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「第6回長野県中学生ロボットコンテスト」レポート
~長野県下から34校128チームが参加、オリジナルのアイデアを競う


「第6回長野中学生ロボットコンテスト」には、長野県下から34校128チームの参加があった
 2007年11月10日、長野県の千曲市総合教育センターおおとりプラザ(千曲市立埴生中学校体育館)において、「第6回長野中学生ロボットコンテスト」が開催された。長野県下の34校から学内予選を突破した128チームが参加した。主催は、長野県技術・家庭科教育研究会、長野県中学生ロボットコンテスト実行委員会。

 長野中学生ロボットコンテストは、4名前後の生徒がチームを構成し、協力して1台のロボットを製作している。選択の技術・家庭科、または総合学習の授業や、部活動の中で、機構学習やアイデアの発想学習を行ない、ロボットを製作しながら基礎を学び、大会用のロボットを製作している。このコンテストでは、試合に勝つこと以上に、ロボットを製作する段階で、どれだけ優れたアイデアを考えそれを形にしていくのか、その過程を重視している。

 長野中学生ロボコンの大きな特徴は、Jr.特許制度を取り入れていることだ。Jr.特許制度は、参加者のアイデアを認め、発案者の権利を守るとともに、そのアイデアを多くの参加者に知らせることで全体の技術力を向上することを目的としている。

 ロボット製作中には、さまざまな課題に直面する。例えば、「移動スピードを速くすると、思い通りの位置で停止させることが難しい」とか、「モーターに流れる電流が一定にならないため、回転が不安定になる」といった具合だ。大会参加者達は、そうした課題に対してひとつひとつチーム内でアイデアを出し合い、解決方法を探す。そうしたアイデアを大会エントリーと同時に、大会委員が運営する「N-robo特許庁」に提出し、委員会がアイデアの独自性を認めた場合「特許」として認定する。特許はWEB上で全体に公開され、アイデアを出したチームは、知財を公開した貢献を認められて試合でハンディを受けることができるのだ。今大会では、59のアイデアが特許として認められた。


Ring3×3:eとは

 競技のRing3×3:eは、リモートコントロールのロボットで紙製のリングを時間内に相手フィールドに送り、そのポイントで勝敗を決定する。

 ロボットはスタート時に高さ600mm、縦横900mm以内に納まらなくてはならない。フィールドは、3,600×1,800mmの広さで、コート中央にフェンスが設けられている。フェンスには左右に赤・青に色分けした横方向のパイプと、垂直に立つペットボトルがある。

 試合には計25個のリング状のオブジェクトを使い、2分の制限時間内に相手チームのフィールドに入れるか、もしくは相手コートと同色のペットボトルまたはパイプにかける。自陣のフィールドに落ちているリングは相手チームに送り返すことができ、ペットボトルのリングも外すことができる。だが、パイプに掛けたリングを外すことはできない。

 試合開始時は、フェンス上に3つのリングが設置されている。基本的には各チーム11個のリングをアイテムエリアに置いてスタートするが、特許を認められたチームは、対戦チームとの特許数差に応じて、最大2個までアイテムを自由にすることができる。希望すれば相手チームのアイテム2個をもらって試合をスタートすることもできるし、逆に自分のアイテムを相手に渡すことも可能だ。

 スタート時のアイテムは、一段目を平積みにし最大2段まで積み重ねるというルールのもとで自由に各チームが置くことができる。

 試合終了後、パイプにかかっているリングは2点、それ以外のリングは1点としてカウントし、その得点により勝敗を決定する。

 それでは、試合に参加したユニークなロボットを紹介しよう。

 「帰ってきたMOF」(松本市立清水中学校)は、リングを飛ばして相手フィールドに投げ込む機構を持っていた。機体後方のベルトコンベアでリングを本体に取り込み、2つのタイヤを高速回転させてリングを飛ばしていた。テスト段階では、リングが5mも飛んで相手フィールドを大きく飛び越えてしまったため、ロボットの角度や発射の威力を軽減することで、相手フィールドに送り込むように工夫したという。

