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生き残るのは誰だ? ゴールは金星のサバイバルレース
~世界初の大学による深宇宙衛星「UNITEC-1」


 2010年に打上げが予定されている日本の金星探査機「PLANET-C」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発しているものだが、以前の記事でお伝えしたように、この打上げでは“相乗り”する小型副衛星(ピギーバック衛星)を募集していた。

 ロケットの能力に余裕があるときに、主衛星と一緒に打上げてしまうのが小型副衛星である。JAXAに限らず、各国の宇宙機関で実施されていることなのだが、PLANET-Cのケースが特殊なのは、それが金星に向かう探査機であるということだ。これまで、国の宇宙機関以外で地球重力圏を脱出した例はなく、もし金星に向かう相乗り衛星が実現すれば「世界初」となる。

 打上げまでの日程が短く、公募の締切も早かった(発表が4月23日で、締切はその1カ月後)ために、具体的な提案を出せる組織があるかどうか注目されたが、この数少ないチャンスを得ることができたのが「UNITEC-1(UNIsec Technological Experiment Carrier-1)」である。12月16日(火)、このUNITEC-1に関する講演会が東京大学で開催された。本レポートでその模様をお伝えする。


大学による超小型衛星開発

 UNITEC-1の開発主体となるのは、NPO法人である大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)だ。理事長は、東京大学 大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授。すでに東大で2機のキューブサットを実現させている小型衛星の第一人者で、本誌の読者にはROBO-ONE宇宙大会の関係者としてもお馴染みかもしれない。


東京大学 大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授 こういった大学衛星がすでに打上げられている

 講演会ではまず、中須賀教授から、大学・高専発の超小型衛星の現状について説明があった。

 これまでに実現した日本の大学による超小型衛星は全部で7機。最も多いのは東京工業大学の3機で、東大の2機、北海道工業大学の1機、日本大学の1機が続く。このうちの2機、東工大と日大の衛星は、今年4月にインドのロケットで打上げられている。

 超小型衛星を開発する意義について、中須賀教授は「技術的・科学的な研究テーマとして良い」ということのほかに、「実践的に宇宙工学を学べる題材」としての側面や、「宇宙開発の敷居を低くして、新しいプレイヤー・利用法を呼び込む」効果も期待する。

 近年、衛星の大型化に伴い、「コストが高い」「開発期間が長い」「頻度が少ない」という傾向が顕著になり、その結果として、「保守的にならざるを得ない」「失敗のリスクが大きすぎる」「敷居が高すぎてビジネスに参入できない」などの弊害も出始めた。もちろん、大型衛星でしかできないことがあるのだが、「大型衛星とは異なる発想で、小型衛星の世界を開拓しよう」と中須賀教授は訴える。


大きな人工衛星にはこういったデメリットもある 大型衛星とは別の道として、小型・超小型衛星も出てきた

 カンサットでの経験を得てから、中須賀教授が取り組んだのがキューブサットである。「XI(サイ)」と名付けられた東大のキューブサットは、10cm立方という小さなサイズで、メインCPUは8bitのPIC、姿勢制御は磁石による受動制御のみというシンプルなものだ。しかし小さくとも、ミッションの構想から設計、製作、試験、打上げ、運用に至るまで、プロジェクトを一通り経験できる。学生にとってはこれが重要なのだ。


東大では2機のキューブサットが実現した スペックは最小限。しかし、一通り備えている XIから送られてきた画像。地球が写っている

 小型とはいえ、技術的には侮れない。XIはカメラと通信系を備えており、地球の画像を5年以上も送り続けている。また来年1月に相乗りで打上げられる予定の「PRISM」は、伸展式のブームにより、分解能30mの画像の取得を目指している。大型衛星の代表ともいえるJAXAの「だいち(ALOS)」の分解能が2.5mである。10kg以下の小型衛星でも、こういったことが可能なのだ。コストは当然安く、自社のサービスのために小型衛星を打ち上げたい、という企業も出てくるかもしれない。


