神奈川県が国際レスキューシステム研究機構(IRS)とのコラボレーションで実施している創造工房の第15回「レスキューロボット開発講演会」が、東芝科学館(川崎市幸区小向)で開催された。会場は、同館の3階から4階にかけてある大ホールだ。
創造工房は、「自分なりに工夫してレスキューロボットを作る、動かす」「研究者の話を聞き、開発中のレスキューロボットを見る、体験する」「レスキュー隊の人の話を聞く」という体験を通じて、「人に役立つロボットのこと」「災害救助のこと」「防災のこと」の3点を学べる小中学生向けのプログラム。2004年からスタートし、第15回は2008年最初の開催となった。
● 創造工房第15回はレスキューロボットの目にフォーカス
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「レスキューロボットの『目』に注目!」の講演の様子
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創造工房の講演内容は項目が毎回決まっており、「レスキューロボット開発講演会」「レスキュー隊のお話と実演」「レスキューロボットのデモと操作体験」となっている。今回の講演は、筑波大学大学院システム情報工学研究科知能機能システム専攻知能ロボット研究室の坪内孝司教授による、レスキューロボットの「視覚」にフォーカスした解説が行なわれた。
ふたつ目の消防局救助隊員の方のお話と実演は、急遽隊員の方が出動となったため中止に。代わりに、東芝科学館が、先月届いたばかりで現在調整中のからくり人形2体のデモンストレーションを特別に公開した。特に、弓引き人形は現存するものが世界で2体しかなく、レプリカではあるが、非常に貴重な1体。同科学館では、今回が一般への初公開だそうで、目の前でデモを見られて、参加者はラッキーだったのではないだろうか。これらについても、東芝科学館のそのほかのロボット関連の展示物と合わせて後ほどお届けする。
そして、レスキューロボットのデモと操作体験だが、坪内教授の研究室で研究・開発されている「Kenaf(ケナフ)3号機」によって行なわれた。このロボットは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究予算により、東北大学、千葉工業大学、岡山大学、産業技術総合研究所、情報通信機構、と筑波大学で共同開発しているものだ。
最初は、坪内教授による講演、「レスキューロボットの『目』に注目!」。自己紹介を行なった後、大ホールのちょっとした映画館並みのスクリーンを用いて、プレゼン画面と映像を多用した講演を開始した。講演というと難しいイメージがあるが、小中学生がメインであるため、内容は動画を多用した、「見てわかる」ことを重視した作りを心がけていたようである。
最初にレスキューロボットとは何かということから始まり、まず東京工業大学の塚越准教授らの開発したジャンプロボットが紹介された。坪内教授は筑波大学の所属だが、2007年3月で終了した「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」という文部科学省の研究予算で行なわれた、レスキューロボットの開発に参加していた。このプロジェクトでは、日本国内の多数の大学や研究機関が協力してレスキューロボットを開発していた。東京工業大学もそのひとつである。
レスキューロボットはどんなところで活躍するかということで、地震で倒れた家の周りや中、あるいは倒れたり壊れたりはしなかったけれども、中に入ると危ない建物や地下街の中などが紹介された。実際に震災で倒壊した建物や、地元の川崎駅の地下街などの写真を使って、説明を行った。
このレスキューロボットの開発プロジェクトでは、救助隊員から素早くかつ安全に被災地の要救助者の確認を行ないたいという話を聞いたことから、自分たちのロボット技術を応用できると考え、レスキューロボット開発の道を選んだという。隊員たちが直接入っていったら二次災害の恐れのある危険な建物内の捜索や事前調査を、安全に素早く行なえるようにと、開発しているわけである。
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筑波大学大学院システム情報工学研究科知能機能システム専攻知能ロボット研究室の坪内孝司教授
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まずは、レスキューロボットの紹介からスタート。東京工業大学製ジャンプロボット
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救助隊員が捜索や救助活動を行なうには危険な、倒壊しかかった建物や地下街などが活躍の場
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ちなみに、小中学生が聴衆ということもあって、坪内教授は夢を壊すようで少し言いづらそうではあったが、現在はまだ自律の人型ロボットが負傷者を救出に行くというレベルには至っていないと説明(別段、会場からがっかりした反応はなかったが)。将来は、という話をしていたので、今回参加した小中学生が成長してそうしたロボットを開発してほしいと坪内教授は願っているようでもあった。
