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将棋で探る「直感」の秘密
〜理研と富士通、日本将棋連盟が脳の高次機能に関する共同研究プロジェクトを開始


握手する3者。富士通株式会社代表取締役会長 秋草直之氏(左端)、独立行政法人理化学研究所理事長 野依良治氏(中央)、社団法人日本将棋連盟会長・永世棋聖の米長邦雄氏(右端)
 8月3日、独立行政法人理化学研究所と、富士通株式会社および株式会社富士通研究所は、社団法人日本将棋連盟の協力を得て、将棋における局面の状況判断や指し手の決定に関わる脳の情報処理メカニズムを題材に、「直感」思考の仕組みを解明することを目的とした共同研究プロジェクト「将棋における脳内活動の探索研究」を開始したと発表した。

 研究期間は2年間。プロ棋士が将棋を行なっているときの脳の活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像)で測定。アマチュア棋士の脳活動とも比較することで、脳における「直感」の情報処理過程の解明を目指す。強くなっていく過程での脳の変化の様子も調べるという。現在はボランティアのアマチュア棋士による予備実験の段階で、具体的にどのプロ棋士が研究に参加するかは現時点では未定だが、プロアマそれぞれ10名程度、合計20名程度が実験に参加するとされている。

 記者会見には社団法人日本将棋連盟会長・永世棋聖の米長邦雄氏、独立行政法人理化学研究所理事長でノーベル賞受賞者としても知られる野依良治氏、富士通株式会社代表取締役会長の秋草直之氏の3氏のほか、理研脳科学総合研究センター(BSI)特別顧問の伊藤正男氏、富士通研究所代表取締役社長の村野和雄氏ほか理研の各研究リーダーが出席。意気込みを語った。


独立行政法人理化学研究所理事長 野依良治氏
 理研理事長の野依良治氏は「この3者連合は偶然から始まった」という。野依氏は理研理事長に就任した後、「野依イニシアチブ」を提唱。そのなかの一つとして「文化に貢献する理研」というスローガンを掲げ、毎年、「理研文化の日」という日を設けて講演会を行なっている。

 その第2回に招かれたのが米長邦雄氏だった。米長氏は「人間の脳と将棋」という演題で、江戸時代の将棋の逸話や将棋が強くなる方法、将棋と脳研究の行き着く先について講演した。そして将棋を指しているときの脳内活動に興味を持っていた伊藤正男氏や、富士通と思惑が一致し、共同研究が始まったという。

 野依氏は、21世紀においては「知の統合」が重要だが、具体的な研究活動に移そうという機運がまったくないと述べた。科学においては、従来は外界の客体である自然現象を対象としてきたが、今は心や精神も自然科学の対象としてアプローチできるようになりつつある。いっぽう文化や芸術も変化しはじめており、モダンアートを経て自己表現に移ってきた。つまり、自分の内なるものへのアプローチが科学においても芸術においても始まっていると見なせるという。

 科学における自己の内なる探求とは、すなわち脳科学である。技術的にはスーパーコンピュータの発達がサポートしつつ、脳科学は進展していくものと思われる。野依氏は「これから自然科学においては全面的な知の融合が始まるのではないか。人類生存への新たな哲学が拓けてくるのではないか」と考えていると語った。

 かといって、あいまいな思考を研究の対象にすることは困難だ。だが、将棋には厳密なルールがある。「ルールにのっとって思考する将棋は絶好の研究ツール」だと述べ、今回のプロジェクトは「必ず新しい研究領域を開くものだという予感がしている。将棋という日本の伝統文化を題材にして、世界を先導するユニークなナショナルプロジェクトになる」と語った。


富士通株式会社代表取締役会長 秋草直之氏
 富士通会長の秋草直之氏は「コンピュータは電脳とも呼ばれるが実際にやっていることは計算。人間の脳とコンピュータの違いは永遠の課題だ」と述べた。人工知能研究はコンピュータが遅かった時代には盛んだったが、コンピュータの速度が速くなったいまは逆にあまり行なわれなくなり、また新たなウェブサービスも登場しているが、結局はデータベースを回しているだけで、これまでの延長に過ぎない、と現状について語った。

 「人間は暗黙知を含め、いろんな処理を行なっている。問題解決における直感は非常に重要だが、いまのコンピュータの世界では届かない。直感に対してコンピュータはどういう道具として貢献できるか非常に興味を持っており、日本発のイノベーションができるに違いないと思っている。富士通としてもぜひチャレンジして新しい世界を作ってみたい」と期待を語った。

 なお富士通の将棋部は実業団では常に上位を勝ち取っているそうで、今回の3者については「理想的なコラボレーションだと思っている」という。


社団法人日本将棋連盟会長・永世棋聖 米長邦雄氏
 米長邦雄氏は「日本将棋連盟が研究に協力できることは何よりの喜び」だと語った。経験を積み重ねたところから出てくるのではなく、突然、最善手が浮かんでくることがあるそうで、特にそのときの脳の状態を知りたいという。

