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iPhoneを利用しているため、持ち運びが非常に楽なのがポイント
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皇居に近い北の丸公園に立地する科学技術館で、3月19日(木)から22日(日)まで「iPhoneを使った科学館学習支援システム」の実証実験が行なわれた。独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センターとソフトバンクモバイルの技術協力と、競輪補助事業として財団法人JKA(旧日本自転車振興会)から補助金を得て行なわれた実験である。事前予約をした来場者が、同館を案内してくれるユビキタス系の情報サービスを装着して実際に体験し、実験終了後はアンケートに答えるというものだ。実験に参加して体験した様子をお届けする。
● 学習支援システムのコンセプトと過去2年間の実験のおさらい
科学技術館で実施されている科学館学習支援システムの実験は、正式名称は「ウェアラブル機器を使った科学館学習支援システム」という。今年で3年目となり、あと1~2回での本格運用を予定している。センサー類を装着し、iPhoneのようなコミュニケーションツールをユーザーインターフェイスとして用いて情報を提示しつつ、より科学技術館内を楽しく、迷ったりせずに回ってもらおうという主旨のシステムだ。来場者が興味のある展示室や展示物までのルートを呈示したり、それらに近づいた時に情報を表示したり、さらには何かのイベントが始まる際は時刻が近づいたらアナウンスしたり。興味がなかった展示室や展示物だとしても、それらのそばに来た時にアクティブに情報を表示することで誘導するといった仕組みも有する。
また、展示物の解説パネルは必需品だが、意外と設置する場所が難しい。離れていると読みづらく、近すぎると展示物の邪魔になるが、解説をツールのモニタ上に表示することで、パネルをなくせるといったメリットもある。さらには、決まった基本の解説をモニタに表示することで、解説員の方がルーチンワークの説明から解放され、より創造的で来場者に合わせたインタラクティブな解説の準備をする時間をキープできる。それに支援システムのコンテンツの更新に力を注げるというメリットもある。そのほか、来場者の正確なルートなどもチェックできるので、どのコンテンツの人気が高いか、展示物の配置の仕方に問題はないかどうかといったことも把握できるというわけだ。
1年目は平成18年度として、2007年3月11日と17日の2日間に渡って実施。「科学技術館ナビゲーションシステム実験」として募集された。第1回は、どのタイプのユーザーインターフェイスが望ましいかという比較実験。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とハンドヘルドディスプレイの両方で試された。
コンテンツとしては、3次元地図、開始時間の決められたイベントや常設展示室への館内推薦ルートの呈示、展示室や展示物の紹介などである。アンケート結果としては、HMDが未来的で、科学技術館には合っていそうな気がするが、使い勝手は決してよくないことが判明。画面が見づらくて目が疲れやすく、16歳以上じゃないと使用できないという年齢制限があるため来場者の割合として小学生が圧倒的に多い科学技術館では不向きとされた。展示を体験しやすかったり、集中しやすかったりする肯定的な意見もあったそうだが、周囲と情報を共有できるスタイルではないため、装着者がそれぞれ単独行動にならざるを得ないというデメリットもあった。
一方のハンドヘルドは、画面の見やすさ、目の疲れにくさ、展示の見やすさに加え、1つのグループに1台しかなくても情報を共有できるというメリットがある。ただ、この時はハンドヘルドPCが利用されたのだが、重かったという。加速度・ジャイロ・磁気のセンサー類と、リチウムイオンバッテリ、RFIDタグ、組み込みシステムをウエストポーチに詰め込んでそれを装着したそうだが、重量は562g。ハンドヘルドPCも558gあり、さらに小型マイクも装着する形だったので、少々かさばっていたというわけだ。なお、この時は22人が被験者となり、年齢は10~50代、男女比はおよそ1:1だった。
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第1回実証実験時に利用されたシステム一式(資料から抜粋)
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HMDの画面など(資料から抜粋)
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ハンドヘルドの画面など(資料から抜粋)
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2年目となる平成19年度の実験は、「モバイル科学技術館学習支援システム実験」として参加者の募集が行なわれ、2008年2月24日から27日まで、4日間に渡って実施された。2年目はユーザーインターフェイスをハンドヘルドのみにしぼり、自動追跡や自動回転といった(3次元)地図の仮想視点制御についての調査を中心に実施。また、コンテンツとしては、3次元地図、自分で設定したルートの呈示、展示室や展示物の紹介、展示体験誘導(オプト展示室のみに設置し、効果が調査された)などとなっている。第2回のユーザーインターフェイスは第1回と同じハンドヘルドPCだが、装備デバイスが軽量小型化され、わずか100gになった。さらに、階間移動検出の自動化、GUIとビューマネジメントなどが改良されている。
