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ユニークな手作り小型衛星を宇宙に
~GOSAT相乗りミッションに選定された6機関が一堂に会す


社会インフラとして、みんなの宇宙開発利用を考える

 7月23日、東京都立産業貿易センター浜松町館において、2008年夏期に打上げが予定されている相乗り小型副衛星の合同ワークショップが開催された。主催は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の産学官連携部。

 JAXAは、宇宙チャレンジの敷居を下げ、宇宙産業の裾野を広げる活動を行なっている。その一環として、企業や大学などの民間団体が手作りで開発した小型衛星の実証機会を提供。2008年夏期に「H-II Aロケット」で、温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」を打ち上げることになっているが、これと同時に6機の小型副衛星も相乗りできるように準備を進めている。

 今回の合同ワークショップでは、このGOSAT相乗りミッションに選定された6機関が一堂に会し、現在製作が進んでいる小型副衛星に関する紹介や、パネルディスカッションが実施された。


【写真1】まず宇宙航空研究開発機構の樋口清司氏(理事)が基調講演を行なった
 まず各小型副衛星の説明の前に、宇宙航空研究開発機構理事の樋口清司氏が登壇し、「小型衛星普及と我が国宇宙開発の発展」をテーマに基調講演を行なった【写真1】。

 樋口氏は、これからの宇宙開発について、「かつて私は宇宙少年だった。ロケットをつくりたい、宇宙に行きたいという動機でJAXAに入ったが、このような考えだけでは今後の宇宙開発は立ち行かなくなってきたと感じている。フロンティアの挑戦は大事だが、宇宙が社会インフラになってきたという現状認識も必要。技術開発により、安全で豊かな社会に対応していかなければならない」とし、「フロンティアの挑戦」「技術開発」「安全で豊かな社会」という3つの輪をバランスよく進めていくことが、真の意味での宇宙開発につながると指摘した【写真2】。

 宇宙に関わるシステムと技術が社会に必要不可欠な要素になってきたこと、それは「みんなの宇宙開発利用」と同義であり、その実現のためには、JAXAや一部の専門家だけの宇宙活動だけではないスタンスが求められる。そこでJAXAでは産学連携部をつくり、先の宇宙開発利用を推進している。

 とはいえ、まだ現時点では宇宙産業は健全に発展しているとはいえない状況だ。既存の宇宙産業マーケットは宇宙機器産業と宇宙利用サービス産業を合わせても年間1兆円規模に満たない。これに宇宙を活用するユーザー産業分野(カーナビ、GPS携帯、衛星授業など)を合わせても4兆円ほど。非宇宙分野の企業参入を促進し、さらに行政側でも宇宙産業市場の裾野を広げることで、市場規模を拡大していく必要があるという【写真3】。


【写真2】これからの宇宙開発の要件。「フロンティアの挑戦」「技術開発」「安全で豊かな社会」という3つをバランスよく進める必要がある 【写真3】宇宙開発の発展イメージ。非宇宙分野の企業参入の促進が重要となる。行政側でも宇宙産業のマーケットの裾野を広げることで、市場規模を拡大していく

 JAXAでは「ニッポンを元気にする、変える、豊かにする」という3つのスローガンを掲げている【写真4】。まず、中小企業を含む産業競争力を強化するため産学連携を検討。現在、民間企業が静止軌道上に通信衛星を打ち上げてサービスを提供しているが、すべて海外製になっている。日本で使う衛星は自国でまかなえるように産業技術力をつけ、ニッポンを元気にしたい意向だ。

 次に、「みんなの宇宙開発」に向け、宇宙利用の敷居を下げ、参加者を拡大することで、ニッポンを変えていく。さらに先端技術開発など宇宙から得られた技術や知識が一般社会に利用されていく、つまり「スピンオフ」を進めることで、社会を豊かにしていく方針だ。

 そして、樋口氏は「このようなスローガンを実現するために、今回の相乗り衛星施策は1つのキーになるものだ」と語る。相乗り衛星によって、安くて良い技術を開発でき、新しいミッションのアイデアも生まれる。また、従来の地域産業や大学、一般市民も宇宙と関われるようになるというわけだ。JAXAは、相乗り衛星施策によって、【写真5】のような「競争力強化」と「利用拡大」という2つの領域をカバーできると見ている。

 さて、第一回目の相乗り衛星施策として選ばれた衛星は21機の中の6機。すでに公募は締め切られているものの、応募条件などを再整理したうえで、秋には再び公募を再開する予定だという。条件を満たす提案者は順次公募リストに載せ、相乗りの機会ができるまで待機してもらう方向だ。GOSAT以降でも、ロケットの空きがあれば順次相乗り衛星を搭載する機会が得られる。「希望的観測もあるが、2021年か22年までには、年に1回ぐらいは相乗りの機会が得られるようにしたい。いま内部で議論を進めているところだ」と樋口氏。

