2008年2月17日、東京・秋葉原の廣瀬無線本社ビル5Fのイベントホールにて、二足歩行ロボットによるサッカー大会「KONDO CUP」の第9回大会が行なわれた。
● フィールドの拡大と、2面同時開催
これまでのKONDO CUPでは、市販キットであるKHRシリーズをベースに、小改造までしか許されていない「KHRクラス」と、KONDO製サーボモーターを使用していればどんなに強力なサーボモーターを使用していても良いという「オープンクラス」が、同じ大きさのフィールドで開催されていた。パワーのある「オープンクラス」では、少し重めのボールを使用するといった、バランスを取る工夫はなされていたものの、「オープンクラス」の機体は大柄であることが多いため、絶対的な“スペース不足”に陥っていたのもまた事実である。
だが今回、かねてから検討されていた通り、「オープンクラス」のフィールドが縦横90cm拡大された“ラージフィールド”となり、ゴールライン間(ゴールとゴールの間)が480cm、タッチライン間(コートのライン間)が300cmとなった。数字や写真では実感が湧きにくいかもしれないが、試合をするフィールド(ラインの内側)が前回までのコート全体(フェンスからフェンスまで)よりも広く、実際にフィールドを目の前にしたときの「広さ」の違いは大きい。
そして、従来のフィールドと2面構成になったことで、KHRクラスとオープンクラスの同時開催が可能になった。かつて1フィールドだったときには、それぞれのクラスで2リーグを行ない、トップ同士が決戦、という流れで行なわれていたが、今回は予選が5分1本勝負になったものの、各クラス全チームが最低4試合を行なったうえで、さらに決勝トーナメントで最大3試合を楽しめるという、サッカーてんこ盛りの大会となった。
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広くなった“ラージフィールド”。この呼び名はKONDO公式(photo:平沼久奈)
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従来のKONDO CUP公式フィールド(photo:平沼久奈)
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● KHRクラス頂上決戦は、ミステイクスに軍配が上がる
KHRクラスは第8回の王者「ミステイクス」と第7回の王者「日本工学院八王子専門学校」に加え、オープンクラスにも参加するえまのん氏が率いる「MERC(マーク)」「ガンバ・デ・マシン」「個人参加チーム」という5チームが戦った。
まず最初に5チーム総当りのリーグ戦が行なわれるが、5分1本勝負なので点差は付きにくい。しかし勝ち点(勝利3、引き分け1、負け0)→得失点差→総得点という順番で順位に影響するので、勝ち負けだけではなく、少しでも多く点を取ることが、より上位(=有利な条件)での決勝トーナメント進出への早道になる。そんな事情もあってか、各チームの戦いぶりには、予選とは思えない熱いものが感じられた。
緒戦のガンバ・デ・マシン戦を1-0で立ち上がり、そのまま順調に無敗・無失点で勝ち上がったミステイクスは文句なしの1位通過を決めたが、意外だったのは前々回にミステイクスを破っている日本工学院八王子専門学校。なんと1勝2敗1分の勝ち点4という成績で予選リーグを終えることになったのだ(どうやらバッテリトラブルなどがあったらしい)。その結果、決勝トーナメントは総合4位の枠へ入ることになった。
一方、大躍進を見せたのは個人参加チームその名も「よせ鍋」チーム。その日その時その場所で初めてチームを組んだメンバーとはいえ、じつはその面子はKONDO CUPに何度も個人参加している新井克己氏「コア」、しばんずちち氏「あしまーる」、零型「Eorz」という3機に、初参加ながら日本代表のユニフォーム(じつはフラッグを改造したもの)をまとうほど気合の入った、赤毛の「メリー」という強力な構成で、2敗ながら2勝を挙げ、勝ち点6で予選2位となったのである(チームじゃなくてもチームプレーができるなんて、オールスターみたいですな)。
決勝トーナメントの組み合わせは、まず3位と5位が戦った後、その勝者と1位、2位と4位が戦って決勝進出チームを決める方式。
3位「MERC」対5位「ガンバ・デ・マシン」は2-0でMERCの勝利。しかしミステイクスはそのMERCを2-0と完封し、決勝戦に進出した。一方の2位「よせ鍋」対「日本工学院八王子専門学校」は、ここにきて調子を取り戻した日本工学院八王子専門学校が怒涛の攻撃で5-0の圧勝。その結果、決勝は前回の覇者・ミステイクス対前々回の覇者・日本工学院八王子専門学校という、“役者が揃った”舞台となった。
この日、同じ顔合わせで行なわれた予選リーグでは、2-0でミステイクスが勝利しているものの、日本工学院八王子専門学校は決勝トーナメントに入ってから目の覚めるような動きで決勝進出を決めただけに、一方的な試合にはならないだろうと予想。事実、決勝は前半を終えて0-0という、両チームが一歩も譲らない、がっぷり4つで組み合う展開になったのである。
後半も0-0のまま終盤になり、延長戦かと思ったその時、キックインから日本工学院八王子専門学校陣内にこぼれたボールに対して、ミステイクスのキーパーが「勝負どころ」とばかりに長い距離をオーバーラップして攻め込む。そして攻守同数となった混戦の中、クリアしようとした日本工学院八王子専門学校のサイドステップがボールにクリーンヒットし、そのままゴールに吸い込まれてしまったのだ。結局これが決勝点となり、1-0でミステイクスが優勝を決めた。
