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「nano tech 2009 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」レポート
~SF系技術が伺える展示会


20日の雨が影響したか、昨年に比べて若干来場者は減ったが盛況だった
 2月18日(水)から20日(金)にかけて、今年で8回目を迎えた世界最大のナノテクノロジー総合展「nano tech 2009 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」が東京ビッグサイトで開催された。主催はnano tech 実行委員会。同時に、コンバーティングテクノロジー総合展「Convertech JAPAN 2009」、高機能性素材・製品および高付加価値技術総合展「新機能性材料展2009」、ナノテクとバイオの融合技術を扱う「ナノバイオ Expo 2009」、国際先端表面技術展・会議「ASTEC2009」、第38回表面処理材料総合展「METEC'09」、今回が第1回となるプリンタブルエレクトロニクス専門展・会議「プリンタブルエレクトロニクス 2009」の6展も開催された。全展示会合わせて3日間の合計来場者数は、4万7,272人。

 同展示会の特徴は、一般的な展示会とは異なり、企業の市販製品の展示もあるが、大学や研究機関、また企業の研究中の技術の展示も数多いこと。それらの中には、現在の技術をさらに磨き上げたタイプの、一般の人でも想像できる範疇のものもあれば、もはやSFとしか思えないようなものまで多種多様で、ある意味、SF系技術展示会といっても差し支えないほど。ロボット自体の展示はほとんどないのだが、その要素技術的なマイクロアクチュエータなどは複数出展されており、先端系技術が大好きな人にはたまらない展示会となっている。個人的に面白かったものをいろいろとピックアップしてお届けしよう。


「ナノの決死圏」~名古屋大学大学院生田研究室の光駆動ナノロボット

 今回の展示会で、明確に「ロボット」として出展していたのが名古屋大学の大学院工学研究科マイクロ・ナノシステム工学専攻教授の生田幸士氏の研究室。「『ナノの決死圏』プロジェクト-光で、造り、動かし、測るナノロボット-」として、科学技術振興機構のブース内で多数の出展とともに行なわれた。

 同研究室では、光駆動ナノロボット、マイクロ膜流路デバイス、バイオ化学ICチップなどを研究している。光駆動ナノロボットは、マイクロ生物学のための研究ツールとして考えられており、ロボットというよりは、超小型マニピュレータというイメージだ。数ミクロンサイズの細胞の個別操作ができ、pN(ピコ・ニュートン)以下の超微小力の計測を行なえるという。製造は「光子ナノ光造形法」を用いて行なわれる。惜しいのは、ブースで流されていたデモ映像などの撮影許可を得られず、パネルのみとなったこと。映像では光駆動ナノロボットをマスタースレーブ方式で操作したり、光駆動ナノロボットの1つである「ナノムーバ」で酵母菌を押しつぶしたりする様子などが見られた。なおマイクロ膜流路デバイスは、再生医療のための3次元人工毛細血管デバイス。バイオ化学ICチップは、テーラーメイド製薬などに利用できる、指先サイズの合成・分析用途の汎用マイクロ化学デバイスだ。


光駆動ナノロボットとマイクロ膜流路デバイスのパネル バイオ化学ICチップのパネル

2つのマイクロアクチュエータを紹介した高知工科大学

 ナノバイオ Expo 2009のエリアで、四国の5大学が共同で出展したブース「テクノネットワーク四国(四国TLO)」では、高知工科大学がロボットの要素技術のデモ映像などを披露していた。

 同大学の総合研究所の准教授、三枝嘉孝氏が手がけている研究が「液晶を使った表面実装アクチュエータの開発」だ。液晶流動を使った微小物体操作技術で、薄さ0.02mmというマイクロサイズのモータである。さまざまな境界条件を施してガラス基板で挟み込んだチップに液晶を充填することで、配向変化に伴って発生する流動をコントロールするというもので、バイオチップやマイクロサイズのアクチュエータへの応用を考えているという。こちらはデモ映像を録画させてもらえたので、実際に物を動かしたり、回転運動をしたりする様子をご覧いただきたい。

 もう1つが、同大学電子・光システム工学科助手の伊藤基巳紀氏が手がける「光が動力源のマイクロアクチュエータ」だ。レーザー光を使った非接触式のアクチュエータで、どちらかというとモータというイメージ。微粒子の境界面で光の屈折が起きることと、光子が運動量を持っていることを利用し、焦点位置に向かう放射圧を利用するレーザートラップの原理を利用することで、レーザー光のエネルギーを回転に変換する仕組みだ。

