10月5日、計測自動制御学会SI部門モーションメディア部会による「第3回モーションメディアコンテンツ作品発表会」が行なわれた。「モーションメディア」とは同部会の広島市立大学大学院 情報科学研究科 システム工学専攻教授の岩城敏氏らが提唱している言葉で、ロボットに代表される実体のモーション(動き)を、コミュニケーションの一手段、テキスト、音声、画像、映像の次に来る第五のメディア(モーションメディア)と捉えたもの。ロボットそのものをメディアとするだけではなく、ロボットをモーションメディアの入出力端末の一種として考えているという。
コンテストの趣旨と目的は「真のロボットのキラーサービス発掘を狙いに、ロボット研究者だけではなくさまざまな立場の方がその面白い利用法に知恵を絞り、競い合おう」というもの。ロボットハード自体ではなく、PCやテレビ、電話など既存のメディアとうまく連携した面白い使い方・利用の仕方を作品(コンテンツ)として提案し、それをネットワーク上での流通(シェア)の観点から評価する。「真のキラーサービスは、ネットワーク上でシェアリングすることで、その発生確率が高まると考えるから」だという。
3回目となる今回は参考出展1件を含む、17件の発表が行なわれた。
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広島市立大学大学院 情報科学研究科 システム工学専攻教授 岩城敏氏
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岩城氏は「ロボットブームは終わっているようで相変わらず続いているようだ」と述べ、いまも研究予算の投資が続いていると語った。岩城氏の前職はNTT。受信したメールのタイトルや内容を読み上げる「メール読みマウス」の開発者の一人として知られている。伝えたいものはあくまでも「モーション」であり、それを伝えるメディアとしてロボットのハードがある、というのが岩城氏の考え方だ。
たとえば音楽はコンテンツの流通文化、モデルが確立されている。ロボットもそれと同じアナロジーが使えるのではないかという。なかでも「サービスイメージの検討と世の中への提唱」がモーションメディアコンテンツ作品発表会の趣旨だ。
ロボットを「作る」ことから「使う」ことへ、技術が分からなくても一般ユーザーでも使えるものへ、技術至上主義から世の中で認められるコンテンツ重視へ、個人利用からネットワーク流通へ、そしてサービスビジネスのキラーアプリケーション発生を狙っている。
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コミュニケーションサービスとメディアの変遷
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音楽コンテンツの流通モデルがモーションメディアでも参考になるという
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これまでのコンテストで得られた知見
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● 講演「身体性を有するメディアとしてのロボット」
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公立はこだて未来大学教授 松原仁氏
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コンテストに先立って、公立はこだて未来大学教授の松原仁氏による講演が行なわれた。松原氏は、愛・地球博(愛知万博)で行なわれたNECの「PaPeRo」を使ったロボットとの演技の様子や、地元企業のコムテックなどと共同で製作した函館での「イカ踊りロボット」の様子などをビデオで見せながら講演を行なった。
イカ踊りロボットの話は持ち込みで、全長20mで作れないかという話で来たという。もちろんそれは無理だったが、試作したところ、想像以上にウケた。空気圧アクチュエータで動くロボットで、自由度は512。重量は200kg以上あるそうだ。それぞれの足を動かすエディタを作成し、動きをふりつけた。Wiiのリモコンを使った手のコントロールは子供たちに非常にうけたという。
開発はまだ続いており、音声認識による応対や、インターネット経由での操作を今後実現していく予定だ。全国が「ご当地ロボット」を作ると「ご当地ロボットコンテスト」が行なえると考えているという。
松原氏は人工知能の研究の歴史を踏まえつつ、内部の記号処理だけではなく環境との相互作用を行なう身体がないと知能はありえないと述べた。人間は動かないコンピュータとコミュニケーションするのは苦手であり、うまくコミュニケーションするにはコンピュータを物理的に動かす、すなわち動くコンピュータ=ロボットしかないという。
松原氏の理想は「ゆりかごから墓場まで」で、一生、同じロボットと付き合い、そのロボットが人間の成長に合わせて大きさを変え、すべての個人経験を記録し、ボディガードや医者も兼ね、老後の面倒も見てもらう、というものだという。
