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二足自走機「フッタウェイ」(1号機)とロボ犬「エッヂ」
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こだわりや創意工夫のあるDIY、電子工作、サイエンスなどを紹介する雑誌「Make:Technology on Your Time」。その日本語版を編纂するオライリー・ジャパンにより、4月20日にイベント「Make:Tokyo Meeting」が開催された。会場は、東京・江東区白河のK.International School Tokyoの体育館とグラウンド。予算をかけずに創意工夫をしたり、かなりムチャな使い方をしたりして作られた機器やシステムなど、ユニークなものが集結したイベントである。そこで紹介されたロボット的なもの、個人的に面白かったものを紹介したい。
● Masa Kimura氏製作のロボットたち
・搭乗可能なKIMURA式二足歩行機「フッタウェイ」シリーズ
まずは、KIMURAを運営するMasa Kimura氏のロボットたちから紹介する。Kimura氏は何でも歩かせてしまうのが好きなようで、今回は5種類の歩行機能を持ったロボットを披露した。そのひとつが、「フッタウェイ」シリーズ。「フッタウェイ(1号機)」(以後、1号機と呼ぶ)とその改良型の「フッタウェイ2」の2種類がある。「人を乗せて歩くロボット」は現在のロボット業界で未開拓の分野であるという理由から、Kimura氏は開発を開始したそうだ(KIMURA式二足自走機シリーズのひとつ)。ガソリンエンジンを動力源としており、全体的にダチョウ型というか、胴体部として中央にエンジンがあり、その両脇から「乙」の字に近い形をした鉄パイプを溶接して作られた脚部が延びている。なお、脚部には関節はない。脚部は足の付け根でのみ動かす仕組みになっており、それを考慮した乙型の足のデザインというわけだ。
1号機のスペックは、全長100cm、全幅も100cm、全高が89cm、重量60kg。ラーメン屋などの配達用として知られるホンダのバイク「カブ」のエンジンを使用している。空冷4サイクル単気筒・SOHC4バルブで、馬力は4.9ps(2.9kW)/7,000rpmを、トルクは48kg-m(4.7Nm)/4,500rpmを絞り出す。2003年7月に完成した作品だが、問題は「馬力がありすぎる」こと(実際にはトルクが強力すぎると思われる)。エンジンはケーブルでつながったバイクのスロットルのようなコントローラで回転数を操作するのだが、地面を蹴る力が強すぎて、本体がひっくり返りかねないのだ。よって、1号機への人の搭乗はかなり危険なので、現在は搭乗は行なわれていない。ちなみに、1台50万円で販売中。
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フッタウェイ1号機。かなり馬力があるので搭乗は厳しい
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エンジン部分のアップ
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エンジン部分を横から
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エンジンコントロールのスロットル
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【動画】フッタウェイ1号機が歩く様子
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2003年の12月にロールアウトしたフッタウェイ2は、1号機の馬力がありすぎる点を考慮し、もっと出力の低いエンジンを用いることに。芝刈り機用のエンジンだそうで、1.5ps(1.1kW)という3分の1以下にデチューンした形だ。全長100cm、全幅110cm、全高118cm、重量50kgと大型化したが、重量は軽くなったのが特徴。価格は70万円となっている。こちらは実際に、グラウンドでKimura氏が乗っかって操作するところを披露した。ちなみに、出展者によるプレゼンも行なわれたのだが、Kimura氏は新宿や渋谷などで、実際に路上でのフッタウェイ2の運用テストを何時間も行なったそうだ。お巡りさんに職務質問もされたそうだが、事実を話すと、「そう。がんばってね!」だったそうである。セグウェイなどは道交法違反で一般歩道では乗れないわけだが、車輪のついている乗り物ではないので、問題ないらしい(笑)。逮捕されなくてよかったKimura氏であった。
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フッタウェイ2
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エンジン部のアップ
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2輪車のようなハンドルがあり、右側のグリップがスロットル
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エンジンと脚部の関節部分のアップ
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【動画】Kimura氏が搭乗してのフッタウェイ2の動作の様子
