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電動車イスのまま運転席へ!
~トヨタの福祉車両「ウェルキャブ」レポート


 トヨタ自動車は、福祉車輌=ウェルキャブ(Welfare「福祉」、Well「健康」、Welcome「温かく迎える」の「Wel」と、Cabin「客室」の「Cab」を組み合わせた造語)を大変充実させており、多種多様なラインナップが用意されている。その中には、ロボットの要素技術を採り入れたものもあり、興味深い機械となっている。そうした各種ウェルキャブの展示や無料試乗などを行なっている施設のひとつが、お台場にある同社の自動車アミューズメント施設「メガウェブ」だ。今回、メガウェブの協力を得て、ロボットの要素技術を採り入れられたウェルキャブを中心に取材させていただいたので、その模様をお届けする。


電動車イスのまま運転席に乗れる「ポルテ」フレンドマチック車

 メガウェブは複数の施設が集まっており、ウェルキャブを展示しているのは、「トヨタ ユニバーサルデザイン ショウケース」(UDS)だ。ユニバーサルデザインの道具や機械などの展示をメインに、本誌読者にはお馴染みのトヨタ・パートナーロボットの演奏会や、パーソナルモビリティシリーズの体験運転、またそれらの展示をしている。

 そのUDSの試乗用の車両として用意されている1台が、車イスの利用者でも1人で楽に乗り降りでき、運転も1人でできるという「フレンドマチック車」の「ポルテ ウェルドライブ」だ。試乗用として用意されている「タイプI」は、運転席と電動車イスを兼ねた「ウェルドライブシート」を装備。これを使うと、車外では自操式電動車イスとして移動でき、車内には車イスごと搭乗し、そのまま運転席にもなるというのが特徴。「タイプII」は脱着しないリフトアップシートとなっており、いつも利用している車イスから車内へ移ることができ、なおかつその車イスをクレーンで車内に収納できるという仕組みだ。

 ベース車両のポルテの特徴は、助手席側のドアに大開口のワイヤレス電動スライドドアが採用されていることで、助手席も後部席も乗り降りしやすくなっている点だ。この電動スライドドアをワイヤレスで操作できること、開口部が広いことなどの利点を活かして、フレンドマチック車が造られたというわけだ。

 フレンドマチック車の場合は、助手席側で乗り降りするので、助手席そのものが取り払われている。助手席側のリヤシートに座ると、ダッシュボードまで何もなく、ポッカリと空間があるので不思議な感じだ。タイプIの場合、乗り降りするための機構は、運転席と助手席間を移動するスライド機構と、助手席から車外に車イスを出してくれるリフターの2つだ。車外に出る時は、ウェルドライブシートが助手席側へスライド。そして本来は助手席がある辺りで左へ90度回転し、リフターが車外へ運び出してくれるというわけだ。車内にあるときはたたまれているウェルドライブシートの車輪を展開した後に接地となり、あとはそのまま電動車イスとして車外を移動できるという仕組みである。


ポルテ ウェルキャブ フレンドマチック車 ウェルドライブ“タイプI” 助手席は取り払われている

リフターが展開したところ リフターの付け根部分とスライド機構

 車内に戻る時はちょっと慣れが必要とのことだが、リフターに後ろ向きで乗り、フットレストを最上部にしてから(リモコンで操作可能)、リフターで車内に収納(車輪は自動的にたたまれる)。そして右に90度回転して正面を向くと、今度は運転席までスライドして、ドライビングポジションに着くというわけだ。これらは全部オートで動作するのではなく、リモコンのボタンを押し続けることで動くので、何かあった時にはすぐ止められるようになっている。


【動画】車外にウェルドライブシートが出てくるところ 【動画】車内にウェルドライブシートを収納するところ

 またフレンドマチック車には、足でのペダル操作ができない人のため、手でアクセルやブレーキ操作などを行なえる手動運転補助装置が用意されている(ペダルとの切り替えは自由に行なえる)。左手で操作でき、手前に倒すとアクセル、奥に押し込むとブレーキとなり、見た目は大型のシフトノブというイメージだ。ウィンカーを出すためのターンシグナルスイッチや、レバーロック(信号待ちなどでブレーキをかけたままにしておけ、手を放せる)、ホーンスイッチなども装置に用意され、すべて左手で操作可能となっている。そのほかにも、手動運転補助装置とは別だが、パーキングブレーキも手で操作できる仕組みだ。そして架装オプションとなるが、左手で手動運転補助装置を操作する人のため、右手1本でステアリングを操作できるホイールノブも用意されている。


手動運転補助装置。ふたつのペダルの左にあるのは手動のパーキングブレーキレバー 架装オプションのステアリングシフトノブ 【動画】手動運転補助装置を用いての運転の様子

