2007年12月16日、神戸市にある神戸大学深江キャンパスのスイミングプールにおいて、「第2回水中ロボットフェスティバル2007」が開催された。主催は、社団法人日本船舶海洋工学会関西支部、水中ロボコン推進会議、MTS日本支部、IEEE/OES日本支部。
今回は、2008年4月10日に開催が決定している“Aqua Robot Competition”の予行練習として、一部に競技形式を取り入れた。ロボットの種類によって、ラジコン部門、ROV部門、AUV部門、アクアバイオ部門にわけ、それぞれ課題が与えられた。
● ラジコン部門
海水では電波が届かないが、清水のプールでは水深3m以上でも通常のラジコン電波が届く。
参加している“JMSS”(Japan Model Submarine Society、日本模型潜水艦協会)は、2002年から六甲アイランドの人工河川リバーモール(水深50センチ)を拠点に活動しているラジコン潜水艦の愛好者グループだ。
今回は競技形式のデモンストレーションを行なった。まず、浮上状態から、プール底にマークしたエリア内に着底した後、プール内に2つのブイを係留して周回し、定められた枠内に浮上する。競技の内容は、実際の潜水艦にとっても意味があるものが用意されている。
例えば、ゴール地点の枠内に浮上するのは、北極圏の小さな氷が帯状に固まっている“アイスパック”と呼ばれる浮氷群の割れ目から、潜水艦を浮上させるのをイメージしているという。
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定点着底。ポイントの中心に定着したら10ポイント取得する
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2つのブイを周回してくる
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定められた枠内に浮上してゴールとなる
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● ROV部門(ケーブル式水中ロボット)とAUV部門(自律型水中ロボット)
ROV(ROV:Remotely Operated Vehicle)は、ロボットと操縦装置がケーブルで連結されており、人が陸上から操縦したり、リアルタイムでロボットからデータを取ることができる。
今回出展されたのは、「ROV-KAWAKAMI 07special(東海大学海洋学部船舶海洋工学科坂上研究室)」だった。サイズは、全長0.83m、全幅0.53m、重量7.4kg。ボディのデザインは、エイをイメージしているという。
「ROV-KAWAKAMI 07special」には、バッテリ、ドライバ、カメラが内蔵されていて、PCを通じて制御が可能。本体に付けた計4個のスラスタで、ロボットが前後左右上下の6方向に自在に動く。
「ROV-KAWAKAMI 07special」は、搭載カメラで画像処理を行ない、灯りを追いかけて移動することができる。
また、脱着式のハンドを取り付けることによりアームで水中作業ができる。将来は、ダイバーに代わって高度な水中作業を行なわせることを目的にしている。今後は、自律化に向けて開発を進めていくという。
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ROV-KAWAKAMI 07special。全長0.83m、全幅0.53m、重量7.4kg。今回はアームを取り外している
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【動画】動画をよく見ると、各スラスタを制御して方向転換しているのが判る
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ROV-KAWAKAMI 07specialの内部。4つのスラスタを個別に制御して6方向に移動する
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一方、AUV(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)は、人による遠隔操作を必要としない自律型水中ロボット。本体に搭載されたセンサ情報をもとに、ロボットが判断して自律で動く。AUV部門は、2体のロボットが競技にチャレンジした。
競技は、2つのステージが用意された。第1ステージは、水中にある2つのゲートをロボットが順に通過する。第2ステージでは、水底に描かれた赤いラインに従ってロボットがトレースする。
最初にチャレンジしたのは、「Sea-Bird(九州工業大学)」だった。Sea-Birdのサイズは、全長0.46m、全幅0.7m、高さ0.14m、重量8kg。方向可変の2基のスラスタと翼を装備し、通常のグライダータイプより複雑な動作が可能となった。小型のスラスタは、本体の大きさに合わせて開発したという。
Sea-Birdは、地磁気センサを利用して、ロボットがどの方向を向いているか検知している。
今回は、第1ステージをクリアするために0.7mの深度を保って前進するプログラムを組んだ。ロボットが水中で直進するのはやはり難しく、何度もゲートにひっかかってリトライをしていたが、最後に2つのゲートをくぐることに成功した。
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Sea-Bird。サイズは、全長0.6m、全幅0.7m、重量8kg
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【動画】小型軽量のため水流の影響が大きいのか、直進するのが難しいようでゲートに引っかかることが多かった
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【動画】動画には納められなかったが、1つめのゲートをクリアした後に2つめもクリアすることができた