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【動画】フッタウェイ2の動作の様子を前方から
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・ペットメカ? INUシリーズ・エンジン犬「エッヂ」
もうひとつグラウンドで実際に操作して披露されたのが、犬型ロボットの「エッヂ」(INUシリーズの完結品だそうだ)。2006年1月に完成し、サイズは全長71cm×全幅41cm×高さ52cm。フッタウェイ2のものと同等の出力を誇る35cc4サイクルのOHCガソリンエンジンを搭載している。出力は1.6ps(1.2kW)/7,000rpm、トルクは0.19kg-m(1.9Nm)/5,500rpm。こちらもケーブルでつながれたアクセルで操作する仕組みだが、ちょうどリードにつながれた犬というイメージである。一見するとエンジンを搭載した前方が顔のように見えるのだが、お尻方向へ後ずさりするように移動するのが面白い。1本1本の足は、短く切った3本の金属製のパイプが孤を描くような形で溶接されている。前足と後ろ足では弧の描き方が逆になるように備え付けられており、それで転倒を防ぎつつ、歩くことを可能にしているようだ。足の付け根が動作する仕組みで、すり足で移動する。方向転換はできない。価格は35万円。
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エンジン犬「エッヂ」
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別角度から。お尻のように見えるが、こちらに進んでいく(後ずさり?)
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一見すると頭部に見えるエンジン部分
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ちょうどやって来た小型犬と一緒に撮影。小型犬の方は結構警戒していた
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【動画】エッヂの移動の様子を横から
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【動画】エッヂの移動の様子を後方(?)から
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・KIMURA式二足自走機の初モデル「PEACE WALKER」
そして、体育館内のKIMURAブースで展示されていたひとつが、「PEACE WALKER」。KIMURA式二足自走機の最初のモデルで、モータで動作する。綿毛に包まれたボディから針金状の細く長いL字型の脚部が出ており、妖精とか異星生物とかそういう雰囲気で歩くのが特徴だ。ちなみにKimura氏は、ヒューマノイドロボットには文化を与える必要であるということから、アーティスティックな要素を採り入れて製作したのだという。価格は35,000円。
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PEACE WALKER
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【動画】PEACE WALKERの歩く様子
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・歩くテレビ・プレゼンテーションマシン「テレビジョン」
最後に紹介するKimura氏の作品は、フッタウェイシリーズを屋内で披露することができないという理由から開発され、同時に同シリーズのプレゼンテーションマシンとしての役目も兼ねている「テレビジョン」。ブラウン管型のモニタの両脇に脚部が装備されているもので、モニタとしての機能と、歩行機能の両方を有する。こちらは内燃機関を用いず、モータで動作。モニタ部分の重量がかなりあるため、歩行時は随分と迫力がある(壊れないかと心配もさせられる)。
今回のプレゼンでは、主催者側が用意したスクリーンを使わず、テレビジョンのモニタでDVDの映像を再生していた。また、ビデオアート的な使われ方もされており、「DVDを用いてテレビジョンの自我を再現する」という試みも進行中。自我の表現とは、モニタにキャラクターを登場させて、テレビジョンに擬似的な人格を感じさせるというもの。ちなみにどんなキャラクターが登場するのかというと、NECの初代パソコンPC-8001(約30年前の製品で、グラフィック描画能力が160×100ドットといったレベル)で描かれたような、非常にシンプルだけど、逆に現代では味のあるドット絵である。なお、テレビジョンの価格だが、30万円となっている。
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テレビジョン
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プレゼンの様子
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【動画】テレビジョンの歩行の様子。さすがに重量があるので、わずかずつしか進めない
