7月16日(水)~18日(金)まで、東京ビッグサイトにおいて、「国際モダンホスピタルショウ2008」および「介護フェア2008」が開催された。
このイベントは医療機器、環境設備、健診・ヘルスケア、看護、病院運営、医療情報ネットワークや、介護・保険、医療福祉に関するソリューションなどを一堂に集めた総合展【写真1】【写真2】。
ここではイベントで展示された医療系ロボットやロボット化された各種機器について紹介しよう。
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【写真1】「国際モダンホスピタルショウ2008」および「介護フェア2008」。介護フェアは規模が小さく、ホスピタルショウの一部といった印象
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【写真2】ホスピタルショウの主催者企画展示として設けられていた「ユビキタス医療IT」のコーナー
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● 操作インターフェイスは目の動き! ユニークな食事支援ロボット
介護フェア2008の介護福祉情報システムゾーン「ASPシステムコーナー」では、メデカジャパンが展示していた高齢者向けの介護支援用IP電話システム「Happy Phone」や「そよ風元気コール」(仮称)が目を引いた【写真3】。
Happy Phoneには、液晶TVモニターや広角カメラが内蔵されており、リモコン操作で回転させることも可能だ。ベッドにいる高齢者の状態を別の場所から把握できる。
電話は24時間365日対応する「緊急援助コール」、担当医や看護師による健康相談が受けられる「ドクターコール」、家族や友人にオンコールでつながる「ハッピーコール」、希望の品物を自宅に届ける「ショッピングコール」、同社のセンターにつながる「そよかぜコール」といったボタンがついている。
なお本ブースでは、センサーで反応して自動的に清掃を行なう「そよ風お掃除ロボット」を展示する予定もあったが、今回は残念ながら都合により見送りとなった。
一方、国際モダンホスピタルショウ2008のブースでは、山口大学の田中幹也教授が開発した上肢障害者用食事支援ロボットが面白かった【写真4】。
このロボットは、直交座標型ロボットとCCDカメラ、パソコンなどで構成されている。従来、この分野のロボットは食物をピッキングして運ぶ方式が主流だった。ただしピッキング方式の場合は、食物の種類によっては、うまく把持できないという問題点もあった。
そこで本ロボットでは、食物皿からスプーンに食物を押し出し、スプーンを口元に運ぶ方式を採用したという【写真5】。制御系には安価なPICマイコンを搭載。直交座標型ロボットを利用しているので、振動が少なく、確実に食物を供給できる。
また駆動系には、電磁ノイズを発生しない超音波モータを使用し、ペースメーカーなどの医療機器への安全性も確保されている。
さらに、このロボットがユニークな点は、操作インターフェイスだろう。ロボットの操作に目の「瞬き」や「注視」を利用しているのだ。ディスプレイ上に映し出された食物皿を見て、欲しいものに対してじっと見つめたり、瞬きをしたりすると、その目の動きで食物皿を選択してくれる。
これは、もともとALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病の患者のインターフェイスを研究する過程で生まれた技術だという。そのため完全に上肢が動かない人でも、目が動かせれば独力で快適な食事ができ、QOL(Quality of Life)も向上するという。
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【写真3】メデカジャパンの高齢者向けの介護支援用IP電話システム「Happy Phone」。WebカムとIP電話を搭載したロボットだ
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【写真4】山口大学の上肢障害者用食事支援ロボット。直交座標型ロボットとCCDカメラ、パソコンなどで構成。操作インターフェイスには目の「瞬き」や「注視」を利用
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【写真5】食べ物をピッキングする方式でないため、昆布や豆腐などのように把持しにくいものでも、押し出して運べる
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財団法人・岐阜県研究開発財団では、知的創成事業「ロボット先端医療クラスター」でのユニークな研究成果を発表していた。この事業は、岐阜・大垣地区のもつロボット、IT、VRといったテクノロジーをベースに、医療関連産業の創成を目指すものだ。岐阜大学、早稲田大学、名古屋工業大学、立命館大学などで、外科手術、マッサージ、運動機能、医療診断、医療教育、生体情報モニタリングなどの幅広い分野の研究に取り組んでいる。