 試合中、「帰ってきたMOF」がリングを飛ばすたびに、観客から歓声が上がっていた。「帰ってきたMOF」は独自性を認められアイデア賞を受賞した。

 「PRO+ES+AN+R&R」(長野市立櫻ヶ岡中学校)は、複数のチャンネルを同時にかつ直感的に操縦できるようにするため、右手首に取り付けたスイッチでロボットのアームの開閉を行なうマスタースレーブ方式を取り入れた。そのアイデアと技術力が評価され、「PRO+ES+AN+R&R」は、優秀特許賞と技術賞を受賞した。


【動画】「帰ってきたMOF」(松本市立清水中学校)は、リングを飛ばして得点を重ねた。動画にはおさめられなかったが、飛距離があるため、リングが場外へ飛び出すこともあった 【動画】「PRO+ES+AN+R&R」(長野市立櫻ヶ岡中学校)はオペレーターの手首の角度に応じてアームの開閉を行なっている 手首の角度を変えると、アルミフレームがスイッチを押してロボットのアームが開閉する。手の甲が痛くならぬように自転車用グローブを改造したものをはめている

 「15~fifteen」(阿智村立阿智中学校)は、機体後方に取り付けた2つの回転羽根でリングを籠に取り込み、籠を上昇させてフェンス越しにリングを放り込んでいた。取り込むための羽根は、以前は2つとも一定方向にしか回転しなかったが、それではリングが回転羽の間にひっかかってしまうことがあるため、後方の大きな羽根は逆回転もできるように改良して大会に臨んだという。


【動画】「15~fifteen」(阿智村立阿智中学校)は、豪快にリングを取り込み相手フィールドに放り込んでいた 2つの回転羽でリングを取り込み機体の奥の籠に運んでいる。後方の黄色い羽は逆回転ができる

決勝トーナメント結果

 予選は8つのブロックに別れてトーナメント戦を行なった。各ブロック上位2チームと、審査員が技術を認めた2チームが決勝トーナメントに進むことができる。

 決勝トーナメントに出場した全32チーム中5台が伊那市立東部中学校のロボットだった。準決勝第1試合は、「福神漬tobu」(伊那市立東部中学校)VS「それがー・男の・道だ」(長野市立櫻ヶ岡中学)の対戦となった。

 「それがー・男の・道だ」は、アームを使わずに面でリングを掴むロボットだ。トラックベルト式でリングを操るロボットが多いため、あえて違う機構のロボットを製作したという。アームの先端は大きな洗濯ばさみを利用して工作し、リングを一度に複数掴むことができることと、どの角度でリングを保持しても、バーにかけることができるようにアームを工夫している。

 もう一方の「福神漬けtobu」はトラックベルト式のアームで着々とバーにリングを通していた。試合開始早々にフェンスに置かれているリングを「それがー・男の・道だ」が「福神漬けtobu」フィールドに落としたが、それを拾いあげ、試合終了間際に送り返して勝ちを確実に決めた。


【動画】準決勝第1試合は、福神漬tobu(伊那市立東部中学校)VS それがー・男の・道だ(長野市立櫻ヶ岡中学校)の対戦 「それがー・男の・道だ」(長野市立櫻ヶ岡中学校)。リングをバーに掛けた後、アームを開かずに外すことができるように工夫してある 平置きのリングも掴み、アームを回転させてバーに掛けることができる

 準決勝第2試合は、「You're so Guy」(伊那市立東部中学校)VS「スズ竹ローメンII」(伊那市立東部中学校)の同校対決だった。ちなみに「You're so Guy」は「よそうがい」と読む。

 試合開始直後、「スズ竹ローメンII」がフェンスの上のリングを落として先制ポイントを取った。その間に「You're so Guy」は素早くリングを取り込みバーに掛けた。リングを取り込む機構は、基本的に同じなのだが、スピードと正確性で先輩チームである「You're so Guy」が上回っていた。

 「You're so Guy」は、上下のバーに4つずつ規定数のリングを掛けた後は、しばらくアームに掛けたリングを保持したまま待機していた。というのも、バーに掛けたリングを外すのはルール違反だが、ペットボトルに掛けたリングは相手が外せるため、試合終了間際に掛ける作戦だった。「スズ竹ローメンII」がリングを投げ込んできたのを見て、投げ込まれた数だけ相手フィールドに返した後に、リングを拾いに行く余裕を見せていた。タイムアップ10秒前に「You're so Guy」がリングを相手チームに送り込むことに成功したが、「スズ竹ローメンII」は失敗。場内から一斉にため息が漏れた。


