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手作り感あふれる二足歩行ロボットのからくり
~創業サポートセンター公開講座より


 7月23日(水)、港区・建築会館の創業サポートセンター(職業能力開発総合大学校 起業・新分野展開支援センター)において、「二足歩行ロボットのからくり」をテーマにした公開セミナーが開催された。本セミナーは、二足歩行ロボットがどのような技術を用いて動いているか、実際に自分たちで作るにはどのようにすればよいか、実体験を交えながらノウハウについて紹介するもの。講師は職業能力開発総合大学校の小野泰二准教授(東京校 生産情報システム技術科)【写真1】。

 同校の生産情報システム技術科(応用課程)では、大学4年の卒業研究にあたる1テーマとして、ホビー用の二足歩行ロボットの開発・製作を行なっている【写真2】。小野准教授は、同学科で研究中の手作りロボットの具体的な作り方について紹介。製作プロセスや技術的なポイントについて解説した。さらに、二足歩行ロボットが今後ビジネスとしてどのように役立つか? というアイデアについても提案した。


職業能力開発総合大学校東京校 生産情報システム技術科の小野泰二准教授 生産情報システム技術科(応用課程)の研究テーマの1つとして開発・製作されている2足歩行ロボット「ひかり」

 まず小野准教授は、二足歩行ロボットの基本的な技術について述べた。ロボット本体において要となる駆動系には、ロボット専用モータを使う。DCモータ、減速機、ポテンショメータ(可変抵抗)、制御基板が組み込まれた高トルクのラジコン用サーボを利用し、1軸にモータを1つずつ対応させる【写真3】。人間と同じような動きをさせるために、関節ごとに複数のモータを配置し、合計で20個前後を取り付けることになる【写真4】。

 モータの制御方法は大きく分けると2種類があるという。1つはPWM(Pulse Width Modulation)制御によるもので、モータにかかるパルス電圧を断続的にオン/オフして、平均電圧を変える方法。DCモータの制御で最もよく利用されるものだ。スイッチをオンしてから次にオンするまでのスイッチング周期を一定にして、その幅のなかでオン時間を変化させることで電圧を制御する。パルス電圧のオン時間が大きくなれば、そのぶん平均電圧も高くなり、逆にパルス電圧のオン時間が小さくなれば、そのぶん平均電圧も低くなる【写真5】。

 もう1つの方法は、最近よく見られるようになってきたシリアルデータによる位置制御方法だ。モータのオン/オフ制御だけでなく、実際にモータに位置指定のビットデータなどを送って制御するもの【写真6】。位置データだけでなく、温度やトルクなどのさまざまなデータを送受信できる。また可動範囲の設定なども変更することが可能だ。とはいえ、シリアル制御方式の場合はPWM制御方式より比較的高価なものが多いため、今回は後者を採用しているという。


【写真3】駆動系となるロボット専用モータ。高トルクのラジコン用サーボを使う。DCモータ、減速機、ポテンショメータ(可変抵抗)、制御基板が組み込まれている 【写真4】モータの配置。手足首の関節、腰まわりなどで、合計20個前後のモータが必要だ

【写真5】モータ制御方法その1。PWMによる位置制御。モータにかかるパルス電圧を断続的にオン/オフして、平均電圧を変える 【写真6】モータ制御方法その2。シリアルデータによる位置制御方法。位置指定のビットデータなどをシリアルに送って制御する

二足歩行ロボットの機械パーツ製作の勘どころ

 同学科では、ロボットの機構設計などに3次元CADソフトを用いている【写真7】。CADを利用すると、機構部の干渉が分かって便利だ。人の関節の動きを参考にモータをつなぎ合わせて、2軸/3軸の直行軸をつくる。モータ接合部には、加工のしやすさや部材の重量を考慮して、アルミ材やABS樹脂を使う。ただし関節をつくるときは、股関節や肩まわりのように、それぞれの軸が同軸上に乗るようにつくることが難しく、これが設計のポイントになるという。

 3次元CADで設計したアルミパーツ類は、フラットパターンに展開し、それをNC加工機に送って加工する。そのため、フラットパターンを標準的なDXFファイル形式にした後で、さらにGコードへ変換する【写真8】。Gコードは、NC装置で軸の移動や座標系の設定などを処理するためのプロトコルだ。同校にあるような高機能なレーザー加工機を用いると、より早くラクに作業が行なえるだろう。ただし、小野准教授は個人レベルでつくれるように、もう少し安価なNC加工機で時間をかけて加工を施しているという【写真9】。


