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コンピューターが人間を超える日、「シンギュラリティー」は起こるのか
〜米シリコンバレーで会議開催、インテルやIBMなどが研究内容を紹介


 米シリコンバレーで10月25日(土)、「Singularity Summit(シンギュラリティー・サミット)」と呼ばれる会議が開かれ、コンピューターやロボットの専門家など約500人が参加した。「シンギュラリティー」とはコンピューターの知能が人間を超える現象、またはその瞬間を意味する言葉で、米国でシンギュラリティーを信じる人々の間では、この現象が早ければ今後5年で、遅くとも40年以内には実現すると考えられている。今年で3回目を迎える今回の会議では、インテルとIBMの大手ハイテク企業2社や、マサチューセッツ工科大学(MIT)のシンシア・ブレジール准教授などが研究内容を紹介した。

 「Good morning Singularitans!(シンギュラリティーを信じるみなさん、おはようございます)」

 今年の会議は、主催者である非営利団体のSingularity Institute for Artificial Intelligenceの司会者による明るい一声で始まった。会議に参加している人々のうちどれくらいが実際にシンギュラリティーを信じているのかは定かではないが、大部分を占めていることは確かなようだ。


会場入り口 会場内には多くの人が集まった

 シンギュラリティーという言葉は通常、数学や天文学で使われる言葉で、日本語では「特異点」と訳される。その周りでは因果関係が成立しなくなる点の総称だが、「シンギュラリティー信者」たちにとっては、今後コンピューターがどんどん賢くなり、ある時点でその知能が人間を超えることを指している。シンギュラリティーが本当に起こるのかについては賛否両論があり、シンギュラリティー信者の間でも、それがどのような過程を踏んで起こるのか、またコンピューターが人間を超えた後に世界はどうなるのかについては意見が分かれる。シンギュラリティーに到達後、人間の抱える問題がすべて解決され、人間は永遠の寿命を持つようになるという説から、コンピューターが次々に自身よりも高知能のマシンを作り続けるようになるので、人間は不要になるという説までさまざまだ。

 シンギュラリティー派の主要人物で、サミットを創設したのがレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏だ。光学式文字認識(OCR)装置やシンセサイザーの開発で功績のある発明家で、2045年までにシンギュラリティーが起き、人間は不死身になると信じている。この日、同氏はコンピューターの能力が指数関数的成長を続けていることを示したうえで、その現象がトランジスタの性能向上にとどまらず、磁気記憶技術や太陽電池の製造技術にもあてはまることを指摘した。「シンギュラリティーにつながる指数関数的な成長現象はIT(情報技術)にあてはまるが、今や遺伝子やエネルギーの研究、ナノテクノロジーもIT化しており、今後はこれらの技術分野も指数関数的な成長を免れない」とカーツワイル氏は語った。


サミットを創設したレイ・カーツワイル氏 2010年までのコンピューターの成長指数を表したグラフ

磁気記憶技術も指数関数的成長を続けている 太陽電池の製造技術も同様

シンギュラリティーへ向けた「土木工事」

 シンギュラリティーに向けて大きな役割を果たしているのが、トランジスタの集積密度が18〜24カ月ごとに倍になるという「ムーアの法則」だ。米IEEE(電気電子技術者協会)が発行する月刊誌Spectrumの2008年6月号によると、この法則を見出したゴードン・ムーア氏本人はシンギュラリティーを信じないようだが、同氏が共同創業したインテルの現・最高技術責任者(CTO)のジャスティン・ラットナー(Justin Rattner)氏は、サミットで「Countdown to Singularity(シンギュラリティーまで秒読み)」と題した講演を行なった。

 インテルは今年で創業40周年を迎えるが、ラットナー氏によると2008年の夏に「これからの40年を予測する」社内幹部会議が開かれ、そこで同氏は初めてシンギュラリティーに言及した。同氏は社内での評価が非常に高かったため、同年8月に同社が開いた開発者向け会議「IDF(Intel Developer Forum) 2008」でもシンギュラリティーについて話すことにし、その結果、「過去10年間で私が行なった50〜60件の基調講演の中で最も反響が大きく、最大数のメディアに取り上げられた」という。

 同氏によると、従来のシリコン・ゲートを用いたトランジスタに限れば「ムーアの法則は、昨年終わった」という。インテルはシリコン・ゲートを新しいハフニウム・ベースのゲート素材に置き換えることで同法則が持続できるようにし、現段階では「今後8〜10年はこのまま続きそう」だ。また2020年以降を見越し、同社はスピン・トランジスタや分子トランジスタなどの研究にも取り組んでいる。「私は言わば、シンギュラリティーに至るまでの土木工事の責任者である」と同氏は語った。