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● N.I.T.(日本工業大学)物理体感工房開発の機器たち
・映画に着想を得たラジコンロボット「高機能ロボット4WD」
続いては、N.I.T.物理体感工房の開発したものを紹介する。ロボットして出展されていたのは、ラジコンカーとしては大きめのサイズの4輪駆動車にカメラを4基備え付けた「高機能ロボット4WD」。マコーレ・カルキン主演の映画「ホームアローン」に着想を得たそうで、ラジコンにカメラを複数台設置して、操縦者の死角でもPCのモニタを介して操縦しようというわけである。4基のカメラはそれぞれ独立して動かすことが可能。どんな風に映るかというのは、残念ながら調子が悪かったそうで、見ることができなかった。
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陸軍ジープ風の巨大タイヤ4WDラジコンカーにカメラを4基セットした高機能ロボット4WD
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カメラ部分のアップ
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操作の信号のやり取りは無線LANが活用されている
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【動画】カメラの動作の様子
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・エネルギーは大気圧・エコな兵器「真空バズーカ」
記者的に面白かった上に、かなりの観客を集めていたのが「真空バズーカ」だ。火薬類を一切使用せず、大気圧(1気圧=1,013hPa)のみをエネルギーとして利用する(真空状態を作り出すためにポンプを回す電力は必要)という、クリーンな兵器だ。しかし、工房で開発された最も大きいサイズのバズーカになると、弾速は時速700km/hから900km/hという、亜音速に達するそうで、確実に破壊力がある。問題点は、次発チャージに最低でも10分ぐらいはかかるので、戦国時代の火縄銃よりもかかる点(笑)。織田信長が武田騎馬軍を粉砕した長篠の戦いの鉄砲隊の3段構えどころか、20段構えぐらいにしないと、兵器としては使えなさそうである。よって現時点では、残念ながらペンタゴンはもちろん、自衛隊からも声はかかっていないそうだ。
仕組みとしてはシンプルで、バズーカ砲の砲身としてホームセンターなどで売っている塩ビパイプを使用。射出口となる前部の口にはアルミホイルでふたをし、後方の口はプラスチックの板でフタをする。アルミホイルの方は取れてしまったりしないよう、がっちり挟み込む仕組みにしてある。後方でプラスチック板を使用するのは、これを瞬間的に取り払って一気に大気を流れ込ませ、その圧力で弾丸を押し出してアルミホイルを突き破って行くという仕組みだからだ。そのため、プラスチック板は叩いて外せるよう、大気圧で落ちないようになるまで手で押さえられているのである。弾丸にはテニスボールや500mlのペットボトルなどを使用。パイプ内の真空が確保されたところで、後方のプラスチック板を一気に外すと発射というわけだ。最も強力なバズーカだと、キャベツふたつ分の芯をぶち抜けるそうで、今回のデモではキャベツ1個を粉砕していた。
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発射後の砲口。アルミホイルが破れている
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後部のプラスチック板。これを瞬間的に外すことがトリガーとなる
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エアコンプレッサーでパイプ内の空気を抜く
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【動画】発射の瞬間の様子。バズーカの全長は結構長いのもわかる
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【動画】キャベツの粉砕。今回はひとつだけ
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中心を外してしまったが、キャベツ半分を粉砕。弾丸のペットボトルはグチャグチャ
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また同工房では、セグウェイの試乗会もよく行なうそうで、今回も実施。グラウンドで長蛇の列を作っていた。
● そのほかロボット・テクノロジー系も出展
・慶應義塾大学奥出研究室「位置情報連動メガネ」
SF風味のテクノロジー機器を出展していたのが、慶應義塾大学の奥出研究室だ。「位置情報連動メガネ」は、ヘッドマウントディスプレー(HMD)内の映像に情報を重ね合わせて投影するというもの。カメラはHMDの装着者が手に持っているので、肉眼とほぼ同じ映像に位置情報が重ねられるという仕組みだ。SF映画やアニメ、コミックスなどではお馴染みの映像というわけである。今回の情報は、近隣の駅までの距離などが表示されていた。
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位置情報連動メガネの仕組み