 宇宙利用というと、どうしても敷居が高く、腰が引けてしまうところもある。JAXA産学連携部では、技術的な相談やサポートも随時受け付けている。興味を持たれた方は、ぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか。


【写真4】JAXAのスローガン。「ニッポンを元気にする」「ニッポンを変える」「ニッポンを豊かにする」というスローガンを掲げる 【写真5】今回の相乗り衛星施策の位置づけと意義。このミッションによって、「競争力強化」と「利用拡大」という2つの領域をカバーできる

超最先端研究を柔軟性に富んだ小型衛星で推進

【写真6】相乗り衛星に選ばれた6機関の代表とJAXA産学連携部の吉川健太郎氏
 次にGOSAT相乗りミッションで打ち上げられる小型副衛星の紹介が、東北大学、東大阪宇宙開発協同組合、都立産業技術高等専門学校、香川大学、ソラン株式会社、東京大学の6機関よりなされた【写真6】。

 東北大学では、大学院の理学研究科と工学研究科が連携し、「SPRITE-SAT」 と呼ばれる観測衛星をつくっている【写真7】。衛星から観測する対象は、中層・超高層大気での発光現象(TLE)の1つ「スプライト」と、地球から出るガンマ線(TGF)だ。前者は、雷放電の直後に過渡的に発光する現象で、1日に全球で数千から数万個というレベルで発光が発生していると推定されている【写真8】。

 スプライトは、肉眼でも見えるほどの明るい発光だが、1989年になってやっと発見された。その詳しいメカニズムは未だ解明されていないという。同大学では、TLE研究で類似する現象「エルプス」(巨大な雷発光)を発見するなど、世界的にリードする研究を行なってきた。自作衛星によって、スプライトの水平分布を撮像し、このメカニズムを究明したい意向だ。

 一方、後者のTGFは、1994年に発見されたもの。3年ほど前に打ち上げたガンマ線天文衛星によって、ガンマ線が大量に検出された【写真9】。特筆すべき点は、30MeVという宇宙最高クラスのガンマ線が地球の足元から放射されていること。こちらも同様に現象の究明が求められている。


【写真7】東北大学の小型衛星「SPRITE-SAT」。大学院の理学研究科と工学研究科が連携して開発を進めている点が大きな特徴 【写真8】雷放電の直後に過渡的に発光するスプライト現象。肉眼でも見えるほどの明るい発光だが、詳しいメカニズムは未だ解明されていない 【写真9】地球ガンマ線(TGF)は、30MeVという宇宙最高クラスのエネルギーを持つというから驚きだ

 同大学大学院の高橋幸弘氏(理学研究科講師)は、「このプロジェクトが進展できた理由の1つは、短期間に開発できる小型衛星ならではの柔軟性によるメリットが大きい」と語る。いずれの現象も最近になってから発見されたもので、中・大型ミッションでは素早い対応が難しいからだ。

 同大学では数年の間に衛星や観測機のスペックを変更して、最新の研究ができるように機材を最適化させた。今回の観測は世界に先駆けて行なわれることになる。後続する形で、2011年にはフランスとESAが同様の観測を行なうという。このプロジェクトでも観測機器を送り込む計画もあるそうだ。高橋氏は「まず、小型衛星で超最先端の研究を行ない、その後、中・大型ミッションの展開につなげていきいたい」と今後の展開についても説明した。

 さて、SPRITE-SATに関してだが、外形490×490×440mm(インターフェイス部の外径は225×50mm)の本体に、魚眼カメラ、スペクトルカメラ×2、ガンマ線カウンタ、雷の放電を観測する電磁波(VLF)アンテナなどが装備され、スプライトやTDFの観測を行なう。【写真10】。主に衛星下面にミッション機器を備えており、地球方向に衛星の姿勢を制御する。そのため、3軸地磁気センサ、太陽センサ、宇宙用GPSのほか、アクチュエータとして磁気トルカ(2軸)や伸展ブームがあり、重力傾斜安定方式によって、位置と姿勢を制御する仕組みだ【写真11】。

 ロケットから衛星が放出される際には、衛星が回転するため、まず回転を抑える必要がある。その後でブームを伸展させ、重力傾斜による安定制御に入るが、衛星の振り子運動を抑えるためのダンピング制御も行なう。また、カメラが地球と逆側に向いてしまった場合には、反転制御をかけて向きを逆転させるという。そのほかの工学ミッションとしては、TAMU(Tohoku AAC MEMS Unit)と呼ばれる、宇宙環境でのMEMSチップの使用可能性を検証し、新しい宇宙ビジネスに向けて道を拓くことだという。