【写真7】3次元CADソフトによる機構部の設計。モータをつなぎ合わせて、2軸/3軸の直行軸をつくって関節に組み込む 【写真8】実際にパーツを加工するために、フラットパターンを標準的なDXFファイル形式にしてからGコードへ変換 【写真9】NC加工機にGコードを送ってアルミパーツの切り出しなどを行なう

 切り出したパーツ類は、穴明けやネジ切り加工を施す。こちらはホームセンターなどで販売している機器レベルでもよいという【写真10】。さらにパーツの曲げ加工を専用機を使って行なう。手作りでは、この曲げ精度を出すのが結構難しいという【写真11】。曲げる際に、実際にパーツがどのくらい延びるのか、何回かトライ&エラーを繰り返して感覚をつかんだほうがよい。形状によっては、機械を使わず、手作業で曲げたほうがうまくいく場合もあるそうだ。

 すべてのパーツができたら、モータとパーツを組み立てる。このとき重要なポイントは配線方法だという【写真12】。ロボットの稼動範囲を考えながら、余裕を見て配線長を決めることになるが、配線の引っかかりを防止するために、コードがあまり外側に出ないように注意する。次に外装にも気をつかい、むき出しになったアルミ材などを樹脂カバーで隠したり、色をつけて見栄えを整える。小野准教授は一部の外装をつくるために、簡単に削れるケミカルウッドなどを利用し、手作業で加工して型をつくったそうだ(もちろんCADで設計・製作も可能)。そのあとで真空成型機を使って、ABS樹脂を成型してカバーをつくり、塗装を施した【写真13】。


【写真10】パーツが切り出せたら、必要に応じてバリを取ったり、ボール盤で穴明けを施したり、ネジ切りを行なう 【写真11】パーツの曲げ加工は専用機械で行なう。パーツが小さいものや、コの字形状のように曲げにくいものは、手加工で曲げたほうがうまくいく場合もあるそうだ

【写真12】パーツの組み立て。モータからの配線は稼動範囲を考えながら、余裕を見て少し長くする。ただし、あまり外側に出すぎるとコードが引っかかるので注意 【写真13】外装の製作。ケミカルウッドなどを利用し、手作業で型をつくり、真空成型器を使ってABS樹脂を成型

電子回路から3次元シミュレーションソフトまで自作

 前述のようにモータ制御はPWMであるため、電子回路に搭載するマイコンは安価なものでも対応できる。たとえば、ルネサステクノロジの「SH7125グループ」(50MHz、128/64/32KBフラッシュROM、8KB・RAM、10ビット/8ch・ADC、各種タイマ)などが、開発環境もそろっていてお勧めだという。もし逆運動学(inverse kinematicsFPU)といった複雑な計算処理が必要な場合には、浮動小数点演算が可能なFPUが必要になることもあるが、そのような場合にはパソコン側で対応するようにしているそうだ。

 また同学科では、マイコンからモータ側に指令を送るための周辺回路類を電子CADで設計している。パターンの焼付け、エッチング、穴明けなど、プリント基板の作成もすべてお手製だ【写真14】【写真15】。さらにロボットのセンサー類は、姿勢を検知するための加速度センサーやジャイロセンサー、障害物の距離を調べるPSD(光位置)センサーなどを利用し、その信号をAD変換してマイコン側に取り込む。

 特に二足歩行ロボットでは、うまく歩けるようにバランスに関わるプログラムが重要。すべてのモータに適切なタイミングで指令を送って、モータを指定位置に動かすことができればよい。そこで小野准教授は、モーションエディターを自作したという【写真16】。パソコン側からマイコンに指令を出し、ロボットのポーズと時間を決め、一連のポーズを補間して、パラパラ漫画のように連続して動かすという一般的な流れだ。自作エディターは、ロボットのカテゴリ、モーション、ポーズ名、ポーズ順序などを登録できる。モーションができたら、EEPROMへ書き込むことも可能だ【写真17】。

 ただし、この方法では姿勢をトライ&エラーで1つずつ決めていくため、新しいロボットを製作したり、モータなどを一部変更したりすると応用がきかない。そのたびにパラメータの修正値や最適値を探し出すのは大変だ。そこで制御理論を用いて、一般的な二足歩行ロボットの動作解析を行ない、自作したロボットの歩行パラメータとして反映できるような実験もしたという。小野准教授は、オープンソースで開発されているフリーの動力学計算エンジン「ODE」(Open Dynamics Engine)を使って、実機がなくても動作が分かるように3次元シミュレーションソフトを作成【写真18】。このシミュレーションから得たパラメータを市販ロボットに流して、歩行動作の比較をした【動画1】。