ロボカップの話も松原氏はビデオをまじえながらふれて、2050年までに人間のワールドカップ優勝チームに勝つ人間型ロボットを作るという目標のほかに、人間と共同チームを作ったロボットチームや、また超人なみの性能のあるロボットチーム同士の戦いなどを実現したいと考えていると述べた。そして最後に「ロボカップもモーションメディアとして面白くなってきた。この分野が隆盛するといいなと思っている」と講演をまとめた。
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イカ踊りロボット。名前は「IKABO(イカボ)」
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松原氏は「ロボカップ」の提唱者の一人でもある
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● 発表会
発表会は実物によるデモあるいはビデオによる作品紹介形式。評価は20人あまりの参加者による投票で、実体の動き(モーション)がコンテンツの価値を高めたかという観点からコンテンツ訴求点(面白さ・表現力・芸術性など)を評価すると同時に、提案技術がコンテンツの価値を高めるモーションを生み出しているか、コンテンツを流通させる助けとなっているかどうかという観点で行なわれた。
参考出展1件を含む、17件の発表が行なわれた。参考出展作品を除いた各作品を紹介する。
● 「ナビロボで宝探し」(株式会社イクシスりサーチ・山崎文敬氏)
住宅展示場にて、仕草を使って人を誘導するロボット。ハードウェアには東京大学 大学院情報理工学研究科 舘研究室からの技術移転によってイワヤ株式会社が開発した「IPロボットフォン」が使われている。ロボットには赤外線受信機が3つ付けられており距離と方向をとる。その信号を手がかりにして、ハウスメーカーがアピールしたいところをロボットが指し示すというアプリケーションだ。
開発した株式会社イクシスりサーチの山崎文敬氏は、今後はGPSやBluetoothとの併用、地図情報との連携や動きの改良、音声や映像との併用を進め、よりリッチな情報提示のできるカーナビや、大型商業施設での利用などを考えていると述べた。
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株式会社イクシスりサーチ・山崎文敬氏
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【動画】「ナビロボ」のデモ。赤外線発信器の方向を指さす
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● 「ロボマイム」(電気通信大学・清水紀芳氏)
ロボットでパントマイムを行なう。ロボットを実世界でのモーションディスプレイとして使った研究から派生したものだとう。パントマイムは、見えないもの存在しないものを人の動きで表現できる。そこから発想して、物理シミュレーションと実物のロボットを重畳させた。単なるふりつけではなく、シミュレーションモデルに合わせてロボットを動かしている。パラメーターを動かすだけでロボットの動きを変えられる。また、実際にはロボットを接触させられなくても、シミュレーション上では接触させることで、実際に接触させたかのような動きができるという。
将来的にはROBO-ONEにプロレスのような演出を加えた競技なども視野にいれて取りくんでいくという。
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電気通信大学・清水紀芳氏
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ロボットとCGモデルを組み合わせたMixed Realityアプリケーション
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【動画】ロボマイムのデモビデオ
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実際には物理シミュレーションモデルどおりにロボットが動いている
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シミュレーションモデルのほうには幅を持たせることにより、実物が接触していなくても接触したかのようにロボットを振り付けて動かせる
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将来のイメージの一例はロボットによるプロレス
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● 「LEGONET」(株式会社セック・長瀬雅之氏)
セックは、ロボットベンチャーのスピーシーズと共同でロボットコンテンツのサーバー開発を行なっている。今回のデモはスピーシーズのロボットではなく、レゴマインドストームを使って行なわれた。セックのサーバーにPCをつなぎ、動きを制御するソフトウェアをダウンロード、そしてロボットを動かすというもの。携帯電話で遠隔地にいる人に指示を出してロボットを動かしてもらうというデモが行なわれた。