 日本将棋連盟は既に昨年6月、理研の伊藤正男氏を座長として将棋における脳の情報処理の仕組みを探求する「Shogi・Super‐Brain研究会」を発足させている。今年3月には渡辺明竜王が、保木邦仁氏が開発した将棋ソフトウェア「Bonanza(ボナンザ)」と公開対局を行ない勝利をおさめたが、それもこの一環であり、次にやるのが、今回のプロジェクトなのだという。上述のようにどのプロ棋士が実験に参加するかは未定だが、米長氏は、最終的にはタイトルを持っている棋士には全員参加して欲しい、将棋連盟の全力を挙げて協力したいと語った。


理研BSI特別顧問 伊藤正男氏
 以上3名がそれぞれの立場を述べたあとに、小脳の研究者として知られる理研BSI特別顧問の伊藤正男氏が、実際の研究内容についてプレゼンテーションを行なった。伊藤氏は「コンピュータが持っていないものは人間の直感。これを解明することは脳科学にとっても重要なテーマ」だと語った。今回のプロジェクトにおいても伊藤氏は小脳における内部モデルを重視し、これを作業仮説として研究にのぞむ。

 なお、今回の実験における「直感」とは、「見てぱっとわかること」。いっぽう「ひらめき」とは、見てすぐにはわからないが、ずっと考えて考えているうちに、パッとわかるようなもののことだと捉えているという。ただし、両方とも共通の仕組みがあると考えているという。

 「問題のことを忘れているうちに、突然正解がひらめくことがある。非常に面白いプロセスだが、なかなか研究の糸口がつかめなかった」と語る伊藤氏は、「直感思考」のメカニズムについては「経験と学習が重要なのだろう。基本的な仕組みは、学習によって内部モデルができていて、それと比較するのが直感だと考えられる」とした。

 将棋は研究テーマに向いているという。「ルールがちゃんとあって、手順がきちんとしている。しかもプロ棋士は、それに特化した集団で、将棋のことを朝から晩まで考えている。これならば実験パラダイムを作ることができると思う」と述べた。


 理研では3つのチームが異なる手法でアプローチする。認知機能表現研究チームは、4テスラのfMRIで脳の活動を見る。研究のリーダーは、理研脳科学総合研究センター領域ディレクター・田中啓治氏がつとめる。創発知能ダイナミクス研究チームは時間分解能に優れる脳波を使って脳活動を調べる。こちらのリーダーは理研脳科学総合研究センターの山口陽子氏。伊藤氏はリーダーの記憶学習機構研究チームは、詰め将棋を使った心理実験で修正に関わる時間を測定し、小脳における内部モデルの役割を検証する。

 伊藤氏は「将棋に強いとはどういうことか客観的に調べたい」という。運動は、練習を繰り返し繰り返しやることでうまくなる。同様に将棋の場合はだんだん強くなっていく。その過程で脳がどのように変化していくのか。「運動と思考の類似性」がひとつのキーワードで、練習によってうまくいくことと、考えているうちに「ひらめく」ことの類似性を手がかりに研究を進めていくという。

 「小脳仮説」に関しては、以下のように説明した。我々が何かを考えるときには、頭のなかで何かの観念をつくる。その観念を転がすことが思考だと考える。転がしているうちに小脳に内部モデルが作られる。そうなると、観念を直接動かすのではなく、小脳の中の内部モデルを転がすことで、無意識に思考が遂行できる。これが「小脳仮説」だという。簡単にいうと、予測シミュレーションである。


3つのアプローチで研究を進める fMRIによる実験風景 脳波測定による実験風景

理研脳科学総合研究センター領域ディレクター・田中啓治氏 理研脳科学総合研究センター 創発知能ダイナミクス研究チーム チームリーダー 山口陽子氏

 記者会見においては富士通はどう関わるのか、それによって何が変わるのかという質問も出た。記者からの質問に対して富士通研究所代表取締役社長の村野和雄氏は「富士通の研究所ではずっと、人間らしいITを作ろうと研究してきた。これまでは類推してモデルを作り、人間に近いことをやらせようとしていた。だが限界がきている。今回の研究で新しいモデルができると、これまで見えなかった知見が出てきて、人間に近いことができるIT開発のきっかけとなるのではないか」と答えた。

 また富士通株式会社研究執行役の川妻康男氏は、将来の応用例の一つとして、ネットワークの自動的なトラブルシュートを挙げ、「人間の脳のことが完全に理解できなくても、できることはいっぱいあるはずだ」と語った。

 研究プロジェクトの成果は「セカンドライフ」内に富士通が所有する島でも順次発表していくという。


富士通研究所代表取締役社長 村野和雄氏 富士通株式会社研究執行役 川妻康男氏

 fMRIを使った実験では、寝転がった状態で将棋盤を見ることになる。将棋は座って行なうのが基本。記者会見でもジョークを交えながら語っていた米長邦雄氏は、将棋の長い歴史のなかで寝転がって将棋を指すのは初めてだろうと笑っていた。特に、これまでにない最善手を思いつけたときの脳の過程、そのときの感動、喜びの過程を知りたいという。


URL
  理化学研究所
  http://www.riken.jp/
  富士通
  http://jp.fujitsu.com/
  富士通研究所
  http://jp.fujitsu.com/group/labs/
  日本将棋連盟
  http://www.shogi.or.jp/


( 森山和道 )
2007/08/07 00:02

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