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「第3回高校生ロボットアメリカンフットボール全国大会」レポート
~全国選抜17チームがパシフィコ横浜で激突!


 第3回高校生ロボットアメリカンフットボール全国大会が、17日にパシフィコ横浜で開催された。主催は、社団法人全国工業高等学校長協会と富士ソフト株式会社。全国17の都道府県の予選を勝ち抜いた代表校が集結し、熱戦が繰り広げられた。


予選を勝ち抜いた全国17チームが横浜に集結

アメフトらしく、激しいぶつかり合いが展開。吹っ飛ぶのは普通
 高校生ロボットアメリカンフットボールは、社団法人全国工業高等学校長協会の会員校の生徒が参加できるロボットチーム球技大会。今回は、以下の高校が予選を勝ち抜いて出場した。ただ、まだ出場校数が少ないため、47都道府県すべての工業高校が参加しているわけではない。中には予選なしで全国大会に出場している学校もあるし、香川県のように2チーム出場している県もある。本物の野球やサッカーなどのスポーツと比較すると、まだ発展途上の高校生競技大会だ。出場校は以下の通りで、高校名の後ろはチーム名である。

北海道 苫小牧工業高等学校「TOMAKO」
栃木県 県立足利工業高等学校「KFC足利」
埼玉県 県立新座総合技術高等学校「BBQ」
千葉県 県立茂原樟陽高等学校「チーム樟陽」
東京都 都立葛西工業高等学校「ドミーズ」
神奈川県 県立神奈川工業高等学校「KTRCFC」
富山県 県立大沢野工業高等学校「隼」
石川県 県立工業高等学校「石川県工」
静岡県 相川学園静清工業高等学校「SEISEI」
三重県 県立四日市中央工業高等学校「チーム四中工」
京都府 府立田辺高等学校「京野菜」
山口県 県立宇部工業高等学校「防長工友会
香川県 県立高松工芸高等学校「稲バウアー」
香川県 県立三豊工業高等学校「MITOYO」
愛媛県 県立今治工業高等学校「瀬戸水軍・昇」
宮崎県 県立都城工業高等学校「パワフル都工」
沖縄県 県立那覇工業高等学校「JS-ast」

 なお、同大会はロボット相撲と同じく富士ソフトが開発した世界初の直接スペクトラム拡散方式プロポーショナル・システム「NRC-RCV10」という新ラジコンシステムをロボットに使用することも条件となっている。物理層は無線LAN規格(IEEE802.11b)に準拠し、プロトコルは同社独自のフレーム・フォーマットを使用。それにより、同一チャンネルにおいて同時に50組のラジコンをストレスなくコントロールできるのが特徴だ。

 実際に、会場でもコートが4面設置され、予選が4ブロックに分かれて同時進行。つまり、同時に最大で32台が試合に参加していたのだが、それでもまったく問題なく動作していた。

 ルールを紹介していこう。まずチーム編成だが、選手5名ロボット5台で1チーム。1名がキャプテンで、さらに1名と1台は控えとなる。つまり、試合は最大で4対4で戦う形だ(1チーム4台揃わなくても戦える)。選手交代はアメフトらしく、キャプテンがレフェリーに宣言すれば、いつでも何度でも行なえる。

 コートは、長さ700cm×幅300cm。コートはフェンスで囲まれている。両エンドにゴールエリアがあり、相手チームの同エリア内でボールに触ればタッチダウンで1点獲得という形だ。1試合は前後半3分ハーフ(決勝以外は、インターバルを設けなかった模様)。7点差がつくとコールドゲームだ。純粋なプレー中以外は、タイムは停止する。

 なお、試合開始時、並びにどちらかのチームが得点した後は、ボールを中央に置き、ゴールエリアから両チームのロボットともにスタートし、早い方がボールを奪えるというスタイルで、本物のアメフトのようにオフェンスとディフェンスが明確に分かれているわけではない。