「PRISM」のカメラ。望遠レンズを搭載しているようなものだ こういった画像が取得できるはずだ。商業的に使えるレベルだろう 衛星の仕様。ちゃんと3軸の姿勢制御を行なう

 「“宇宙ムラ”から出る利用のアイデアはもう限界」と中須賀教授。宇宙利用の活性化には、プレイヤーを増やすことが必要だ。そのために、超小型衛星で宇宙開発の敷居を下げ、「宇宙で何かをやろうと考える人の数を100倍にしよう」と考えているそうだ。


そして金星への相乗り

金星に向かう軌道。地球からの距離は、100日後に3,100万km、金星到着時には6,300万kmになるという
 その後、中須賀教授からは、UNITEC-1に関する説明があった。

 前述の通り、UNITEC-1はJAXAの公募によって、金星への相乗り衛星に選ばれたものだが、制約条件はかなり厳しいものだった。まず2010年5月の打上げ予定のため、開発期間が非常に短いという問題がある。2年もかけずに、フライトモデルをゼロから完成させる必要がある。いくら小型衛星と言っても、これは結構難しい。

 開発期間が短いため、姿勢制御系は諦めるしかなかった。すると、通信系も無指向性にするしかなく、bitレートは最低になる。画像を撮影しても、とても送信することはできない。せっかく相乗りしても、ただ宇宙空間を漂っているだけでは意味がない。

 こういった条件から出発して、考えたのが「生き残りコンペ」というアイデアだ。各大学・高専が開発したオンボードコンピュータ(OBC)を搭載して、どれが最後まで動作するかを競う。最初の難関は、バン・アレン帯を通過するあたり(放射線が強くなる)。その後も、高温・紫外線・原子状酸素など、深宇宙での厳しい環境にさらされる。最後まで動作し続けることは難しいが、これはそれを逆手に取った妙案と言える。


まずは地上試験で“予選”を実施。最終的に5~6機に絞る 生き残りコンペでは、合計点数で正常かどうか判断

 しかし、せっかく金星に向かうのだから、ただ飛行するだけではもったいない。できれば画像を取得したいところだ。だが前述のように、通信の制約から、画像を地球に送信することは絶望的。そこで、タスクの1つとして、スターセンサーからの画像を各OBCに処理させることを考えているそうだ。「電源を入れたら起動するか?」「呼びかけに反応するか?」「画像データを受け取れたか?」「それを処理できたか?」など項目ごとに得点を出し、合計点を地上へ送信する。これならばbitレートが低くても可能だ。

 また地上でも「地獄耳コンペ」を実施する。UNITEC-1からの電波は極めて微弱なので、アマチュア無線コミュニティとも連携して、複数アンテナで信号を重畳させるような実験が考えられる。ちなみに250万kmの距離でも3mアンテナがあれば1bps(!)で通信可能であることが分かっているそうで、それ以上は工夫が必要となるようだ。ただ金星到着時には距離は6,000万kmを超える。せっかくOBCが無事でも、通信が不可能であればコンペの結果が分からなくなってしまうが、30mアンテナであれば金星まで通信可能だという(現在交渉中とのこと)。


システムの概要(現状案) 開発体制。20大学・高専が参加した 電源の2次電池にはエネループを採用

 このように計画は進んでいるが、現時点で大きな問題が1つ。UNITEC-1は、JAXA・メーカーなどで使われなかった予備品などを集めて作られる通称“もったいない衛星”であるが、それでも開発費があと1,000万円程度不足しているそうだ。一般からの寄付も募集したいとしており、方法については後日、UNITEC-1のWEBサイトに公開される予定だ。寄付のお礼として、「はやぶさ」や「かぐや」でやったような、名前を衛星に乗せるようなことも検討しているとか。


URL
  宇宙航空研究開発機構(JAXA)
  http://www.jaxa.jp/
  大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)
  http://www.unisec.jp/
  東京大学中須賀研究室
  http://www.space.t.u-tokyo.ac.jp/nlab/
  UNITEC-1
  http://unitec-1.cc.u-tokai.ac.jp/


( 大塚 実 )
2008/12/26 16:14

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