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大阪大学でロボット演劇「働く私」が上演
〜「エンターテインメント型実証実験」で近未来を疑似体験


大阪大学21世紀懐徳堂
 11月25日(火)、大阪大学豊中キャンパスにある大阪大学21世紀懐徳堂多目的スタジオにおいて、ロボット演劇「働く私」が上演された。主催は大阪大学21世紀懐徳堂。

 本プロジェクトは黒木一成氏(株式会社イーガー 取締役会長)の立案に、石黒浩教授(大阪大学大学院工学研究知能・機能創成工学専攻)、平田オリザ教授(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター)が協力し、実現した。

 今回発表した「働く私」は、ロボットと俳優が競演し、人とロボット、ロボットとロボットのコミュニケーションをテーマにした作品。上映時間は約20分。脚本・演出は平田氏、プロデューサは黒木氏、技術指導は石黒氏がそれぞれ行なった。


石黒浩氏(大阪大学大学院工学研究知能・機能創成工学専攻教授) 平田オリザ氏(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授) 黒木一成氏(株式会社イーガー 取締役会長)

 2体のロボットと一緒に暮らしている若い夫婦。ロボットのモモコは料理などの家事を行なうが、もう1体のタケオは働く意欲を失い自分の存在意義に悩んでいた。夕食を挟んだ日常会話の中で、働かない夫と働けなくなったタケオ、夫に苛立つ妻と、家事手伝いをしながら同居する2人と1体に気配りをするモモコのコミュニケーションを描いている。

 舞台に立ったロボットは、三菱重工業の「wakamaru(ワカマル)」。プログラミングは株式会社イーガーが担当した。当初、wakamaruを音声認識で動かすことも検討したが、現段階では誤認識の問題があるため、舞台の袖でオペレーターがPCでwakamaruを動かしていた。ステージの広さは5×9m。50cm単位のマトリックスで、wakamaruの立ち位置を指示、センサーで位置を自動的に補正していた。台本には「A2からA3に、20秒で移動」などと、ロボット用のト書きがあるそうだ。

 またwakamaruのモーション作成にあたっては、パントマイム俳優のいいむろなおき氏と文楽人形遣いの桐竹勘十郎氏に師事し、パントマイムや女形の動きを学んだという。

 コミュニケーションで重要なポイントとなる会話の「間」は、平田氏がコンマ1秒単位で演出。俳優が台詞を言い終えたのをきっかけに、オペレータがPCのキーを押すと、指定された間を空けてwakamaruが演技を始める。会話の中で、驚いた時に発する「えっ」や、聞き返す「えぇ?」、同意の「えぇ」といった非語彙の発話が難しかったそうだ。平田氏は、もともと俳優に対しても「2秒、間を空けて」とか「もう35cm右に立って」と演出をしているそうだ。平田氏にとってロボットは「相当に不器用だけれど、存在感のある俳優」であり、その特徴を活かした台本を書いたという。そのせいもあるのか、俳優がロボットの「間」に合わせるのではなく、自然な演技をしていた。


三菱重工業のコミュニケーションロボットwakamaru 舞台の袖で、オペレーターがwakamaruを操縦している 【動画】「えっ」「あぁ」という非語彙のニュアンスを表現するのが難しかったという

「エンターテインメント型実証実験」としてのロボット演劇

 「ロボット演劇」の公演を行なうに至ったのは、3者にそれぞれの思いがあったという。

 黒木氏は、以前から大阪市の次世代ロボット産業創出拠点ロボットラボラトリーと協力し「ロボット大阪観光プロジェクト」に取り組んできた。大阪にロボット文化を形成する1つの手段として、ロボットを用いた観光コンテンツを提案している。その1つに「ロボット演劇」があり、まだリアルにロボットを見たことがない人に、ロボットがいる生活を疑似体験してもらおうというものだ。一方、ロボット開発者には、劇中で起こった問題点や、改良すべき点をフィードバックする「エンターテインメント型実証実験」の場になると捉えている。

 そもそも2006年に、劇作家・演出家である平田氏が大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授に就任したのがきっかけとなり、プロジェクトが具体的に動き出したそうだ。平田氏は、芸術家としてまだ誰もやっていないことにチャレンジしたいという気持ちが常にあるという。

 現在、一般の人が持っているロボットのイメージは、SFやアニメで得た知識がベースになっている。そのイメージで現実のロボットに接すると、大きな違和感を覚える。誰も知らない実際のロボット“らしさ”を伝えるために、「働く私」に出演するwakamaruには、あえて“ロボット”役を与えた。また平田氏は、以前に類人猿の研究者が登場する台本を書いたことがあり、人間と猿の境界線に興味を持ったという。今回の演出に携わり、ロボットと人間の境界線も同じ問題をはらんでいると感じたそうだ。

 石黒氏は、認知科学的な興味をベースにコミュニケーションロボット「Robovie」や、自分自身のコピーロボット「ジェミノイド」を製作し、コミュニケーションを研究している。これまでの工学者は、「未来生活はこうなる」という具体的なイメージを一般に見せる場所を用意してこなかった。研究室でロボットを作り、いきなり街中に持っていき「さぁ、使って遊べ」と言っていた。それでは、人々にはロボットの使い方が分からない。わざわざロボットの使い方をレクチャーするのではなく、自然にロボットと人の関係性が構築できるようなシステムの必要性を感じていたそうだ。そうした思いがあったため、「ロボット演劇」の上演に違和感がなかったという。