大会が行なわれたのはパシフィコ横浜の展示ホール(Aホール) 富士ソフトの新ラジコンシステム コートのサイズと選手たちの様子

ボール 車検の様子 各コートではタッチパネル式のモニターでタイムや得点を掲示

 ロボットである点と、人数も最大4人という点から、リアルのアメフトとは大きく隔たっているところも多いのだが、アメフトらしさを十二分に表しているルールもある。それが、相手チームのボールを持っていないロボットへのタックルもOKというところだ。「反則を取られない」のレベルではなく、「いかに相手チームのロボットをつぶすか」が勝利への秘訣なのだ。

 つぶすというのは、自分の身体で相手の動きを封じるという意味ではない。ひっくり返したり、場外へ突き飛ばしたり、場合によってはタックルの衝撃で故障させてしまうのもありだ。相手のタックルで壊れるような「ヤワな」ロボットを作る時点で負けという、「球技の名を借りた格闘技」といった方が正しいロボット競技なのである。

 ロボットは人型ではなく、車型。雰囲気的にはラジコンカーに近い形だ。ただし、車検時に重量とサイズをクリアできれば、スポーツマンシップ的に問題のあるシステムでなければ変形機構を搭載していても問題はない。

 ロボットの寸法は、縦・横・高さが各20cm以内。重量は3kgまでとなっている。見たところ、かなりトルクがあったり、スピードの出るモータを搭載していたりする様子。3kgの質量でタックルにいったら、かなりの衝撃になるのがわかるほどだった。

 ちなみに、1台1台デザインや機能が異なるチームから、5台ともほぼ一緒というチームまで、まちまち。用途は、大まかにオフェンス(ポイントゲッター)型とディフェンス型、そしてその両方をこなせる(支援できる)サポート型の3種類に分類できるようだ。

 それぞれ創意工夫が凝らされており、ポイントゲッター機の場合は、アームを突き出す変形機構を搭載し、ボールを確実にキャッチし、なおかつファンブルせずにタッチダウンまで持って行けるようにしていた。ディフェンス型も、変形機構で面積を広げる工夫をしていたり、タックルにつよかったりと、どのチームを見てもアイディアが詰まっていた。


ロボットのひとつ(チーム四中工のディフェンス型) 同じチーム四中工の4番だが、見事な変形 高松工芸の稲バウアーは、攻撃1、防御1、両用が2という感じ

石川県工は5台ともほぼ同じデザインなので、ラグビーチックなスクラムも組みやすい 那覇工JS-astのロボットは、それぞれが異なるデザイン

予選は4ブロックに分かれて実施

 大会は、17チームを4ブロックに分け、まず予選リーグが実施された。AからCまでは4チームずつだが、Dのみ5チーム。Dに属してしまったチームは、選手の披露もロボットのダメージも当然1試合分増えてしまうのはいわずもがな。これで、実力が拮抗したチームが集まったりした場合には、まさに「死のブロック」である。

 逆に、試合数が増えることで、それだけ実戦経験を積めるというメリットととることも可能だ。ただし、今回3位となった三重県立四日市中央工業高等学校の「チーム四中工」はDグループだったのだが、実際に準決勝では少し勢いが衰えていたようにも見えたので、その不利が出てしまったのかも知れない(対戦した相手も強かったのだが)。

 予選は2位までが決勝に進出できる。勝利で勝ち点3、同点で1、敗北は0。勝ち点が並んだ場合は、得失点差で順位が決まる、サッカーなどでお馴染みの方式だ。グループ分けと結果は以下の通り。

【Aグループ】
・富山県立大沢野工「隼」
・愛媛県立今治工「瀬戸水軍・昇」
・宮崎県立都城工「パワフル都工」
・沖縄県立那覇工「JS-ast」

【Bグループ】
・北海道苫小牧工「TOMAKO」
・栃木県立足利工「KFC足利」
・東京都立葛西工「ドミーズ」
・静岡県相川学園静清工「SEISEI」

【Cグループ】
・千葉県立茂原樟陽「チーム樟陽」
・石川県立工「石川県工」
・香川県立高松工芸「稲バウアー」
・香川県立三豊工「MITOYO」

【Dグループ】
・埼玉県立新座総合技術「BBQ」
・神奈川県立神奈川工「KTRCFC」
・三重県立四日市中央工「チーム四中工」
・京都府立田辺「京野菜」
・山口県立宇部工「防長工友会」


