2007年10月28日に、名古屋工学院専門学校において、第26回マイクロマウス中部地区大会が開催された。
マイクロマウスとは、自走機能を持つ小型の自立ロボットのことだ。国内では1980年に第1回全日本マイクロマウス大会が開催され、今年で28回目を迎える。マイクロマウス大会は、ロボットコンテストの草分け的存在である。
現在、全国8カ所に支部があり8月~10月にかけて地区大会が開催される。今回開催された中部地区大会もその一つで、地区大会で優秀な成績をおさめたロボットは、11月に筑波で開催される全日本大会への出場権を得る。
マイクロマウスの代表的な競技は、マイクロマウスが迷路のスタート地点から中央に設けられたゴールまでの最短経路を探索し、走破するタイムを競う「マイクロマウス競技」である。他にも、マイクロマウスを使った競技が派生しており、中部地区大会ではマイクロマウス競技の他、支部サーキット競技、ロボトレース競技、ロボスプリント競技が開催された。
● 完走率が非常に高かった「マイクロマウス競技」
マイクロマウス競技で使用する迷路は、1ブロックを18×18cmとして16×16ブロックで構成されている。持ち時間は7分で、5回の走行ができる。中部地区大会には20台のエントリーがあり、19台のマイクロマウスが完走した。これは過去の大会記録と照らし合わせても最高レベルの完走率だ。
実は、中部地区大会といっても、関東方面や広島からも参加者がいる。マイクロマウスの迷路は一般家庭に設置できるサイズではないため、全国大会に向けた調整を兼ねて遠征してくるのだ。中部大会は、西からも東からも参加しやすいため、例年レベルの高い大会になっているという。
迷路は、競技開始直前まで公開されない。主催者が配布した今回の迷路を掲載した。この写真からわかるように、マイクロマウスの迷路はゴールへ到達する経路が複数存在する。このように俯瞰して見れば、容易にゴールへの経路を探すことができるが、もし私達が壁に囲まれた迷路の中を実際に歩き回りながらゴールへ向かうとしたら、偶然、ゴールにたどり着くことはできても、いくつもある経路の中から最短距離を特定することは不可能だろう。
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開会式前に、壁を移動して大会用の迷路を作る。それ以降は、迷路を使った試走は禁止される
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第26回マイクロマウス中部地区大会の迷路。赤と青、どちらのルートも54歩16折りで同じ距離の最短ルートとなる
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マイクロマウスは1回目の走行で、迷路を隅々まで走りながらマップを記憶し、最短経路を探しだす。今回の迷路では、青線と赤線のルートが54歩16折りで最短経路だ。両方のルートは、区画数も折れ数も同じだが、点線で示した部分は、マイクロマウスが斜めに走行することで、タイムを短縮できる。そのため、斜め走行ができるマウスは、赤ルートを選ぶ方が有利になる。
今回は、最短経路の差は斜め走行わずか1カ所だったが、これが全国大会のエキスパートクラスの迷路になると、「直線走行が得意なマウス向けの最短経路」「スラロームに強いマウス向け経路」と特徴が出て、単に区画数だけではなく自分の特性にあった経路を選択するようになってくる。
中部地区大会で優勝したのは、広島から参加した井谷氏(日本システムデザイン株式会社)の「マイクロマウス3」だ。井谷氏は1984年にマイクロマウス競技に初めて参戦し、全国大会で通算10回の優勝をしている。マイクロマウス競技では「神様」と呼ばれている存在だ。
「マイクロマウス3」は1回目で探索しきれなかったルートを2回目に追加で探索した。その2回目の探索走行と、優勝タイムとなった5回目の走行動画を掲載する。井谷さんクラスが制作するマウスになると、探索走行中もすでに走ったことのあるルートはスピードを上げて走り抜けている。同じルートを往復する時に、往路と復路でスピードが違うことに注目してほしい。優勝タイムは6秒68だった。
準優勝は、小泉隼人氏(名古屋工学院専門学校 佐藤ゼミ)が製作した「疾風」だった。小泉氏は、9月に同会場で開催された初級者大会では探索走行には成功したものの、高速走行がうまくいかず7位という成績だった。今大会では、5回の走行に全て成功した。探索走行も初級者大会より10秒近くタイムを縮め、トライするごとに記録を短縮し6秒87のベストタイムを出した。
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優勝した「マイクロマウス3」(井谷優氏 日本システムデザイン株式会社)
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【動画】井谷氏の「マイクロマウス3」の探索走行。未知のブロックと既知のブロックでは走行スピードが違うことに注目
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【動画】井谷氏の「マイクロマウス3」は5回目のトライで優勝タイムの6秒68を出した
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【動画】準優勝した小泉隼人氏(名古屋工学院専門学校佐藤ゼミ)の「疾風」。6秒87の好記録を残した
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多くのマイクロマウスは赤ルートを走行していたが、竹本隆一氏製作の「スミスDC2」は、青ルートを選択して走行した。ベスト記録は7秒72で7位入賞した。
印象に残ったのは、米真一氏製作の「momoco 07」だった。「momoco 07」はファンを使った吸引型マウスだ。今回は高速走行で壁にぶつかってしまい最速タイムは残せなかったが、全日本大会での活躍を期待したい。ベスト記録は、ファンを使用せずに走行した22秒79。