実際、レスキューロボットは、遠隔操縦型の小型の情報収集タイプのロボットであることが多い。狭い場所での捜索活動や現場の情報収集を行なえるよう、小型で不整地踏破能力を重視した設計だ。ヘビのように多関節構造であったり、小型の戦車のようであったりと、人とは完全に異なるデザインをしている。どちらかというと、ラジコンのように子供たちには思えるようで、「普通なら触れない特殊なおもちゃ」という感覚だったのか、触れること、目の前で見られることにわくわくしている子があらかただったようだ。
● 消防隊が協力してレスキューロボットの実証実験兼想定訓練を実施
そして、実際に消防隊がレスキューロボットを使用した実証実験兼想定訓練の模様を動画で紹介。2006年11月5日に、JR川崎駅地下街アゼリアで行なわれた訓練の様子である。このときは国際レスキューシステム研究機構と、共同研究を行なっている千葉工業大学、電気通信大学、東京工業大学、レスキューロボットによる被災者の救助活動の実現を目指して活動しているボランティアのレスキューチーム「インターナショナル・レスキュー・システム・ユニット」(IRS-U)の計5つの大学や組織が協力して実施。
ロボットは、千葉工業大学の未来ロボット技術研究センター(fuRo)で開発された「Hibiscus」、電気通信大学知能機械工学科の松野文俊教授の研究室で開発された「KOHGA 2」、そして東京工業大学の広瀬茂男教授並びに福島 E.文彦准教授の研究室で開発されてIRS用に改造された「蒼龍」が参加した。HibiscusとKOHGA 2は無線タイプで、蒼龍は有線タイプである。
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JR川崎駅前地下街(アゼリア)での実証実験兼想定訓練の様子
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操作ステーションのロボットからの映像の様子と訓練の様子
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訓練内容は、災害によって地下街に取り残された負傷者がいるかもしれないという想定のもと(隊員たちには、どこに要救助者がいるかは知らされていない)、実際に消防隊員がロボットたちを操作して捜索を行なった。本来は、操縦用コンソールは、当然屋外の安全な場所に設置されるわけだが、実際に屋外の道路領域を実験で使おうとすると警察の道路使用許可を得る必要があるため、アゼリアの一部である階段の途中を屋外の操作前線基地にみたてた。訓練を開始すると、ロボットたちはクローラを使って難なく階段を降りていく。坪内教授によれば、階段を降りていくこと自体は技術的にはもうそれほど難しいことではなくなったという。
だが、難しいのがビデオカメラからの映像だけでの操作。坪内教授は、子供たちに対し、ラジコンのようで簡単に見えるかもしれないが、ロボットに備えられたカメラだけで操縦するのは非常に難しいと説明。そのため、できるだけ広い視野を確保するなどの工夫をしていると付け加えていた。訓練でも、階段を降りるまでは隊員たちがロボットを直接目視できる状況だったが、そのあとは地下街が右に曲がるため、完全にビデオカメラからの映像のみとなる。それでも、ロボットたちは、がれきを模した角材などを乗り越え、要救助者をひとり、もうひとりと発見。実際に発見した後は、隊長の指示を受けて隊員たちが直接地下街におり、要救助者に肩を貸す形で救助を行なっていた。
坪内教授によれば、最初にロボットが捜索に行くことで消防隊員たちの危険性が減ることもそうだが、ロボットにビデオカメラが備えられていることで、隊長が救助現場の様子(の一部)を映像で見られる点も大きなメリットという。現在は、現場の隊員からの口頭での報告から判断するしかないわけだが、一部とはいえ、現場の映像や音声を得られるので大きく情報量が増え、判断しやすくなったというわけである。隊員たちが報告を行なう回数や時間もそれだけ減らせるので、それだけ救助活動に専念できるというメリットもあるというわけだ。
訓練は、負傷者は3人という設定。内ふたりは人が演じているが、もうひとりはダミー人形が担当。ふたりを救助した後、まだ要救助者がいるかも知れないということで、ロボットたちはさらに奥まで捜索に向かう。ダミー人形は最も奥におり、崩落した天井などの瓦礫に埋もれて昏倒し、意識がないという設定だ。ここでは、蒼龍が活躍。双方向のマイクとスピーカーが備えられており、隊員が蒼龍を通して話しかけ、意識の有無などを確認するのである。動画はここで終了となった。
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【動画】実際の訓練の様子。救助隊員たちが操作しているところ
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【動画】レスキューロボットたちの活動の様子
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● ロボットの遠隔操縦のポイントは視界の広さ
続いて紹介された映像は、救助訓練の映像ではロボットの操縦コンソールとモニターの様子があまりよくわからなかったことから、それらがわかる映像。2005年に実施された「RoboCup Rescue 2005 大阪世界大会」の際の模様である。