 Aグループは、愛媛県立今治工の瀬戸水軍・昇が3勝0敗で勝ち点9をゲットし、得失点差もダントツのプラス14点で1位通過。第1回大会で準優勝、第2回は準決勝まで進出している強豪校としての力を見せつけた形だ。2位のJS-astは、第1回でベスト8まで残ったチーム(第2回は参加していない)で、2勝1敗の勝ち点6、得失点差プラス5点で通過した。

 Bグループは、足利工のKFC足利が勝ち点9、得失差16で大きく抜け出て1位通過。同グループは2勝を挙げたチームがなく、葛西工のドミーズが1勝1敗1分の勝ち点4、静清工SEISEIが、1勝2敗で勝ち点3。ドミーズが2位で決勝進出となったが、得失差ではマイナス6点。苫小牧工TOMAKOと引き分けたのだが、もし負けていたら、同じ1勝2敗同士でも得失差0のSEISEIが2位となっていた。直接対決も3対2の僅差でドミーズが勝利しており、SEISEIは惜しくも決勝進出を逃した形だ。

 Cグループは3勝チームがなし。過去の優勝チームと表彰台常連チームが3チームも集まった、「死のブロック」となった。1位通過は、2003年の実験戦第2回大会から第1回本大会まで、4連続優勝を成し遂げた強豪・三豊工のMITOYO。2勝1分の勝ち点7で通過した。2位は、こちらも実験戦第2回から参加し、常に表彰台入りしている茂原樟陽のチーム樟陽だ。2勝1敗の勝ち点6で通過。昨年覇者の高松工芸の稲バウアーは、1勝1敗1分で勝ち点4に止まり、惜しくも決勝進出はならなかった。

 Dグループは、前述したとおり5チームが入っているため、ほかのグループのチームよりも予選の試合数が1試合多くなる。1位は、4戦全勝で勝ち点12の四日市中央工のチーム四中工だ。2位は、宇部工の防長工友会で、3勝1敗の勝ち点9。防長工友会はチーム四中工に2点差で敗れており、ここも1位、2位の差はそう大きくはない。

 結果、決勝トーナメントへ進出した8チームは、瀬戸水軍・昇、JS-ast、KFC足利、ドミーズ、MITOYO、チーム樟陽、チーム四中工、防長工友会となった。


予選結果一覧表

Aグループの予選を突破した瀬戸水軍・昇とJS-astの試合 BグループのKFC足利とSEISEIの試合 Cグループは、昨年の決勝戦が早くも再現。MITOYO対稲バウアー

Dグループのチーム四中工vs防長工友会、試合開始の瞬間 愛機を整備するKTRCFCの生徒たち こちらは必死の修理。京野菜の生徒

予選リーグを突破した8チームによる決勝トーナメント

決勝トーナメントの組み合わせ
 決勝トーナメントの1回戦(ベスト8)の組み合わせは、第1試合がAブロック1位の瀬戸水軍・昇vsDブロック2位の防長工友会、第2試合がBブロック1位のKFC足利vsCブロック2位のチーム樟陽、第3試合がCブロック1位のMITOYOvsBブロック2位のドミーズ、第4試合がDブロック1位のチーム四中工vsAブロック2位のJS-astとなった。

 結果、第1試合は7-3で瀬戸水軍・昇、第2試合は2-6でチーム樟陽、第3試合は7-0でMITOYO、第4試合は7-3でチーム四中工となった。個人的な話だが、記者は都立校出身で、なおかつ出身校に結構近い葛西工のドミーズを影ながら応援していたのだが、強豪MITOYOの前に完封のコールド負けを喫してしまった。


1回戦のひとつ、KFC足利 vs チーム樟陽。樟陽ボールでリスタートする瞬間 1回戦4試合の内のひとつ、チーム四中工 vs JS-ast 1回戦の結果と準決勝の組み合わせ


