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中高生ロボットコンテスト「ロボットを作ろう、動かそう」が開催
~ベネッセとマイクロソフトが共同開発した学習教材の成果!


普通中学・高校生たちによるプログラミング学習の成果

【写真1】「ロボットを作ろう、動かそう」合同発表会。普通高校や女子高のチームが多数参加。ロボット大会では珍しいケースだろう
 2月15日(日)、東京・世田谷区の鴎友学園女子中学校・高等学校(鴎は、偏が區の旧字体)において、理数系人材の育成を目的とした中学・高校生ロボットコンテスト「ロボットを作ろう、動かそう」合同発表会が開催された【写真1】。

 本コンテストは、ベネッセコーポレーションの「キャリア・エデュケーション・プログラム」(CEP)という体験型学習の研究事業の一環として、マイクロソフトと共同で実施したもの。両者で開発したロボット教材をベースに、体験型プログラミング学習を受けたトライアル校の生徒約70名が参加した。各チームの生徒は、自分たちが製作したロボットの特徴を発表したり、ロボットの動作を競うレースに参加することで、コミュニケーション力やチームワーク力を高め、学習効果の向上を図っていく【写真2】。

 このコンテストの大きな特徴は、参加校がいわゆる工業高等専門学校ではなく、首都圏を中心とする普通中学・高校が対象だったこと。麻布中学・高等学校、聖光学院中学・高等学校、鴎友学園女子中学校・高等学校、実践女子学園中学・高等学校、田園調布雙葉中学・高等学校、大森学園高等学校、西武学園文理中学・高等学校、宝仙学園中学・高等学校共学部理数インターの私立8校が参加。

 また女子はロボットにあまり興味を示さないのでは? というイメージもあるが、本コンテストは従来よりかなり多くの女子生徒が参加している点も目を引いた【写真3】。関係者によれば、女子生徒の参加を意識していたわけではなく、結果的に多くなったそうだが、昨今のように理科系離れが叫ばれる中で、技術に興味を持ってくれる女子が増えることは大変よいことだろう。


【写真2】ロボットコンテストの模様。競技のほかに、プレゼンテーションもポイントの対象になった 【写真3】ロボットコンテストの模様。スタンダード部門の障害物レース。通常のロボット競技会よりも女子学生の参加が多かった

チーム学習による意外な効果、女子のリーダーシップ

 コンテストのレポートの前に、各学校において事前に実施された体験学習について触れておこう。この体験学習は2007年末に西武文理中学・高等学校を皮切りに、これまで9校で行なわれている。基本的には3人1組のチームで実習に取り組むが、チーム編成については学校によってさまざま。メンバーは同じクラスや学年とは限らない。

 たとえば麻布中学・高等学校では、学年の垣根を取り払ったチーム構成にしたそうだ。また西武学園文理中学・高等学校の場合は、男子2人と女子1人という混成チームを組んだ。このような構成にすることで、従来とは異なるチームワークやコミュニケーションが生まれるようだ。「普段は目立たない子や女子が司令官となり、リーダーシップを発揮することも多かった」というように、学習効果として興味深い一面も見られたという。

 具体的なカリキュラムの内容だが、たとえば2日間コースでは「ロボットの組み立て」(ハードウェア実習)、「ロボット動作プログラミング」(ソフトウェア実習)、「ロボットデザイン」、「ロボット競技・プレゼンテーション」の4部構成で実施したという。

 使用したロボットのハードウェアは、共立電子の変形・拡張自在ロボットベースキット「プチロボMS5」を基にしたもので、四脚型やアーム型ロボットを製作することができる。このキットにブラケットやアルミパーツを追加すれば、さらに複雑なモーションや人型ロボットに発展させることが可能だ【写真4】【写真5】。


【写真4】本コンテストで利用した学習教材のロボット(ハードウェア)。共立電子の「プチロボMS5」をベースとしている 【写真5】ハードウェア実習で用いられた教材の一部。ロボット完成までの組み立て手順を写真を交えながら丁寧に説明

 一方、ソフトウェアの開発環境には「Visual Basic 2008 Express Edition」(Web無償提供版)を利用。プログラミング言語は「Microsoft Visual Basic」(VB)だ。もちろんロボットのプログラムはC++、C#などの言語でも開発できるが、プログラミング入門用として最適な言語として、まずVBを選んだという【写真6】。

 プログラミングの講師として各学校をまわったマイクロソフトの斉藤仁氏(デベロッパー&プラットフォーム統括本部)は「子供たちにプログラムを教えることは大人が思っているより難しいことではありません。基本的な操作を教えるだけで、あとは子供たちが自分たちで触って自然に覚えていきました。難しいアルゴリズムなどは一切教えていません。まずはロボットが目の前で動くことが重要で、そういった体験がやる気を引き出すようです」と説明する。