 アクチュエータの製造には光子励起マイクロ光造形装置を利用し、短時間にサブミクロンスケール(直径7μm、高さ10μm)での3次元造形が可能。雪の結晶型などにするのも容易だ。酢酸エチル中での回転で、約1,000rpmを計測したという。応用例としては、マイクロタービンやマイクロアクチュエータ、マイクロ攪拌(かくはん)機などを想定しているそうである。こちらも回転する様子を収めたデモ映像を撮影できたので、クルクルと勢いよく回る様子をご覧いただきたい。


【動画】液晶マイクロアクチュエータの動作する様子 【動画】光駆動アクチュエータの回転する様子

信州大学は高分子材料を用いたアクチュエータなどを出展

 高分子材料を用いた、アクチュエータなどの技術について出展していた信州大学(ブースは、同大学の「ナノテク高機能ファイバーイノベーション連携センター」)。

 高分子アクチュエータは、繊維学部の学部長でもある教授の平井利博氏の研究室が手がけており、電場駆動が可能な柔軟性の高い誘電性高分子材料を用いているのが特徴だ。電場を動作のトリガーとするために制御が容易であり、また低エネルギー損失で駆動させられ、さらに材料自体が耐久性に優れるというメリットがある。素材は過剰の可塑剤を加えたポリ塩化ビニル(PVC)ゲルで、かなり柔らかい。デモでは3本指型のチャック型駆動デバイスが、開いたり閉じたりというところを見せてくれた。実験では対象物をつかんだり放したりすることにも成功したそうである。

 そのほか同ブースでは、分子エレクトロニクスや生体疑似物質への応用が目的のナノワイヤや、交通機関の内装材向けの軽量型スーパー機能材料なども出展していた。


【動画】高分子アクチュエータの動作の様子 導電性ナノワイヤやヘリカルナノワイヤなどの分子構造モデル 軽量が特徴のスーパー機能材料。交通機関などに用途を想定

 ロボット系から少し離れるが、信州大学ではユビキタス系の出展も行なっていた。別の「ナノテク・フォーラム長野」ブースでの出展だが、同じ繊維学部の化学・材料系 機能高分子学課程の谷口彬雄氏の研究室の「有機EL光源を用いたデータ通信実用化モデルの開発」がそれだ。

 同技術は、谷口研究室、フジクラ、ハリソン光技術研究所の共同研究の成果だ。内容的には、ポスターの一部などに埋め込まれた有機EL素子(およびフォトダイオード)に携帯端末を近づけることで、直接データを取り込めるというシステムである。データは、有機ELの発光パターンの中に埋め込まれている。今回のデータ転送速度は460kbpsだが、今後は1Mbpsを目指すとする。転送速度以外の要素も含めた上で、2次元バーコード(QRコード)やBluetooth、IrDA(赤外線通信)、Felica(ソニー製非接触式ICカード技術)といった現在一般的に利用されている方式に対し、スペック的に有利とも。今後、携帯電話などに搭載できるように開発に取り組んでいく予定だそうだ。


デモ用のポスター。発光している有機ELにくっつけるとデータを取得できる 【動画】実際にデータを取得する様子 他方式との比較表

複数の高分子系アクチュエータを展示していたNEDO

 略称のNEDOで呼ばれることの多い、独立行政法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構は、多数の企業との研究開発を進めており、今回はさまざまなジャンルの40近くのプロジェクトについての出展があった。ここではまず、アクチュエータ系から紹介する。

 ダイキン工業古河電気工業ニッタの3社と独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)が参画して進められているプロジェクトが、「高配向性カーボンナノチューブ(CNT)を用いたナノ構造制御による低電圧駆動高分子アクチュエータの研究開発」だ。

 どのようなアクチュエータを開発しているのか詳しく説明すると、低電圧で駆動でき、空中駆動が可能な高出力と長ストローク、そして高速応答を特徴とした、高配向性CNTを用いた新型の高分子アクチュエータというわけである。素材としては、産総研ナノチューブ応用研究センターで開発された、「スーパーグロースCNT」を利用。このプロジェクトでは、アクチュエータの構成素材のフッ素ポリマーやイオン液体の最適化や加工法、およびアクチュエータデバイスやその制御方法の開発を主目的としている。結果が、スーパーグロースCNTとイオン液体からなるバイモルフ型アクチュエータ素子や、アクチュエータ素子駆動制御装置(ニッタ)、CNT高分子アクチュエータ直動素子(古河電気工業)というわけだ。バイモルフ型アクチュエータ素子と、ニッタ製アクチュエータ素子駆動制御装置は、デモでその動きを見ることができた。