ロボットと暮らすことで見えてくるコミュニケーションのあり方

【動画】日常生活の中でロボットに言葉を教えるために、人も言葉の曖昧さと向かい合う
 ロボット演劇「働く私」は、生活の中にロボットを存在させることで、コミュニケーションの本質を問いている。人とロボットの円滑なコミュニケーションを考えることで、人と人のコミュニケーションもあぶり出されてくる。また、日常生活の中にロボットがいることで、ロボットがどこまで人間に近づけるか? を問いかけている。同時に、ロボットは「人間とはなにか?」を映し出す鏡となる。

 芝居の冒頭で、雑誌を読んでいた夫がロボットのタケオに話しかけた後に、「“どうして?”って聞かないの?」とタケオに質問する場面がある。「人が前後の脈絡に関係ない質問をしたら“どうして?”と聞くんだよ」と、タケオに人とのコミュニケーションの仕方を教えているのだ。

 また、料理を作って人の役に立っているモモコを見て落ち込んだタケオが黙って席を外した場面では、モモコが妻に「こういう時は、そおっとしておくんですか? そおっとしておくのと放っておくのとは違いますか?」と、言葉のニュアンスを確認していた。ロボットと暮らす時には、こうして言葉の意味や円滑なコミュニケーションの方法をさりげなく教えなくてはならないのだろう。

 筆者が芝居を見ていて一番驚いたのは、人間がロボットに非常に気を遣っていることだった。モモコがピザに掛けるタバスコを持ってきてくれた時に「ありがとう」と受け取るのは、まだ分かる。それだけではなく、自分の言動でロボットが傷ついたそぶりを見せたら「ごめん」と謝る。ロボットが自分に気を遣った時には、「いいわよ、そんなに気を遣わなくて」とさり気なく返す。将来、私達がロボットと生活をするようになったら、ここまでロボットに対して気遣いが必要なのだろうか?

 そうした筆者の疑問に対して、平田氏は「あのロボットは大したことができませんから。世の中に出たばかりの新製品は、多少勝手が悪くても人が合わせて使うしかないでしょう」という。また、石黒教授からは「逆に生活する中で、気を遣わなくていい関係って何なんですか?」と質問された。一緒に暮らす時には、ペットにだって気を遣う。もしロボットに対して気を遣わないのなら“ロボット”ではなくただの道具でしかない。それは、石黒氏が作りたいロボットではないのだという。

 筆者は日常生活の中で、冷蔵庫やテレビには気を遣わない。ただの家電製品として扱っている。けれど、15年前に初めてPCを使い始めた時、当時のPCは今よりずっと不安定で“使えない”面が多々あった。頻繁にフリーズするPCに対して「ごめん、私が悪かった」と謝ったことが何度もある。最近はPCと会話することは減ったが、確かに不安定な機械に対してはついつい気を使ってしまう……という経験を筆者はしてきている。その点は、平田氏が指摘する通りだ。

 もしPCが私に言葉を返してくれるのなら、私は今でもPCに話しかけ続けているだろう。


【動画】ロボットと人がお互いに気を遣いながら、生活している 【動画】自分の失言でロボットの気分を害したので、夫が謝罪する場面

【動画】ラストシーン。夕日の美しさを実感できるほどには、僕たちは進化していない……と、タケルが呟く
 もう1点、気になった場面がある。

 モモコが「ロボットは嘘はつけませんから」というが、その前の場面では「私たちは人に気を遣うようにできていますが、ロボット同士で気を遣うようにはプログラミングされていないのです」と言っているのだ。「嘘をつけない」と「気を遣う」は、厳密に言えば矛盾ではないか? 気を遣うというのは、物事を0or1で処理するのではなく、限りなく1に近いものを、相手には0.8くらいの言葉で伝えることだ。このぼやかし方が0.8なのか0.2なのかは、実は受け手の主観による。自分としては気を遣ったつもりだったにも関わらず、思いがけず「なぜ私に嘘をついたのよ」と責められた経験がある人もいるだろう。

 この点について平田氏は人によって言葉の解釈は違う、例えば、同じ文章を読んでも“大げさ”と受け止める人もいれば、“嘘”と捉える人もいることを説明した。我々日本人が曖昧にコミュニケーションしてきた部分を、この先、ロボットにはきちんと説明しなくてはならない。となると当然、人間同士のコミュニケーションも曖昧なままでは済まなくなるだろうと指摘した。

 わずか20分の「ロボット演劇」を見て、これまで漠然と考えていたロボットと人の共存について、さまざまに思いを巡らす機会を得た。今後は、2009年度に60〜90分の作品を製作、2010年度を目処に大阪市内の劇場で、一般に向けて公演を開始。2012年頃に海外公演の実施を目指すという。


URL
  大阪大学 石黒研究室
  http://www.ed.ams.eng.osaka-u.ac.jp/
  大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
  http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/
  イーガ
  http://www.eager.co.jp/

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〜大阪大学 石黒 浩 教授(2006/08/01)



( 三月兎 )
2008/11/27 19:18

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