 よって、準決勝の第1試合は、瀬戸水軍・昇 vs チーム樟陽となった。準決勝に進出した各チームのプロフィールを簡単に紹介すると、第1試合の瀬戸水軍・昇は、平安時代末期頃から戦国時代にかけて瀬戸内海をテリトリーに活動したとされる海賊(戦国時代には毛利の水軍として活躍)の村上水軍にあやかったチーム名。キャッチフレーズは「雨にも負けず、風にも負けず、瀬戸水軍!!」だ。

 目標は、「メンバーの団結力で勝ち取った優勝旗を愛媛の地に持ち帰ること」である。また、「水軍の如くパシフィコ横浜で縦横無尽に駆け回り、今大会では大暴れしたい」としている。ロボットは、タックル重視型のディフェンス系、タッチダウンを狙うクワガタムシ型のオフェンス系などがある。

 強度や性能の向上に力を入れているそうだが、スピードと操舵性のバランスに苦労した模様。プッシュボタンスイッチを押すだけで、フルスピードでの爆走や、スラローム走行を行なうなど、相手を翻弄させる機能を搭載しているのが特徴だ。

 第1試合のもうひとつのチーム樟陽は、東日本勢で唯一準決勝に進んだチーム。チーム名は、もちろん高校名からだ。かつては茂原工業高校という校名で、実は高校生ロボットアメリカンフットボール大会に参加しているチームとしては、とても伝統がある高校のひとつだ。

 同大会は、第1回が2005年11月に開催される前にプレ大会が2005年2月に開催され、その前にも実験戦が3回行なわれている。2001年12月に開催された実験戦の第1回は東京都立の工業校のみ16チームの参加だったのだが、2003年2月に実施された第2回からは、全国に拡大。茂原樟陽工(当時は茂原校)はその第2回から参加しており、その時は3位に(今回参加している中では、そのときから参加しているのはほかに苫小牧工、葛西工、神奈川工、三豊工がある)。

 翌2004年1月に行なわれた第3回実験戦でも3位に入り、プレ大会では準優勝、第1回大会、2回大会でも3位に入る表彰台の常連というわけである。そんなチーム樟陽のキャッチフレーズは「縦横無尽」。両チームともに奇しくも機動力を重視したタイプのようである。

 ロボットは機動力とパワー重視。昨年から構造面の研究を長い時間をかけて行ない、大幅に作り直したという。その結果、過去最高の戦力を有するに至り、最高のチームに仕上がっているという。

 ボールキープ力とロボット転倒時の復元力(七転び八起きのダルマ構造)の最適化を数々の実験によって図ったり、決勝戦まで故障せずに戦い抜ける強度設計を実現したりするなど、かなり時間と労力をかけてきたようだ。「今年こそ、先輩たちが成し遂げられなかった全国制覇を達成する決意でチーム一丸となって挑戦する!! 相手に1点も取られないような勢いで攻めに攻め、一戦必勝態勢で臨む」としている。

 試合は、残念ながら準決勝も同時に2試合が行なわれ、第2試合の様子を録画することにしたため、直接試合は見られず。結果からすると、8-1で瀬戸水軍・昇がコールド勝ちを決め、圧倒的な展開となった模様である。


瀬戸水軍・昇のロボットたち チーム樟陽のロボットたち

 一方の第2試合、MITOYO vs チーム四中工だ。苦渋の決断の末にムービーを撮影することにした理由は、チーム四中工の存在である。予選リーグから見ていて際立っていたのだが、同チームのポイントゲッターでキャプテンの生徒が非常に熱い性格で、少々エキサイトしがちなのだが、際立っており魅力的な選手だったからだ。

 味方がミスをすると容赦ない言葉を浴びせてしまう口の悪さは少々困った部分なのだが、その代わり腕前は抜群。高速のオフェンスタイプのロボットを絶妙に操作し、フェイントを1回2回と入れて相手ディフェンスを縫って走れる、相当な反射神経の持ち主なのだ。団結力を重視するチームが多い中、エースが時には味方のシリを叩いて、グイグイと引っ張っていくタイプのチームは余りなく、見ていてそのエキサイトぶりにハラハラする場面もあったが、面白かったのである。

