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「第19回マイクロマシン/MEMS展」の案内パネル
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7月30日(水)~8月1日(金)に、「第19回マイクロマシン/MEMS(Micro Electro Mechanical Systems、「メムス」と読む)展」が東京ビッグサイトの西1ホール、西2ホールで行なわれた。
マイクロマシン/MEMSとは、シリコンやガラス、有機材料などをベース(基板)にして作製した超小型のセンサーやアクチュエータなどである。チップの大きさは数ミリ角程度しかない。チップを封止するパッケージまで含めても、数センチ角程度の大きさにとどまる。
マイクロマシン/MEMSの製造技術は、マイクロプロセッサやメモリなどと同様の半導体微細加工技術に、MEMS独自の加工技術を追加したもの。言い換えると、既存の半導体製造装置技術を流用できるので、大量生産すると製造コストを極めて低く下げられる。安く大量に作れる素地を備えたデバイスである。
「第19回マイクロマシン/MEMS展」では、こういった最新MEMSデバイスの一端が披露された。それではMEMSデバイスの展示概要を紹介しよう。
● 携帯電話機に普及するシリコンマイク
オムロンは、シリコンマイクロホン(シリコンマイク)や、高周波MEMSスイッチなどの最新MEMSデバイスを実物展示した。
シリコンマイクは、シリコン基板に形成した振動板によって音声(大気の振動)を電気信号に変換するセンサーである。軽く小さいことと、プリント基板へのはんだ付け工程(リフローはんだ付け工程)を、ほかの電子部品と同時に実施できることから、携帯電話機での採用が急速に進んでいる。
オムロンは回転台に対向するように小さなオーディオセットを配置し、回転台の中心に置いたシリコンマイクによって、拾った音楽をヘッドフォンで再生してみせていた。回転台を手で動かすことによって、ヘッドフォンで聞こえる音楽が変化する。
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オムロンのブース。携帯電話機用小型マイクなどのMEMSデバイスを展示した
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シリコンマイク(「MEMSマイク」と表記)の概要を説明したパネル
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シリコンマイク展示ブース。回転台(写真左奥の青半円形の板)の端に置いたオーディオセットの音楽を、回転台中央のシリコンマイクで拾い、ヘッドフォンで再生していた
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シリコンマイクの実物。左側がチップ、右側がパッケージ。パッケージの大きさは4.72×3.76×1.10mm(幅×奥行き×高さ)である。周波数特性は100Hz~10kHz。消費電流は最大160μAと低い
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シリコンマイクの構造を模したモックアップ。金色の部分は信号の取り出し電極
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シリコンマイクのモックアップを分解したところ。左上は空気振動を取り入れる中空の基板。中央下は振動板。振動板は四隅の梁によって中空に支持される
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シリコンマイクを作り込んだシリコンウエハー。ウエハーの直径は200mm(8インチ)
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高周波MEMSスイッチ(RF MEMSスイッチ)は、数GHz~数十GHzの高周波信号をオン/オフするスイッチで、既存の機械式スイッチ(リレー式スイッチ)に比べて軽く小さいという特徴を有する。オムロンの展示ブースではRF MEMSスイッチの実物と、RF MEMSスイッチを実装したボードを展示していた。スイッチはSPDT(Single Pole Double Transfer)タイプである。応用分野は半導体テスタや高周波計測器などを想定している。駆動電圧が34Vとかなり高いため、モバイル機器には使いづらい。
このほかオムロンは、MEMS技術によるフローセンサー(流量センサー)とバルブを実物展示していた。フローセンサーは気体の流量計測を想定しており、プロジェクタや空調機器、燃料電池などに利用できる。
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RF MEMSスイッチの概要を説明したパネル
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RF MEMSスイッチの性能仕様を説明したパネル。スイッチの外形寸法は5.2×3×1.7mm(幅×奥行き×高さ)。10GHzの信号に対する挿入損失は1dB。駆動電圧は直流34Vとやや高い
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MEMS技術によるフローセンサの実物。大きさはおよそ30×10mm
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MEMSフローセンサーのデモ。空冷ファン(手前のプラスチックケースの左端)で取り込んだ空気の流量をMEMSフローセンサーで測定し、液晶ディスプレイに測定結果をリアルタイム表示していた
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MEMSバルブの概要を説明したパネル。エアコンやヒートポンプ、冷凍機などの膨張弁に使える
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MEMSバルブの実物。奥の透明な袋に入っているのがMEMSチップ。手前はMEMSチップを組み込んだバルブ
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● 携帯電話機の蓋の開閉を検知する小型磁気センサー
アルプス電気は、磁気センサーや小型圧電アクチュエータなどを実物展示した。磁気センサーは家電製品の扉や蓋などの開閉検知用である。扉や蓋などに永久磁石のチップを取り付けておく。本体側には磁気センサーを実装する。扉または蓋が閉まると、磁気センサーが永久磁石の磁束を検知する仕組みである。展示ブースでは実際の応用例として、携帯電話機の蓋の開閉を検知するモックアップを見せていた。
小型圧電アクチュエータは、圧電素子のひずみ振動によって直線運動を起こす。断面の大きさは1.8mm角、移動距離は6mmである。カメラ付き携帯電話機のズームレンズ駆動や、光ディスク装置のコリメータレンズ駆動などに使えるとみている。例えば、カメラ付き携帯電話機のレンズ駆動に使われているボイス・コイル・モーターは、レンズの移動距離が0.2mm程度しかなく、光学ズームの倍率をわずかしかとれない。このため電子ズームによってカメラの解像度を犠牲にしている。圧電アクチュエータであればレンズの移動距離を長くとれるので、光学ズームの倍率を上げられる。
