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東大「iii Exhibition 9」レポート
~触って体験できるメディアアートが22作品展示


 6月19日~24日、東京大学本郷キャンパスにおいて、「iii Exhibition 9」が開催されている。開催時間は11:00~19:00で、入場は無料だ。iii Exhibitionは、東京大学大学院学際情報学府と東京大学大学院情報学環コンテンツ創造科学産学連携教育プログラムの講義の一環として行なわれている、メディアアートの制作展である。2004年7月に第1回が開催された後、年2回のペースで開催されており、今回が9回目となる。理系、文系の垣根を越えた、多彩なバックグラウンドを持つ東大の学生による、科学と芸術が融合した展示が好評を博している。

 メディアアートには、大きく分けて「最新テクノロジーを取り入れることで、アートの表現力を高める」、「先端技術をアートという手段を利用してわかりやすく表現する」という2つのアプローチがある。こうしたメディアアートには、RFIDや拡張現実(AR)、3Dディスプレイなど、さまざまなテクノロジーが用いられており、ロボット技術が応用された展示もある。また今回は、これまで会場として使われてきた工学部2号館だけでなく、2008年3月に竣工したばかりの福武ホールの一部も会場として使われている。福武ホールは、ベネッセコーポレーション代表取締役会長兼CEOの福武總一郎氏による16億5,000万円の寄付によって建てられたホールだ。福武ホールの設計は、日本を代表する建築家である安藤忠雄氏が担当しており、地上2階、地下2階で、日本の伝統的な「縁側」を意識したデザインが特徴だ。


屋外では、空間や風を活かした展示が行なわれる

 今回、展示会場として初めて使われた福武ホールテラスには、「Absolute Field」「日々のてざわり」「ephemeral melody」の3作品が展示されている。残念ながら、筆者が訪れた初日には「Absolute Field」はまだ制作中で動いていなかったが、「日々のてざわり」と「ephemeral melody」の2作品を体験することができた。

 「日々のてざわり」は、コンクリート製の机の表面を撫でることによって、生じる音が変わるという作品だ。机の表面には格子状に光ファイバーが埋め込まれており、センサーの役割を果たしている。撫でかたによって音が変わるのは、楽器のようで楽しい。「ephemeral melody」は、シャボン玉と風が奏でる偶然の音楽を楽しむという作品である。ハンドルを回すことでシャボン玉が飛び出し、風に乗って運ばれていく。金属パイプにシャボン玉が当たると、シャボン玉がスイッチの役割を果たし、音が鳴るという仕組みだ。音も美しく、ぼーっと眺めているだけで、癒し効果もありそうだ。


今年3月に竣工したばかりの福武ホールも会場の一つとして使われている 福武ホールは、「縁側」をキーワードとして設計された 福武ホールの入り口付近に、「iii Exhibition 9」の案内ポスターが貼られている

yonakani氏による「Absolute Field」。「物理的な壁を使用せず、心理的な障壁によって公共空間にプライベートな場所を築きあげる。情報技術と建築の交換可能性を問う作品」とのことだが、残念ながら初日はまだ動いていなかった 深尾宙彦氏(制作協力:辻埜真人氏、鈴木太朗氏、赤川智洋氏、鳴海拓志氏、小山翔一氏)による「日々のてざわり」。コンクリートの塊を撫でるという行為を通して、ありふれたものの実感との接触のメタファーとしての体験を提示するという展示 【動画】コンクリートの机の表面にセンサーの役割を果たす光ファイバーが埋め込まれており、手で撫でることによって、出てくる音が変化する

鈴木莉紗氏(制作協力:牛込陽介氏、荻田波留子氏、栗山貴嗣氏、小山翔一氏、鈴木隆志氏)による「ephemeral melody」。シャボン玉が金属パイプに当たることで、音が鳴り、ランダムに風が作り出す音楽を聴くことができる 【動画】ハンドルを回すとシャボン玉が飛び出し、風に乗って運ばれていく。シャボン玉が金属パイプに当たると、音が鳴る仕組みだ

中庭では、広いスペースを活かしたARの展示も

 工学部2号館のフォラム(中庭)では、「Bionic Engine」と「もようのありか」の2作品が展示されているほか、スクリーンには過去のiii Exhibitionのアーカイブ映像が映写されている。「Bionic Engine」は、ロボット用の人工筋肉デバイスを応用したやわらかいエンジンによって、自転車をこぐというという作品だ。人間の筋肉と同じように、縮んだり伸びたりして動作するエンジンであり、高圧空気で動作するため、排気ガスなどを出さず、クリーンなことも特徴だ。「もようのありか」は、広域ポジショニング技術を利用したインタラクションで、現実の物体にCGによる情報を重ねて表示させる拡張現実(AR)の一種だ。TVアニメ作品「電脳コイル」のような未来をかいま見せてくれる作品である。