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【動画】竹本隆一氏製作の「スミスDC2」は青ルートを走行した。5回目の走行で7秒72を記録し、7位に入賞した
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【動画】米真一氏製作の「momoco 07」。通常の走行では完走できたが、ファンを用いて高速走行をすると、クラッシュしてしまった。全日本大会で、ベストな走行を見たい
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● 直線走行性能を競う「支部会サーキット」
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【動画】優勝した小島宏一氏(京都大学機械研究会)の「こじまうす3」。最多の8回トライしてゴールしたのは3回だった。安定した高速走行の難しさが見ていてよくわかった
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続いて、16×16区画を2周走るタイムを競う「支部会サーキット」行なわれた。これは、東日本地区大会で始まった競技で、「直線を走らせて一番速いマウスを決めよう」といったノリで生まれたらしい。
複雑な迷路を高速で走行できるのだから、それと比較したら直線を走って曲がることはカンタンだろうと思ってしまうが、なかなかそうはいかない。マイクロマウスは両側の壁をセンシングしてコースの中央を走っているわけだが、スピードを出せば出すほど両輪のモーターを制御して直進性能を保つのは難しくなる。
中部支部大会では、持ち時間以内なら何度トライしてもOKなルールになっており、12台のマウスが合計で61回トライしたが、ゴールできたのは27回にすぎなかった。もちろん、スピードを落として走行すれば間違いなくゴールできるのだが、マイクロマウスを調整し「ベスト記録を狙える」と思ったスピードでゴールを目指すのは、厳しいのだ。
支部会サーキットは、マイクロマウスの基本となる姿勢制御やスピード制御、方向転回のためのブレーキングなどの要素が詰まっているため、マイクロマウス競技で上位になった人がやはり好成績をおさめていた。優勝した小島宏一氏(京都大学機械研究会)の「こじまうす3」はマイクロマウス競技では3位に入賞している。優勝タイムは11秒51で、2位に1秒以上の差をつけていた。
● トーナメント型の「ロボスプリント競技」
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【動画】ロボスプリント決勝の第1レース。対戦相手は、佐藤俊作氏製作の「ぶどう」
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ロボスプリントは、8mの直線を高速で走りゴールまでのタイムを競う。これに出場するロボットをロボスプリンタと呼ぶ。コースは、幅45cmで中央に白い直線が引かれている。ロボスプリンタは、コースの右または左側に接しているスターティングゾーンから、自立でコースに出てゴールを目指す。ゴールラインから1m以内がブレーキングゾーンとなっており、そのゾーンからはみ出た場合は失格となる。
ロボスプリントは、入門者が気楽に競技会に参加することを目的として、昨年から始まった。マイクロマウス競技の中では、唯一、ベストタイムを競うのではなくトーナメント戦として行なわれる。
優勝したのは、桑迫真広氏(名古屋工業大学ロボコン工房)が製作した「漆風改」だった。「漆風改」はファンを使った吸引型のため、スタートの合図後、走り出すまでにタイムラグがある。1、2回戦はスイッチをONにするタイミングを取るのが難しかったようで、かなり出遅れたレースもあったが、そのハンデをものともしないスピードで優勝を決めた。
● ユニークな機体も出走した「ロボトレース競技」
ロボトレース競技は自立型ロボットが定められた周回コースを走行し、スピードを競う競技だ。出場するロボットをロボトレーサと呼ぶ。3分間の持ち時間で3回のトライができる。ロボトレーサは直線と円弧の組み合わせで構成されている白いラインに沿って走る。カーブの手前にはコーナーマーカーがあり、ロボトレーサはそのマークを読んで、カーブを曲がる。コースが直交しているところや、スタートとゴールのマーカーを正しく読みとり周回する制御が求められている。この競技には11台が出走し、完走したのはわずか4台だった。
この競技でも優勝したのは、桑迫真広氏(名古屋工業大学ロボコン工房)が製作した「漆風改」だった。「漆風改」は、1度目の走行でマーカーの位置とカーブの半径を記憶し、2回目以降はファンを使い高速で走行した。1回目の走行は22秒31と、他のロボトレーサが出したベスト記録と大差ないのだが、2、3回目のトライでは7秒台と段違いの実力を発揮していた。優勝タイムは、7秒08。
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【動画】優勝した桑迫真広氏(名古屋工業大学ロボコン工房)の「漆風改」。1回目の走行でマーカーとマーカーの距離とカーブを曲がる時のステアリング角度を記憶している
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【動画】「漆風改」の3回目の最速走行。ファンで吸着しながら高速走行している。記録は7秒08
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ロボトレースには、マイクロマウス競技会には珍しいロボットも参加していた。河地勇登氏(名古屋工業大学ロボコン工房)が製作した「ペンギーゴ3052」は、ペンギンの外装がついていて、首を振りながらコースを走る姿がかわいい。