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ヘッドマウントディスプレーを装着して使用中。手に持っているのがカメラなど
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・MechaRoboShopによるロボット系パーツ
ロボット系のパーツを並べていたのが、MechaRoboShopだ。マイテクが運営するモノ作り支援ショップで、今回は世界から集めたユニークなパーツやキット、ユニットなどの展示即売を行なっていた。また、簡単なワークショップも実施。ライントレースロボットのデモなども行なわれていた。
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MechaRoboShopの展示即売ブース
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ライントレースロボのワークショップも開催
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・沖縄伝統の凧ロボット(?)「ふうたん」
個人参加の鴨澤眞夫氏が出展していた作品のひとつが、中国から伝わり、日本では沖縄で'60年代ぐらいまで非常に親しまれていた凧ロボットの「ふうたん」。ロボットといっても、伝統の遊びなので、紙や木、針金などでできている。鴨澤氏によれば、「ロボットはネタです(笑)」ということだ。とはいっても凝った作りで、変形する仕組みを搭載していたり、風力と重力をうまく使って自動的に移動したりするようにもなっている。今回、展示ならびにワークショップが行なわれていたのが、蝶をモデルにしたもの。あげた凧の糸に仕掛けると、風で自動的に糸上を登っていき、凧の手前で仕込み棒が板に当たると、棒が開いて羽を開くという仕組みだ。そして羽が閉じると、糸を滑り降りて手元まで戻って来るようになっている。
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蝶のふうたん。最初は羽を畳んでいる
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こうして羽を広げる仕組み
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ワークショップの様子。子供も参加していた
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このほかにも、ノートPCをハード的にムチャな使い方をして楽器にしている「bending Laptop orchestra」([b] Laptop orchestraプロジェクト)や、テスラコイルを楽器にしてしまう「歌うテスラコイル」(菊池秀人氏)、手作りプラネタリウムと立体映像(ヒゲキタ氏)、自動車のターボチャージャーを流用した「ターボ流用ジェットエンジン」(鈴木ヒロシ氏)など、マッドサイエンスチックな風味を感じさせるものから、創意工夫のアイディア賞ものまで、さまざまな出展があった。特に、手作りプラネタリウムと立体映像は感動もの。恒星の投影装置もすべて手製なのだが、光源に赤と青のふたつのライトが用意されており、赤青の3Dメガネをかけて立体映像を見る。惑星などのモデルはフレーム状になっており、赤と青のライトで照らし出すことで、その2色の影がワイヤーフレーム状にドームに投影される形だ。それによってちゃんと立体として見え、土星などの惑星が浮いているように見えるし、宇宙戦艦などがのしかかってくるようにも見えるのである。テーマパークにある立体映像系のアトラクションでは、まずフラットなスクリーンを使っていることが多いので、ある意味それら以上に迫力があるといえた。
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bending Laptop orchestra。かなりムチャなノートPCの使い方だ
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音楽を奏でるテスラコイル。なんかマッドサイエンスな香り
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アイディア賞の受賞経験もある、手作りプラネタリウムのドーム
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プラネタリウムの投影装置もすべて手製
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会場内を見て回っているだけで、思わず「自分も寄せ集めのジャンクパーツで何か作れるんじゃないか?」となる面白いイベント「Make:Tokyo Meeting」。会場に足を運べば、誰でもその帰りに秋葉原のラジオセンターやラジオデパート、さらにはもっと裏通りのアヤしい(笑)露店などに、行きたくなるはずだ。第2回の開催が既に決定しており、10月の予定。次回は、あなたもちょっと変わった自慢のDIY機器を持ち込んだり、インスパイアを受けたりしに鑑賞に来てみてはいかがだろうか。
■URL
Make
http://jp.makezine.com/
( デイビー日高 )
2008/05/09 17:10
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