ブースでは、医療ロボットの一例として、岐阜大学の藤田研究室とアロカで共同開発された「全乳房超音波スキャナ」【写真6】と「乳腺超音波画像CADシステム」が展示されていた。
これは女性がかかりやすいと言われるがんの中で、最も多い乳がんの早期発見を目的に開発された医療ロボットだ。通常、乳がんの検診はマンモグラフィ(X線画像)を利用することが多いそうだが、若年層に対しては超音波診断が有効だという。
そこで、全乳房超音波スキャナ装置によって、乳房をメカニカルにスキャンし、得られた画像をCADシステムによって合成して、乳がんなどの疾患の診断を支援する。
また将来、医療分野で大活躍しそうな手術シミュレーションシステムも松下電器のブースで参考出品として紹介されていた【写真7】。
こちらは「Prissimo Era」と呼ばれるシステムで、奈良先端科学技術大学院大学の湊研究室と共同開発しているもの。患者から実測したCTやMRIのデータによって生成されるボリューム画像上の臓器部位を、ドラッグして引っ張ったり、メスを入れたりしながら、その物理的な変形をリアルタイムで再現できる点がポイントだ。実際に本システムが完成すれば、外科手術前に予行演習が行なえるようになり、術技の格段のレベルアップが期待できるだろう。
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【写真6】岐阜大学とアロカで共同開発された「全乳房超音波スキャナ」。乳がんの早期発見を目的に開発されたもの。赤い部分の中央部に乳房を押し当てて検査する
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【写真7】奈良先端科学技術大学院大学と松下電器で共同開発した手術シミュレーションシステム。ボリューム画像上の臓器部位の物理的な変形をリアルタイムで再現
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● ロボット化された医療機器や、看護師をサポートする自動システムも
さて、ここからは単体ロボットではないものの、ロボット化された自動システムという意味で、目を引いたものを紹介していこう。
パナソニック四国エレクトロニクスの「注射薬自動払い出しシステム」は、かなりロボットに近いシステムだった【写真8】。これは、LAN経由で送られた上位システムのオーダリングを受けて、払い出しトレイに患者の注射箋、施用ラベル、注射薬(アンプル・バイアル)などを個々に自動セットできるもの。このほかにも、ボトルタイプ/ソフトパックタイプの輸液を払い出しできるユニットなども用意されている。
同様のシステムとして、採血・採尿支援ロボシステムを紹介していたのは、テクノメディカだ。同社は、採血・採尿の受付から、整理券の発行、採血管準備、患者照合までをトータルでサポートするシステムを開発している。
ブースではプロセスの1つとして、採血管準備ロボシステム「BC・ROBO-888」を展示【写真9】していた。このロボシステムは、採血に必要な採血管、採血指示書、バーコードのついた手貼ラベル、患者用のコメントラベルをワンセットで専用トレイに入れて準備するもので、採血時の取り違えミスを防止できる。
なお、患者情報は前段階の受付機と連動し、上位システムに送られているため、スムーズな採血業務の準備が可能だ。
メリテックは、無線LANタグを利用した位置検知ソリューション「iPoint」を出展していた【写真10】。
これは、IEEE802.11bでアクセスポイントをメッシュで組み、タグを装着した人や物などのロケーションを検出できるシステム。タグに温度センサーやモーションセンサーを内蔵していることも大きなポイントだ。これらの情報を位置情報と合わせ、リアルタイムでモニタリングする。
主な用途としては、病院、大型倉庫、工場などで、物品の置き忘れや紛失の防止といったアセット管理が挙げられる。また、ロケーションを把握する専用ソフトウェアを使用し、在庫状況の数量が割り込んだときや、特定のアセットが禁止領域に入ったときなどに、アラートで通知することも可能だ。このタグを巡回ロボットに搭載すれば、資産管理用ロボットも実現できるだろう。
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【写真8】パナソニック四国エレクトロニクスの注射薬自動払い出しシステム。トレイに患者の注射箋、施用ラベル、注射薬などを自動セット。看護師の負担を軽減してくれる