正門を入ってすぐの場所にも、iii Exhibitionのポスターが貼られている 工学部2号館のフォラム(中庭)も展示会場として使われている。奥に見えるスクリーンには、過去のiii Exhibitionのアーカイブ映像が映写されている

新山龍馬氏による「Bionic Engine」。ロボット用の人工筋肉デバイスを応用したやわらかいエンジンで、高圧の空気で動作する 【動画】しなやかに動物の器官のように動く。高圧空気の音が、スチームパンクを連想させる

今井智章氏と廣瀬・谷川研究室(制作協力:仲野潤一氏)による「もようのありか」。広域ポジショニング技術を用いたインタラクション 端末を通して床の特定の場所を見ることで、模様に隠されている物体がディスプレイ上に現れる。いわゆる拡張現実(AR)技術である

【動画】こんな感じで、ディスプレイ上に物体が表示される。物体はきちんと3Dモデル化されており、見る方向を変えれば見え方も変わる 端末の背面にはカメラが搭載されており、このカメラで撮影した映像によって、位置の推定を行なう

 なお、iii Exhibitionそのものとは直接関係はないが、この工学部2号館の建物はなかなか面白い。工学部2号館は、もともと□字型をしていたのだが、それを半分にぶった切って、新館を並べて建設し、半分残った旧館の上にも新館が巨大な柱で支える形で建設されている。歴史的建造物である旧館を保存するために、こうした設計になったということだが、新旧の建物が共存している様子は、一見の価値がある。また、東京大学の本郷キャンパスには、高い建物は少ないのだが、工学部新2号館は12階建てなので、上層階からの眺めもいい。


工学部2号館は、旧館の一部を残したまま、横と上に新館を建てるというユニークな設計になっている。この写真の正面は旧館だが、左右と上は新館となる 工学部2号館の外観。左が新館で、右側の旧館の上にも新館が建築されている

ロボット機能を内蔵したソファなどの展示も

iii Exhibitionの会場の一つとして使われている工学部2号館2階展示室
 工学部2号館の2階展示室には、全部で8つの作品が展示されている。こちらは、アート寄りの作品が比較的多かったが、中でも、バックミンスター・フラーが考案した構造体「tensegrity」を利用したインスタレーション「structured creature」や、スクリーンに投影されている光の玉に手をかざすことで、身体の中に光が入ってくる「irvis」が印象に残った。

 4つめの展示会場である工学部2号館の9階92B教室には、全部で9つの作品が展示されている。「MURMUR OF A ROBOT SOFA」は、ロボット機能を内蔵したソファで、足の部分や手もたれに歪みセンサーなどが搭載されている。センサーによって、座った人の重心移動や手もたれへの接触などを感知して、ソファ自体を動かしたり(今回の展示では回転移動のみ)、ソファが発する音(ヘッドホンで聴く)が変わる仕組みだ。制作者によれば、人の重心などの動きにあわせて、ソファがインタラクティブに反応することで、より快適な座り心地や癒し効果を実現したいとのことだ。また、「音の化石」は、砂に埋もれている音の像を手でかき分けていくことで、その音が聞こえてくるという、直感的でユニークなインターフェイスを実現した作品だ。自分の聴きたいパートの音の像だけを、砂からかき分けていけば、楽曲を自分の好きなように再構築できる。

 今回のiii Exhibitionでは、全部で22の作品が展示されている。その多くが、インタラクティブな作品であり、実際に来場者が手で触れたり、操作をして楽しめる。入場料も無料なので、こうしたメディアアートに興味がある人は、是非見に行ってみてはいかがだろうか。


my-idy(光吉孝浩氏、吉本英樹氏、岩崎健一郎氏、Adiyan Mujibiya氏、米澤香子氏)による「seeds」。RF IDタグが内蔵されたアクセサリーをリーダーにかざすことで、画面に美しい花が咲く 藤野漠氏による「tricksy drops」。上からランダムに落ちてくる水滴を検知し、下のLEDをパルス状に発光させることで、空間に光が浮かんでいるように見える 【動画】動画では暗くてわかりにくいが、空間に瞬く光が浮かんでいる

田中ゆり氏と鈴木隆志氏による「虚時間」。この写真には写ってないが、天井にスクリーンがあり、ふとんの上で横になってゆったりと映像を見ることができる 天井のスクリーンは2面構成になっている 【動画】「虚時間」のスクリーンに投影される映像作品。タイトル通り、時間をテーマにした映像である