 なお、今回のプロジェクトでCNT高分子アクチュエータが従来にない柔らかい力を発生する素子の実現の可能性を示したことに加え、センサー機能も有する優れた機能性材料であることが判明したという。また、スーパーグロースCNTが従来のCNTを超える性能のデバイスを造れる可能性があることも示したそうだ。今後は、さらに性能向上を務め、ロボットなどへの応用を目指すとしている。


【動画】バイモルフ型アクチュエータ素子の動く様子 【動画】ニッタ製アクチュエータ素子駆動制御装置のアクチュエータがユラユラと動く様子

古河電気工業製CNT高分子アクチュエータ直動素子。残念ながら動作は見られず 原料のポリマーやアクチュエータ素子の見本

 続いては、東京大学アドバンスト・ソフトマテリアルズ豊田合成が参加したプロジェクト「スライドリング・マテリアルを用いた先端高分子部材の開発研究」だ。こちらも、ロボット用途の「誘電アクチュエータ」の開発を目的としたプロジェクト。

 誘電アクチュエータは軽量性、応答性、耐久性、安全性に優れているのが特徴だ。こちらも高分子材料を利用するもので、架橋点が自由に動く「スライドリング・マテリアル」(SRM)という物質が使われる。「ポリジメチルシロキサン」を軸高分子(分子ひも)とし、そこに自由に動くリング状の架橋点として使う「γ-シクロデキストリン」を水中で超音波照射によって混和させ(分子ひもにリングを通す)、包接錯体を作成。そのひもの末端を「ポリロタキサン」(Si-PR)でブロックして、新型のスライドリング・マテリアル「Si-SRM」を作るという流れだ。Si-SRMがゲル化した状態では、リング同士がくっついて8の字状になるが、それでも分子ひものポリジメチルシロキサンは自由に動けるというわけで、少々難解かと思うが、その状態が誘電アクチュエータに求められるというわけである。結果、装置の軽量化が実現することから、現有するあらゆる駆動装置に転用が可能と考えられており、特にロボットアームや微細加工装置などに向いているという。


Si-SRMの被膜。これがアクチュエータになるというのが不思議 ゲル化したSi-SRM

温度差や振動を利用した新型発電システムや二次電池

 新型の発電システムや二次電池に関しての展示も複数見かけた今回の展示会。発電システムについては温度差や振動を利用するという新機軸と、充電可能な二次電池に関しては、具体的に製品化されている東芝のものを紹介しよう。

 こちらもNEDOのブース内のプロジェクトの成果の1つで、建機メーカーで有名なコマツが研究開発を行なっている「高効率熱電変換システムの開発」だ。

 温度差を利用して発電するというシステムで、排熱が至るところにあるため、エネルギーの有効利用率を大きくアップさせられると期待される技術だ。今回開発されたのは、Bi-Te(ビスマス-テルル)熱電発電モジュール。高温側と低温側の間に、P型とN型の素子を挟み(p-n接合)、熱流が伝わることで起電力が発生し、電力を取り出せるという仕組みだ。温度差はあればあるほど発電力がアップするが、手のひらを置いてちょっと高温側を温めてあげるだけでも、ちょっとしたモータならクルクルと勢いよく回すことができる。10度ぐらいの温度差があれば、オモチャの電気式のクルマを進ませることもできるし、200度ぐらいの差があるとROBONOVA-I+パワーショベルが元気に動く。

 現状では、どちらかというと大規模なシステムを想定しているそうで、コジェネシステムのディーゼルエンジンの排ガスを使って高温側を熱し、低温側は冷却水を通すことで温度差を大きくし発電するなどを想定している。実験では、500kW級コジェネシステムに組み込み、高温側が280度、低温側が30度で発電効率7.2%、発電出力24Wを達成したそうだ。また8ユニットを接続することで、1KWの出力も達成しているという。現在、エコ意識が非常に高まってきていることから、今後熱電発電導入は大きく増えると予想され、産業排熱回収や移動体の燃費向上などで使用されると目される。2006年に開催された熱電発電フォーラムによれば、2010年には213GW/年、2020年には1,566GW/年、2030年には4,141GW/年になると予測されているそうだ。同様に、CO2削減量は7.3万t、53.3万t、140.8万t、原油換算削減量は6万1,000kl/年、44万5,000kl/年、117万7,000kl/年としている。