【写真14】電子回路はCADで設計。パターンの焼付け、エッチング、穴明けなど、基板もすべて手作りだ 【写真15】完成したマイコンボードの一例。各種センサー信号をマイコン側に送るためのインターフェイス部もつくる 【写真16】モーションエディターをつくり、パソコン側でトライ&エラーで1つずつモーションを作成していく

【写真17】自作したモーションエディターの画面。各軸ごとに対応するスライダーを動かしながらモーションを決めていく 【写真18】「ODE」を使って作成した3次元シミュレーションソフト。実機がなくても、ロボットの挙動が分かるので便利 【動画1】3次元シミュレーションソフトで得られたパラメータを使って、市販ロボットを動かす実験。シミュレーションと同じようなイメージで動く

手作り感あふれる二足歩行ロボット「ひかり」の概要

 では、このようにして完成した同校の二足歩行ロボット「ひかり」について、もう少し詳しくみていこう。前述のようにセンサーやモータなど一部のパーツを除いて、メカパーツからブラケット、頭脳となるCPUボード、制御ソフトウェア、シミュレータまで、その大部分が手作りだ【写真19】【写真20】【写真21】。

 ロボットの自由度は23。サーボモータには、ハイテックの「HSR-5995TG」を採用している。両腕に各4個、両脚に各7個、胴体1個のサーボモータが組み込まれている。モータドライバはモータ側に内蔵されている【写真22】【写真23】。また頭部のLEDとスピーカーは、電圧監視用のために搭載されているものだという。転倒判定用の加速度センサーには「RAS-2」、姿勢制御用のジャイロセンサーには「KRG-3」(いずれも近藤科学製)を用いた【動画2】【動画3】。

 CPUボードとして、当初は秋月電子通商の「AKI-H8/3069F」を採用し、周辺回路部分を自作していた。しかし、機能的に不十分だったため、現在ではヴイストンの「VS-RC003」(LPC2148FBD64/60MHz、512KB・ROM/64KB・RAM 、サーボモータ出力30ch)に交換。再度「SH7125」にて開発中だという。


【写真19】二足歩行ロボット「ひかり」の正面。ロボットの自由度は23 【写真20】「ひかり」の側面。頭部のLEDとスピーカーは、電圧監視用のために搭載されているという 【写真21】「ひかり」の上面。ヘッド部のカバーに手づくり感がある。駆動源のリチウムポリマーバッテリ(7.4V-2,100mAh)は本体に内蔵

【写真22】「ひかり」の肩部。サーボモータはハイテックの「HSR-5995TG」を採用。モータのトルクは24kg・cm/30kg・cm(6v/7.4v) 【写真23】「ひかり」の脚部。ZMP(Zero Moment Point)を用いた軌道生成と制御によって歩行する

【動画2】「ひかり」の歩行動作。コントローラのボタンにあらかじめモーションを割り付けてある 【動画3】「ひかり」の起立動作。機敏な動作で起き上がることができる

二足歩行ロボットを組込み技術学習やオープンキャンパスで役立てる

 さて、実際に二足歩行ロボットを研究している小野准教授だが、これらがビジネスとしてどのように使えるのか? という点についても考えているという。人間と同じサイズの二足歩行ロボットを開発することは個人レベルでは難しい。現状はホビー用の歩行ロボットがほとんどだが、もしホビー以外の用途を思いつけば、ビジネスチャンスになるのでは? と考えている。実際に二足歩行ロボットの開発は高度な技術と知識が要求される。その一方で、誰でも見て楽めるため、宣伝効果があり、集客能力もある。ただし、まだ価格も高価であり、実用面で社会に浸透するためには、もう少し時間がかかりそうだ。

 そこでビジネスとは直接的に結びつかないかもしれないが、国内で組込み技術者の数が大幅に不足しているという実情を踏まえ、これらの技術を組込みプログラムの学習用として使えないか模索しているところだという【写真24】。

 また小野准教授は教師という立場から、同校のオープンキャンパスにおいて、二足歩行ロボットで使われている要素技術(機械系、電子情報系、デザイン系、環境科学系)と各学科の授業内容を結びつけながら紹介しようと考えているという。このオープンキャンパスは8月1日(金)と2日(土)の両日に行なわれる。レーザー加工で製作したロボットの模型【写真25】や、車輪型倒立ロボットなどの制御デモも予定されているので、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。


【写真24】こちらは二足歩行ロボットではないが、課題実習として利用している教材。組込みプログラムの学習用として役に立ちそうだ 【写真25】オープンキャンパスで製作できるロボット模型。アルミパーツはレーザー加工を施し、すぐに取り外せる。連結部のABS樹脂も成型した

URL
  職業能力開発総合大学校東京校
  http://www.ehdo.go.jp/Tokyo/ptut/



( 井上猛雄 )
2008/07/31 16:35

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