強かったですね、と声をかけたら「今回の予選は5分一本勝負だったので、全試合じゃんけんに勝てたのがラッキーでした」と謙遜するミステイクスのイガア氏だったが、「(過去に)バンブーブリッジの5連覇があるので、それを越えたいですね」とも話してくれた。現在のKHRクラスには今回優勝を争った日本工学院八王子専門学校をはじめとする、強力なライバルチームがひしめいている。さらに強さをまして君臨するのか、それとも王者交代となるのか、今から次回が楽しみである。
惜しくも敗れた日本工学院八王子専門学校は、前回まではメンバーに旧KHR-1が残っていたが、今回からは全機がKHR-2HVになり、さらにオプションのピポットターンユニットを組み込んだ機体も登場していた。このピポットターンユニットのおかげで、KHR-2HVの弱点である旋回の遅さもカバーできたうえに、横歩きでスラロームを行なうなど、動きの幅が増えていたことは間違いないだろう。
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【動画】決勝前半。決定的なチャンスからでもお互いにリカバーしてしまうテクニックがある両チーム。とてもよくボールが動いた前半
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【動画】日本工学院八王子専門学校のキーパーがいい動きを見せた決勝後半。延長戦が見えてきたところで、こぼれたボールが不運なオウンゴールに
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日本工学院八王子専門学校の機体に搭載されていたピポットターンユニットは、サーボのガタを殺すために輪ゴムがかけられていた。「結構効果あります」とのこと。これまでのKHRクラスから一歩先に進んだ動きを見せていた
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じつは「MERC」はオープンにダブルエントリーしているえまのん氏が機体を提供し、知り合いのビルダーさんをオペレーターとして誘って(“傭兵”らしい)構成したチーム(photo:平沼久奈)
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ボールを持ち上げて、パントキックを放つ日本工学院八王子専門学校(photo:平沼久奈)
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キックオフゴールを避けるために見せる、日本工学院八王子専門学校(手前2機)のブロック。統率された動きはお見事
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日本代表の旗を加工してユニフォームにしたという、ロボモード氏のメリー。参加チームの「よせ鍋」は予選2位!
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優勝した「ミステイクス」。これで優勝は2大会連続3回目となった(photo:平沼久奈)
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● オープンクラスはトリニティが4連覇
オープンクラスに集まったのは、3連覇中の「トリニティ」を筆頭に、前大会を欠場していた「ロボット野郎Aチーム」「四川会」、個人参加者による「チームロボ道楽」そして筆者も参加している「RFCバンブーブリッジ」の5チーム。
今回から大きくなったフィールドは、あまりに大きいためにKONDO ROBOSPOTにも常設できていないため、すべての参加者がこの日初めて体験することになる。各選手が試合開始前に調整する姿はいつもと変わらないが、特にボールを投げてみたり、走ってみたりと「フィールドの大きさ」を確かめるように動かしていたのが印象的だった(などと他人事のように書いているが、筆者もこのフィールドの大きさを確かめたくて朝一番に会場入りした)。
単純にセンターマークとゴールの間は45cm離れたのだが、四川会のメタリックファイターやRFCバンブーブリッジのfighting-γがキックオフゴールを決めるなど、オープンクラスのキック力をもってすれば、その距離じたいはそれほどの問題にならないようだ。試合の中でのボールの移動距離も大きいため、試合そのものがダイナミックになり、見ていても飽きない試合が行なわれたのではないだろうか。
予選リーグはKHRクラスと同じくハーフ無し・5分間だけで行なわれたが、トップで通過したのは全勝・無失点という完璧な試合運びを見せたトリニティ。2位は2勝1敗1分でロボット野郎AチームとRFCバンブーブリッジが勝ち点7で並ぶ事態となった(ちなみに両チームの直接対決は相譲らず0-0の引き分け)。得失点差・総得点も同じということで、規定によりじゃんけんが行なわれ、RFCバンブーブリッジが2位、ロボット野郎Aチームが3位の枠に入って決勝トーナメントを戦うこととなった。
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ゴールキックを放つメタリックファイター2007(四川会)。オープンクラスではボールが浮くのが当たり前(photo:平沼久奈)
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コーナーキックからのセットプレーは“お家芸”。RFCバンブーブリッジが全員攻撃を見せる(photo:平沼久奈)
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ボールの出しどころを捜すガルー(トリニティ)。待ち受けるロボット野郎AチームのT-Storm(左)と旋風丸(右)(photo:平沼久奈)