 ウェルドライブシートはドライバーズシート型の電動車イスとなっており、車外で移動する際は右手元のジョイスティックで操作する。家庭用100V電源で充電できるバッテリを2つ装備し、充電は常温で3時間。連続走行距離は、バッテリひとつで約8kmとなっている。体重100kgまで大丈夫で、最高速度は約3.5km/h、登坂性能は7度。助走なしで10mmの段差を乗り越えることが可能だ。ドライビングシートなので、リクライニングなども可能となっている。ちなみに、リフターに乗る際のコツは、シートをクルマと同じ正面に向けて(リフターとは垂直な方向)バックして、リフターの先端部分に右後輪(この場合は、クルマの前方から後方へ後進している状態)が軽く接触するようにする。そうしたら、それを手がかりにバックしながらの旋回をすると、リフターとドッキングできるというわけだ。なお、背面右下にあるスイッチで手動にも切り替えられ、介護者が押すことも可能となっている(グリップなどはないため、単純に押すこと以外はちょっと大変)。


電動車イス兼ドライバーズシートのウェルドライブシート 操作はジョイスティックで行なう

車輪部分のアップ。前輪径は170mm、後輪径は200mm 背面。バッテリ収納用のバックパックの下に手動/電動切り替えスイッチがある

助手席にそのまま乗り込めるサイドアクセス車

 続いては、車イスになる脱着シート(シート型車イス)または専用車イスのまま助手席に乗り込めるサイドアクセス車を紹介する。こちらもポルテがベース車両だ。サイドアクセス車の運転席は通常仕様(介護者が操縦する)で、助手席にサイドアクセスユニット(リフター)が装備されている。脱着シートは介護者が押す手動介護式、介護者が必要だが電動で動かせる電動介護式、シートの利用者が自分で操作できる電動自操式の3タイプがある。なお、専用車イスのセットは、サイドアクセスユニット(リフター先端)に着脱式の専用車イス固定装置を装備することで行なえる形だ。よって、状況に応じて使い分けられるというわけだ(シートと車イスの両方とも利用できるタイプや、どちらか一方のみなど、いろいろとタイプと選べる)。


前述のポルテ タイプIはライトイエローだったが、こちらはスーパーレッドV 脱着シート。後ろに見えるのは専用車イス

脱着シートの背面は介護者用のグリップが用意されている 車内の様子。一般車にはないコントローラが左の足下にある

 サイドアクセスユニットの動作は、ポルテ タイプIのリフターの運転席・助手席間のスライド移動がないだけで、基本的には同じ。車外に出る時は、左に90度回転し、そしてサイドアクセスユニットのアームが伸び、脱着シートまたは専用車イスを接地させてくれるわけだ。体重100kgまで問題ないということで、90kg+の記者も実際に乗り降りを体験させてもらってみた。体格もあるので、開口部を抜ける際は縮こまっておかないと、ヒザがぶつかってしまいそうだったが、この重さでもちゃんと上げ下げしてもらえた。


【動画】車内から車外へ。電動スライドドアが開くところからお見せ 【動画】車外から車内へ

【動画】実際に乗って車外へ 【動画】90kg+の体格で一番気になるのは、本当に持ち上げてもらえるかどうか。もちろん大丈夫

スロープを後方に展開できる車イス仕様車

 車イス仕様車のスロープタイプは、主にミニバンなどの比較的車体の大きな車種に設定されている。UDSでは、昨年デビューしたばかりのミニバン「ヴェルファイア」の「車イス仕様車(スロープタイプ)タイプI」(以下、ヴェルファイア タイプI)が展示されていた。ヴェルファイア タイプIは、最大で車イスの利用者をそのまま2名まで乗車させられる(タイプIIは1名)。また、スロープではなく、リフト機構で車イスを車内のフロアの高さまで持ち上げるリフトアップ機構を採用したウェルキャブもある。


ヴェルファイア 車イス仕様車(スロープタイプ)タイプI。カラーはベージュメタリック 後ろから見たところ。左右に分割して跳ね上げて収納しているサードシート間に2台目が乗れる

 ヴェルファイア タイプIは、2カ所に車イス用のスペースがある。メインとなるのが、セカンドシートの左側を取り払ったスペースだ。そこでは単に車イスを固定できるだけでなく、専用のシートベルトも用意されているなど、シートに近い感覚で乗車できるのが特徴。もう1カ所は、サードシートを中央部で分割して跳ね上げ、そこにできたスペースを利用するようになっている。

 搭載されているスロープは電動式で、約15秒で展開可能。しかも、スロープを上がる際に車イスを引っ張ってくれるウィンチも装備されている。さらに、勾配が少しでも緩くなるようにと、後輪サスペンションがベース車両とはまったく異なるニールダウンシステム(車高降下機構)搭載型のエアサスペンションに変更されており、スロープ角度を8度まで下げられる仕組みだ。ちなみに、試しに車イスに乗って自力での登坂を体験してみたのだが、よほど鍛えないと自分の腕の力では無理。しかも後ろに倒れかねないし(何度か前輪が持ち上がった)、ちょっとでも手を放せば当然ながら後退してしまうので、かなり大変である。介護者にとっても押して登るのはかなり労力を必要とするため、ウィンチやニールダウンシステムはありがたい機能といえるだろう。ちなみに、後輪のエアサスへの換装だけでなく、スロープに滑らかにつなげるために車内後部もフロアを削ってスロープ状にしてあり、かなりの改造となっている。


