宇宙航空研究開発機構(JAXA)の相模原キャンパスにおいて、10月11日(土)よりM-Vロケットの実機展示が開始された。M-Vは2006年9月の打上げを最後に退役したロケットだが、2号機が未使用で残っており、展示に活用した。井上一・JAXA理事は「本物のロケットをみなさんに見てもらいたい」と述べる。
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JAXA相模原キャンパス。一般の人も見学が可能になっている
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実機モデルはキャンパス構内に設置。やはり実機は迫力がある
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ペイントは2号機用。展示のために新しく塗り直されたとか
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これは6号機の打上げ
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M-Vロケットは、JAXA宇宙科学研究本部の前身である宇宙科学研究所(ISAS)が開発した全段固体燃料の大型ロケット。地球低軌道に1.8tの人工衛星を運ぶ能力があり、キックステージを追加することで、惑星間軌道への探査機投入にも対応できる。これまでに6機の打上げに成功し、日本の宇宙科学に貢献したものの、コストの高さが問題となり、2006年に廃止が決まった。
【M-Vロケットの打上げ実績】
機体 | 打上げ日 | 搭載した衛星 |
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1号機 | 1997年2月12日 | 電波天文衛星「はるか(MUSES-B)」 |
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2号機 | - | 月探査機「LUNAR-A」(※計画中止) |
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3号機 | 1998年7月 4日 | 火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」 |
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4号機 | 2000年2月10日 | X線天文衛星「ASTRO-E」(※打上げ失敗) |
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5号機 | 2003年5月 9日 | 小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」 |
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6号機 | 2005年7月10日 | X線天文衛星「すざく(ASTRO-EII)」 |
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7号機 | 2006年9月23日 | 太陽観測衛星「ひので(SOLAR-B)」 |
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8号機 | 2006年2月22日 | 赤外線天文衛星「あかり(ASTRO-F)」 |
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上の表を見て分かるように、2号機の打上げが行なわれておらず、残っている部分を利用して展示機を組み立てた。ただ1段目に関しては、6号機に流用されてしまったので、予備品を使用。またフェアリングも本物にはコルクが使われており、雨に弱いという問題があるため、展示用のダミーが取り付けられている。
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1段目のノズルはダミー
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この2段目は本物だ
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ちなみに、M-Vロケットは5号機以降で大幅な設計変更があり、そのため2段目が流用できずに残っていたのだが、推進剤がそのまま積まれていたので、今年3月に能代で燃焼試験が行なわれたのだという(火薬を積んだ状態で展示はできないので、それならばデータを取ってしまおう、ということ)。ノズルのあたりに「推進剤が燃えた匂いがまだ残っている」そうだ。
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展示機の2段目は燃焼試験に使用された。写真は試験後に燃えカスがくすぶっているところ
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本来は真空に近いところで使用されるものなので、地上での燃焼試験ではノズルが短く切られた
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展示機の2段目ノズルを覗くとこんな感じに。切られた部分を境に色が変わっているのが分かる
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中には推進剤が詰まっていた。中央がくり抜かれているのは、より速く燃焼させるため
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燃焼試験の様子。同日開催された記念講演では、大迫力の動画が紹介された
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記念講演で燃焼試験の様子を報告した実験主任の羽生宏人氏
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あいにくの雨模様となってしまったが、実機展示の公開に先立ち、相模原キャンパス構内では完成披露式典が開催され、井上一・宇宙科学研究本部長(JAXA理事)が挨拶したほか、相模原市の山口副市長が祝辞を述べた。また午後からは隣接する相模原市立博物館において記念講演会も開催され、元M-Vプロジェクトマネージャである森田泰弘氏が「M-Vが残してくれたもの、そしてこれから」と題し講演を行なった。
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式典前は幕がかけられていたのだが、あいにくの雨でスケスケ
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式典で挨拶する井上一・宇宙科学研究本部長(JAXA理事)
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除幕式。……だが、ピッタリくっついて、全く動かず
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スタッフも総出でなんとか幕をはずせた
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設置場所はM-3SIIロケットの模型が展示されていた場所の向かいになる
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講演での森田泰弘氏。現在は次期固体ロケットのプロマネとして活躍中
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今回公開された実機モデルは横に寝かされているが、やはりロケットであるからには「立てたい」と井上本部長。JAXA相模原キャンパスはキャンプ淵野辺(在日米軍が1974年に全面返還)の跡地にあるが、近くには未開発部分が残されており、現在、相模原市はこの場所の利用計画を策定しているところ。JAXAも利用を希望しており、将来的に、実機展示がこの場所に移設される可能性もあるそうだ。
最後に余談となるが、今回の実機展示を記念して、ISASのモバイルサイトでは、「M-Vロケット打上げ」と「2段目モータの燃焼試験」の着信音のダウンロードを開始した。どちらも10秒間のカウントダウンから始まっており、10秒以内に電話に出ないと大変なことになるとかならないとか……。
■URL
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究本部
http://www.isas.jaxa.jp/
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( 大塚 実 )
2008/10/14 14:16
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