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わずかに開いた隙間を狙ってシュートするクロムキッド(トリニティ)(photo:平沼久奈)
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決勝トーナメントに入ると、さすがに試合慣れしてきたのか、1回戦のチームロボ道楽対ロボット野郎Aチームをはじめ、準決勝の2試合も含めてすべて1-0での決着となり、どちらが勝ってもおかしくない試合が続く。結局決勝戦は前回大会と同じ、トリニティ対RFCバンブーブリッジの顔合わせとなった。
キック力と体格を武器にグイグイと押し込んでくるトリニティに対し、KHR-2HVベースのRFCバンブーブリッジは小刻みにボールを動かしながら、ピンポイントでパスを通していくことで対抗。5分ハーフの決勝、3分ハーフの延長戦を戦っても0-0となり、勝負はPK戦に持ち込まれた。PK戦ではクロムキッドが唯一のゴールを決め、0-0(PK1-0)でトリニティが4連覇を決めた。
第6回から続くオープンクラス連覇の中で、まともに点を失ったことがないというトリニティ。今回も予選決勝を通して無失点だが、それでも「今回は厳しかった。負けるかと思った」とコメントするほどの熱戦だった。連覇が続いているが、その座にあぐらをかいているわけでもなく、「真後ろのボールを機体正面に持ってくる」というような、新たに工夫されたモーションを組み込むなど、常にチャレンジを繰り返していることが勝利を呼び込むのだろう。
一方、負けたRFCバンブーブリッジのほうは、2回連続で決勝に進出したものの、2回とも王者の壁に跳ね返されてしまった形だ。ただ、今回は3機のうちの1機の無線がしょっちゅうハングアップするというトラブルに見舞われながらの成績であり、「連覇を止めたい。これ以上負けられない」と次回に向けての気合も入っていたようだ。
広くなったオープンクラスのフィールドは、実際にプレーしてみると、よりテクニックが要求されるフィールドになっていたように感じた。これまでのオープンクラスでは、ある程度の大きさの機体が集まるとボールに群がらざるをえず、ある意味“ブルドーザー”的にボールを運んでしまうこともできたのだが、機体同士の間隔が広がり、ボールと機体が動くスペースができたことで、よりサッカーらしい試合が可能になったといえるのではないだろうか。特に自分たち(RFCバンブーブリッジ)のような“小柄でテクニカル”なチームにとっては、これは大きなプラスに働いた。
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【動画】予選リーグのトリニティ対四川会。ガルーのキック力がいかんなく発揮された試合。四川会は予備機がノーマルのKHR-2HVだったのが弱点だったか
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【動画】5位チームロボ道楽は、1体がKONDOスタッフが操縦するKHR-1HV(ただしストライカーコンバージョン導入済みのオープン規格機)だったが、予選リーグでは5分で2点を取られたロボット野郎Aチームを相手に後半半ばあたりまで0-0でせめぎあった
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【動画】決勝後半。惜しい場面は何度となくあったが、最後まで詰め切れず。「あれがジャストミートしていれば」というシュートも。最後のセットプレーは“バンブーらしい”攻撃
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【動画】決勝延長戦後半。RFCバンブーブリッジの#19はいいところで無線コントローラーがハングアップしてしまうトラブルに一日中泣かされていた
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【動画】PK戦。ペナルティマークからゴールまでが45cm遠くなり、よりパワーが必要になった。クロムキッドのキーパーぶりがお見事
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搭載していたTEC-3の調子が悪かったバンブーブリッジ#19大塚氏。。すでに試合を終えた、同じくTEC-3を使用していたロボモード氏から借りて付け替えるも、ハングアップ再発。ロボモード氏ありがとうございました
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優勝したトリニティ。正メンバーであるrsv3を欠きながらの連覇!
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● 次回は4月26・27日、場所はフジテレビ1F
次回は第10回という区切りの大会になるが、4月26日、27日の開催が決定した。会場はお台場・フジテレビの1Fだ。
今回はビルの5Fということもあって一般の観戦者が少なめだったが、お台場となれば多くの人が見ることになるだろう。この日の観戦者からも「どのロボットがどっちのチームなのかわかりづらい。チャンスで攻めているのか、守っているのかがわからない」というコメントがあった。すでに組んでいるチームならRFCバンブーブリッジにおけるライトグリーンのように、機体の一部をチームカラーでそろえてしまうというのも手だし、個人参加チームはビブスで分けられるようにして、見やすくなると、さらに観客が盛り上がれるのかもしれない。
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( 梓みきお )
2008/03/05 00:08
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