 実際に、生徒たちは自らフォームやボタンなどのプロパティ設定を変更し、積極的にインターフェイスを作り込んでいたようだ。それぞれのチームによって、インターフェイスに個性が出ていたことからも分かる【写真7】【写真8】。やはりプログラミング学習は自主性が大切。生徒のやる気を引き出し、モチベーションを持続させていく点で、ロボットは大きな効果があるように感じた。


【写真6】ソフトウェア実習で用いられた教材の一部。プログラミングとは何か? という入門から始まり、VBや開発環境の説明、「フォーム」「ボタン」「ラベル」「スクロールバー」などの基本オブジェクト、ロボットの動かし方までを解説 【写真7】ロボットの操作インターフェイスその1。前後左右のほか、座る、前転、伏せなどのイベントもある 【写真8】ロボットの操作インターフェイスその2。大回り・小回りといった回転も考慮。動作に合わせて表示されるアイコンも凝っている

ユニークなアイデアが光ったアドバンスド部門のロボットたち

【写真9】アドバンスド部門の発表。この部門では、2脚歩行や生物型ロボットなど、自由な発想でロボットがつくられていた
 さて当日のコンテストに話を戻そう。コンテストは、「アドバンスド」と「スタンダード」という2つの部門が設けられていた。アドバンスド部門は、この学習教材をベースにしながら、任意にロボットを作り込んでいくというもの。もちろん駆動モータの数も制限はない【写真9】。いかに独自性を発揮し、自由な発想でモノづくりを行なえるかという点がポイントだ。実際のコンテストでは、ロボットの形状や特徴などをアピールし、そのプレゼンの評価によって順位が決定される。この部門では、「Nuclear Weapon」「NASA-A」「Yes We Can」(いずれも宝仙学園中学)と「The ヴぁんば!?」(西武学園文理)の4チームがエントリーした。

 「Nuclear Weapon」チームのロボットは1台のロボットで2脚歩行と4脚歩行を使い分けられる構造になっていた。デザイン面ではガンダムのヘッドを装着。2脚ロボットの状態で各脚にモータが3個ずつ付いており、より人間に近い形になっているという【写真10】【動画1】。

 一方、女子2人のチーム「NASA-A」は、マッチ売りの少女ならぬ「ロボット売りの少女」というユニークな設定で、寸劇仕立てのプレゼンを披露【写真11】。2脚でうまく立てるように重心の位置を工夫し、今後はしっかりと歩けるようにしたい、と発表を締めくくった。

 「Yes We Can」も女の子たちのチーム【写真12】。チーム名どおり、米国のオバマ大統領の物まねをする「夢の中の飼い犬」という設定だ。お座りやYes We Canのモーション!? のほか、ロシアのコサックダンスも踊れる【動画2】。操作インターフェイスは使いやすくシンプルに仕上げたという。今後は2脚で立って歩き、コサックダンスも完璧に仕上げたいそうだ。


【写真10】「Nuclear Weapon」チーム(宝仙学園)は、2脚と4脚の歩行が可能なロボットを製作 【動画1】「Nuclear Weapon」の2脚ロボット。1脚につき3つのモータを採用。うまくバランスが取れるように電池の装着部も工夫したそうだ 【写真11】「NASA-A」チーム(宝仙学園)。「ロボットはいらんかねー」と、2脚ロボットを売る少女の設定が面白かった

【写真12】「Yes We Can」チーム(宝仙学園)。タイムリーな米国オバマ大統領のネタでロボットを製作 【動画2】「Yes We Can」チームのロボットの動き。お座り、Yes We Can、コサックダンスのほか、なぜか謝罪のモーションも

 アドバンスド部門で特に印象に残ったのは、この部門で優勝した西武学園文理高等学校のロボットだ【写真13】。彼らはベース教材からスタートし、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら、人型ロボット、尻尾が付いた海サソリ型、モータ11個の脊索動物型【写真14】、モータ16個のアメーバー型【写真15】など、より複雑なロボットを製作していった。アメーバー型では、脊索動物型ロボットをうねらせるように動かすことで、多様な地形に対応できることが分かり、脚を取ってクローラー走行に変更したそうだ。そして最終的に【写真16】【動画3】のような災害対策ロボットまで発展させたという。


【写真13】「The ヴぁんば!?」は西武学園文理高校の2年生チーム。同校は半年の授業にカリキュラムを取り入れ、大きな学習効果を発揮 【写真14】脊索動物型ロボットをうねらせるように動かすと、多様な地形に対応できる汎用タイプに変化する 【写真15】アメーバー型ロボット。脚を取ってクローラー走行のロボットを製作した。これが次の円環型ロボットへとつながる

【写真16】ユニークな形状の災害救助ロボット。もともとは、科学雑誌の「カンブリア紀の生物」という特集を読んで発想を得たそうだ 【動画3】災害救助ロボットの動き。16個のサーボモータで円環状のユニットをつくり、それらを動かすことで、どのような地形でも自在に動けるようにした