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各種の微細加工技術とMEMSデバイス。アルプス電気のブースで展示していた
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磁気センサーの実物展示。大きさが1.1×0.9×0.55mm(幅×奥行き×高さ)と非常に小さいタイプを用意した
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磁気センサーを携帯電話機の蓋の開閉検知に応用したモックアップ。蓋を閉めると発光ダイオード(LED)が点灯する。蓋の向きによって磁気センサーが検知する磁束の向きが変わり、点灯するLED(および発光色)を換える。この動きは、液晶モニタの画面の向きが上下入れ替わることに相当する
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小型圧電アクチュエータの実物展示
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● 投射型フルカラーディスプレイを参考展示
日本信号は、MEMS技術による小型可動ミラー「ECO SCAN(エコスキャン)」を開発してきた。シリコン基板にミラーとトーションバー、駆動コイルを形成したもので、永久磁石による磁界中で駆動コイルに電流を流し、電磁駆動によってミラーを高速に動かす。
「マイクロマシン/MEMS展」では、ECO SCANと半導体レーザーを組み合わせた投射型のフルカラーディスプレイ(プロジェクタ)を参考出展した。照明を落とした暗室で、映画のフルカラー動画像を表示してみせていた。表示画像の解像度は800×600画素(SVGA)。表示画像の品質にはまだ改良の余地がある。輝度が不足していることと、レーザー干渉によるスペックル雑音が発生していることが映像を見づらくしていた。一方でレーザー走査方式なので、レンズによる焦点合わせの必要がほとんどないという特長がある。スクリーンが多少反っていても、焦点のあった画像が表示される。
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試作したプロジェクタ。MEMSミラー「ECO SCAN」(1軸走査を2枚)、3原色(赤色、緑色、青色)の半導体レーザー、レンズなどを内蔵した。なお緑色光源だけは赤外線半導体レーザーを光源とする第2高調波発生(波長が半分の光発生)技術によって実現している。光源の波長は赤色が640nm、緑色が532nm、青色が445nm
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試作したプロジェクタの概要説明パネル。解像度は800×600画素(SVGA)。表示階調は256階調(8bit)。駆動周波数は水平方向が約20kHz、垂直方向が約50Hz。表示サイズはプロジェクタからの距離が約1mのときにA4判程度
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● 5軸、6軸の動き(モーション)センサーを開発中
MEMSセンサーの開発企業であるワコーは、3軸加速度センサーや5軸、6軸動き(モーション)センサーなどを出展した。同社はMEMSセンサーの製造で大日本印刷の協力を得ており、大日本印刷の展示ブースの一部を借りての出展となった。
3軸加速度センサーは以前から製品化しているもので、ピエゾ抵抗効果を利用したセンサーである。外形寸法は1.3×1.3×1.25mm(幅×奥行き×高さ)と小さい。HDDの落下検出やゲームコントローラ、歩数計などの用途を想定している。また、静電容量式のセンサーをサーボ制御して感度を高めた、高感度タイプの加速度センサーを参考出品した。分解能が最高で0.1mGと高い。
5軸、6軸動き(モーション)センサーは現在、開発中である。3軸の加速度センサーと2軸、3軸の角速度センサーをワンチップに内蔵する。
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3軸加速度センサーの概要を説明したパネル。電源電圧が1~3.3Vと低く、動作温度範囲がマイナス20℃~プラス80℃と広い。応答周波数は最大100Hz
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3軸加速度センサーの評価キット
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サーボ式3軸加速度センサーの概要を説明したパネル
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5軸、6軸動き(モーション)センサーの概要を説明したパネル
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● 心臓の血圧を測定する使い捨てセンサー
スウェーデンのMEMSデバイス受託企業であるSilex Microsystems社は、日本国内の代理店である協同インターナショナルのブースで、同社のMEMSデバイス受託例をいくつか展示した。
ブースの説明員によると、欧州ではMEMSデバイスを医療分野に応用する研究が盛ん。このため、ブースでも医療分野向けのデバイスが展示されていた。創薬用の不純物除去フィルタ、血圧測定用の圧力センサー(使い捨てタイプ)、シリコンの微小な針(無痛の注射器用)などである。
このほかスイスのMEMSデバイスメーカーCOLIBRYS社が、高精度なMEMS加速度センサー製品を展示していた。雑音が300~500nG/(Hzの平方根:RMS値)と極めて低い「SF1500」と、分解能が0.1mGと高い「MS8000」である。いずれも静電容量式のセンサーで、前者は地震検知や鉄道、地球物理などに、後者は軍用慣性測定や無人飛行機、資源探査などに向くという。
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創薬用の不純物除去フィルタ。直径が20nmと微細な穴に液体を通過させて不純物を取り除く
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血圧測定用圧力センサー(使い捨てタイプ)。カテーテルの先に圧力センサーを取り付け、心臓の冠状動脈の血圧を測定する
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シリコンのマイクロニードル。患者に痛みを与えない注射針(無痛針)用
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静電容量式の高精度MEMS加速度センサー
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■URL
マイクロマシン/MEMS展
http://www.micromachine.jp/
( 福田 昭 )
2008/08/01 17:39
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