Robot Watch logo
記事検索
最新ニュース
【 2009/04/21 】
ロボットビジネス推進協議会、ロボ検を開始
~メカトロニクス・ロボット技術者の人材育成指標確立を目指す
[17:53]
グローバックス、名古屋にロボット専門店をオープン
~5月2日~5日にプレオープンイベントを開催
[17:05]
「ロボカップジュニア九州ブロック大会」開催
~ジャパンオープン大会の出場チームが決定
[14:32]
【 2009/04/20 】
研究者たちの「知りたい」気持ちが直接わかる
~理研一般公開でのロボット
[15:15]
【やじうまRobot Watch】
巨大な機械の「クモ」2体が横浜市街をパレード!
~横浜開港150周年記念テーマイベント「開国博Y150」プレイベント
[14:20]
【 2009/04/17 】
第15回総合福祉展「バリアフリー2009」レポート
~ロボットスーツ「HAL」や本田技研工業の歩行アシストも体験できる
[19:46]
「第12回 ロボットグランプリ」レポート【大道芸コンテスト編】
~自由な発想でつくられた、楽しい大道芸ロボットが集結!
[14:57]
【 2009/04/16 】
北九州市立大学が「手術用鉗子ロボット」開発
[14:34]
ROBOSPOTで「第15回 KONDO CUP」が開催
~常勝・トリニティに最強のチャレンジャー現る
[13:17]
【 2009/04/15 】
「第15回ROBO-ONE」が5月4日に開催
~軽量級ロボットによる一発勝負のトーナメント戦
[18:50]
ヴイストン、秋葉原に初の直営店舗「ヴイストンロボットセンター」、29日オープン
[13:37]
【 2009/04/14 】
大盛況の「とよたこうせんCUP」レポート
~ロボカップにつながるサッカー大会が愛知県豊田市で開催
[11:34]

パワードスーツが大暴れするアクション映画「アイアンマン」
~ネタバレしないギリギリでそのスペックを徹底紹介


アイアンマンのポスター。9月27日(土)公開
 最近、サイボーグが主役やヒロインだったり、パワードスーツが活躍する映画やドラマなど、ロボットをテーマとした作品を見かけることが多い。この9月27日(土)に公開予定のソニー・ピクチャーズの「アイアンマン」もそのひとつだ。パワードスーツのアイアンマンが活躍する、マーベル・コミックス原作のSFアクション映画である。

 マーベルの映画製作部門であるマーベル・スタジオが初めてマーベルのキャラクターを映画化した作品となる(これまでは、ほかの映画会社と共同製作だった)。製作総指揮には、「スパイダーマン」を初めとする同社が製作に関わった作品に必ず名を連ねるスタン・リー。そして監督兼製作総指揮をジョン・ファヴローが担当している。その試写会に足を運んできたので、作品やパワードスーツ・アイアンマンについて紹介しよう。


巨大軍需産業のCEOがテロリストと戦うヒーローに!

 舞台は現代のアメリカ。同国の巨大軍需産業スターク・インダストリーズのCEO(最高経営責任者)であるアンソニー・“トニー”・エドワード・スターク(演じるはロバート・ダウニーJr.)を主人公に、物語は展開していく。巨大軍需産業の社長をしているだけでなく、天才発明家でもあり、スーパー・セレブ(かなりのプレイボーイ)なのである。

 しかし、自らが開発した新型兵器ジェリコ・ミサイル(ミサイルから多量の子ミサイルをばらまき、広範囲を一気に攻撃できる地対地ミサイル)の実験のためにアフガニスタンに向かったところ、価値観が180度変わる大きな転機が訪れる。実験場でラザ(ファラン・タヒール)率いるテロ集団に襲われ、拉致されてしまったのだ。そこで心臓を負傷するという重傷を負うが、同じく監禁されていた医師のインセン(ショーン・トープ)によって一命をとりとめる。ただし、体内にはペースメーカーと、取り出せなかった破片が心臓に近づいていかないよう、磁力で引きつける即席の装置も併せて埋め込まれた。

 そんな最悪の状況下で、スタークは自社の兵器の数々がテロ活動に利用されているという事実を知ることになる。そして、ジェリコ・ミサイルの製造を強要されてしまう。しかし、スタークはラザたちをうまくだまして、ジェリコ・ミサイルの開発用にテロリストたちが用意した自社の兵器の部品などを利用して、ハンドメイドのパワードスーツ「アイアンマン・マークI」を開発する。