アンケート結果では、まず仮想視点制御は、自動追跡および自動回転の組み合わせの評価が高かったという。いわゆる、自分の向きが必ず画面の上を指しており、進行方向を変えても地図の方が回転し、そして移動しても常に自分が真ん中にいるというカーナビで一般的な視点である。鳥瞰視点も使われているのだが、こちらは小さくて見づらいという理由から評価が全体的に低かったそうだ。ただし、迷った時など状況によっては、鳥瞰視点+方向固定という表示が現在位置の確認をしやすく、評価が高かった模様。2年目は23人が参加し、9~50歳代、男女比は5:18という結果だった。
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装着機器の大幅な小型化・軽量化が実現した2年目(資料から抜粋)
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仮想視点制御の各種スクリーンショット(資料から抜粋)
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鳥瞰視点。引きすぎのためかわかりづらいという意見が多かったという(資料から抜粋)
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● 3年目はiPhoneをユーザーインターフェイスとして利用
過去2回の実験によって、若年層からはハンドヘルドPCは大きすぎで、一方で年齢の高い層からは小さくて見づらいという相反する意見が出たことから、今年は携帯電話サイズでいて、なおかつ画面の拡大縮小もタッチパネル式で容易に行なえるiPhoneを選定。ソフトバンクモバイルに打診したところ、快諾してくれたということで、3年目は「iPhoneを使った科学館学習支援システム」となったというわけだ。
実験で参加者が装着するのは、腰部のセンサーモジュールとiPhoneのみ。センサモジュールはベルトなどにクリップ式で挟み込めるので、手に持つのはiPhoneのみ。子供でも重くはないだろう。写真の通りに小型軽量なのだが、それぞれ3軸の加速度、ジャイロ、磁気の各センサーを有する。さらに、階間移動を把握するための気圧センサー、アクティブRFIDも組み込まれている。また、画面も見やすい。
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第3回となる本年は端末としてiPhoneを利用
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腰部に装着するセンサーモジュール。非常にコンパクト
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ベルトなどにこのように装着するだけ
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RFIDタグ。館内40カ所に設置されており、腰部のセンサーモジュールと情報をやり取りする
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iPhone上で利用できるモードには、「ナビ」と「地図」と「コンテンツ」がある。ナビモードは、見て回りたい展示室をあらかじめセットしておくと、そこまでのルートを青い点線で指示してくれるという機能だ。ナビモードのマップ表示のスタイルは4種類から選択可能で、デフォルト設定が「自動拡大・自動回転」。利用者の向きに従って地図を回転させて画面上方(前方)が必ず進行方向前方になる。GPSだけでなく、館内40カ所にあるRFIDタグからの信号でも位置情報を補正しており、正確さが増すと拡大したマップを表示する。RFIDタグが40個あるというと、かなりの数のような気もしてしまうが、実は科学技術館のフロア面積に対しては少ない。そのため、タグ間で位置情報の不確かさが増してくると、マップを縮小して表示する仕組みになっている。2つ目は「自動拡大・画面固定」。マップの拡大縮小が位置情報の確かさに合わせて行なわれるのは、「自動拡大・自動回」と同じ。ただしこちらは、画面上方が常時北で固定され、自分を示すアイコンの矢印の向きが変化する形だ。迷ってしまっているような時は、回転で余計に混乱してしまうことがあるので、そんな時に利用するといいスタイルである。3つ目の「手動拡大・自動回転」は、「自動拡大・自動回転」の内の拡大縮小機能を手動で操作するバージョンだ。ずっと同じサイズで表示するので見やすいが、位置情報の不確かさが増してくると、実際の位置と画面上の位置のズレが大きくなる可能性が高いなど、デメリットもある。4つ目の「手動拡大・固定画面」は、拡大縮小も固定なら、回転もせずに画面上方を北として表示し続けるスタイルだ。
続いて、地図モードについて。これは、現在位置を中心に、自分がいまいるフロアのマップを表示するモード。ナビモードと似ているが、マップの拡大縮小や回転、別フロアの表示なども自由に行なえる。拡大縮小は、iPhoneならではの親指と人差し指の間を広げたり狭めたりするだけ。回転は、画面下部のスライドバーを動かすことでそのフロアの3Dマップをグルグルと回せる。他のフロアを選ぶのもメニューから簡単に行なえる。
最後のコンテンツモードは、登録されている展示室や展示物に関するコンテンツを見ることができるというもの。マップ上には、コンテンツの存在を示すアイコンとして、青い丸数字が展示室や展示物の位置にプロットされている。数字は、その数だけコンテンツがあることを示し、丸数字をクリックすると、コンテンツを選択する画面に移動。そしてタイトルを選択すれば、展示室や展示物の写真が表示され、解説を読めるというわけだ。写真は、マップ同様に親指と人差し指で拡大縮小を簡単に行なえる。