 ラットナー氏は次に、インテルがムーアの法則をトランジスタ以外の分野にどのように応用しようとしているかについて話した。1つは「完全デジタル」無線技術の開発だ。同氏によると、10年後には携帯電話や携帯型端末などにとどまらず無線通信の利用がどんどん拡大し、世界で人口1人当たり1,000個の無線機が出回るようになる見込みだ。ところが今のままではアナログIC技術が妨げとなって、小型化に限度があり、限られた周波数を有効利用できないという。インテルは2000年ころからアナログ技術をすべてデジタルで置き換えた「cognitive radio(認識能力のある無線機)」の開発に取り組んでおり、すでに完全デジタルのチューナーとアンテナ、パワーアンプを開発済みだ。2009年には完全デジタル・トランシーバーを開発できると同氏は予測する。


インテルの現・最高技術責任者(CTO)のジャスティン・ラットナー氏 「シンギュラリティーまで秒読み」と題した講演が行なわれた

10年後には無線通信の利用がどんどん拡大するが、今のままではアナログIC技術が妨げとなり、限られた周波数を有効利用できないという 2009年には完全デジタル・トランシーバーを開発できるとラットナー氏は予測している

 また、インテルは米カーネギー・メロン大学(CMU)などと共同で、集積した多数の極微小ロボットを制御することで、自由自在に形を変えて人間や物体に似せられる「programmable matter(プログラム制御可能な物質)」を開発中だ。この分野は「Claytronics(クレイトロニクス)」と呼ばれ、コンピューターで制御可能な各微小ユニットは「Claytronics atom」を略して「catom(カトム)」という。

 数十万から数百万という単位でこうした微小ロボットが制御できれば、その可能性は無限大だ。ラットナー氏は1つの可能性として、コンピューター支援による設計(CAD)の代わりに実際に手で触れながら新車のデザインを変えられる応用例を挙げ、その映像を紹介した。最初に開発したカトムは2次元で動き、大きさはセンチメートル単位と大きかったが、2008年からガラスの球面を使ったミリメートル・スケールの3次元カトムの開発を始めた。

 ラットナー氏は最後に「シンギュラリティーが来るのが一日でも早くなるように、そしてその過程で少しでも金儲けできるようにインテルでは研究開発を続ける」とし、話を締めくくった。


【動画】コンピューター支援による設計(CAD)の代わりに実際に手で触れながら新車のデザインを変えられる応用例 最初に開発したカトムは2次元で動き、大きさはセンチメートル単位と大きかった 今年からミリメートル・スケールの3次元カトムの開発を始めた

人間の脳のシミュレーションも視野に

 次に「脳を理解し、できるだけ早く安く脳を作ろうという“謙虚な”ゴールを持っているのが我々のグループ」と講演したのはIBMのアルマデン研究所のダーメンドラ・モジャ(Dharmendra Modha)博士だ。「人間の知性を真似たいのであれば、人間の脳をシミュレーションしなければならない。知性を工学的に作り出したいのであれば、脳をリバース・エンジニアリングしなければならない。これを我々は『cognitive computing』と呼んでいる」と同博士は説明したうえで、このような大胆なプロジェクトに取り組むには「今は最適のタイミングである」と語った。

 同博士によるとタイミングが最適である理由は3つ。第1に「神経科学の分野が成熟した」こと。ニューロンやシナプスの働きや相互関係が明らかになり、それらをさらに深く探究するための道具もそろってきた。「大脳皮質の中の回路が、ひょっとするとネズミから猫、猿から人間まで、みんな共通しているのではないかという大胆な仮説が立てられるようになった」とモジャ博士は言う。


IBMのアルマデン研究所のダーメンドラ・モジャ博士 モジャ氏の頭の中

 第2に、スーパーコンピューターの技術が進歩し、「哺乳類の脳のニューロンやシナプスの働きがある程度の複雑性を持つと仮定するのであれば、脳をシミュレーションできるくらいのマシンやアルゴリズムが可能になった」とモジャ博士は語る。同博士のチームはこのほど、実際の10分の1の速さで機能するネズミの脳のシミュレーションに成功し、「2018年までには人間の脳のスケールでシミュレーションが可能になる」と予測する。ただし「人間の脳のスケール」とは計算処理能力に関したことで、「できた脳が何らかの知能を現すとは限らない」と注釈を加えた。

 しかしスパコンは非常に高価だし、常に持ち歩くわけには行かない。そこでモジャ博士の指摘する第3のトレンド、ナノテクノロジーの進歩が貢献してくる。人間の脳には1平方センチメートル当たり約100万のニューロンがあるが、ナノテクノロジーによってこれを真似することはいずれ可能だと同博士は見ている。