【写真10】スプライトとTGFを観測するためのモード。衛星にペクトルカメラとガンマ線カウンタを搭載している 【写真11】SPRITE-SATの姿勢制御方法。ブームを伸展させ、重力傾斜方式による制御を行なう。安定のためにダンピング制御や反転制御も実施する

関西企業の底力を見せる小型人工衛星「まいど」

 東大阪市を中心とした中小企業11社(アオキ、伊藤電子、サンコー精機、大日電子、日本遠隔制御など)が集まって開発を進めているのが「SOHLA-1」(まいど1号)だ【写真12】【写真13】。東大阪では、近年の不況や産業の空洞化、後続者不足などが原因で若い世代が地域を離れる傾向があるという。そのため、中小企業の活性化と次世代の育成を目的に、2002年に東大阪宇宙開発協同組合を設立し、地域再生に取り組んでいる。2004年から手作り衛星を開発すべく、SOHLA-1プロジェクトをスタート。その発展系となる2号機・SOHLA-2の研究開発も並行して進めている。


【写真12】東大阪宇宙開発協同組合の小型衛星「SOHLA-1」(まいど1号)。同組合では、2号機・SOHLA-2の開発も同時並行して開発を進めている 【写真13】SOHLA-1プロジェクトの目的。宇宙実証用の小型スピン衛星を、東大阪の中小企業の力で短期間かつ低コストでつくりあげる

 SOHLA-1は基礎実証モデルの確立を目指す。主なミッションは、過酷な宇宙環境に耐える衛星の設計から、製作、試験、打ち上げ、運用までの一連の手法を確立すること。構造解析、振動、熱解析、真空試験の習得のほか、SOHLA-2で実施される予定の軌道上先行実証実験(雷センサの開発)、アマチュアバンド局の構築(Sバンドも利用)や通信に関わる運用なども行なう。

 東大阪宇宙開発協同組合は、主に衛星の構成機器の製造を担当している。大阪府立大学(太陽センサの開発)、龍谷大学(展開ブームの開発)との産学連携や、NEDOによる委託契約、JAXAの技術サポートなどによって、小型衛星の開発を進めているところだ【写真14】【写真15】【写真16】【写真17】。

 姿勢制御にはスピン安定方式を採用。このスピンアップホイールは、2足歩行ロボットキットを開発する日本遠隔制御も製作に関わっている。現時点で、すでに衛星コンポーネントやフライト構体の開発・試験が終了し、システムのインテグレーションまで進んでいるという。今後、大阪府立大学の小型宇宙機システム研究センターにおいて、衛星の運用を進めていく予定だという。

 また、衛星の開発・製作・運用だけでなく、科学的なミッションも含まれている。こちらは大阪大学が進めている。地上システムからの観測データだけでなく、雷がどこから発生して雲の中をどのように進んでいくのか、その活動を衛星からモニタリングするVHF波形観測装置を開発中だ【写真18】。これは世界初となる「衛星からの電波観測による雷放電位置標定」を目的としているが、まず1号機では、位置標定の前段階として基礎実験を行なう方針だ。

 東大阪宇宙開発協同組合の理事を務める杉(本字は木偏に久)本日出夫氏は、「いよいよ人工衛星の打ち上げが間近に迫ってきた。産学連携のもと、大阪の中小企業の力を集結して、夢の実現に向けて頑張っていきたい」と抱負を述べた。


【写真14】東大阪宇宙開発協同組合の協力体制。大阪府立大学、龍谷大学の技術サポートのほか、NEDO、JAXAもバックアップ 【写真15】大日電子は衛星のハーネスまわりや、アマチュア無線制御部を担当している 【写真16】伊藤電子は衛星に搭載する中央・拡張制御ユニットを製作

【写真17】スピンアップホイールの製作には、2足歩行ロボットキットを開発している日本遠隔制御も関わっている 【写真18】雷の活動を衛星からモニタリングするVHF波形観測装置の仕組み。これを利用し、まずは雷の位置標定の基礎実験を行なう

15歳から20歳まで、宇宙少年が衛星づくりに邁進中!