伊藤ひさし氏製作の「スーパーたこポン3」は、デジQを改造した超小型ロボトレーサだ。ちゃんとマーカーを検知して走行するのだが、コース途中にある1mmの段差を乗り越えることができずに残念ながらリタイアした。
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河地勇登氏(名古屋工業大学ロボコン工房)が製作した「ペンギーゴ3052」。マイクロマウス競技に外装ロボットが出場することは珍しい
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【動画】頭を振りながら走行するのがかわいい「ペンギーゴ3052」。直交の場所をゴールマーカーと間違えてしまったようで残念ながら完走できなかった
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伊藤ひさし氏製作の「スーパーたこポン3」。500円玉と比較すると、サイズが小さいことがよく判る
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【動画】蛇行しながらも懸命に走る「スーパーたこポン3」。タイヤが小さいため、わずか1mmの段差を乗り越えることができなかった
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● 「1/2サイズマイクロマウス」のデモンストレーション
中部地区大会でも、2009年度に開催予定の「1/2サイズマイクロマウス」(仮称)の展示とデモンストレーションを行なった。株式会社アールティの中川氏が、S.T.L.JAPAN、財団法人ニューテクロジー振興財団と共同で開発中の1/2サイズマイクロマウスキットの試作機を発表した。
これまでマイクロマウス競技に参加するためには、ハードとソフトの両方を自作しなくてはならないため、初心者にとってはハードルが高かった。このキットは1/2迷路用として開発しているが、もちろん現行サイズの迷路を走る能力を持っている。初心者もこのキットを購入すれば、ソフトの学習だけでマウス競技に参加できる。
またキットは、CPU、電源、センサー部、本体とユニット毎に分割できるため、購入者は習熟度に合わせて自分のこだわるユニットを自作し、オリジナルマウスに移行ができる。中川氏は、「今後、センサー受信モジュール等を開発し、難易度の高いマイクロマウス競技に初心者が参加しやすい環境を用意したい」と語った。
今回は、試作機で支部サーキット競技のデモンストレーションを行なった。このサイズになるとボタンを押すだけでロボットに振動を与えてしまうため、マウスの前に手をかざしセンサー検知でスタートする仕様になっている。
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新規格1/2サイズ用「マイクロマウスキット」。サイズは5×5×5cm程度で、女性の手の中にすっぽり入るほど小さい
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【動画】1/2サイズマイクロマウスキットで外周を走る支部サーキットのデモンストレーションを行なった
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1/2サイズマイクロマウスキットは、ユニット毎に分割できるため習熟度に応じてオリジナルロボットに移行できる
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マイクロマウス競技で優勝した井谷氏は、すでに1/2サイズマイクロマウスを製作している。このサイズでは斜め走行ができないため、もう一回り小さくするために改造に取りかかっており、開発中の基板も展示していた。
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井谷氏が製作した1/2サイズマイクロマウス。迷路を探索し走行できるが、このサイズでは、まだ大きすぎて斜め走行ができないという
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【動画】井谷氏が製作した1/2サイズマイクロマウスの探索走行
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会場には、井谷氏の試作した1/2サイズマイクロマウスと、開発中の基板が並べて展示されていた
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● 11月17日、18日に筑波で第28回全日本マイクロマウス大会を開催
マイクロマウス競技準優勝の小泉隼人氏とロボトレース競技で優勝した桑迫真広氏は、11月17日、18日に筑波で開催される第28回全日本マイクロマウス大会へのシード権を獲得した。
マイクロマウス競技のスピード感は動画ではリアルに伝わらないので、記事を読んで興味を持った人はぜひ会場に足を運んで競技を観戦してほしい。
なお、第28回全日本マイクロマウス大会では、自立・自律ロボットがつくば市内の遊歩道(約1km)を走行する「つくばチャレンジ」を初めて実施する。
■URL
ニューテクノロジー振興財団
http://www.robomedia.org/main.html
アールティ
http://www.rt-net.jp/
1/2サイズマイクロマウスキットのニュースリリース(PDF)
http://www.rt-net.jp/news2007/070923mouserelease.pdf
■ 関連記事
・ 第25回マイクロマウス東日本地区大会レポート ~2009年度からの新競技「1/2サイズマイクロマウス」(仮称)のお披露目も(2007/10/03)
・ 第28回全日本マイクロマウス大会、つくば市にて開催(2007/03/08)
( 三月兎 )
2007/11/06 00:07
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