ここで登場したロボットは、筑波大学の「ACROS」。右側がコンソールと操縦者を後方から映したもので、左側がその操縦者が実際に操作しているロボットの様子だ。このときは、モニターに映し出されたロボットからの映像のみで遠隔操縦するというルールだったのだが、橋を渡るなどの難しい操作を行なっている様子が見て取れた。なお、当時はまだアナログ電波で映像をコンソールに送っていたそうで、若干画面が乱れるのだが、現在は無線LANを利用したデジタル映像なので、だいぶ安定しているそうである。ちなみに、このときのロボットには3台ぐらいのビデオカメラが設置されており、コンソールには複数の映像が個別に映し出されていた。
今度は、そのロボットの操作の実演ということで、Kenaf3号機を用いた操縦を坪内教授の研究室の学生さんが披露。パソコンにビデオカメラからの映像を映し出し、Kenaf3号機に背を向けた状態で操作していく。操縦システムは、ロボットの操縦でいまや当たり前となった、無線タイプのゲームパッドである。一見すると操作は簡単そうだが、PC上のソフトを操作する上である程度の知識が必要なようで、消防隊からの要望として、「電源をオンにしたら、誰でもすぐに使えるようにしてほしい」といわれているそうだ。その点は、今後の課題のひとつだそうである。
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RoboCup Rescue 2005 大阪世界大会の様子
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【動画】RoboCup Rescue 2005 大阪世界大会でロボットを操縦している様子
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Kenaf3号(サブクローラあり)
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Kenaf3号(サブクローラなし)
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【動画】学生さんが直接見ずにKenaf3号を操作する様子
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Kenaf3号のコントローラは市販のPC用ゲームパッド
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また坪内教授は、操作性の問題点として、ロボットに搭載されているビデオカメラの視野の広さについても言及。実演したKenaf3号機の視野は周囲360度を完全に見渡せるほどは広くないという。視野を広くするために使う道具立てのひとつが、「全方位カメラ」。前後左右に加えて上方の計5方向にレンズが備えられた円柱状のビデオカメラを坪内教授は披露した。
その5方向のレンズがとらえる景観は少しずつ重なり合っており、それを利用して前後左右360度、そして上方の180度分をソフトウェアで合成し、死角のない横長のパノラマ映像を表示して見せた。像が歪むというデメリットはあるが、視野が非常に広いのはいうまでもない。
ちなみに、この全方位カメラだが、以前ACROSにこれを搭載して実験したところ、重量があるために重心が高くなってしまい、階段を上ろうとしたら倒れてしまったのだそうである。全方位カメラの課題は、軽量化というわけだ。ただし坪内教授によれば、重量問題は最近の携帯電話に搭載されている小型軽量のカメラを使えば、簡単に解決できるという。今後はこのようなカメラを応用してゆくことになるという。
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全方位カメラ。重量があることが問題だが、軽量化の目処は立っている
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全方位カメラの視野
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全方位カメラの機能。パノラマ画像だけでなく、一部のズームなども可能
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【動画】全方位カメラの様子と機能
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次の話題は、パノラマ映像の課題である「遠近感のなさ」。そこで紹介されたのが、周囲を立体的にとらえられる「ステレオカメラ」だ。紹介されたのは、長い棒の先に備え付けられたもので、30mm間隔でふたつのレンズが目のように並び、その下にライトがあるというデザイン。瓦礫のすき間など狭い空間にも差し込むことができ、中を観察できるというわけだ。これは総務省からの予算を得て、坪内教授を中心に筑波大学と国際レスキューシステム研究機構で共同開発しているというもの。両眼立体視が可能なヘッドマウントディスプレーを装着し、左右それぞれのレンズからとらえた映像を左右独立して映すことで、立体的に見られるという仕組みである。要は、人の目と同じ原理というわけだ。
実際、救助隊には棒の先に単体のレンズを備えたタイプのビデオカメラはあるのだそうだが、映像に立体感がない点が救助活動や捜索活動などで不便な場合があるようで、「立体感をもって観察できる仕組みを」という依頼で開発を始めたそうである。
