12月22日(土)~24日(月)の3連休の週末、お台場にある日本科学未来館にて、ソニーがかつて販売していた4足歩行ロボット「AIBO」と、ヤマハの電子楽器によるセッションの体験イベントが行なわれた。主催したのは「放課後ロボット倶楽部」。直接間接、本業副業を問わず、何らかの形でロボットに関連や関心がある社会人の有志、10名余りからなる集団だ。
デモの概要は、電子楽器を演奏すると、AIBOが音声と動きで返事を返すというもの。主な対象は子どもたちで、ドラム、ギター、キーボードの3つが用意され、MIDI楽器+AIBOの組み合わせ3台でセッションができた。AIBOそのものは、リモートブレインで動作している。電子楽器の演奏は有線でバックヤードのPCにMIDI信号で送られ、AIBOのモーションとボーカルに変換して、モーションは無線LAN経由でAIBOに、音声のほうはAIBOのスピーカーでは音量不足だったため今回は外部スピーカーに出力されていた。
ドラム、キーボード、ギターによるバンドセッションそのものは1日3回、時間を決めて行なわれたが、それ以外の時間にも自由に楽器やAIBOに触ることができ、未来館に来場した親子連れは思い思いに楽しんでいた。バンドを体験した子ども達は「緊張した」「AIBOが動いて楽しかった」とコメントしていた。
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クリスマスライブの様子
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3台の楽器と3台のAIBOによるバンド
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クリスマスらしい衣装を着せられたAIBO
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会場の様子
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空き時間にも自由に楽器とAIBOにさわれた
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システムは、ヤマハによる試作ソフトウェア「EZclub BAND(非売品)」と、ソニーが2003年3月に発表したAIBOを無線LAN経由で制御する開発環境「AIBOリモートフレームワーク」の組み合わせからなっている。
「EZclub BAND」とは、MIDIを出力する複数の楽器を使って、簡単にバンド演奏気分を楽しむためのソフトウェアである。例えばギターであれば曲のリズムに合わせて弦を弾くだけで、そのときに合ったコードの音が出る。キーボードも同様で曲に合わせて鍵盤を適当に押すだけでいい。ドラムも1つのパッドをリズムに合わせて叩くだけで他の部分はサポートしてくれる。
「AIBOリモートフレームワーク」とはパソコンからワイヤレスLAN経由でAIBOをコントロールするアプリケーションをC++で作成するための開発環境だ。AIBOから得られる音声・画像・関節角度・センサー値等のデータをパソコン側で処理、それに応じた指令をパソコンから無線でAIBOに与えるアプリケーションソフトウェアを開発できる。
今回は「EZclub BAND」のボーカルセッションをAIBOに出した形で、AIBOは新たに追加作成した「モーションネットワーク」を利用し、演奏された曲に合わせて臨機応変にダンスを踊っていた。
モーションネットワークとは、動作と動作の間をつなぐ仕組みのことだ。ロボットは伏せ姿勢からいきなり立ち姿勢に移行することはできない。中間をつなぐ遷移姿勢が必要となる。だが中間姿勢を一つ一つ考えながらコマンドを発行するのはかなり面倒だ。モーションネットワークを使えば、自動的に最短の遷移姿勢を計算し実行してくれるため、直前の姿勢がどんなものであったかを考えずにコマンドを発行できるのである。
今回は特にダンス用のモーションネットワークを作成し、姿勢遷移そのものがダンスと見えるように工夫をこらしたという。特に今回は子供たち向けのデモということで、基本的なリズムを勢いよく叩きさえすればきちんと返すようにソフトウェアを組んだ。
また、AIBOは演奏された音に対して単純に音を返すだけではなく「ノート(音符)変換」を行なって、似たような音を返すこともできる。これによって「かけあい」をしているような効果が生まれることを狙ったという。
● ロボット×音楽による新たなエンターテイメントは生まれるか
もともとロボットや楽器で何かやりたいと考えていた知人たちのゆるやかな繋がりだった「放課後ロボット倶楽部」が本格的な活動を始めたのは今年の6月から。名古屋にあった「ロボットミュージアム」で開催された「エンタテイメント・ロボット・フォーラム(ERF)」で、株式会社ロボットサウンド取締役社長の渡辺良氏らによるライブイベントの研究発表を行なったのが最初だという。
そのプレゼンをヤマハのメンバーが見て「面白い、何か一緒にやりましょう」となって今回のイベントにつながった。なお渡辺良氏はAIBO「ERS-7」シリーズのサウンドプロデュースを手がけた人物であり、今回ももちろん参加している。
一般の人たちへの「初興行」は今回となる。今回あぶりだされた課題を見直しつつ、人とロボットのインタラクションや、音楽の可能性を探っていきたいという。
たとえば、今回、実際にイベントを実施する前には、主なお客さんには小学校高学年~中学生を想定していたという。しかしながら実際には小学校に上がる前の子供たちの食いつきが非常によかった。これは予想外だったという。音楽は、就学したあとの学校での授業で嫌いになってしまう人が少なくない科目だ。そのような背景も反映されているのかもしれない。
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放課後ロボット倶楽部のメンバー
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ヤマハとしては、これまでは楽器ができる人達に向かってさまざまなものを提供してきたが、楽器を弾けない人たち、あるいは弾きたいという気持ちを潜在的に抱いている人達にも「楽器を弾いて楽しむ」というリアルな経験をしてもらいたい、と考えているという。そのときに「ロボット」という技術が楽器をはじめようとする手助けになれば、と考えているとのことだ。
バンド演奏の楽しさは一つの曲を複数の演奏者が一緒に奏でるところにあるのだろう。それだけではなく、音楽は演奏者たちだけではなく聴衆をも引き込んで会場全体に「一体感」をもたらすことができる活動だ。そのような一体感の輪のなかに、ロボットというこれまでにない存在が入り込むことはできるのか。一体感の輪をさらに広げていくことはできるのだろうか。ロボットは、人と人との繋がりの媒介となれるのだろうか。
「放課後ロボット倶楽部」の面々は、会社からの参加者や、まったくのボランティア参加者たちの混合だ。いわば正規の必須クラブの活動と、非公認のクラブ活動が入り交じっているようなものである。そのようなカオスの中からどんなエンターテイメントが生まれてくるのか、期待を持って見つめていきたい。
■URL
ロボットサウンド
http://www.robot-sound.co.jp/index.html
イベント案内
http://www.robot-sound.co.jp/info/XmasLive071222_24.htm
ヤマハ
http://www.yamaha.co.jp/
AIBO
http://www.sony.jp/products/Consumer/aibo/
( 森山和道 )
2007/12/25 14:32
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