Bi-Te系発電モジュール 【動画】体温と気温(室温)程度の温度差でも、この程度の物ならこれだけ勢いよく回せる 【動画】低温側を瞬間的に冷却して10度ぐらいの温度差を発生させただけでも、電動カーがこのくらい動く

【動画】500kW級コジェネシステムの排熱280度を利用して、ROBONOVA-Iなどが元気に動く この機械が高熱を発生し、その熱と室温との差でROBONOVA-Iなどの電気をまかなっていた コジェネに組み込むシステム。金属部分を排ガスが通って熱し、温度差を作る

 東京大学、旭硝子オムロンによる「超高性能ポリマー・エレクトレットを用いた振動型発電システムの開発」も、NEDOのブースで発表されていたプロジェクトの1つ。こちらも、世の中の捨てられているエネルギーを有効活用しようという内容だ。

 環境に広く存在する低周波数振動を電気エネルギーに変換しようというもので、日本固有のエレクトレット材料を用いている「日本発」の技術である点も特徴。半永久的に電荷が打ち込まれた絶縁体のエレクトレットを電極にかざし、電極を振動させることによって交流電流を取り出すというものだ。エレクトレットを用いた静電誘導発電は、電磁誘導(ダイナモ)よりも出力が大きく、圧電よりも環境親和性に優れる(圧電の周波数は日常的にはあまりない高周波)というメリットがある。今回は、東京大学はマイクロマシン技術を用いた大振幅振動構造、旭硝子はナノテクノロジーを応用した超高性能ポリマー・エレクトレット、オムロンは高効率インピーダンス変換回路の開発をそれぞれ担当した。

 その結果、東大はマイクロマシン技術を応用した柔軟で劣化しにくい樹脂バネの製作プロセスの確率に成功。旭硝子は、同社製品のエレクトレット「サイトップ」をベースにして、ナノクラスタを内部に形成することで、電荷保持性能と熱的安定性の大幅向上を達成した。オムロンも発電した電力をデバイスに供給するための超低消費電力のインピーダンス変換回路の開発に成功している。実験では、20Hzで駆動してLEDを間欠的ながら点灯させることに成功したそうである。将来は車載用センサー、無線IDタグや超小型医療福祉機器などへの応用を検討しているという。


エレクトレットを利用した振動型発電システム 振動部分。今回のプロトタイプは1方向のみの振動だが、現在は2次元的に振動するタイプを開発中

長寿命で耐衝撃性に優れる東芝製SCiB二次電池

 ロボットの動力源はもちろんのこと、今後は電気自動車などでも必要性が高まっている二次充電池。より長寿命で、より高出力で、なおかつ安全というものが求められているが、東芝製「SCiB二次電池」はそれらに加え、充電時間の短さ、実効容量、低温性能にも優れることから、今後はリチウムイオン電池に取って変わる可能性もある。寿命は、6,000回もの充放電サイクルを繰り返しても、新品時の8割強の性能を維持できるという。安全性はクラッシュテストで思いっきり形状を変形させ、内部短絡を生じさせても熱暴走などはしない。約5分で充電でき、リチウムイオン電池の1.5倍ほどの実効容量と電気二重層キャパシタ並みの高い出力を有し、マイナス30度でも常温時の8割5分程度で動作する。1回の充電でどのぐらい持つかという具体的な資料はないが、すでにアメリカでは電動アシスト自転車(国内で運転する場合は、ほとんど電動スクーターなのでナンバーが必要になるほどの高出力車)に搭載されるなど、使用製品の発売も始まっていることから、リチウムイオン電池と比較して極端に寿命が短くて使い勝手が悪いということはないようだ。

 ちなみに同自転車用パックは、公称電圧24V、公称容量4.2Ah、サイズは300×45×100mm(幅×奥行き×高さ)、重量約2kg。展示されていたセルも同じ電圧と容量で、サイズは95×13×62mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約155g。現在は電動アシスト自転車、電気自動車、フォークリフト、オフィス用複合機などのメーカーへのBtoB展開を考えており、一般への販売の予定は今のところないという。しかし、ぜひ発売してもらいたい電池である。


