と最先端技術が融合した新しい舞台芸術のかたちを披露した。
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定席201席の見所はほぼ満員となった。踊る! 和ボットが登場した狂言のほか、与謝野晶子の歌をモチーフにした新作舞踏「みだれ髪幻想」、三遊亭圓窓師匠による創作落語「洒落番頭」、語りと邦楽と踊りによる「ステージじゃぱん」といったバラエティに富んだ演目が披露された
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大蔵流狂言方能楽師の善竹十郎氏と、狂言ロボット「踊る! 和ボット」のコラボレーション。善竹十郎氏演ずる狩場太郎が巨人の鬼の国に漂流。和ボットは巨人の国での「小さな太郎」として登場した(撮影/石川正勝)
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宿敵の桃太郎と恋仲になってしまった鬼の姫は監禁状態に。そこに現れた小さな太郎(和ボット)の助けをかりて、桃太郎のもとへ逃避行するというユニークなストーリー
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踊る! 和ボットは、株式会社イクシスリサーチが近藤科学の2足歩行ロボット「KHR-1」をべースに、腕の関節部を増やすなど、若干の改良を加えたものだ。和のメソッドとイクシスリサーチ代表取締役の山崎文敬氏が共同で、日本人の立ち振る舞いができるようなロボットとして開発した。狂言袴や肩衣については、浅草の呉服屋で特別に仕立ててもらったという。
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和ボット正面から。顔は能楽師、善竹十郎氏とそっくり。この衣装の下には、イクシスリサーチの2足歩行ロボット「KHR-1」が隠れている。日本的な所作が印象的だ
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和ボット斜め上から。狂言袴や肩衣は浅草の呉服屋で特別に仕立ててもらったものだという。極端に短躰だったため、かなり衣装屋泣かせだったらしい
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無線から急遽有線での操作に変更。とはいえ、舞台での演技はなかなかのもので、大きな太郎(善竹十郎氏)と小さな太郎(和ボット)の共演は見ものだった。初めて狂言ロボットを見る観客が多く、注目を浴びていた(撮影/石川正勝)
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この踊る! 和ボットは、無線での遠隔操作で動作する。しかし、夜の部の公演では、一部動作が止まってしまうというハプニングもあったため、急遽、途中から有線で操作することになった。だが、こうしたハプニングも、何が起こるかわからないパフォーマンスという見方をすれば、ご愛嬌だろう。主演の善竹十郎氏が「今度はひもでつながっているので大丈夫」と機転をきかせたアドリブでフォローし、観客の笑いを大いに誘った。まさに人とロボットの共演であった。
● 動いてメッセージを伝えるメディアとしてのロボットを目指す
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山崎文敬氏(ロボット研究家、イクシスリサーチ代表取締役。「ロボットは動きを創出するメディアである」とのコンセプトのもと、和ボットを開発したという
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踊る! 和ボットを開発した経緯について、イクシスリサーチの山崎氏は次のように語る。
「当初は日本の伝統芸能をロボットでコピーすることで、伝統を代々まで保存できるのではないかと考えていました。ところが、いざ試みてみると限界があると感じました。伝統芸能の世界は、同じ演目でも何度でもお客さんが足を運びます。それは演者である先生方の“踊りの違い”を楽しみにしているからです。ですから、我々がいくらロボットで踊りをコピーしても、それは単に動きを保存するだけであって、あまり意味のないことだとわかりました」
つまり、重要なポイントは動きの正確さではなく、「何を伝えたいかというメッセージ」だということに気づいたのだという。そして、このメッセージ性をロボットに取り入れない限り、伝統芸能との融合は実現できないのではないか? と考え、踊る! 和ボットの開発に着手したそうだ。
小さなサイズのロボットで、なおかつ自由度も限られている中で、伝統芸能の継承者である先生に伝統の動きを指導してもらい、メッセージ性を表現するロボット専用の踊りまでつくってしまったという。いろいろな改良を加えることで、感情移入ができるようなロボットに仕上がっていった。
今後の方向性について、技術面だけでなく、使う立場を考えたサービスも展開していきたい」と、山崎氏は強調する。
「どちらかというと従来のロボットは技術志向のものが多かったようです。ところがロボットの世界では、実はコンテンツがとても不足しています。一体何に使うの? と問われても、いまは誰も明確に答えられない状況です。コンピュータや携帯電話などでもできることはたくさんあります。これはロボットでなければできない! というコンテンツをしっかりと出していかなければいけないと考えています」
「動いてメッセージを伝えるメディア」――これがロボットの新しい方向性なのだ。
■URL
和のメソッド
http://www.wa-method.org/
イクシスリサーチ
http://www.ixs.co.jp/
第2回公演和のおもちゃ箱
http://www.wa-method.org/news.html
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( 井上猛雄 )
2006/10/12 00:31
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