 両チームの紹介をしよう。まずMITOYOだが、チーム名はもちろん高校名から。前述の通り、三豊工も第2回実験戦から参加しているチームで、しかも、三豊工は第2回実験戦、第3回実験戦、プレ大会、第1回大会に優勝し、第2回大会は準優勝という名門中の名門だ。MITOYOというチーム名は、代々先輩たちから受け継がれてきた、由緒あるチーム名というわけだ。

 そんな同チームのキャッチフレーズは、校訓から引用したという「事上錬磨」。チームの戦術としては、個人の役割分担を決め、攻守のバランスを重視しているそうだ。ロボットに関しては、ポイントゲッターのマシンがボールをうまく運べる機構を、かなりの時間を割いて製作しているという。縦横高さがすべて20cm以内というサイズに関するレギュレーションを満たすため、開閉式のアームを取り付けたのが特徴だそうで、攻撃力に加えて防御力を上げることに成功している。目標は、もちろん優勝である。


 一方のチーム四中工は、チーム名は高校名から。プレ大会から参加しており、こちらも歴史のあるチームだ。参加当初は1回戦負けのチームだったが、徐々に実力をつけ、昨年は決勝トーナメントに進出し、今年は強豪MITOYOを敗れれば、そのまま優勝できるのではないか、という雰囲気である。

 キャッチフレーズの「ハイテク四中工」が示すとおり、ロボットはオリジナリティあふれる設計が特徴。これまでに培った四中工のロボットづくりのノウハウを結集し、ゼロから設計製作したそうだ。こちらも車検クリア用の初期状態から試合時は大きく変形する仕組みを採用しており、特に目立つのがディフェンス用のロボット。横幅が倍ぐらい広がり、前面にはボールをキャッチしやすくするようにネットも展開する。まさに、変形らしい変形を行なうのだ。

 同大会は、順位とは別に、優れた機構を備えたロボットに対して、経済産業大臣賞が贈られるのだが、同チームはそれも狙っているとのことである。

 試合は、これまでならチーム四中工が速攻を仕掛けて得点を重ねるパターンが多かったのだが、準決勝というプレッシャーや、予選がDブロックのために1試合多かったことなどがジワジワと出てきたか、キレが少し影を潜めた感じ。もちろん、強豪MITOYOならではのディフェンス力もあるため、簡単に事は運ばないということだろう。なかなかお互いに点の入らない拮抗した状況が続く。しかし、終盤になって5-4とMITOYOが1点リード。そこへ持ってきて、ダメ押しの1点をMITOYOが追加し、6-4で終了。決勝戦は、瀬戸水軍・昇 vs MITOYOという、第1回大会と同じカードになった。愛媛県 vs 香川県という、四国勢強し! の印象である(第2回の決勝は、香川県勢同士)。


MITOYOのロボットはすべて異なるデザイン チーム四中工のロボット。ディフェンス用は同じデザインだ 【動画】準決勝第2試合MITOYO対チーム四中工の模様

 決勝の前に、チーム樟陽 vs チーム四中工の3位決定戦が行なわれた。対MITOYO戦ではあまり見られなかった、チーム四中工のエースの速攻が今回は出だしに決まり、わずか5秒間で2ポイントゲットという展開。さらにもう1点を取られて、徐々にチーム樟陽に火がつき始めた感じで、そこから逆襲に転じる。しかし、最初に立て続けに失点してしまったことが響いたようで、チーム樟陽は盛り返すことができず。2-5でチーム四中工の3位が決定した。


セットアップするチーム樟陽 こちらもセットアップ中のチーム四中工 【動画】3位決定戦チーム樟陽対チーム四中工の模様

 そしていよいよ決勝戦。前後半3分ずつ、1分のインターバルを挟む形だ。試合は、MITOYOの先制でスタート。MITOYOのポインットゲッターが確実にボールを拾って、自陣からでも一気に走って、立て続けにポイントを上げていく。