 インセン医師の命がけの援護によって、マークIで脱出したスタークは、軍とのパイプ役で、なおかつ友人である米空軍中佐のローディ(テレンス・ハワード)率いる救助隊に発見され、米国に命からがら帰還するのだった。


主役のトニー・スターク。アフガニスタンでテロの攻撃を受けたところ テロリストに拉致監禁されている医師のインセン。スタークの命の恩人 左がテロリストの首領のラザ。目つきが非常に鋭い

こっそりマークIを造るスターク。ヘルメットを製作中。胸には超小型アーク・リアクター 火炎放射器でテロリストの拠点を燃やしまくるマークI。意外と戦力がある 救助に駆けつけた友人のローディ。空軍中佐で、合衆国政府の軍事アドバイザーを務める

 自社に戻ったスタークは、緊急記者発表を行なう。テロリストたちに自社の兵器が悪用されている事実を知ったことで価値観が変わり、スターク・インダストリーズの軍需産業からの撤退を告げるのだった。

 先代の父親の友人で会社のナンバー2であるオバディア・ステイン(ジェフ・ブリッジス)は、それに反対して何度も説得しようとするが、スタークの意志は揺るがない。そして、自らが開発した兵器で苦しんでいる人々を救いたいという熱意に突き動かされ、優秀な女性秘書ペッパー・ポッツ(グウィネス・パルトロー)の助けを得て、作業部屋に籠もってパワードスーツの開発に没頭していく。

 しばらくして、戦闘機並みの飛行能力を備えた「アイアンマン・マークII」の完成に至る。そして、そのマークIIを使った性能テストで弱点を発見したスタークは、素材を変えるなどして対策を施した「アイアンマン・マークIII」を完成させる。カラーリングは、愛車の1台(ホットロッドマシン)の炎風のハデなカラーリングをモチーフとし、赤と金。

 無敵の機体を持って、世界に不和をもたらす悪との戦いを決意するスタークだったが、彼の気づかぬうちに陰謀が足下から進行していた。はたして、スタークの運命は!? ということで、後はぜひ映画を見ていただきたい。


社のナンバー2のオバディア・ステイン。スタークの父の代から社を支えてきた オバディアはおいしい兵器産業を続けるようスタークの説得を試みる スタークの秘書のペッパー・ポッツ。冷静沈着で頭の回転が速く、意志も強い女性だ

スタークとポッツの関係は、社長と秘書から男女の間に発展……!? アイアンマンの開発開始。作業場は豪邸の車庫でもある ポッツに襲いかかる黒い巨体。彼女の運命は!?

 なお、原作コミックは1963年デビューということで、映画はいくつかの設定が現代風になっている。

 まず、スタークがアイアンマンとなるきっかけは、原作ではベトナム戦争となっているが、21世紀風にアフガニスタンに場所を移し、敵もテロリストと改められている。

 また、原作の舞台はニューヨークだが、映画ではロサンゼルスと改められている。これは、「スパイダーマン」などほかのマーベルコミック原作の作品もニューヨークが多く、舞台が似通ってしまうため、違う映像をファヴロー監督が欲したからだそうだ。ちなみにスターク・インダストリーズはロサンゼルスの街中にあるようだが、スタークの豪邸は少し街から外れた、海に面した断崖絶壁の上に建っている。

 また、その豪邸や豪邸の地下にある作業場などを管理しているジャービスは、原作では人だが、映画では人工知能となっている。それから、女性秘書ペッパー・ポッツは、原作ではスタークにおべっかを使うキャラクターだが、映画では現代風の「自立した女性」として描かれている。


アイアンマンのスペック

 ストーリーなども気になるところではあるが、本誌読者が最も気になるのは、やはりアイアンマンのパワードスーツとしてのスペックだろう。足裏についたエンジンでマッハ8もの速度で飛行できたり、手のひらから光線を出したりと、なかなか大胆な設定のアイアンマンだが、ここではあえてマジメ(?)にそのスペックを考察してみたいと思う。

 まず、マークIIIの公式なスペックは下記の通りだ。

・身長:185cm(スーツ装着時198cm)
・体重:102kg(スーツ装着時192kg)
・右腕:対戦車ミサイル搭載
・両手のひら:リパルサー光線(破壊力を持つ特殊なレーザー誘導粒子線)放出装置搭載
・足:超小型ジェット機能搭載
・胸:用途に応じてさまざまな光線を発生させる小型動力源およびトニーの心臓を守るペースメーカーを搭載
・動力源:アーク・リアクター(数ギガジュールで稼動する、熱プラズマ反応炉)
・パワー:3tの物を持ち上げられる
・飛行速度:マッハ8
・スーツ外郭の材質:金とチタンの合金 ※軍事衛星などの素材に使われている