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ステレオカメラの解説プレゼン画面
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全長はこのぐらい
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【動画】ステレオカメラの紹介
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見る際は、両眼立体視が可能なヘッドマウントディスプレーで
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● 自律走行するロボットの目
話題は、続いてロボットの自律走行の話に移行。坪内教授によれば、自律走行こそが移動ロボットを研究している人々が力を入れており、がんばっている分野であるという。遠隔操縦を先ほど行なったKenaf3号だが、自律走行も可能な機体で、今度は自律走行のデモンストレーションが行なわれた。しかも、Kenaf3号が立っている人をよけながらの走行である。坪内教授がKenaf3号の前にわざと立って進路をふさぎ、また方向を変えたところで、その先に立ちというようにして見せたが、Kenaf3号は坪内教授にぶつかることなく、ちゃんと目の前に人(障害物)があることを認識しているところを披露した。人ごみのなかでもロボットが動ければ、災害現場で被害にあった人が多くいても、それだけロボットの活動範囲が広くなるというわけだ。
自律走行には絶対的にロボットに外界の状況を把握するための「目」が必要になるわけだが、Kenaf3号に搭載されているのは「走査型レーザ距離計」(測域センサ)である。走査型レーザ距離計は、レーザ光線で物体に当たってから戻ってくるまでの時間を計って距離を算出するレーザ距離計を2次元的に広角で使用し、周囲の障害物や動くものなどの位置(環境)を把握するという仕組みだ。
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【動画】坪内教授を避けてKenaf3号が進んでいく様子
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測域センサ
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測域センサがとらえたデータをレーダーチャート化した画面
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【動画】測域センサが、人が歩いて移動しているのをとらえているところを見られる
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ここで会場の子供たちに質問。理科の授業モードである。「球の速さが秒速40mで3.5秒飛んだら何m進むか」とまずは出題。距離=速さ×かかった時間というヒントはあったが、スラスラと「140m」と回答。さらに、さらに、レーザの速度=光の速度を聞くと、別の子が一般的な秒速30万kmよりもさらに正確に、「29万……」と回答。そこで、レーザが1m進むのに3.3ナノ秒、音(秒速340m)の場合は2.9mm秒と教えると、教授はさらに「ナノって何?」と質問。すると、先ほど光の速度について答えた、小学校高学年ぐらいの男の子が再び手を挙げ、10億分の1と正答した。
レーザ距離計は、原理的には、1mを計るのにこのくらい短い時間の差を検出するのだと説明。近年、子供たちの「理科離れ」が危急的問題として叫ばれていたりするが、必ずしもそうではないことが見て取れた気がする。余談だが、今回の講演のような子供たちがもっと興味を持てるような内容で、理科の授業を組めばいいのではないだろうか?
さらに、筑波大で行なわれた、物体の形状を取得する実験の様子も披露された。廊下や階段で立っている人に対してサーチをかけ、人の形状、廊下や階段の形状などが見分けられるレベルだ。また、先ほど音が1m進むのに2.9mm秒かかるという話が出たが、実は坪内教授の別のロボットは、超音波測距器を利用して周囲の物体との距離を測っていることも紹介。用いている超音波測距器は、送信と受信のふたつ1組のトランスデューサを用いるタイプで、数mm秒の間だけ超音波のパルス状波形を送信し、対象物に反射して戻ってくるまでの時間から距離を割り出している。ロボットには、前後左右の4組の超音波測距器が設置されていた。
ちなみにそのロボット、「9号タイプ(青色フレーム)」の「あか」(上部に赤いフレームがある)と呼ばれているのだが、なんと坪内教授がまだ学生だった20年前に製作し、それから改造に改造を重ねて今でも研究用途に使用しているという、知能ロボット研究室の最古参のロボットだそうである。
講演も最後となり、まとめに。坪内教授は現在のレスキューロボットは自ら被災者を救助するロボットではなく、「実は被災者を探しにゆくロボット」であるとして、消防隊員の救助活動を支援し、負担を軽減するものであることを改めて伝えた。また、遠隔操縦と自律走行については、どちらもロボットの「目」がポイントであると説明。視覚として用いるセンサは複数あることなども子供たちに伝えていた。
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算数の時間。距離を求める公式は?