 同校では2008年春から2年生の正式な授業として、半期のロボット学習カリキュラムを採用。また3年生も2日間のコースを受け、その後の文化祭で新たに6脚型ロボット【写真17】などを製作したという。わずかの期間で、ここまでのロボットを作り込んでしまう潜在的な能力と豊かな発想力には本当に驚かされるものがある。このプレゼンを見て、あらためてロボットによる学習効果の威力について再認識できた【写真18】【写真19】。


【写真17】西武学園文理高校の6脚型ロボット。文化祭に出展するために3年生が準備した作品。すべて自分たちで協力して製作したものだという 【写真18】アドバンスド部門で優勝した西武学園文理高校2年生チーム「The ヴぁんば!?」の皆さん。災害救助ロボットをクローラー型に改良したり、縦型で駆動するようにしたいという 【写真19】西武学園文理高校の先生方。「普段の授業と違って、明らかに生徒の目の輝きが違った」という。今回の学習プログラムによって、生徒の成長がよく分かり、教員自身も大きく変わったそうだ

スタンダード部門の総合優勝は誰の手に?

【写真20】スタンダード部門のコース。赤の地点からスタートして、端のポールを回ってゴールまで戻る。コースの途中にはボールや固定された柱などがある
 スタンダード部門は、ロボット教材を標準どおりに組み立て、プログラムを組んで、障害物レースのタイムを競い合うものだ【写真20】。ただしレースだけでなく、ロボットの芸や操作インターフェイスの説明など、特に工夫した点をアピールするプレゼンテーションも実施。その得点を合算した総合得点で優勝が決まる方式だ。まず前半戦では参加チーム20校によるプレゼンテーションが行なわれた。それぞれの表現方法も多彩で、漫才あり、マジックあり、寸劇ありと、見学者を引き付けるユニークな演出が見られた。

 後半戦の障害物レースはトーナメント方式で、2分間の制限時間の中で先にゴールにたどり着いたほうが勝ちとなる【写真21】。コースの途中には、ボールや固定された柱などの障害物があり、それらをうまくすり抜けるように、自作の操作インターフェイスからコントロールする【動画4】。

 4脚ロボットは規定どおりにつくるため、チームごとの差はほとんどない【写真22】。ただしVisual Basic 2008 Express Editionでつくった操作インターフェイスはかなり差がある【写真23】。左右・前進・後退など、ボタンをどのように配置するかなど、各チームで細かい点を工夫していたようだ。

 そして何よりチームのメンバー同士のコミュニケーションも重要なポイントの1つだろう。メンバーがロボットの動作を見ながら、進行方向に障害物があれば「右に、あるいは左に曲がれ」というように、オペレータに的確な指示を出していく【動画5】。単にロボットやプログラムの学習だけでなく、その過程で生まれたチームワークも大切なのだ。


【写真21】写真は、白熱した試合展開を見せて会場を沸かせた西武学園文理高校「ぶんりくぶ」の皆さん。陸上部員でグループを組んだという 【動画4】スタンダード部門の障害物競技の模様。固定された柱や壁にはまらないように注意しながら操縦していくことがポイント 【写真22】スタンダード部門は、ロボットのハードは同じだが、外装に工夫も見られた。写真は女子チームのロボット。可愛らしく装飾されていた

【写真23】ロボットの操作インターフェイスの例。「右、左」というように、ロボットの動きの指示を受けたオペレータが画面ボタンをクリックしてロボットを動かしていく 【動画5】ロボットの動きを伝える司令者と、実際に操作するオペレータのコミュニケーションは大切。手に汗握る熱戦が伝わる一場面だ

【写真24】スタンダード部門で総合優勝を果たした田園調布雙葉中学校・高等学校「C3-PO」チームの皆さん。プレゼンテーションの得点が断トツだった
 最終的な障害物レースでの順位は1位「チーム走り屋」(西武学園文理)、2位「ぶんりくぶ」(西武学園文理)、3位「C3-PO」(田園調布雙葉)、4位「AKB∞」(実践女子)という結果になった。最後のレースは西武学園文理同士の争いになったが、ゴール付近で「ぶんりくぶ」がコースから外れてロボットが落ちてしまうというハプニングに見舞われ、チーム走り屋が優勝した。なおプレゼンテーションと合わせて最終的な総合優勝を手にしたのは「C3-PO」であった【写真24】。同チームはプレゼンテーションの得点が他校と比べて飛び抜けてよかったそうだ。

 今回初めて開催された本コンテストは、全体を通じてホノボノとした雰囲気につつまれていて、なかなかよい感じであった。これはコンテストの勝敗が最終目的ではなく、実学の中でいかに理数系に興味が持てたのか、その学習プロセスを重視しているからだろう。今後もベネッセコーポレーションとマイクロソフトは、この体験型プログラミング学習教材を各教育機関へ展開し、普及活動に努めていく方針だという。


URL
  マイクロソフト
  http://www.microsoft.com/ja/jp/
  ニュースリリース
  http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=3627
  ベネッセコーポレーション
  http://www.benesse.co.jp/


( 井上猛雄 )
2009/03/02 17:16

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