10月24日に独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は、ヒューマノイドロボット「i-1(アイワン)」の開発に成功したと発表した。「ユニバーサルコミュニケーション技術」研究の一環として開発されたロボットで、機械が人間と非言語コミュニケーション(ジェスチャーや視線、うなずき、イントネーションなど言語以外のコミュニケーション手段)を使ってコミュニケーションを行なうための基礎技術の研究開発に用いられる。
「i-1」は身長155cm、体重85kg。自由度は50(腕7×2、脚7×2、腰3、首3、手6×2、目2×2)。ボディはSARCOS社と共同開発したもので、人間のように力強く、素早く、しなやかな動きを実現するために全身に油圧アクチュエーターを使っていることが大きな特徴。非言語コミュニケーション研究のために必要不可欠な、人間に似た速度と力強さで身振り手振りを行なうことができるという。
腕、脚、腰、首は21MPaの油圧アクチュエーターで駆動し、指は2MPaの空気圧アクチュエーターで駆動される。ただし現状では手先はまだパッシブのみで、今後はピンチングやグラスピングができるようにしていく予定だ。目の駆動だけはモーターが用いられている。
油圧を用いたパッシブなコンプライアンス制御によって外の物体など外界の環境に対して柔軟に接触することができる。すべての関節に角度センサーとトルクセンサーを持ち、柔らかな力制御を行なえる。各関節には位置・速度コントローラーを搭載しており、正確で素早い運動が可能だ。
頭部にはステレオカメラを合計4つ、マイクを2つ持つ。そのほか、床半力を計測するための6軸力センサーを2つ、3軸ジャイロを2つ、1軸加速度計を3つ持つ。
ロボット自身のカメラを使って任意の物体の3次元形状を学習・認識させられるほか、モーションキャプチャーを用いて人間の動作を観察しオフラインで学習するシステムを使うことにより、人間の動きを学習させていくことができる。
OSはART-Linuxを採用し、体内LANには実時間Ethernetが使われている。
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「i-1(アイワン)」。身長155cm
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「i-1(アイワン)」側面
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背面
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頭部には中心視野用と周辺視野用にそれぞれ2×2台のステレオカメラを搭載
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頭部側面には2つのステレオマイク
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将来は、あごもつける予定
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背面にメインボードを搭載
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センサーの取り付けられた腰部分
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腰部分を背面側から
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右腕手先につけられた緑色の手袋は手先認識用
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左腕正面
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右腕をひじ側から
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脚部
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右脚部側面
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脚部を後ろから
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ふくらはぎ~足首部分
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【動画】認識したクマのぬいぐるみを指差す。近づけるとひじを曲げて指差しなおそうとする
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【動画】認識した物体をカメラで追いかける
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【動画】素早く動かしてもついてくる。広角カメラの視野は120度
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物体をカメラで撮影して3次元形状を学習することができる。実際にはあらゆるアングルから人間がロボットに示してやる。およそ200トライアルほどが必要
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認識画面。緑色の丸が学習した物体を認識していることを示す
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認識した物体を指で指し示す。自分の腕先も観察している
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3次元形状で認識しているので、似たような別のぬいぐるみとの違いを見分けることができる
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「i-1」は、教示、モーションキャプチャー、フルビジョンの3つの手段で動作を学習し、人間らしいなめらかな動きを行なうことができる。開発にあたったNICT知識創成コミュニケーション研究センター音声言語グループ 非言語コミュニケーションサブグループのゴードン・チェン(Gordon Cheng)氏によれば「i-1」の「i」には、インタラクション、インテグレーション、インフォメーション、インテリジェント、インフォマティブ、イマジネイティブなどの意味が込められているという。
東大の國吉研究室に研究されているヒューマノイドロボットの開発にも携わっていたチェン氏は現在、ロボットを通じて、脳と身体、そして環境との関係を理解することを目指している。
なお「i-1」の身長は、チェン氏の身長と合わせて作られている。将来、自分と同様に動くことができる真のヒューマノイド・ロボットを作ることがチェン氏の夢であるという。チェン氏自身は日本語はほとんど話せない。だが「i-1」には日本語対話機能も持たせる予定があるため「将来は自分よりも『i-1』のほうが日本語はうまくなるかもしれない」と冗談を交えて語った。
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NICT知識創成コミュニケーション研究センター音声言語グループ 非言語コミュニケーションサブグループのゴードン・チェン氏
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写真では分かりづらいが、i-1の身長はチェン氏と同じ155cm
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知識創成コミュニケーション研究センター音声言語グループ グループリーダーの中村哲氏
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知識創成コミュニケーション研究センター音声言語グループグループリーダーの中村哲(なかむら・さとし)氏によれば、「i-1」開発が始まったのは昨年の4月から。「i-1」は「ユニバーサルコミュニケーションの研究」の一環として機械と人間とで対話する技術の一環として開発されたものであり、今後、人間とロボットがどうコミュニケーションするのが自然かという観点で、人間とロボットのコミュニケーションの研究や運動制御との関係の研究を、平成22年度までの5カ年で行なっていく。ロボットがボディを持つことで、人間が持つ「身体的制約」に関する情報を、機械と人が共有できるのではないかと考えられるという。
今後NICTでは非言語コミュニケーションの研究成果はもちろん、音声コミュニケーション研究、脳科学、認知科学、心理学などの成果も取り入れて、より高機能なヒューマノイドの開発を目指して研究を続けていくという。将来的には、介護などの用途に用いることを狙っている。
人間は対話を行なっているとき話題の先読みを行ないつつ、うなずき等の対話動作を行なって、発話側と聞き手で相互に引き込みを行ない、適応的にコミュニケーションを行なっていると考えられている。機械がどのようなアプローチをすれば人間とスムーズに対話が実現できるかということが研究課題だ。
人間とまったく同じようにふるまうことだけが解であるとは限らない。ロボットであれば、たとえば「目が光る」といったような、ロボットにしかできない対話の形式もありえるからだ。観察によるジェスチャー動作の切り出し、ジェスチャー起動のタイミングや応答速度、ジェスチャーそのもののバリエーションや、コミュニケーション能力全体のインテグレーションのバランス等については、これから研究していく予定だという。
NICTでは、言葉や概念の記述、さらに上位の概念であるタスクやアクションの記述に関する研究を、以前から行なっている。それらの研究とロボットの研究との組み合わせもありえるそうだ。より基礎的、普遍的な研究がロボットを進化させることを願いたい。
■URL
情報通信研究機構
http://www.nict.go.jp/
ニュースリリース
http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/h19/071024/071024.html
( 森山和道 )
2007/11/29 17:50
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