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立体形状取得実験その1。筑波大3L4階廊下にて
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立体形状取得実験その2。同階段にて
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音波もロボットの視覚として利用可能
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「9号タイプ(青色フレーム)」の「あか」
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上面にある、ふたつでひと組の寝かされた小さな黒い円柱が超音波測距器
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● 坪内教授を喜ばせた(困らせた?)子供たちの質問の数々
その後、質疑応答の時間となり、かなりの数の質問が、子供たちから坪内教授へ浴びせられた。質問内容は、まず無線LANについての質問からスタート。行動半径はどれぐらいなのか、瓦礫が散乱する災害現場で無線LANの電波が届くのか、ラジオなどのスイッチが入っていても混信しないかなどである。答えは、行動半径が約30mで、瓦礫はスカスカだから30mぐらい問題ないはず、ラジオは問題ないが無線LANが多数作動している施設などは混信の可能性あり、であった。
Kenaf3号の製作に関する質問も。造るときの難しさ、製作に要した日数、何人で取りかかっているのか、といった内容だ。造るときの難しさは、ロボットのフレームなどをアルミの板から正確に削り出すことや何本もあるコード類を間違えないように配線すること。製作に要した日数は、部品からの組み上げで2~3カ月、設計(図面引き)からは1年半ぐらい。坪内教授の研究室では、ひとりがひとつのテーマに挑戦しているそうである。
Kenaf3号についての質問は、センサの種類と数、最高速度など。センサは、ふたつ搭載されているモータそれぞれの回転数を検出する物、傾きを見るジャイロ、ビデオカメラがふたつ、測域センサで6つ。走高速は、人間の早歩きの時速6kmほどだ。
また、人型のレスキューロボットの開発はいつするのか、という質問も。「研究はできないわけではないけど、たぶん、やらないと思います」という回答。その理由は、現状で救助活動は人が行なった方がまだまだ早いので、それよりも瓦礫の合間を縫って速く移動できて、要救助者をいちはやく捜し出すといったロボットが得意とする分野を進めていった方がいいと考えているからである。
複数のレスキューロボットを連動させて救助活動を行なう研究をしないのか? という質問に対しては、実は研究のメインテーマのひとつであるという。筑波大学のほか、東北大学、千葉工業大学、岡山大学、産業総合技術研究所、情報通信機構で同じレスキューロボットを共同で研究開発しており、一堂に会して連動した救助活動実験もしてみたいとのことだった。
最後に、講演会のスタッフの方からの、大学や研究機関でロボットの研究をするためには、小学生の時からどんな勉強をすればいいか、という質問。まず基礎として絶対的に必要なのは、算数・数学、理科(物理)に加えて、電子回路の知識など。大学でロボット関連の勉強をして理解するためには、高校でそれらの基礎になる勉強が必要だし、高校の勉強を理解するためには、中学校、さらには小学校となっていくという話である。
英語に関しては、「いるといえばいります」。理由としては、ロボットのパーツとして使用している部品の中には外国製のものもあり、マニュアルを読むのに英語の読む力が必要。また、大学の場合は研究内容を論文にまとめて国際的に発表する必要があるので、書く力、話す力も必要というわけである。ただし、とりあえず読める力があればロボットは造れるということで、あとは書けて話せればなおよし、ということであった。
そのあとは、参加者がロボットの操作を体験できるコーナー。あまりにも操縦希望者が多かったのと、想定以上の操作によってモータに電流が流れすぎてヒューズが飛んでしまい、途中でKenaf3号はストップしてしまったため、記者は操縦体験を行なえず。途中もコードの断線などもあったのだが、開発している学生さんがハンダ付けして応急処置をするなどして、参加した子供50人+その一部の保護者の操縦体験希望に応えていた。
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Kenaf3号。子供たちの荒っぽい使い方は、耐久テストになった!?