1台目の車イスはセカンドシート左側に固定。前後輪の間なので、乗り心地がいいそうである 【動画】電動式スロープを展開する様子 【動画】別角度から電動式スロープの収納の様子

【動画】車イスがウィンチの力を借りてスロープを登っていく様子 【動画】車体後方(後輪部分)が降下するニールダウンシステムが働いている様子 リヤバンパーの断面が見えるように、車内後部はスロープに合わせるためにかなり削られている

セカンドシート向けのサイドリフトアップシート車および電動シート

 次に紹介するのは、セカンドシート用のサイドリフトアップシート車の脱着タイプ。大型の「エスティマ」をベースにした車両が展示されており、ポルテ タイプIとは若干異なる電動シートが装備されている。介護者が後方からグリップを握って舵取りをしつつ、速度調整と前進後退のみを行なえるコントローラがついている。

 エスティマのリヤドアはスライド式だが、ポルテに比べると狭く感じ(この程度が一般的なのだが)、一見するとサイドリフトアップシートが通れるのか疑問に思ってしまう。しかし、中で左に90度回転するので、問題なく出てこられるというわけだ。また、ここでは電動シートの後部にある介護者用のコントロールパネルでの操作と、実際に座ってジョイスティックでの移動も体験させてもらった。


エスティマ サイドリフトアップシート車。カラーはダークマイカメタリック 車外に出てきたサイドリフトアップシート 【動画】サイドリフトアップシートの収納シーン。少し余裕がないが、問題なくドア開口部を通り抜けていく

シートとリフターの接続部のアップ 介護者用のコントローラ 利用者が使うジョイスティック

【動画】介護者用コントローラでシートを進めていたところ 【動画】実際に乗ってグルグルと移動してみた

ウェルキャブのお値段はどれぐらい?

 特別仕様の車種なので、1台1台がとても高いのではないかと思うかも知れないが、ノーマル車に対するハイブリッド車のような感覚で(それよりはもう少しアップする場合もあるが)、車両価格が倍になるようなことはない。例えばポルテ タイプIの場合は、特装価格(改造費)が137万円で、車両本体との合計価格は281万円だ。なお、ウェルキャブの価格はすべて非課税となっている。

 ちなみに、今回紹介した残りの3車種のウェルキャブの価格を紹介すると、ポルテ サイドアクセス車が184万~238万円(特装価格40~86万円)。ヴェルファイア 車イス仕様車(スロープタイプ)タイプIは395万5,000~482万円(特装価格102万9,429~106万円)、エスティマ サイドリフトアップシート車は、295万~431万円(特装価格は37万~87万円)となっている。

 なお、UDSには、ほかにも複数のウェルキャブが展示されており、無料で見学が可能だ。また、UDSの周囲の専用ショートコース(100m)なら、予約なしの試乗もできる(「プリウス 助手席回転スライドシート車」と「シエンタ 車いす仕様車」)。さらに、もっと長い距離を走ってみたいという場合は、メガウェブの中核施設「トヨタ シティショウケース」の1Fで行なわれている「ライドワン」もある。こちらは1回300円で予約も必要だが、一般のトヨタ車だけでなくウェルキャブも1.3kmの専用コース2周の試乗を行なえる。専門のスタッフも常駐しており、どのウェルキャブが合っているかといったアドバイスもしてもらえる。そのほか、UDSの1Fの試乗コーナーと2Fの展示フロアの両方ともユニバーサルデザインのトイレが用意されているなど、車イスの利用者でも安心して訪ねやすくなっているので、ぜひ足を運んでみてほしい。

 それから、毎月第2土曜日はウェルキャブドライビングデーが開催される(次回は3月14日11~19時)。ポルテ タイプIを始め、ウェルキャブ10台を専用ショートコースで無料試乗が可能だ。試乗した人はプレゼントがもらえるほか、ウェルキャブ何でも相談会も実施される。またクルマでの来場の場合はイーストパーキングの駐車券をもらえるということなので、ウェルキャブに興味のある人はこの機会を逃さないようにしよう。


URL
  トヨタ自動車
  http://www.toyota.co.jp/
  ウェルキャブラインナップ
  http://toyota.jp/welcab/main/lineup.html
  メガウェブ
  http://www.megaweb.gr.jp/
  トヨタ ユニバーサルデザイン ショウケース
  http://www.megaweb.gr.jp/Uds/


( デイビー日高 )
2009/02/25 15:35

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