 しかし、MITOYOが2点を取って、そのままいってしまうかと思われたが、瀬戸水軍・昇も踏ん張る。一時は4点差がつくが、諦めずにMITOYOに食らいついていく。逆に4点差がついて少しMITOYOに隙ができたのかもしれない。そして、試合時間も長いという点はあったが、予想外の点の取り合いに。ディフェンスに穴があるというよりは、お互いに攻撃が見事という形で、非常に見応えのある、決勝戦らしい決勝戦となった。


整列する瀬戸水軍・昇の生徒たち。観客だが、少なくとも100名はいたはず 瀬戸水軍・昇のロボットたち 一方のMITOYOのメンバー。緊張感漂う一瞬

MITOYOのロボットたち 【動画】決勝戦・瀬戸水軍・昇対MITOYO、前半戦の模様

 後半は、7-11で、MITOYOが一歩リードした状態からスタート。これまでの試合と同様に3分だけの試合だったら、MITOYOが勝っていたのだが、3分あればまだまだわからない点差である。

 このインターバルが効いたのか、そこから瀬戸水軍・昇が立て続けに得点し、両チームともにダブルスコアに。もうどちらが勝つか読めない展開だ。そして残り1分30秒を切ったところで、ついに11対11で瀬戸水軍・昇が追いつく。その後、MITOYO自陣ながら、サイドアウトからMITOYOボールとなるが、そのMITOYOのチャンスを、瀬戸水軍・昇の見事なディフェンスが叩きつぶす。

 あまつさえ、ルーズボールを瀬戸水軍・昇のポイントゲッターがゲットし、自陣から独走してタッチダウン。残り時間1分を切り、ついに瀬戸水軍・昇が逆転した。だが、MITOYOもすぐに追いつく。

 試合中に選手たちの動きもどんどんよくなっているようで、ここに来て、相手の動きをお互いに封じあって、それでもかいくぐってタッチダウンに行くという、見事なまでの攻防が展開される。マン(ロボ)マークなど、実に見事。

 残り時間30秒を切り、12対12のまま延長戦もあり得る状況になってきたところで、瀬戸水軍・昇が押し込み、13点目をゲット。MITOYOは、腕を展開するタイプのロボットが自陣ゴールエリアにあるボールをクリアしようとしていたのだが、焦ったかうまく運べず、そこへ瀬戸水軍・昇に飛び込まれた形だ。

 しかし、まだ1点を取るには十分な時間が残されているので、MITOYOはまず同点に追いつくことがポイント。しかし、瀬戸水軍・昇のディフェンス力が非常に上がっており、MITOYOボールのリスタートでチャンスにも関わらず、タッチダウンまで持って行けない。

 逆に、瀬戸水軍・昇がタッチダウンを決め、ダメ押しの14点目。そこで時間切れとなり、瀬戸水軍・昇が初優勝! 高度なディフェンスとオフェンスのかみ合った、これぞロボットアメリカンフットボールとでもいうべき、見事な試合であった。


後半戦はMITOYOが3点リードの10対7からスタート 【動画】後半戦の様子

 表彰式では、優勝した愛媛県立今治工業高等学校の瀬戸水軍・昇が文部科学大臣賞を受賞。準優勝の香川県立三豊工業高等学校のMITOYO、3位の三重県立四日市中央工業高等学校のチーム四中工、4位の千葉県立茂原樟陽高等学校のチーム樟陽も表彰された。さらに、優秀なロボットを製作した高校に贈られる経済産業大臣賞が、栃木県立足利工業高等学校のKFC足利となった。

 また、ロボットアメリカンフットボールとロボット相撲の審判部長を務め、今回の決勝戦も裁いた富士ソフトの石川大氏が、今回をもって勇退することとなった。瀬戸水軍・昇のキャプテンより花束を贈られ、後進が育ったことで安心して引退できるとし、また今後もロボット相撲とロボットアメリカンフットボールを応援していきたいとした。また、ここで花束の贈呈などを受けるとは思っていなかったそうで、とても嬉しいとも。