電動自転車搭載用パックと小型セル クラッシュテストではここまで変形させても発火などはないという

SCiB二次電池搭載電動自転車 荷台にパックが収まる。出力がありすぎてほとんど電動スクーターらしい

近未来系からSF系まで出展していた記録媒体やディスプレイ

 メディアの素材や表面処理などにナノテクが用いられていることから、記録媒体やディスプレイなどに関する出展も多数あった。その中で最もSFらしさを感じたのは、千葉大学大学院融合科学研究科准教授の小関建一氏のホログラムメモリに関する研究だ。

 研究されていることを知ってはいたものの、もっと先の話と思っていたら、現在の映像の高品質化=情報量の増大に伴い、早くもポストBlu-rayの最右翼として具体的に研究開発が進められている。立体画像でお馴染みのホログラムを利用した情報の保存技術とは、データを3次元的に記録する方式のことだ。どの程度記録できるかというと、ホログラフィックメモリーの先駆的企業である新オプトウェアが提案した方式では、CDからBlu-rayまでお馴染みの12cm径ディスクで1TBの情報を記録したとしている。ただし、問題になっているのが、記録媒体に適した素材がないこと。現在の素材では、媒体の体積が収縮してしまうためデータを読み出す際にエラーが発生してしまい、安定して保存できる記録媒体としての役目を果たせない。そのためナノの領域での技術が求められおり、小関氏の研究室でも収縮率の少ない媒体として、カチオン重合型や光重合型のフォトポリマーの研究開発が進められている。なお、「新規フォトポリマー材料により記録した透過型ホログラム」という展示物があったのだが、フィルムが小さいためか、なかなか立体画像をうまく写せず、お見せできる写真はなしとなってしまったのでご了承いただきたい。

 そして、小関研究室のもう1つの目玉が「マイクロカプセル化液晶」だ。液晶をカプセル化し、その散乱光を利用して見せるという仕組みなので、印刷することが可能である。これまでは液晶といえばフラットなディスプレイで見るものだったがその必要はなく、RGB液晶カプセルインキを印刷できる形状であれば、どんな曲面にも利用できる。RGBの3色とはいっても、現状ではそれらを混ぜ合わせて普通のカラー印刷ができるわけではなく、単色ずつの使用となっている。また、液晶を封じ込める必要がないことから、ディスプレイの構成でもガラス基板など部品点を半分ほどにできる点もポイントだ。看板などの広告としての利用を検討しているそうである。


筒型、波形、かまぼこ型など、あらゆる曲面で利用可能 RGB3原色別に液晶をカプセルに封じ込めたインク

NEDOでは曲げても割れないディスプレイも出展

 NEDOの「超フレキシブルディスプレイ部材技術開発」は、次世代モバイル用表示材料技術研究組合財団法人化学技術戦略推進機構、産総研の3機関によって研究開発が進められている。NEDOの展示プロジェクトの中でも目玉の1つのようで、ブースの面積も広く、フレキシブルディスプレイの製造工程も紹介されていた。

 一般的に販売されているモデルでは基板にガラスが利用されていて、有機TFTアレイもカラーフィルタも硬いわけだが、フレキシブルディスプレイではそれらを既にフレキシブルにできる技術が確立されているようだ。また、それらの部材を使った小型ディスプレイで映像を流すデモも行なっており、通常型と比べて映像の美しさなどでそれほど大きく劣るという感じではなかった。ただし、実際に曲げられるディスプレイを造るために問題となるのは、パネル化の技術。カラーフィルタやTFTアレイが柔らかくなっても、それらを固定する枠の部分が硬いままだったら意味がないわけで、本当に柔らかいディスプレイというのはもう少し先になりそうである。


ロールに巻いたり、曲げて積み重ねたりといったことも可能なディスプレイ用部材 【動画】実際に携帯用のディスプレイでその画質などのクォリティも披露されていた

そのほか面白かった技術の数々

 続いては、そのほかのジャンルのとても興味深い技術や製品を紹介。まずは日本イオンの「ナノピュア 銀鏡塗装」。その処理が施されたマネキンが展示されていたのだが、まさにT-1000型ターミネーターが変身しようとしているかのよう。大型でなおかつ形状的に複雑なものは、こうした光沢のある銀色のめっきは難しいそうである。同技術は、スプレーで光輝性のある銀ナノ粒子皮膜を析出させ、そこにナノピュア抗菌クリア塗装を施すことで、光輝装飾性と抗菌性・耐久性のある状態にできるというわけだ。細かい作業工程は、12にも及ぶそうである。