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Kenaf3号のメインカメラ
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実験機なのでボードはむき出し
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前のサブクローラの先端部分
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今回のKenaf3号は有線で電源を供給したので、電源ケーブルが絡まないよう坪内教授自らがサポート
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後方部分。サブクローラの使い方次第でかなりの段差を乗り越えられる
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【動画】子供たちがKenaf3号を操作している様子
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一方、ステレオカメラの方は体験することができた。カメラの間隔が30mmということだが、おそらく記者の両眼の間隔との差があるのだろう。若干、違和感があるのだが、モニターの映像を観ているというよりは、特殊なフィルターをセットしたメガネをかけてみているかのような感じで、自然に立体感があり、映像を観ているという感覚ではない気がした。これをレスキューロボットに装備すれば、瓦礫を立体的にとらえられるので、よりすき間を縫うような操縦も楽にできるのではないだろうか。
それから、Kenaf3号を開発している学生さんにも、コントローラに関しての話を伺うことができた。不整地踏破能力を高める仕組みとしてKenaf3号が採用しているのが、前ふたつ、後ろふたつについているサブクローラ。それぞれ独立した状態で角度を変えることができるので、いわば手足がついているような形で、かなり瓦礫などをよじ登る能力が高くなっている。数十cmの高さを降りるといったこともショックをボディーにあまり与えないようにして行なえるそうだ。
現状のゲームパッド型コントローラでサブクローラをうまく動かすためには、どのようにして操作性を上げたらよいか、コントローラを別のものにするなどを含めて今後の研究課題としているそうだ。
● 東芝科学館所蔵のからくり人形
そして、レスキュー隊員の方の話がなくなったため、そのかわりに急遽一般公開となった、からくり人形。今回の創造工房に参加した人たちは、運良く一般公開第一号となれたわけである。公開されたのは、世界に2体しかない弓引き人形(そのレプリカ)と、内部機構を見せるために東芝科学館で再現したスケルトン名方たちの茶運び人形の2体だ。
弓引き人形は、まだ調整中のため、矢をうまくつかめないことも多いし、矢を射ても的にうまく当たらないという状況だが、「現代のテクノロジーで製作された人形」と説明されても納得してしまうほどの精巧さ。逆に、江戸時代に作られたとはとても信じられないというのが感想である。1カ月前に同館に届いたばかりで、調整してちゃんと的に当たるようになったら公開する予定だったようだ。
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弓引き人形
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別角度から
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調整すれば、的を正確に射るようになる
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弓引き人形の下部のメカニズム
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メカニズムを別角度から
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【動画】弓引き人形が弓を引いて射る様子
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一方の茶運び人形は、1796年頃に細川半蔵頼直の手によって記されたからくりの原理・製作説明書である「機巧図彙(からくりずい)」に従って、東芝科学館で復元したものだ。お茶を置くと、設定した距離を走りだし、お客さんがお茶を持ち上げるとストップ。お客さんが湯飲み茶碗を人形のお盆に再び置くと、クルリと回って戻って来るという仕組みだ。
首の動き、すり足など、非常に細かくできているのがわかるし、表情も見事である。からくり人形を見ていると、江戸時代の人たちに現代の最新技術を与えてあげれば、創意工夫でもっとすごいものをたくさん作ってくれるのではないかと感じさせてくれる、驚異の詰まった歴史あるロボットたちなのだ。
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茶運び人形スケルトンタイプ
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館のスタッフの方がネジを巻きながら説明
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からくり人形は、3階の創業者の部屋に普段は展示してある
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こちらは通常タイプ
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【動画】茶運びの様子。湯飲み茶碗を持ち上げると止まる
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【動画】子供たちのいないときにもう一度
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なお、今回、両人形ともに動画での撮影も許可してもらえたので、じっくり見てほしい。また、後ほど一般公開もされるので、実際に目の前で見たい人は、東芝科学館を訪ねてみよう(入館料は無料)。さまざまな分野の東芝の最新技術と合わせ、東芝製ロボットも複数展示されており、大人も子供も楽しめる施設となっている。
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からくりほととぎす。創業者の部屋のからくり人形のひとつ
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童子盃台。からくり人形のひとつ
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からくり人形の中には、超レアものの文字書き人形も(このときは展示されておらず)
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3階医用コーナーにはロボット鉗子の説明
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2階ユビキタスワールドの工業用スカラロボット(水平多関節型)。現在、デモはお休み中
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1階応用技術コーナーの水中ロボット
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■URL
筑波大学大学院システム情報工学研究科知能機能システム専攻知能ロボット研究室
http://www.roboken.esys.tsukuba.ac.jp/japanese/Mainmenu/
創造工房(神奈川県)
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/keihin/ken/keihinHP/souzouindex.html
国際レスキューシステム研究機構
http://www.rescuesystem.org/
東芝科学館
http://kagakukan.toshiba.co.jp/
( デイビー日高 )
2008/02/26 21:20
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