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株式会社セック・長瀬雅之氏
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インターネット経由でロボットを操作する同社らのデモシステム概要
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● 「およぐま」(公立はこだて未来大学・棟方渚氏、吉田直史氏、松原仁氏)
クマに見立てたIPロボットフォンを使って、手を動かすことでCGのなかでクマのキャラクターが泳いだり歩いたりするというインタラクション作品。モーションを使うことで興味とモチベーションの維持、そして相互の意思の疎通ができれば、インタラクションの持続が可能になるかもしれないと考えたのだという。
実験の結果、ロボットに対して愛着を抱いて操作する人の場合は、ロボットの顔を操作者側に向けて、すなわち対面しながら操作する傾向があったそうだ。昨年、同氏らは「あるくま」という同コンセプトで、くまを歩かせるアプリケーションを発表しており、その続編だという。
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公立はこだて未来大学・棟方渚氏
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【動画】「およぐま」のデモ。手を動かすとCGのくまが泳ぐ
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● 「イラっくま」(公立はこだて未来大学・近藤久貴氏、国田美穂子氏、飯岡祐貴氏、茜屋亮太氏、櫻沢繁氏)
受動喫煙時、人間が注意しなくても、くまロボットが咳き込み動作を行なうことによって、タバコの煙に対して気を使わせる、という作品。広く認知されれば、くまロボットを置いておくだけで、私はタバコの煙を気にするという意思表示になるのではないかという。
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公立はこだて未来大学・近藤久貴氏
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やんわりと煙草を注意することを目的としたアプリケーション
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【動画】煙を吹きかけられるとクマが咳き込む
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京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科 情報工学部門 教授 岡夏樹氏
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京都工芸繊維大学からは、主にレゴマインドストームを使った以下9つの発表が行なわれた。同大学では、情報工学系とデザイン系の学生が一緒になって行なう「インタラクションデザイン授業」を行なっており、その成果だという。まとめて京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科 情報工学部門 教授の岡夏樹氏が発表した。
「LEGOスタ」(京都工芸繊維大学・小林智行氏、山科真文氏、井本貴士氏、神戸元樹氏)は、ボールがあるつもりになってレゴのロボットと想像の野球をして遊ぶゲーム。ロボットのしぐさに合わせてバットを振ると、ボールが当たったかどうかロボットが判定する。ロボットの動作を見てユーザーは楽しむ。
「teQno」(京都工芸繊維大学・上堂薗浩光氏、住井泰介氏、吉岡雅哉氏)は、包丁の音など、生活のなかで自然に発生するリズム音に合わせてロボットがアクションをすることで、知らない間にロボットとの関係が生まれるという作品。ロボットの性能には限界があるが、実際にやってみると人間側が歩み寄ってくれることが多かったという。
「PHOBOS」(京都工芸繊維大学・奥村真由子氏、小田一麿氏、川島優氏)は散歩型ナビゲーションロボット。ロボットは決められたコースに向かって進むが、手綱がつけられており、手綱を引くとそちら側にロボットはターンする。
「全力スイングハンマー投げ」(京都工芸繊維大学・倉崎靖士氏、服部貴志氏、山内祥裕氏)はハンマー投げを模したロボット競技。軍手の手拍子に合わせて手回しのハンドルでロボットを動かし、スリングを回転させ、十分な速度に達した段階で音声入力で投げさせる。入力は糸電話で行なうことで、ノイズが多い環境でも使えるものになったという。叫ぶタイミングが合うと飛距離も伸びる。
「ピタLEGOスイッチ」(京都工芸繊維大学・板舛尚樹氏、松原世枝之氏、松本健吾氏)はNHKでオンエアされていた「ピタゴラスイッチ」のようなものをレゴで作った作品。ところどころにクイズがあって、正解するとボールは先に進む。