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【写真9】テクノメディカの採血管準備ロボシステム。採血・採尿の受付から、整理券の発行、採血管準備、患者照合までをサポートするシステムの一部として紹介
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【写真10】メリテックのリアルタイム位置検知ソリューション。無線LANタグ(写真前)とアクセスポイント(写真後)を利用したもので、タグを装着した人や物などのロケーションを検出できる
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このような自動システムの一方で、複数のセンサーを利用して遠隔地でデータを収集する高齢者見守りシステムも数多く見受けられた。
たとえばパラマ・テックでは、血圧・心電図・体脂肪・体水分を測定できる複合型医療測定機器を出展【写真11】。この機器のユニークな点は、通信機能を内蔵しているクレードルに接続すると、LANや電話回線を介して、自動的に測定データを専用サーバ側に送信してくれることだろう。機器の測定データだけでなく、体温・体重、歩数計などによるデータ入力項目も、ユーザーに合わせて設定できる。
逆に管理者やドクター、遠方に住む家族は、サーバに蓄積されたデータを閲覧することによって、高齢者を見守り・管理することが可能だ。
シガドライウィーザースはインターネットを利用し、在宅患者の体調見守り・管理やコミュニケーションを実現する総合的療養環境「介護らーくベッドシステム」を紹介していた【写真12】。
専用マットレスに組み込んだ複数のセンサーで、寝床内の温度、湿度、振動をキャッチするほか、圧力を検知して、寝返りなど介護者の姿勢変化を把握できる。また、室内環境(温度・湿度・照度)の同時測定も可能だ。管理者は携帯電話やパソコンから測定データを確認できる。一方、利用者にもモニターが用意されており、Webカメラの方向をゲームパッドで操作したり、家族、ヘルパー、ドクターへのコールにも対応している【写真13】。
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【写真11】パラマ・テックの複合型医療測定機器。血圧・心電図・体脂肪・体水分を測定でき、ネットワークを経由してデータを送信できる
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【写真12】シガドライウィーザースの総合的な療養環境「介護らーくベッドシステム」。インターネットを利用し、在宅患者の体調見守り・管理やコミュニケーションを実現
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【写真13】枕元に用意された利用者モニター。Webカメラの方向をゲームパッドで操作したり、家族、ヘルパー、ドクターへの緊急コールにも対応
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TOTOは、尿流量測定装置のデモを行なっていた。入院患者の尿量測定は頻繁に行なわれるため、患者にとっても管理する看護師にとっても大変な作業。そこで同社では、尿カップを使用せず、普段から利用する便器(ウォシュレット)で用を足すだけで、簡単に尿量を測定できる装置を開発した【写真14】。
この装置には水位センサーが付いており、排尿による水位上昇を検出して、尿量を換算して測定する仕組みだ。測定用リモコン部のボタンに患者の名前を割りつけることで、複数の患者(標準で8人)が利用できるようになる。このボタンを患者が押すと、測定がスタートする。測定終了後は、その結果を保存したり、データをグラフとしてプリントすることも可能だ【写真15】。
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【写真14】TOTOの尿流量測定装置。普段から利用する便器で用を足すだけで、簡単に尿量を測定できる
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【写真15】患者ごとにプリントされる尿流率・尿量測定のデータ。尿量測定は患者にとっても管理する看護師にとっても大変な作業をサポートしてくれる
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● 手術プロセスを映像で蓄積して、リアルタイムで配信
医療機器に利用するカメラシステムも目に付いた。たとえば映像ソリューションで有名なカノープスは、手術映像を記録し、ネットワークで配信できる手術映像集中管理システム「MEIVIC」のデモを実施していた【写真16】。