 いくつか補足すると、スーツ装着時に身長が変化するのは、もちろん装着者のスタークにフィットさせるために各パーツが調節されることが主な理由と思われる。体重は、もちろんスターク自身の体重もあると思うが、もしかしたら、燃料などすべてを装備した状態が192kgということかもしれない。

 なお、装着する際は、実は意外と手間がかかる。パワードスーツというからには、着込むように手足を入れていくイメージがあるが、アイアンマンは違う。

 作業場のフィッティング機器の上に立ち、まず靴のように足の部分を履いて、そこに前後からスタークをパーツが挟み込むようにしてアイアンマンのパーツが装着されていくのだ。装着には何本ものロボットアームが活躍する(開発作業中も、1台のロボットアームがいろいろと手伝ってくれる)。

 よって、日本の特撮ヒーローのように、まずは変身前にスタークが生身で闘って、いざとなったら決めポーズと共に(笑)転送されてきて、スーツを瞬間的に装着するというようなことはない。もちろん、変身直後にバーンと見得を切って、赤と黄(金は無理なので)の爆煙をバックに「アイアンマン参上!」などとも叫ばない。見に行く際は変な期待をしないようにしよう(いないと思うけど)。

 またアイアンマンの武器だが、スペックにある両手のひらのリパルサー光線と右腕の小型ミサイル(戦車を一発で吹っ飛ばせる)のほかに、両肩部(というより首の付け根に近い)の小型の多連装式の銃(拳銃クラスと思われる対人用の弾丸を、同時に複数の目標に向かって発射できる)などがある。そのほか武器ではないが、太ももの辺りから、フレアを発射することも可能だ。さすがにアイアンマンといえど、ミサイルの直撃は危険と考えたのだろう。赤外線追尾式のミサイルだけでも回避できるようにした、というわけである。


アイアンマン。原作に忠実なので、ちょっと日本人好みの顔ではないかも 武器のひとつ、右腕の小型ミサイル

 それから、マークIとマークIIについてだが、マークIは廃材で造った甲冑というイメージ。無骨だが、こちらの方を気に入っているというスタッフもいるようだ(確かにこちらの方がリアルかも知れない)。頭部はのぞき穴があり目視なので、そこを狙われると非常に危ない。監視カメラ付きの状況下で、どうやって燃料を用意したのか不明だが、両腕に火炎放射器を装備しているなど、意外なほど戦力を有している。

 一方のマークIIは全身銀色をしているが、形状はほぼマークIIIと同じことから(細部は異なっている可能性がある)、スペック的にそれほど劣らないと思われる。装甲材質がマークIIIに比べて劣っているのと、とある物理現象に対する対策が取られていない点が大きな違いだ。マークIIは、マークIII製作のために分解されてしまったわけではないので、スタークの作業場に存在している。そのほか、もう1機パワードスーツが出てくるが、それはぜひ映画館でご覧いただきたい。

 ちなみに原作での話なので余談だが、アイアンマンには宇宙仕様や深海仕様のほか、同じマーベル作品とのコラボレーションも多く、暴れるハルクを押さえつけるための仕様「ハルクバスター」なども登場する。

 また、友人のローディも、原作ではWAR MACHINEというパワードスーツを装着。ともにヒーローとして活躍する。となると日本での公開前から続編を期待してしまうところだが、実をいうと早くもシリーズ化が決定しており、続編「アイアンマン2」(仮)は全米で2010年4月30日(金)に封切られる予定。ここにWAR MACHINEやハルクバスターなどが登場するかも知れないし、スパイダーマンやファンタスティック・フォーなども所属するスーパーヒーローチーム「アベンジャーズ」も描かれるかも知れない。

 ちなみに、マーベル映画でのコラボレーションはすでに実現しており、8月1日に一足早く封切られた「インクレディブル・ハルク」に、トニー・スタークが登場しているそうだ。