【動画】準決勝第2試合、「You're so Guy」(伊那市立東部中学校)VS「スズ竹ローメンII」(伊那市立東部中学校)。先輩後輩の同校対決となった。「You're so Guy」が先輩らしく余裕の勝利をおさめた 「スズ竹ローメンII」は、ロボットに地元伊那の名物「ローメン」の屋台を載せて地元のアピールをしていた

 決勝戦は、You're so Guy(伊那市立東部中学校)VS 福神漬tobu(伊那市立東部中学校)。特許数の差で「You're so Guy」が「福神漬tobu」からリングをひとつもらいうけて試合を開始した。

 「You're so Guy」は試合開始とともにリングを4つアームにとり、バーに掛けた。その間にリングの保持数でハンデを負っている「福神漬tobu」が、フェンス上のリングを2つアームにとって、開始のハンデを解消。その後にアイテムエリアのリングを取りに行った。「福神漬tobu」が上下のバーにリングを掛ける間に、「You're so Guy」も規定数のリングをバーに掛けた。

 一方の「福神漬tobu」はフェンス上に残っているリングも自分のものにすることに成功した。ここまで両者ともに素早く順調に試合を進めている。「You're so Guy」はペットボトルにひとつだけリングを掛けて、状況をチェック。「福神漬tobu」はペットボトルに掛かっているリングを外そうとしたが、失敗。ルールで相手ロボットの動作を妨害することは禁じられているため、どちらもアクションを起こさず試合開始1分少々で膠着状態となった。

 結局、タイムアップ直前までリングを保持したまま睨み合いが続き、両者が終了間際にリングを送りあった。21-20で「You're so Guy」が優勝した。

 ポイントは僅差であったがロボットの安定性とスピードでは、「You're so Guy」が圧倒的に高かった。


 今大会では、リングを扱う機構は、トラックベルト式を使っているロボットが一番多かったが、「You're so Guy」のロボットにはいくつも工夫がされていた。トラックベルト方式では、フィールドに平置きしてあるリングは、一度起こしてからでないと取り込みができない。「You're so Guy」はこの動作を素早く行なうために、平置きリングの上の部分に斜めにトラックベルトがあたるようにし、先端に大小2つのホイールを設置した。トラックベルトを下向きに回転させると、リングが起き上がるため、取り込みが高速に行なえる。

 また、トラックベルト式のアームは長くてモータやホイール等がついているため、重量がある。これを高速で昇降するために、機体にリール式ワイヤーをつけアームに対して常に引っ張る力を加えている。これにより巻き上げ用のモーターの負荷を減らし高速でアームを上下できるようにした。

 また、このアームを水平に上下させるため、アルミフレームのポールが傾かないように、ミニ四駆のローラーベアリングを上下にずらして挟み込むように配置している。こうすることで、前に傾く力はアルミフレームが支え、また上下方向にも滑らかに動く。

 アームの機構だけでなく、ロボットの移動スピードにも工夫が凝らされている。

 移動スピードを上げると勢いがつき、急停止が難しくなるためアイテムの取り込みや放出を思い通りの位置で行なえない。チームメンバーがロボコンの本で、「モータの電流を切った後に端子をショートさせるとブレーキがかかる」というのを知り、IC回路は作れないため、モータを並列に2個つなげる方法を考えて試した。これである程度ブレーキがかかるようになり、モーターの重量で重心も低くなり安定性も良くなったという。

 アイデアを大切にし、工夫と創造で課題をクリアすることが求められている大会にふさわしい「You're so Guy」の活躍だった。


【動画】決勝戦、You're so Guy(伊那市立東部中学校)VS 福神漬tobu(伊那市立東部中学校) 優勝した「You're so Guy」(伊那市立東部中学校)。美しい機体のロボットだった 後方の垂直なトラックベルトは、ペットボトルに掛かったリングを外すためにある。予選では、自らペットボトルに掛けたリングを外して機能をテストする余裕を見せていた