「プー太郎が行く」(京都工芸繊維大学・北川哲氏、小林広司氏、西村加奈氏、濱秀昌氏)はクマ型ロボットを使って、道を歩かせたり方向を指示することで迷路を探索する作品。道の途中にはリンゴがぶらさがっているときがあり、それはクマの手を動かすと採れる。「あるくま(およぐま)」と似ているが、画面にCGキャラクターがおらず、自分視点になっている点が異なる。学生たちは、ユーザーは一緒に後ろからついて歩いているというイメージで作成したという。
「天才ディーラーからの挑戦」(京都工芸繊維大学・伊丹英樹氏、松田祥子氏、水野正義氏)は、表情を動かすロボットディーラーと、トランプゲームのブラックジャックをするもの。ロボットはカードを画像認識して把握し、表情は顔の部分が回転することで、挑戦者とディーラーの手札の状況に応じて、中立から、焦ったり、余裕の表情に変わったりする。挑戦者をだまそうとして30%程度はウソの表情をする。アンケートによれば、挑戦者はわりとだまされたような感じを受けていたという。
「くまと晩酌」(京都工芸繊維大学・釘澤友美子氏、下中優希氏、三谷岳氏、山崎雅彦氏)は、テレビで野球観戦をしているクマ型ロボットにつきあって、息子となって一緒に晩酌をするというもの。音声認識を使っており、飲み物に合わせたリアクションをするほか、おつまみの組み合わせに気をつけないと怒られる。また名前を呼び捨てにすると、怒ってちゃぶ台をひっくり返す。
「レゴDEモチつき」(京都工芸繊維大学・岩崎友昭氏、桑田和也氏、中川祐一氏)はロボットが杵を動かし、それに人間が合いの手を入れる。もちを押すたびに杵の動きが速くなっていく。杵の振りに遅れないでもちが最後までつけると成功。失敗すると横にすえつけられているカメラで、そのときの顔を撮影する。
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【動画】日常の音でロボットと自然なインタラクションを行なうことを目指した「teQno」のデモビデオ
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【動画】「全力スイングハンマー投げ」のデモ。デモを行なっているのは服部貴志氏
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【動画】「天才ディーラーからの挑戦」のデモビデオ
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「くまと晩酌」
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● 「クマウス」(電気通信大学稲見研究室・中村俊成氏)
クマ型ロボットを使ったマウスインターフェイス。クマの手を握って動かすことでマウスカーソルを操作したり、頭を使ってボタン操作する。右腕でカーソル移動、左腕でクリックだ。中村氏は実際にクマウスを使いながらプレゼンテーションを行なった。マウスを動かすとクマがそれに合わせて首をふってくれる機能もある。
手を離すと真ん中にカーソルが戻るようになっており、また画面の端に来ると、反力を返してくれる。なんとなく「ながら」でウェブブラウズしているときや、ゲームを行なうときに向いているという。
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クマウスを使ってプレゼンを行なう電気通信大学稲見研究室の中村俊成氏
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【動画】カーソルをクマに追わせることもできる。ユーザーの操作にクマが付き合ってくれるような感覚の演出を狙ったもの
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● 「笑転」(スピーシーズ・春日知昭氏)
スピーシーズの春日氏は同社が発売しているロボットの説明と一連のデモ、笑い転げるデモを紹介した。人間の感情をロボットで表すときにどうやっていけばいいのか、そこにはまだ課題があると述べた。
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スピーシーズの春日知昭氏
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【動画】笑い転げる動作を見せるロボットのデモ
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投票の結果、優秀賞は「クマウス」、最優秀賞は「イラッくま」となった。
モーションと一言でいっても、動きを伝えるもの、動きを見るもの、人間が動かすものなどさまざまだ。モーションメディアがリッチなコンテンツとなるまでにはまだまだ時間がかかりそうだが、今後に注目したい。
■URL
第3回モーションメディアコンテンツ作品発表会
http://www.star.t.u-tokyo.ac.jp/~dairoku/mm/index.php?Contest%2F2nd%2FPresentation
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( 森山和道 )
2007/10/09 16:03
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