マークI。武器のパーツなどを利用して作られた 製作中のマークIIIとスタークの間にある銀色の人型がマークII

アイアンマンの装甲は金とチタンの合金

 アイアンマンの装甲に関しては、かなり現実的である。実際に軍事衛星などに利用されているという、金とチタンの合金を使用しているそうだ。しかし、衛星の素材というと先端中の先端技術なので、企業秘密とか軍事機密に抵触するためか、実際に金とチタンの合金が使われているのかは残念ながら確認できなかった。チタン系の合金としては、炭素や窒素を反応させた超硬度の合金は存在するようである。

 一方の金は金属としては柔らかい部類に入るが、その特性を活かして、ほかの金属との合金を作りやすいという特徴を持つ。耐腐食性もチタンや白金と並んで高く、人工衛星には実際に保護材として全体にコーティングとして使われているそうだ。もしかしたら、アイアンマンは、チタンの上に金でコーティングしてあるということなのかも知れない。

 また、アイアンマン・マークIIおよびマークIIIのボディは、装甲板がかなり細かく分割して稼動する仕組みである点も特徴だ。あちこちの装甲がウネウネと動くシーンが劇中で見られた。中でも重要なのが肩胛骨の辺りの装甲。ここはフラップになっていて、飛行時には姿勢制御および方向舵として使用するのだ。

 ちなみに、右腕の小型ミサイルも、装甲板がパカパカっと開いて外部にミサイルを抱えたランチャーが出てくる仕組み。ミサイルの収納数は不明だが、小型とはいえ腕部に収まっているので、そう多くはなさそうである。

 なお、装甲はいくら攻撃を受けても傷ひとつ付かないというわけではない。さすがに戦車砲や戦闘機に搭載されている機関砲などの直撃を受ければ、傷だらけになる。アイアンマンの全パーツは、5時間ほどで製作できるようなので、激戦を経てボロボロになったパーツは、セレブらしく(?)どんどん新品パーツに取り替えるのではないだろうか。


最高でマッハ8の速度を出せるアイアンマンの飛行システム

 上記のスペック表は入手した資料によるものだが、飛行に関しても補足したい点がある。足に超小型ジェットとあるが、実際には既存のジェットエンジンが搭載されているわけではない模様。

 確かに足裏から噴射炎を出して飛んでいるのだが、既存のジェットエンジンではないと考えられる理由の1つとして、常識的に考えて足裏のわずかなスペースには、搭載できるわけがないからだ。しかも、噴射炎の大きさから予想されるほどの大きさを持ったエアインテークは脚部にはないようである。もしかしたら、装甲板が稼動してエアインテークが出現するのかも知れないが、飛行シーンはかなり高速なので、試写会1回の視聴では残念ながら確認できなかった。

 またもう1つの理由として、ジェットエンジンだと、性能的にせいぜいマッハ2から3ぐらいまでしか出せないという点もある。ラムジェット方式のエンジンならマッハ3からマッハ5ぐらいまでは出せるが、それでもマッハ8までは足りない。その先は、現在、日本を含めて先進国が地上と宇宙の往還用のスペースプレーン(外部タンクなど無しに単体で宇宙との往還を可能とする航空機)や、亜宇宙を弾道飛行して東京~ニューヨーク間を2時間で結んだりする、超音速機などのエンジンとして研究開発が進められているスクラムジェットが必要となる。この方式だと、理論上はマッハ5から15ぐらいまで出せるので、設定上のマッハ8も問題ないというわけだ。

 ただし、マッハ8まで出そうとすると、スクラムジェットエンジンだけでは無理で、静止状態からマッハ2~3ぐらいまでの速度域で使用する通常のジェット、マッハ3~5を担当するラムジェットも搭載しないとならない。スクラムジェットはあくまでもマッハ5以上の高速状態でないと機能できない仕組みなので、3種類のエンジンを搭載しないとならないのだ。よって、システムとして大型にならざるを得ず、足裏だけでなくふくらはぎなども含めたとしても、物理的にアイアンマンには搭載不可能だろうというわけだ。


 では、どういう仕組みで飛行できる推力を得ているのかというと、劇中から推測するに、足裏のジェットは架空の動力源であるアーク・リアクターに直結しているようなので、そこから得られるエネルギーで推進力を得ているのではないかと思われる。

 というのも、アイアンマンは手のひらにリパルサー光線を出す発射装置があるのだが、これもアーク・リアクターに直結しており、しかも撃つときにかなり反動がある(要するに、推進力を得られる)。リパルサー光線は武器として、いわゆる「ドラゴンボール」のかめはめ波のように(片手打ちも可能だが)撃ち出して使うのだが、飛行時には足裏のジェットを補助するために推進力としても使うことが可能だ(加速したい時は手のひらも後方に向けて飛ぶ)。