ロボット大賞

試合後に、審査員に間近で機体を見てもらいながら技術や工夫した点をアピールする
 長野県中学生ロボコンでは、勝つことよりもどれだけ優れたアイデアを考え出し、それを形にしていく課程を重用視している。そのため、トーナメント優勝以上に価値がある「ロボット大賞」が設定されている。これは勝敗に関係なく優れたロボットに授与される。

 決勝トーナメントでは、フィールドの前に8名の審査員が並んでいた。審査員達が、試合の内容をチェックするのはもちろんだが、それ以上に重要なのが惜しくも敗れたチームの技術アピールだ。

 負けたチームは、審査員席へ自分のロボットを持って行き、工夫した点やそれぞれのアイデアを直接アピールすることができる。ロボット大賞をとるためには、ここでのアピールが非常に重要だ。生徒達は、自分の言葉で積極的にロボットの機構や取得した特許について説明をしていた。

 審査員の先生方も、それぞれのロボットに対して質問をしたり上手にできているところや工夫した点に対してコメントを送り、写真を撮ったり熱心に対応していた。

 第6回長野中学生ロボットコンテストのロボット大賞には、長野市立東部中学校の「T,MSKM」が選ばれた。

 「T,MSKM」は、耐久性・信頼性、メンテナンス、素材・部品、取り込みの機構など複数のジャンルに渡って、特許を13個取得している。自らたくさんの課題を見つけ出し、問題点を創意工夫で解決した努力とアイデアの豊かさを高く評価された。

 例えば、ルールで規定されている電圧になるように12ボルトのACアダプタの電圧を6ボルトに制御する回路を自作している。他にも、アームを上下するときに操縦ミスで糸を切ることがないように、マイクロスイッチのセンサーを感知し、最上部や最下部にアームがある場合は、それ以上ボタンを押すことができない安全装置回路を自作したり、モーターに流れる電流が一定にならず回転が不安定になる問題も自作回路を搭載して解決した。

 「T,MSKM」は、カーテンレールを使って上下する機構を作っているが、2本のカーテンレールが平行でないと動きがスムーズにならないため、簡単に調節できるようにネジをきった棒とナットを使い、ナットを回すことで幅を調節することができるようにしている。また、糸を巻き上げるときにプーリーを使うと糸が外れやすくなるため、金属のスペサーをよく磨いて表面をなめらかにして座金とナットで両側からしめて固定するなど、メンテナンス面での工夫もされている。


【動画】ロボット大賞を受賞した「T,MSKM」は、長野市立東部中学校の3年生チームが製作した 「T,MSKM」はアームを上下するためのフレームにカーテンレールを使うなど、ユニークな試みがされている 機体後方にはペットボトルに掛かっているリングを一度に外すためのハンドを搭載している。ハンドが左右に可動するため、ハンドの微調整で正確にリングを取ることができる

生徒の自主性が求められる大会

大会後にてきぱきと会場撤収作業を行う参加者達
 長野中学生ロボットコンテストは、生徒の自主性が尊重され求められている大会だと感じた。予選トーナメントは8つのブロックで同時に行なわれたが、指導教員やスタッフが走り回って選手を集めるのではなく、各チームが試合の進行を確認し自らフィールドに集合することが要求されていた。

 試合と試合の間は3分間のインターバルがあり、その時間経過はステージ中央のスクリーンに表示されている。各フィールドに選手が揃ったことを確認してから、試合が始まるのではなく、インターバル時間が終了すれば、否応なしに試合は開始する。もちろん、フィールドにチームが揃っていない場合の呼び出しはあるが、準備ができるのを待ってはいなかった。

 そうした基本ルールが徹底しているため、参加選手にも甘えた姿勢がなくきびきびとした態度で試合に臨んでいた。

 その姿勢は、大会終了後にも表れていた。実行委員会から、閉会式後に会場撤去の指示があると、会場の椅子やテーブルの撤去を参加者自らが片付けていた。事前に学校毎に分担が決まっているわけではないのに、手の空いた人が各自の判断で動き、会場のビニールシートを畳む端から、モップ掛けまで行なっていた。

 こうしたようすからも大会コンセプトに掲げられている、ロボット作りの中で人間関係力を高め、技術の次元向上をするとともにものづくりによる人づくりが確かに実践されているのを感じた。


URL
  長野中学生ロボットコンテスト公式サイト
  http://www.n-robo.com/


( 三月兎 )
2007/11/15 00:21

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