モジャ博士のチームは実際の10分の1の速さで機能するネズミの脳のシミュレーションに成功し、2018年までに人間の脳のスケールでシミュレーションが可能になると予測 スパコンの能力が脳に近づいてきた

人間と協力するロボットから仮想ペットまで

 人間とロボットのインタラクションの分野で著名な、MIT(マサチューセッツ工科大学)のブレジール准教授は、「私はシンギュラリティーのことを日々考えながら研究しているわけではない」と断りながら、最近の研究成果についてプレゼンテーションを行なった。「人間とゴールを共有できるように、人間と精神状態や行動を合わせられるようなマシンを作るにはどうすれば良いか」というのが同准教授の大きな研究テーマ。「Robot sidekick(ロボットの親友、助手)」を作るのがゴールだ。

 人間とロボットの相互作用の研究を目的にブレジール准教授らが開発したのが、ロボットの「レオナルド(Leonardo)」だ。同准教授はまず、ソーシャルスキルの学習・獲得に長けている新生児、幼児のやり方を模倣することにした。例えば、新生児は生まれて数分後には他人の顔の表情を真似ることができるようになるが、発達心理学の分野の研究成果を利用しながら、レオナルドが人間の顔の表情を模倣できるようにした。

 次に、幼児が1歳くらいから何か新しい場面に遭遇すると、それにどのように対応すべきかを判断するにあたって、母親などの表情・行動を参照する「social referencing」を行なうことを見習い、この能力をレオナルドに持たせることにした。下の映像で示されているように、人間が「こいつは悪いやつ」と教えたぬいぐるみに対して、レオナルドは拒否反応を起こすようになる。さらに高度な実験として、1人の人間が2種類のお菓子を別々の箱にしまい、その後、別の人間がいたずらしてそれらを入れ替える場面をレオナルドに見せた。1人目の人間が戻ってきて一方の箱を開けようとすると、レオナルドはその人が入れ替えが行なわれたことを知らないと正しく認識したうえで、その人の求めているお菓子を提供する。さらに、入れ替えを行なった2人目の人間が戻ってきて、箱を開けようとすると、レオナルドはこの人の求めているお菓子を正しく認識し、提供した。「シンギュラリティーが起こるかどうかは別として、起こった場合には、ロボットはこのように人間に協力的であったほうが良いのではないか」とブレジール准教授は冗談交じりで語った。


MITのブレジール准教授 【動画】発達心理学の分野の研究成果を利用しながら、レオナルドが人間の顔の表情を模倣できるようにした

【動画】人間が「こいつは悪いやつ」と教えたぬいぐるみに対して、レオナルドは拒否反応を起こすようになる 【動画】高度な実験でもお菓子を正しく認識し、提供したレオナルド

 このほか、人間の遺伝子解析や宇宙開発分野の話などサミットにおける講演の内容は多岐にわたったが、中でも興味深かったのは、仮想空間内のエージェントの開発に取り組む米Novamente社の最高経営責任者、ベン・ガーツェル氏の話だ。シンギュラリティーの実現には、従来のように個々の狭い領域で役立つ人工知能(AI)ではなく、人間のように幅広いタスクに対応できる汎用的なAI、すなわち「Artificial General Intelligence (AGI)」の開発が必要だと考えられているが、同氏らはオープンソース方式でAGIを開発する「OpenCog」プロジェクトを先導している。AGI用の言わば基本ソフト(OS)となる「OpenCog Framework」と、その上にのるアプリケーションを開発しようというのだ。

 同氏によると、現在はOpenCogを使って、学習能力のあるバーチャル・ペットを開発中だ。仮想空間内の犬は人間の振りを見ることによって自分もダンスを学習しようとしている。下の映像では撮りきれなかったが、この後、犬はダンスができるようになる。「中国ではヒューマノイド・ロボットにOpenCogを活用するプロジェクトが進んでいる」と同氏は明かす。


Novamente社の最高経営責任者であるベン・ガーツェル氏 【動画】ベン・ガーツェル氏は、現在OpenCogを使って学習能力のあるバーチャル・ペットを開発中

 このところ株式市場が乱高下し、世界経済が大きく揺れているが、サミットに参加したSF作家で、1993年にシンギュラリティーに関するエッセイを発表し、この分野にスポットライトを当てるきっかけを作ったバーナー・ビンジ(Vernor Vinge)氏は、次のように語った。

 「人間の定義とは、インテリジェンスをアウトソーシングできる生き物。人間はますます知識の大きな部分をテクノロジーにアウトソーシングしようとしており、その結果、人間の世界はこれからどんどん不確実になる」


URL
  シンギュラリティー・サミット
  http://www.singularitysummit.com/


( 影木准子 )
2008/10/30 00:14

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