 おそらく、このアーク・リアクターを利用した架空の推進システムによって、3種類ものジェットエンジンを搭載することなく、静止状態からマッハ8まで持っていけるのではないだろうか。ちなみに、このジェットはとても細かく出力を制御できるので、ホバリングすることも可能である。

 もっとも、連続して噴射するには、質量保存の法則から考えると、やはり何か推進剤でもないと難しいようにも思われる。せめて大きなエアインテークがあって、そこから空気を取り込み、アーク・リアクターのエネルギーで一気に膨張させて、それを噴射する仕組みなのであれば問題ないと思うのだが、リパルサー光線の連続発射(噴射)によるロケット推進的なシステムとして、ここは解釈したい。


飛行中のアイアンマン。両手のひらも後方に向けるため、結構上品というかかわいい姿勢を取る 超小型アーク・リアクター。スタークの生命維持装置でもある

リパルサー光線の発射実験。対人用として使う場合、かなりの威力がある 前腕部(リパルサー光線発射装置)とアーク・リアクターが接続されているのがわかる

 それからアイアンマン・マークIIIが、スペック上、マッハ8の最大飛行速度を出せる点についても、推察しておきたい。これは、おそらく大気の薄い高々度で、「理論的に」出すことが可能という数値ではないかと思われる。おそらく、実用的な速度は装着者のスタークの生命維持を考慮して、ジェット戦闘機とそれほど変わらない速度しか出せないのではないだろうか。

 劇中では、大空のチェイスシーンで、米空軍のF-22を置き去りにする加速を見せるのだが、F-22から発射されたミサイル(AIM-9サイドワインダーまたはAIM-120 AMRAAM)を振り切れるほどの速度は出していない。F-22の速度は、米空軍公式サイトの情報によると「マッハ2クラス」とある。F-22の公式サイト上では、マッハ1.72という数値が確認できた。ミサイルに関しては、AIM-9もAIM-120もともに米空軍の公式サイト上では明記はなかったが、F-22より速いのは当たり前。マッハ3から4程度は出るらしい。

 とすると、その中間ということで、実用速度はマッハ2の半ばぐらいということなのではないだろうか。これ以上になると、いくら装甲にチタンを使っているからとはいえ、表面温度がとてつもなく高くなるので、機体が溶けないとしても、装着者のスタークの生命維持が大変になってくることからも、妥当な数値ではないだろうか。

 ちなみにマッハ8での機体表面温度がどの程度になるのかは調べがつかなかったが、マッハ3なら情報を得られた。すでに現役を退いているが、世界最速の偵察機として名を馳せた米空軍のブラックバードSR-71がマッハ3.2(手元にあるSR-71に関する資料本によれば、米空軍の公式発表では、高度2万5,929mで時速3,529.56km/h=マッハ2.88の世界記録を持つ)を出せたのだが、その速度域になると、高度2~3万メートルの大気の薄い高々度で飛行していても、機体表面温度が500度以上になる部分もあったという。

 また、状況は異なるが、マッハ20以上で大気圏に突入してくるという、スペースシャトルの場合は機体表面が1,500度から2,000度に達するそうだ。よってマッハ8だと、しかもアイアンマンのように空気抵抗の大きい人型だと、先端となる顔面部分(のけぞって少し顔を上げて飛ぶので、特におでこの辺りが最先端)や突き出している肩、手の甲などは最も空気との摩擦があるわけで、ヘタすると1,000度近くまで上がる可能性もある。

 チタンの融解温度は1,668度だが、金は1,064.2度なので、もしかしたら金にはきつい温度かも知れない。また、機体が溶けなかったとしても、熱により金属は膨張するわけで、アイアンマンのように可動部分が多いと、いろいろと不都合も多いことだろう。あくまでも性能上は出せるが、装着者の生命維持や機体への負荷を考えると限界でマッハ2の半ばから3ぐらいでリミッターがかかるという仕組みなのではないだろうか。戦闘機も、エンジンのパワーはあるのでもっと速度を上げられるが、機体が持たないということで最高速度が決まっていることがよくあるそうである。