石川貴彦氏による「irvis」。スクリーンに投影されている光の玉に手をかざすと、その光が手を伝って身体の中に入ってくる。そのままもう片方の手で、他の人に触れると、その人へも光が伝わっていく 【動画】光の玉に手をかざすと、身体の中に光が入ってくる。光線の軌跡が綺麗だ 【動画】光が身体の中に入ってくる様子をアップで撮影してみた

和田拓朗氏、小池崇文氏、苗村健氏による「Pop-up Theater」。3Dディスプレイを2台用い、ハーフミラーでそれぞれの映像を重ねることで、あらたな表現の可能性に挑戦している 【動画】「Pop-up Theater」では、独特の立体感のある映像が表示されている

牛込陽介氏による「structured creature」。バックミンスター・フラーが考案した構造体「tensegrity」を使ったインスタレーション 【動画】バイオメタルを利用して、形を自在に変えることができる

会場では3個の構造体が並べられていた 【動画】台の前に人が立つと、それを感知して動くようになっている

櫻井翔氏(制作協力:栗山貴嗣氏、鈴木隆志氏)による「weather-vox central」。マイクに向かって話しかけると、声から感情を判定し、その変化を空の色や天気に置き換えて表現する 鈴木隆志氏による「wavers」。板にペンで書き込むと、板が振動する。振動そのものから来る感覚や音を、いろいろなところで感じることができる作品

【動画】こんな感じでペンで板に書き込むと、板が振動して音が聞こえてくる 板の裏側に振動スピーカーが取り付けられている

iii Exhibitionの会場の一つとして使われている工学部2号館9階92B教室 掘紫氏による「Real Life is an Odyssey.」。RPG風のゲームだが、実世界のプレイヤーの経験がゲームの世界に反映されるようになっている

カメラにカードをかざすことで、そのカードを読み取り、冒険がスタートする 小型端末を持って会場を回り、スタッフと会話して戻ってくることで、主人公の勇者が成長する

【動画】宮田剛志氏と鈴木研究室(制作協力:栗山貴嗣氏)による「eco歩き」。動力を持たずに歩行する受動歩行のシミュレーター。坂の傾きなどを調整してやることで、歩かせることができるが、うまくやらないと転んでしまう ボタン操作によって坂を上下させることや、初期値の高さや角度の調整が可能

岩渕正樹氏と原島・苗村研究室による「LimpiDual Touch」。透明な無機ELディスプレイを2枚利用して、複数人が同じ空間を共有しつつも、「画面の両側から異なる情報を操作する」という新しい体験を提案する 【動画】ディスプレイはタッチパネルになっていて、相手側のかごを狙って玉を入れればよい。かごも動かすことができる

野澤紘子氏(制作協力:鳴海拓志氏、鈴木隆志氏)による「Your Beat Story」。心拍センサーを利用して、心拍によって操作するゲーム 門脇明日香氏による「MURMUR OF A ROBOT SOFA」。ソファにロボット機能が搭載されており、座った人が体重移動を行なったり、手もたれに触ることで、ソファが動いたり、ソファが発する音(ヘッドホンで聴く)が変わる 【動画】駆動にはオムニホイールを採用。スペースの問題もあり、今回の展示では回転運動しかさせていないが、前後左右への移動も可能だという

南部愛子氏による「nioi cafe」。匂いと映像と実体の融合への試みで、カップとお皿がスクリーンになっており、コーヒーや紅茶、ケーキなどの映像が映し出される。そのメニューをスプーンですくうと、スプーンから映像にあわせた匂いが漂ってくる ガラスの筒の中に匂いの素が入っていて、ポンプによってその匂いが出てくる仕組みだ

早川智彦氏(楽曲提供:The Lonely Hearts Club Band)による「音の化石」。最初はノイズしか聞こえないが、砂をかき分けて音の像を探し出すことで、その音が聞こえてくる 【動画】まずドラムが見えるようになると、ドラムの音が聞こえ、ギターが見えるようになると、ギターの音が加わる

林摩梨花氏による「Mushroom chair」。機器の「ロボット」化の一環としての椅子デザイン 野村有加氏と遠藤謙氏による「ふにふに」。チューリップのような花のオブジェの中にLEDとアクチュエーターが仕込まれており、植木鉢に仕込まれたPSDセンサーからの信号によって点灯したり、花びらが開いたりする 【動画】水差しの先端には赤外線LEDが仕込まれており、植木鉢に水をやるようにかざすことで、PSD(光位置)センサーが反応し、花のLEDが点滅する

URL
  iii exhibition 9
  http://i3e.iii.u-tokyo.ac.jp/


( 石井英男 )
2008/06/23 19:31

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