宇宙航空研究開発機構(JAXA)は17日、開発中の宇宙ステーション補給機「HTV」(H-II Transfer Vehicle)をプレス向けに公開した。国際宇宙ステーション(ISS)に必要な物資を運ぶための無人輸送機で、これはその技術実証機(PFM)。HTV輸送用として新型ロケット「H-IIB」の開発も進められており、2009年夏に打上げられる予定だ。
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筑波宇宙センターで公開された「HTV」実証機。フライト時にはこの下に推進部も搭載される
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左が虎野吉彦・HTVプロジェクトマネージャ、右が中村富久・H-IIBプロジェクトマネージャ
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● 日本独自開発の輸送機「HTV」
日本初の有人宇宙施設「きぼう」の取り付けが開始されたISSであるが、その運用のためには、水や食料などの生活物資、実験用の装置やサンプル、バッテリなどの交換部品を継続的に輸送する必要がある。HTVはそのために開発されている無人輸送機で、与圧部(船内用)に約4.5トン、非与圧部(船外用)に約1.5トンの計6トンの物資を運ぶことができる。
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主な仕様。全長10m、直径4.4mというのは、「きぼう」の船内実験室とほぼ同じだったりする
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運用の概要。ロケットから分離したあとは、自律的にISSに接近していくことができる
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HTVは大きく3つの構成要素に分けられる。まず上部1/3は補給キャリアの与圧部で、ISSにドッキング後は宇宙飛行士が入り込んで作業を行なうことができる。この区画には、前述の生活物資や船内実験用の機材などが搭載される。
中央の1/3は補給キャリアの非与圧部で、大きな開口部から船外実験用の装置などを積んだ曝露パレットを取り出すことができる。またISSで必要となる交換資材(姿勢制御機器やバッテリなど)を運ぶのも重要なミッションとなる。
そして下部1/3は輸送機本体と言えるもので、電気モジュールと推進モジュールで構成される。電気モジュールにはバッテリや通信・電子機器など、推進モジュールにはメインエンジン・推進剤などが搭載され、HTVの動きをコントロールする。
HTVはH-IIBロケットで打上げられた後、ISSに10mの距離まで自動接近。そこでISSのロボットアームにキャッチされて、ノード2にドッキングする。補給作業(最長30日間程度)が終わると今度は不要品を搭載して分離、大気圏に再突入させて処分する。この時、大部分は高熱で燃え尽きるが、耐熱性の高いノズルなど一部は燃えずに海上に落下する。
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ISSの下10mまで自動で接近。位置はGPSとレーザーレーダーで合わせる
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ISSのロボットアームがHTVをキャッチ。ノード2に結合させる
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非与圧部の開口部から、ISSのロボットアームでパレットを取り出す
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ISSのロボットアームから「きぼう」のロボットアームへ手渡す
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不要品を搭載後、ISSから分離
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大気圏に再突入して役目を終える
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ISSへの補給機としては、欧州の「ATV」(Automated Transfer Vehicle)もあるが、ATVのハッチは直径0.7mと狭く、大型の機器の搬入には向かない(HTVは直径1.2m)。またバッテリなど、船外の機器を運ぶ機能はHTVとスペースシャトルにしかない。しかし、ATVには自身のエンジンでISSの高度を上げる機能があるほか、ISSに燃料を補給することもできる。それぞれに特徴があると言えるだろう。
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各国の補給機
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HTVとATVの比較
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● これが宇宙へ行く実物だっ
HTVは2年前にもプレス公開されたことがあるが、これは「熱構造モデル(STM)」と呼ばれる試験機で、実際に飛行するものではなかった。HTVの初号機として最初に打上げられることになるのが、今回初めて公開された「技術実証機(PFM)」。まだ試験中のため、補給キャリア(与圧部+非与圧部)、電気モジュール、推進モジュールと分かれた状態になっていたが、これが本当にISSまで行くのだ。
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これが補給キャリア。トラックでいうと荷台に相当する。外周は太陽電池で覆われている
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上が与圧部、下が非与圧部。温度管理のため、軌道上では開口部が常に地球を向くそうだ
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周囲にはスラスタが取り付けられている。2個並んでいるのは冗長性を持たせるためだ
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補給キャリアの下につくのが電気モジュール。バッテリは1次/2次をそれぞれ搭載する
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円状にデバイスが並ぶ。HTVは有人並みの安全性が必要となるため、多くは冗長構成となる
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最下段が推進モジュールとなる。青い部分以外は、これから断熱材で覆われるそうだ
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上から覗くと、推進剤のタンクなどが見える。燃料にはヒドラジンが採用されている
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最下部にあるのがメインエンジン。スペースシャトルと同じものが使われているとのこと
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ちなみにこの初号機、“技術実証機”ではあるものの、飛行時にはカラではなく、実際に物資を搭載して行くそうだ。ただし、最初の飛行ということで燃料・バッテリを多めに載せるために、荷物の搭載量は4.5トン分になるということだ。
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今後のスケジュール
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現在、HTVは各部で熱平衡試験・音響試験を行なう段階で、今後組み合わせて機能試験を行ない、来年度早々には種子島へ送られる予定。打上げは2009年夏を目指してスケジュールが進められており、以降は毎年1機ずつ、2015年までに計7機を打上げる計画だ。
HTVは直接的にはISSへの輸送機として開発されたが、技術的に見ると、将来の発展も考えられているようだ。HTVの開発・運用を通して、軌道間輸送、ランデブー、再突入制御などの技術を獲得できるということで、「これらの技術は、月探査や有人輸送システムの実現に不可欠」とJAXA。今は再突入で燃やすだけだが、軌道上で実験したサンプルを持ち帰るためのシステムなども検討されているそうだ。
HTVの総開発費は約680億円で、そのうち技術実証機は200億円程度。運用機になるとコストは下がり、1機あたり140億円程度となる見込み。
● 打上げロケットも初物「H-IIB」
HTVの総重量は約16.5トンで、従来のH-IIAロケットでは、最も強力なコンフィギュレーションである204型でも軌道に投入することができない(204型だと約12トンまで)。そのため、H-IIBでは第1段エンジンをクラスタ化(2基)するとともに、機体の直径を5.2mと大きくして従来の1.7倍の推進剤を搭載した。
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H-IIAロケットからの変更点
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204型とのスペックの比較
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燃焼試験の様子。ノズルが2つ出ている
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こちらの開発状況だが、プレスリリースも出ているように、第1段エンジンの燃焼試験がすでに4回まで実施されている。この試験は10回実施する計画で、その後、実機型でのテストも行なう予定。
第1段エンジンのクラスタ化は日本では初めての試みであるが、JAXAはH-IIAロケットの技術を活用することで、「低コスト、低リスク、短期間での開発が可能」としている。H-IIBロケットの開発費は187億円で、試験機のコストは147億円。開発体制はH-IIAと同じく、三菱重工業が全体の取りまとめを行なっている。
■URL
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
http://www.jaxa.jp/
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( 大塚 実 )
2008/04/18 14:25
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