アイアンマンのエネルギー炉のアーク・リアクターについて

 続いては、アイアンマンの動力源であるエネルギー炉のアーク・リアクターに触れてみたい。この装置は別称では熱プラズマ反応炉ということで、実際にありそうである。磁気で高温(1億度)のプラズマを封じ込めるタイプの熱核融合炉を想像してしまうが、劇中の様子からすると、それではないらしい。なにしろロサンゼルスの街中に設置されているし、超小型化したアーク・リアクターをスタークは体内に埋め込んで(取り出しはすぐ行なえる仕組みだが)いるのである。

 しかも、プラズマ性の廃棄物というものが出てくるみたいだし(これは見た目と触り心地がドロドロの膿のようなだけで、触っても害はないらしい)、小型の物ですら1秒間に3ギガジュールものエネルギーを発生する高出力というのもあるので、既存の発電システムやバッテリなどではないようである。

 このエネルギー炉を開発したのは、唯一それを小型化できたのがスターク自身であることから見ると、スタークだと予想される。実際に社の電力をまかなっているのかどうかは不明だが、スターク・インダストリーズの本社社屋内にその巨大な装置が象徴的存在として設置されており、以前からあるが使い道がないスタークたちがとらえていたところからすると、スタークの父親の開発による物なのかも知れない。

 スタークが超小型版を造るのは、テロリストたちに捕まっていた時である。アイアンマン・マークI同様に、あり合わせの素材を使っているので、プロトタイプともいうべき性能である(便宜上、1号機と呼ぶ)。心臓のペースメーカーや、手術で取り出せなかった破片が心臓に達しないよう食い止めるための電磁石に電力を送るために必要で造ったというわけだ(インセン医師が手術した際は、クルマのバッテリを動力源として使用)。

 アイアンマン・マークIは、この1号機を動力源にして動作するのだが、稼動時間は15分である。帰還後に、スタークは設備の整った自身の作業場で新たに2号機を作り出すのだが、こちらは素材によりいい材料を使い、コンピュータで正確に計算するなどして組み立てたのだろう。出力のアップが図られており、1秒間に3ギガジュールのエネルギーを発生する。2号機をアイアンマン・マークIIIの動力源とした場合に100%とすると、1号機は30%強の出力しか得られない(マークIを動作させたりして、消耗していた可能性もある)ようだ。


 アーク・リアクターの優れている点は、高出力でクリーンというところだが、どうやら直接そのエネルギーを電力として取り出せるらしいという点も大きなメリットだ。なぜかというと、とてもダイナモを回して電気を得ているようなサブシステムが存在するようには見えないからだ。

 また、名称からして化学反応を利用する電池やバッテリでもないはずである。おそらく、アーク・リアクターで発生した熱を利用して温度差を生じさせ、そこから電力を得る熱電変換材料がシステム中に組み込まれているのだろう。これまでは熱を電気に変換するというと、原発などで使われているように、熱で水を沸騰させてその蒸気でタービンを回し、その動力でダイナモを回すという方式が一般的だ。

 しかし、とてもそんな仕組みがスタークの胸中に収まっているとは思えないので、熱電変換材料を用いて電力を発生させていると考えられるわけだ。ちなみに、古河機械金属が8月20日付けで発表したリリースでは、同社が新たに開発したスクッテルダイト系熱電変換材料で、上面720度下面50度という温度差の条件で、出力33ワット(変換効率7%)を得たと発表している。

 きっとアーク・リアクターには、もっと高効率の熱電変換材料が使われていることだろう。しかも、体内に入れるのだから、アーク・リアクターは何百度という温度を発生しないはずである。体調に異常をきたさない程度で体温より高い温度を高温側、体温を低音側とし、その10度程度、せいぜい数10度ほどの温度差で、超効率的に電力を発生させているに違いない。

 また、アーク・リアクターそのものを稼動させるエネルギー源だが、これについても資料はない。取り出しはある程度しやすくしてあるとはいえ、しばしばエネルギー切れで取り替えていたのでは面倒なことから、おそらく、スタート時には外部からの動力を補助的に必要とするが、一度稼動してしまうと、その生み出すエネルギーの一部を運転に使用でき、半永久的に稼動できる核融合炉的な仕組みになっているのではないだろうか。

 とはいっても、さすがに無限のエネルギーというわけではないようで、前述したとおり1号機でアイアンマン・マークIを稼動させる際は15分間しかもたないし、2号機でもマークIIIを動作させた場合でも、稼動時間は有限であった。なにはともあれ、夢のような動力源なので、いつか現実の人類も手に入れてほしい物である。