これは、複数の手術室の映像をネットワーク経由で専用サーバに送り、HDDに記録・保存するもので、記録映像を自動的にデータベースに登録し、必要に応じて目的のシーンを検索して、医局などの各種モニタ側へ配信できる。チーム医療や患者・家族へのインフォームド・コンセント(医師による情報の説明と患者の同意)などに利用できる。映像は個人情報が含まれるため、指紋認証やパスワード認証など、強固なセキュリティ機能もサポートしている。このような記録システムを手術ロボットと連動して利用することもできるだろう。
また、ティー・アイ・トレーディングは、セキュリティ監視などに対応する業務用カメラシステムを出展していた【写真17】。
カラードームカメラや防滴仕様カメラのほか、名刺サイズの超小型デジタルビデオレコーダ、16chまでカメラ接続が可能な高機能デジタルビデオレコーダも紹介。超小型タイプはカメラ、マイク、スピーカー、液晶モニターが一体化されており、動体検知による録画機能もある。映像は1GBのSDカードに記録する。
一方、高機能タイプのビデオレコーダは、500MB・HDDやCD-RWドライブを内蔵。再生中も録画を継続するマルチプレックス機能も備えている。
イズミ車体製作所は、福祉車両や検診車・特装車などを中心にオーダーメイドで製作している。このブースでは、クルマ椅子を昇降させるパワーリフト付きのボックスカーなどを展示【写真18】。パワーリフトは油圧駆動で、降下時には振動や衝撃を吸収する機構を採用しているという【動画1】。
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【写真16】カノープスの手術映像集中管理システム。複数の手術室の手術映像を記録し、ネットワークで配信できる
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【写真17】ティー・アイ・トレーディングの業務用カメラシステム。主にセキュリティ監視などに利用できる
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【写真18】イズミ車体製作所のオーダーメイドカー。福祉車両や検診車・特装車などを中心に製作。写真は福祉車両自動車の後部
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【動画】パワーリフトでクルマ椅子を昇降させる。パワーリフトは降下時には振動や衝撃を吸収する機構を採用
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このほか、サラインテリアシステムは、銀行ATMで導入されている日立製作所の静脈認証技術を搭載した生体認証ロッカーを展示していた【写真19】。
近赤外線LEDとカメラで静脈パターンを検出し、あらかじめ登録された静脈の構造パターンとマッチングさせることで個人を認証し、ロッカー鍵(電気錠)を開錠する。個人の医療情報を保管するなど、セキュリティの用途に利用できるという。
ホスピタルショウでは、多数の企業で電子カルテシステムが紹介されていた。どれも先進的なものだったが、このような電子システムは大病院でないと気軽に導入することは難しいかもしれない。そこでアサヒ電子研究所では、紙のカルテを個別に保管して、迅速に検索や持ち出しが可能な「マイコンカルテシステム」を出展していた【写真20】。
これはコンピュータから患者の検索をかけると、赤外線通信により該当カルテファイルを点灯させ、その置き場所を知らせてくれるシステムだ。カルテファイルには、それぞれ極小のマイコンIDが装着されており、緑・赤・黄色のLED光を組み合わせて、パターン出力することも可能だ。こちらは、いわば工場の生産ラインにある部品出庫システムと同じようなイメージであろう。電子カルテシステムが導入される過渡期には、こうしたシステムも有用であると感じた。
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【写真19】日立製作所の生体認証ロッカー。静脈認証技術によって個人を認証し、ロッカー鍵(電気錠)を開錠する仕組み
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【写真20】紙カルテを個別に保管して、迅速に検索や持ち出しが可能なシステム。赤外線通信により該当カルテファイルを点灯させ、その置き場所を知らせてくれる
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■URL
国際モダンホスピタルショウ2008
http://www.noma.or.jp/hs/
介護フェア2008
http://www.noma.or.jp/kaigo/
( 井上猛雄 )
2008/07/28 16:23
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