T-1000型ターミネーターのような美しいマネキン 銀色以外にも施せる、また複雑な形状でも問題なく行なえる

 研光通商が出展したのは、新開発の表面コーティング剤「Clear Coat U-SIL 120」。マグネシウムやアルミニウム合金などに適しており、薄いコーティング薄膜(5~15μm)、高撥水性、耐熱性(275度)、耐スクラッチ性(鉛筆高度4~9H)などの特徴がある。しかし、驚きなのは、塩水に丸々3日間漬けておいても錆びない(腐食しない)というところで、実験では塩水噴霧試験で200時間を超えたという。また、指紋なども拭き取りやすいそうだ。マグネシウムはその軽量性から、ASIMOなどで骨格として使用されているが、今後はこれでコーティングしてから使用すると、より長持ちするのではないだろうか。


コーティングされたマグネシウム合金。指紋もさっと拭き取れ、腐食の心配もなし 塩水につけての耐腐食性実験。上がコーティングしてある側で、3日経っても変わらない

 続いてはバイオ系。NEDOのプロジェクト関連で何度か登場した産業技術総合研究所は、自前でもブースを構えており、多数の技術を発表していた。その中でもSF的ネーミングで特に目を引かれたのが「集積型人工生体膜」。生体膜機能を分子レベルで理解・制御するための手段として開発され、固体基板表面に人工的なモデル生体膜を集積化するという、バイオチップの新型である。具体的な用途としては、例えば人の肝臓にあるチトクロムP450酵素をチップ上に高集積化することで、食品や薬などの化合物の体内に置ける解毒作用を検出する「安全性評価用超高感度ナノセンサ」などを実現できるとしている。

 それから産総研では、「カーボンナノチューブ黒体」もちょっと引かれた1つ。光や赤外線を吸収する吸収体(黒色コーティング)は、光や熱のエンジニアリングで欠かせない材料だが、従来は0.97の吸収率が限界だったという。達成したとしても狭い波長範囲でしか性能を発揮できなかったそうである。つまり、どうやっても0.03以下の反射率の実現は難しかったわけだが、産総研発の単層カーボンナノチューブ成長技術「スーパーグロース技術」を用いることで、紫外線から遠赤外線の領域の広い範囲で0.01から0.02しかない反射率を達成。世界で最も黒体に近い機能を有する材料ということだ。実際、フラッシュを炊いてもまったく反射せず、まさにブラックホールという感じであった。


集積型人工生体膜。息を吹きかけると、かすかに見えるという具合 従来品との比較。どちらもフラッシュの反射はないが、より黒いのがわかる

 最後にバイオ系をもう1つ。農業生物資源研究所の「遺伝子組み換えカイコによる高機能繊維の開発」だ。2008年のノーベル賞を受賞した下村脩博士のオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の遺伝子などを組み込むことで、カイコのまゆが薄緑色や薄桃色になり、染色の必要なく最初から色の付いた糸を紡げるという技術だ。

 実際、色つきまゆが多数展示されており、きれいだったので撮影させてもらった。今回の緑やピンクは遺伝子を組み込みやすいそうだが、その他の色の場合は色を出すための遺伝子が大きいため、なかなかうまくいかないそうである。暗いところで蛍光灯を当てたりするとよりきれいに色が出るので、将来的にはファッションショーや芸能人の衣装などに使ってもらえるようにしたいとしていた。


白いノーマルのまゆと遺伝子レベルで染色されたまゆたち 暗所で蛍光灯を当てると、よりきれいに見える

 nano tech 2009は、2日間かけて回ってもまだ足りないほど先端技術を多数見られる展示会で、ちょっと前までSFだった技術が現実になりつつあることを感じられるところがとても楽しく、ほかの展示会にはなかなか見られない。日本の子供たちの理科離れが叫ばれているが、社会科見学で見て回らせてもいいのではないかと思うほどだ。理論やアイディアだけだったものが、いつの間にか現実になりつつあるというのを多方面で(ナノというキーワードはあるが、実際の範疇はとても広い)見ることができるので、技術の先端に触れたい人にはぜひ足を運んでもらいたい展示会である。


URL
  nano tech 2009 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議
  http://www.nanotechexpo.jp/

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( デイビー日高 )
2009/02/24 17:05

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