アイアンマンの生命維持システムと操作用インターフェイス

 アイアンマンの性能が非常に素晴らしいのは、これまでの説明で承知していただけたことだろう。しかし、中には普通の人間であるスタークが入っているわけで、生命維持システムがないと、ヘタをしたらアイアンマンによって殺されてしまう可能性もある。

 特に、F-22とのチェイスシーンでは、相当な加減速を行なったはずで、スタークは内臓破裂や骨折、強度の脳震とうなどを起こしていないか心配してしまったほど(そのぐらい、迫力あるシーンなのだ)。アイアンマンは、フェイス部分もパカっと開いてスタークが顔を見せられたり、装甲板も可動部分が多かったりするなど、すき間が多そうなのだが、内部の環境維持能力は非常に高い。高々度を飛行してもスタークが息苦しくなるシーンは見かけないし(猛烈な機動で苦しそうではあったが)、敵の攻撃による衝撃も銃弾程度ではまず伝わらない。

 しかし、中の気圧を維持することや外から加わる衝撃をスタークにまで伝えないという点と、スターク自身にも絶対的に働く加減速Gや横G(遠心力)は別物である。あまりにも急激な加減速を行なえば、アイアンマンのボディが保ったとしても、中でスタークがつぶれて肉塊になってしまう恐れだってあるのだ。

 このGに対しては、それを打ち消したり減らしたりするような、人工重力発生機といった、超SF的なガジェットはアイアンマンには出てこない。かといって、大がかりな緩衝装置を搭載できる仕組みもスペース的になさそうだし、スタークを実はゲル状の物質が覆っていてGによる衝撃を吸収している、といった様子もない。そこで考えられるのは、最高飛行速度と同様に、アイアンマン自身にリミッターがかかるというものだ。

 アイアンマンには、人工知能のジャービス(スターク邸のジャービスとはまた違うのかも知れない)が搭載されており、スタークはアイアンマンの各種機能を音声でもって命令してコントロールしている。このジャービスが、スタークが取ろうとしている動作に対して、肉体の限界を超えるような場合は自動的にその動作をキャンセルしたり、出力を抑えたりする仕組みになっているのではないだろうか。

 例えばF-22から加速して逃げようとしたときも、加速力はスタークの身体が耐えられる限界までしか出さないようにしており、ミサイルの追撃を振り切れるほどの速度は出せなかったというわけだ。実際、劇中でもジャービスはスタークに対していろいろと忠告や警告を出しているので、もっともありそうだが、いかがだろうか?


 もちろん、アイアンマン自体にも、少なくとも戦闘機のパイロットが着る耐Gスーツと同程度の機能は持たせていることだろう。記憶が定かではないので申し訳ないのだが、スターク自身も、アイアンマンを装着するときは特別なスーツを着ている可能性もある。

 またアイアンマンのインターフェイスだが、前述のとおり人工知能のジャービスが搭載されているので、対話によって行なう。劇中では、アイアンマンのヘルメット内の様子、つまりスタークの表情がたびたび映されるのだが、顔の周囲には立体映像による各種データなどが表示されていた。

 また、外界を映すメインモニターには、敵や破壊対象などをロックオンするマーカーが表示されたりする。兵器や武器をロックオンするだけでなく、悪者と一般の人と見分けたりもできるので(武器を人に向けていたら悪者、という条件が付与されているのかも知れない)、相当優秀な画像認識機能を有しているようである。壁越しに隠れている人間を見つけることもでき、センサー類も優秀なものを多数搭載しているようだった。アイアンマンは、実に素晴らしい性能を持ったパワードスーツなのである。

 というわけで、長々と解説してしまったが、本誌読者なら、「アイアンマン」を観たらきっと自分でも装着したくなるはずなので、ぜひ映画館に足を運んでみてほしい。なおその際は、エンドロールの途中で席を立ってしまわないこと。サプライズが用意されているので、最後の最後まで見届けるようにしよう。それから、往年の洋楽ファンには嬉しい、ブラックサバスの「アイアンマン」も劇中で流れるのでお楽しみに。


(c) 2008 MVLFFLLC. TM & c 2008 Marvel Entertainment.All Rights Reserved.


URL
  アイアンマン
  http://www.sonypictures.jp/movies/ironman/


( デイビー日高 )
2008/09/04 17:29

- ページの先頭へ-

Robot Watch ホームページ
Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.