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「Twin-Burger(九州工業大学)」は、第1ステージ、第2ステージの競技にチャレンジした。サイズは、全長1.54m、全幅0.86m、全高0.54m、総重量120kg。今回、最大の水中ロボットだった。重量があるために、入水・引き揚げは吊り上げ設備を使用していた。
アクチュエータには、移動用水中スラスタ5基を使い、前後、左右、上下方向に移動する。センサは、深度計測用に圧力センサを用い、他には姿勢センサと8個の超音波測距センサを搭載している。
第1ステージでは、水底までの距離を超音波センサで検知して0.5m潜水し、直進するプログラムを組んでいた。だが、スタート地点にある水底のプレートに超音波センサーが反応して、誤動作してしまった。プレートの位置をずらし、ロボットのスタート地点も変えてチャレンジしたが、本体が大きいこともあってゲートをくぐり抜けることができなかった。午前中に練習した時は、見事クリアしていたという。成功したシーンを動画に納められなかったのが残念だ。
Twin-Burgerは、画像認識機能を搭載しており、第2ステージのライントレースにも挑戦した。ラインを検知し、ロボットがラインと平行になるように位置を補正して前進するプログラムを組んであるという。
実際に競技のようすを見ていると、Twin-Burgerがラインに対して位置補正をしようとしているのが判る。同時に、ロボットが水流の中で定位置にとどまることが難しいのも伝わってくる。
プール内とはいえ、近くには水中撮影を担当するダイバーが泳いでいるし、ロボット自身の動きでも水流が発生するのだ。競技形式のチャレンジを見ることで、水中ロボットの難しさがわかりやすく伝わってきた。
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Twin-Burger。サイズは、全長1.54m、全幅0.86m、全高0.54m、総重量120kg
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【動画】Twin-Burgerの入水・引き上げは、吊り上げ設備を使い3人で行なっていた
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【動画】最初、水底にあるプレートが超音波センサーに反応してしまい、潜水の深度をチェックできずにいた
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【動画】ボディが大きいのがハンデとなり、ゲートにひっかかってしまった。競技終了後も、何度もトライしていた
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【動画】Twin-Burgerは、画像処理でライントレースにもチャレンジした
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浮流重油自動追従ブイシステム「SOTAB:Spilled Oil Tracking Autonomous Buoy System(大阪大学大学院 加藤研究室)」は、重油とともに海上を長期間漂流することを前提に開発されている。そのため、浮力と可動翼を制御して移動することで、移動に必要となる消費エネルギーを抑えている。サイズは、全長0.916m、全幅0.7m、重量22kg。
今後は、漂流中に重油塊と離れた時に、自動的に重油塊を検知し追従するようセンサーとシステムを構築していく予定だという。
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SOTAB。サイズは、全長0.916m、全幅0.7m、重量22kg
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【動画】潜水と浮上を繰り返して移動する。将来的は、重油塊を追って移動するようになる
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● アクアバイオ部門
アクアバイオ部門のロボットは、生物の動きを模した移動方法を採用したロボットだ。
小型魚ロボットの「およぎタイ(大阪市立大学工学研究科動力システム工学研究室)」は、本物の魚そっくりに尾びれを動かして泳ぐロボットだ。サイズは、全長245mm、高さが120mm、幅60mm。重量は352g。
魚の泳ぎをPIV(粒子画像流速測定法:Particle Image Velocimetry)で計測した結果、魚の交流部に逆カルマン渦があることが判明したという。ちなみにカルマン渦とは、流れの中に物体がある場合にその物体の後方に生じる規則的な渦列のことをいう。お風呂に入った時に、水面に指を1本立ててすっと動かした時、指の後方にできる渦もカルマン渦だ。
魚の形状を元に、尾びれのしなりを考慮して、3次元CFD解析を行なった結果、尾びれの柔軟さが逆カルマン渦列の形状に寄与していることを突き詰めたという。
尾びれの厚みを0.1mmのゴム膜にすると、遊泳速度がかなり向上し、交流部に逆カルマン渦が形成された。その結果、およぎタイは魚同様に早く泳げるようになった。スクリューよりも尾ひれの方が水中では安全で、推進力として効率がいいという。陸上で動かすと尾びれがピチピチ動くようすが、本当の魚のようだった。
「およぎタイ」は、今は浮沈装置がなく浮きをつけて水面を泳いでいる。将来的にはカメラを取付て、配水管などの管内壁チェックや、河川の水質チェックを行なう目的で開発している。そのためにも、さらなる小型化を目指している。プールでは泳がなかったが、「ミニおよぎタイ」も参考出品された。
「ミニおよぎタイ」は、全長52mm、高さ27mm。手のひらに乗るほど小さく、洗面器の中で泳いでいた。電源はリチウムポリマー。アクチュエーターには室内エアプレーンのマグネットアクチュエーターを流用している。
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魚の自然な泳ぎを分析した「およぎタイ」。全長245mm、高さが120mm、幅60mm。重量は0.352kg