● 実験レポート
実験では、最初に参加者の歩行速度のキャリブレーションを行なう。係の人に合わせて、一定の距離をゆっくり、普通、速めの3パターンで歩き、個人個人の歩行速度に適応させる。標準的なパターンというのもあるのだが、キャリブレーションを取るとより確実さが増し、マップ上で壁の中を歩いてしまったり、建物の外に出てしまったりといった誤表示を少なくできるというわけだ。そのあと、見て回りたい展示室を選択。今回は時間の都合から3カ所だ。ナビモードにすると、最初に選んだ展示室へのルートが呈示される。自分自身の表示は、どちらを向いているかがすぐにわかる、矢印を丸く囲んだアイコンだ。
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歩行速度のキャリブレーションを取っているところ
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【動画】ナビモードで移動中。マップはクッキリしていて見やすい
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【動画】マップが段々縮小していく様子。現在位置の正確さが失われていくと、マップを縮小して対応する仕組み
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【動画】歩いていると、情報がポップアップする。恐竜の展示
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【動画】展示物の情報画面を拡大し、上下左右にスクロールさせる様子
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【動画】Google Earthを利用した科学技術館の3Dマップ上を記者のアイコンが歩いていく様子
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記者の感想からいうと、iPhoneの画面の性能もいいのだろうが、マップはコントラストがあってくっきりしていて見やすかった。ただし、屋内のためiPhoneへの3Gの電波状態がよくなかったようで、反応がワンテンポ、ヘタするとツーテンポ遅れる時もあり、もう少し反応を速くしてほしいという点も感じた(まだソフトが開発中のバージョンということもあるそうだ)。慣れていなかったこともあるが、レスポンスが悪い時は自分の現在位置を何度か見失ってしまった。電波状態の悪さは、屋内という点だけでなく、科学ミュージアムならではの、金属系の大きな展示物が多いというのもあり、各フロアにアンテナを立ててもらうとかインフラ的な整備をしてもらわないと対処ができないかも知れない。
また、取材したのが22日の午前中で、その日は東京マラソンでまさにランナーたちがすぐ近所を走っている真っ最中。沿道の観客による携帯電話の利用率も普段よりはずっと高かったものと予想され、そうした影響もあったのではないかと思われる。とはいっても、そうした厳しい電波状況下でも確実に機能してほしいわけで、電波が届きにくいという状況は、本格的に導入するのならぜひ対策を施してもらいたいところだ。
ちなみに、センサーモジュールからのデータ収集自体はきちんと確立されていた。受付では壁をスクリーン代わりにして、Google Earthを利用した科学技術館の3次元マップが投影されていたのだが、被験者が移動していく様子がはっきりと見られた(被験者の登録名が表示される)。そのほかの改善希望点としては、興味のないコンテンツが何度も表示されてしまったり、最初に3カ所の展示室を選ぶ際に文字情報から判断しないとならなかったりと、今回の実験で使用されたコンテンツに対してまだまだ作り込む必要があるという感じだった。
と、偉そうに苦言ばかり呈してしまい、「いらない・使えない」といっているように思えるだろうが、実は逆。これはぜひとももっと使い勝手を高めてもらって、全国の科学系ミュージアムに導入してほしいと思っているのが正直な気持ち。このシステムそのものが先端技術の塊であり、利用して館内を巡るというだけでも科学技術を体験できるイベントとなるからだ。最近は、小学生の携帯電話所持率が高まっているわけだが、仮にiPhoneを与えられていたとしても、今回のシステムのようなことは体験できないわけで、ましてや持たしてもらっていない子供たちからしたら、案内用のツールどころかいい“ハイテクおもちゃ”になるのではないだろうか。壊したり紛失したりする可能性もあるから、あまり低年齢の子は持たせてもらえないだろうが、今回の実験でも小学生が参加していたというから、興味のある子はやはり興味があるのである(説明はかなり難しかったということだが)。
来年度は、かなり本格運用に近い形で実証実験を行なう予定ということなので、興味のある人は来年のこの時期に科学技術館のホームページをよくチェックするようにしよう。実用化のため、ぜひあなたならではの鋭い意見を伝えてみてはどうだろうか。
■URL
科学技術館
http://www.jsf.or.jp/
産業技術総合研究所
http://www.aist.go.jp/
サービス工学研究センター
http://unit.aist.go.jp/cfsr/ci/indexj.html
ソフトバンクモバイル
http://mb.softbank.jp/mb/
iPhone3G
http://mb.softbank.jp/mb/iphone/everybody/
( デイビー日高 )
2009/04/03 15:22
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