表彰式の様子 トロフィー。優勝から4位まで 表彰は、まず経済産業省を受賞した足利工のKFC足利から

表彰される優勝校の今治工の瀬戸水軍・昇の生徒たち 準優勝のMITOYO。実験戦を含むこれまでの6回の全国大会で優勝4回、準優勝2回は素晴らしい成績 3位の四日市中央工のチーム四中工。年々成績を上げている

4位の茂原樟陽高等学校のチーム樟陽。今年も準決勝止まりとなってしまった 今回で審判部長の役を引退する石川大氏 上位入賞チーム+KFC足利と関係者で記念撮影

 表彰式の後の記念写真撮影などが終わった後、まず準優勝のMITOYOの生徒たちから話を聞こうと思ったのだが、昨年に続いて準優勝に終わってしまったことが悔しかったようで、泣いている子もおり、さすがに断念。優勝した瀬戸水軍・昇のキャプテンに話を伺った。キャプテン、とても緊張しやすいたちのようで、なかなか言葉が出てこず、チームメイトがフォローしてあげるような人物。今治校の伝統として、2年生までしか参加できないそうで、2年生のキャプテンは当然引退。3年生時は、サポート役として後輩たちを支えてあげることになる。

 ちなみに、今回のチームには1年生がひとり。メンバーの4名がいなくなってしまうので、来年はそこをどう補強するかが、ポイントとなりそうだ。

 キャプテンに試合を振り返ってもらって、やはりポイントとなったのは、後半に一気に追いついて、逆転できた瞬間だったようだ。記者のレベルで分析してみると、後半のその一気に追いついた辺りから、MITOYOの攻撃が決まらなくなっており、瀬戸水軍・昇のディフェンスが非常に固くなっているのがわかった。一方で、攻撃力もキレがあるまま。

 逆に、MITOYOのディフェンス陣の集中力が切れてきていたのか、焦っていたのか、瀬戸水軍・昇のポイントゲッターの独走タッチダウンを何度か許してしまったのが痛かっただろう。リスタートしてしばらくはお互いにつぶし合って拮抗しているのだが、ルーズボールの処理にも差があったように思われる。

 しかし、どちらにしろ、この日の決勝戦こそが紛れもなく一番の試合だったのも事実。よく、準決勝辺りの試合で「事実上の決勝戦」と評される試合があるが、今大会の決勝戦は、明らかにレベルの点からも、エキサイティングさからもナンバー1。文句のつけようのない試合だった。負けてしまったMITOYOの生徒たちも、胸を張って、来年再び参加できる生徒は雪辱を胸に、引退する生徒は後輩たちの支援という形でがんばってほしい。


先生を含めて瀬戸水軍・昇でまずはステージ前で撮影 生徒たち5名だけで記念撮影

 観戦していて、心の奥底から熱くなってくる、素晴らしい大会であった。17校の選手たちには、本当にご苦労様といいたい。同じ、全国工業高等学校長協会と富士ソフトが主催するロボット相撲は個人での勝負というイメージだが、こちらはひと味異なるチーム戦が最大の魅力。この団体戦がまた、素晴らしいプレーを見せてくれるのだ。

 また、「所詮ロボット」などとバカにできない迫力がある点もポイント。クルマ型のロボットたちはともすれば、目が追いつかない機動力を発揮するし、7m×3mというフィールドはかなり大きく、高速で走っていく様子を追いかけられるので、よく考えられたサイズだと思う。

 決勝戦などのムービーを見てもらえばわかるが、ゴールラインからスタートして3mを最高速で走ったロボット同士が正面からぶつかり合う「ガツン」という音は、ほかのロボットコンテストではそうそう見られない迫力である(そうやって何度もぶつかり合っても、壊れないロボットたちを造る生徒たちの技量も素晴らしい)。生であればさらに迫力が異なるので、来年はぜひ会場まで足を運んでみてはいかがだろうか。恐らく、来年も観戦は無料となると思われるので、気軽に見に行ってほしい。


URL
  全日本ロボットアメリカンフットボール大会
  http://www.fsi.co.jp/foot/
  全国工業高等学校長協会
  http://www.zenkoukyo.or.jp/
  富士ソフト
  http://www.fsi.co.jp/


( デイビー日高 )
2008/02/27 19:03

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