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【動画】魚の尾びれの動きを解析した結果を、ロボットの機能として実現した。本物の魚同様に泳ぐ
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コントローラーの動きをPCでデジタル化し、ロボットに送信している
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「ミニおよぎタイ」は、手のひらに乗るくらい小さい。全長52mm、高さ27mm
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【動画】「ミニおよぎタイ」は洗面器の中で泳いでいた。思わず、「可愛い」と言いたくなる
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【動画】「ミニおよぎタイ」を空中で動かしてもらった。ピチピチと音が聞こえてきそうな動きだ
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「PLATYPUS(大阪大学 海事機械システム工学領域 加藤研究室)」は、胸ひれを動かして泳ぐロボットだ。サイズは、全長1.35m、全幅0.12m、重量13.5kg。
「PLATYPUS」は4枚のひれがある。それぞれのひれは3自由度を持っていて、4枚が個別に動く。それにより、前進、後進、その場旋回、垂直上昇・下降、水平横移動など、6方向へ動くことができる。前進後進は最大速度が0.65m/sになる。
本体には浮力調整用に円筒状のフロートが取り付けてある。センサーは、深度センサー、姿勢センサー(3軸角速度、3軸傾斜角)、胸ひれ根元の力センサー、レーザーを用いた前方距離計、位置計測用ピンガーを装備している。
水中ロボットが潮流の中で定位置にとどまり海底などの観察を行なう時、ロボットの姿勢を安定させなくてはならない。スクリューで推進するのロボットの場合は、複数のスクリューを搭載して正負の推力を素早くに制御する必要があり、潮流の不安定な中で細かな位置や姿勢の制御は困難だ。だが、魚は流れの中でも安定して自分の位置を保っている。
同研究室では、魚の泳ぎ方を観察し胸ひれで前後方向に水をかいたり(前後運動)、付け根を中心にひねったり(回転運動)、上下方向に振ったり(上下運動)する動きが、静止状態での素早い旋回や姿勢の保持に役立っていることを突き止めて、ロボットの機能として搭載した。
例えば、水中に複雑な構造物があると、そこには流れの中に複雑な渦が生じるために、ダイバーが接近するのは危険だ。「PLATYPUS」は、これまで難しいとされていた潮流中や波浪中における港湾構造物まわりの遊泳が可能。現在ダイバーが行なっている港湾内の橋脚や堤防などの検査を代行できるようになれば、水中作業の安全性向上が期待できるという。
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PLATYPUS。サイズは、全長1.35m、全幅0.12m、重量13.5kg
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【動画】PLATYPUSは、4つのひれをそれぞれ動かして、前後進、左右の方向転換を行なっている
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【動画】このように水中で定位置を保ったり、その場で垂直に上昇下降もできる
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その他、展示のみで参加しているロボットもあった。
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「多関節型水中ロボット(九州工業大学)」は、同型のユニットが連結されているロボットだ
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【動画】「ゾウリムシ型水中推進機構(信州大学)」。モーター24個をPICマイコンで制御している
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● 水中グライダーとジュニア部門
主翼独立制御型水中グライダーの「ALEX(大阪府立大学有馬研究室)」のサイズは、全長0.83m、全幅0.83m、高さ0.17m。重量4.35kg。潜行速度は0.2~1m/s。スクリューやスラスターといった推進器を持たないため、単純な機構で機体サイズを小さくすることができたという。
ボディの筒内に、シリンダを押下するモーターを搭載している。シリンダーの動きと羽の角度が連動して動き、揚力が推進力に変化している。左右の主翼の角度はそれぞれ独立して制御できる。これにより、姿勢を保ったまま垂直降下や浮上、またはスパイラル状に回転などもできる。
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主翼独立制御型水中グライダー「ALEX」。サイズは、全長0.83m、全幅0.83m、重量4.35kg
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【動画】シリンダーと羽の動きが連動している
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ジュニア部門には、岡山商科大附属高校と、倉敷工業高校のメカトロニクス研究部が参加。岡山商科大附属高校はペットボトルやフィルムケースを利用したスラスタ水中ロボットを製作した。
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岡山商科大附属高校のスラスタ水中ロボット。ペットボトル製
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デザイン違いのロボットも出展していた
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前回、最優秀賞を受賞した倉敷工業高校のメカトロニクス研究部は、学校から予算が出てロボットを大きく進化させてきた。
前回はサーボモータやバッテリを、発泡スチロール製の筏に乗せて水面に浮かべていたが、今回新しく開発したロボットは、電子部品も本体に搭載し潜水できるようになった。ロボット本体の前後に2つずつバスポンプを搭載している。前方のポンプで上下、後方のポンプで前進する。
テスト中に深くに潜らせすぎてしまい、水圧に負けてロボット内部に水が入って浮上できなくなるトラブルがあったが、幸いサーボや基板は無事だった。
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倉敷工業高校メカトロニクス研究部の水中ロボット
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お風呂用のポンプを使い上下、前後に移動することができる
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内部に水が浸水しひやりとする一幕もあった
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● 水中ロボットコンテスト実現に向けて
今回、競技形式を取り入れて、水中ロボットで競技を行なう難しさが改めて浮き彫りになったように思う。
出場した水中ロボットは、大学等の研究室がそれぞれの研究目的を定めて開発している。他のコンテストのように、先に課題があって専用ロボットを作って参加するのではないため、コンテストの課題を考えるのがそもそも難しい。
そして、コンテスト運営についても、水中ロボットならではの難しさがあった。
例えばAUV部門では、最初にスタートしたロボットが迷走した時、競技を中断することができなかった。参加者がリスタートを申し出ても、水中のロボットを回収する手段がなかったのだ。
水中でカメラ撮影しているダイバーへロボットの回収を伝えたくても伝達手段がなく、結局、ロボットがどこかの壁際に辿り着くのを待って、回収するしかなかった。
実行委員会側も、水中ロボットのコンテストを行なうのは難しいことは事前に判っていたが、実際に競技をしてみてみなければ、具体的な問題点は見えてこないことが多いという。問題点さえ明らかになれば、対策を考えることができる。
上記の件は、「競技中にプール内の階段を叩いて合図をしたら、ダイバーは一度水から顔を出して、指示を受けてほしい」という要望がその場で出されて、以後はスムーズにリトライできるようになった。
このような「やってみなくてはわからない」という問題点は、コンテストに限らずロボット開発をする上で必ずぶつかるだろう。
また、水中ロボットには、製作のための工作設備や技術だけではなく、事前テストの試験水槽も必要となる。今回もこれを機会に「初めて動かします」というロボットがあった。今後、水中ロボコンの参加者を増やしていくためには、事前テストの場を提供するなどのサポートも必要になるのではないだろうかと思う。
水中ロボコンの実施は、参加者だけでなく、運営側にもさまざまな面で負担や工夫が必要になり、困難な点が多いだろう。だが、コンテスト形式を取りれることで、一般にも関心をもってもらえる点、研究者にとってはロボットを可動しテストする機会が増えることを考えると、開催の意義は大きいと感じた。
二足歩行ロボットや産業ロボットは、一般ユーザーの目に見えるところで活動するので、身近に感じられやすい。だが、水中ロボットの活躍は私達の日常生活から離れたところにあるために、その必要性が認知されにくい。水中は、人の手が届かない場所だからこそロボットの活躍が期待されるだけに、一般の認知度が低いのは残念だ。
今後もこうしたイベントやコンテストを通じ、水中ロボットの必要性や重要性が広く一般に伝わり、特に若い世代が、水中ロボットに興味を持つきっかけになればよいと思う。
今回は、同時併催で、「第3回海底世界一周ノーチラス号デザインコンテスト(主催はN-con実行委員会 )」の他、浦環教授(東京大学生産技術研究所)による「海を拓く自立型水中ロボット~ドードー溶岩大平原の発見~」の講演(主催は、テクノオーシャン・ネットワーク)も開催された。
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第3回海底世界一周ノーチラス号デザインコンテスト
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「テクノオーシャンユース2007」の講演会風景
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浦環教授(東京大学生産技術研究所)
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■URL
第2回水中ロボットフェスティバル
http://aquarobo.com/kobe07/index.htm
水中ロボコン
http://chikyu-to-umi.com/robocon/
テクノオーシャン・ネットワーク
http://www.techno-ocean.com/public_html/index_j.html
海底世界一周ノーチラス号デザインコンテスト
http://chikyu-to-umi.com/n-con/index.html
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・ 「2007水中ロボットコンベンションin東京辰巳国際水泳場」開催(2007/03/28)
( 三月兎 )
2008/01/15 01:03
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