【写真19】都立産業技術高等専門学校が開発中の航空高専衛星「KKS-1」(仮称:写真左上)。写真右は校舎屋上に地上局を設置した無線アンテナ
 15歳から20歳までの若い力で衛星づくりを目指しているのは都立産業技術高等専門学校だ。同校では、航空高専衛星「KKS-1」(仮称)を開発しているところ【写真19】。

 「理科離れが叫ばれて久しいが、宇宙開発に興味のある小中学生は多い。高専では、どっぷりと専門教科を習うため、“鉄は熱いうちに打て”の精神で、いきなり宇宙開発の現場に立たせることにした。同好会形式で学生が集まり、いまでは学科・学年の枠を越え、10数名が放課後や長期休暇を利用して活動している」と語るのは、同校で指導にあたる石川智浩氏。衛星開発は、興味の対象としてだけではなく、構造体、通信、制御、カメラ、電源、環境などの側面から、格好の「教育の栄養素」にもなるという。

 KKS-1は、衛星打ち上げ後の「通信確認」「地球画像の撮影」「宇宙での移動」という3つのミッションを持つ【写真20】。外形は相乗り衛星の中では最も小さい150mmの立方体だ。重量も2.5kg(衛星分離機構は3.5kg)と小さい。だが、この一部に宇宙実験スペースを設け、実験のアイデアはあるが衛星をつくれない学生にも利用できるようにしたいという【写真21】。相乗りに、さらに相乗りスペースをつくる形だ。「たとえば、ROBO-ONEで使うようなサーボモータで、ロボットアームの実験を行なう計画などもある」(石川氏)という。

 電子基板、樹脂系プラスチックやアルミの加工・製作などでは、荒川区の中小企業との地域連携も進んでいるそうだ【写真22】。衛星の3軸姿勢制御にはDCモータを利用したリアクションホイールが用いられる【写真23】。地球や月が見られるように、衛星の姿勢を変更できるようにする。また、高出力レーザーで小さな固体火薬を点火し、宇宙空間で推力を発生させる「マイクロクラスタ」の実験も行なう予定だ【写真24】。超小型衛星では大きさの制約から推力用のガスタンクなどは積めないため、この方式を考えたという。

 地球画像については、一昔前の携帯電話に搭載されているカメラと同レベルの解像度(320×240ドット)で地球の画像を撮り、撮影した画像のネット配信も検討。衛星との通信はアマチュア無線を利用し、校舎屋上に地上局を設置する。衛星のデータは世界中のアマチュア無線家に受信してもらう方針だ。


【写真20】航空高専衛星「KKS-1」のミッションは3つ。衛星打ち上げ後の通信確認、地球画像の撮影、宇宙での移動が大きなテーマ 【写真21】衛星の一部に宇宙実験スペースを設けることで、実験のアイデアがある学生・企業でも利用できるようにする方針 【写真22】衛星開発にあたり地域連携も行なわれている。電子基板、加工部品の製作を荒川区の中小企業がバックアップ

【写真23】KKS-1の特徴の1つ。リアクションホイールを用いた3軸姿勢制御。地球や月が見られるように、衛星の姿勢を変更できる 【写真24】宇宙での移動実験で用いられるマイクロクラスタ。高出力レーザーで小さな固体火薬を点火し、宇宙空間で推力を発生

テザー方式の宇宙ロボットによる姿勢制御と撮影実験

【写真25】香川大学の小型衛星「STARS」。テザーを利用した宇宙ロボット機能を備えている。親機と子機があるため、実質上は2機の衛星だ
 香川大学では、同大学工学部の能見公博准教授のもと、2005年に香川衛星開発プロジェクトを発足。テザー(ひも)方式の宇宙ロボット機能を備えた「STARS」を開発している【写真25】。

 テザー方式の宇宙ロボットは、カメラモジュール、アンテナ、太陽電池、テザーの伸展回収機構を持つ「親機」と、ロボットアーム駆動機構を持つ「子機」(ロボット衛星)で構成される。それぞれがテザーでつながっている。子機側のロボットアームを駆動するモータは2つあり、ディファレンシャル(差動)機構で動作。また、テザーの伸展回収機構にリールを用いるほか、テザーの張力を一定に保つ機構も採用している【写真26】。親機と子機を合わせた本体サイズは、160×160×380mm、重量は約7kgだ。

 親機から子機をバネの力で放出したあと、ロボットアーム先端に付いたテザーを動かすことによって、子機の姿勢を制御する。【写真27】の平面モデルのように、ベースの姿勢角(θ)をフィードバックし、アームの傾斜角(φ)を決定。そこで発生する回転力を利用して、衛星の姿勢を安定させる仕組みだ。STARSではテザーの伸展長が5mと短い点が大きな特徴になっている。ただし、テザーの挙動を予測することが難しく、事前シミュレーションが重要になるという。

 衛星の主なミッションは、短距離でのテザー伸展と回収、子機ロボットの制御、子機に搭載されたカメラによる親機の概観撮影、親機/子機間の通信といった実験。伸展回収ミッション中には、親機・子機の協調制御を実施するために、Bluetoothによってそれぞれの機体間で通信を行なう【写真28】。地上との通信はアマチュア無線を利用し、香川大学の屋上にアンテナを設置。

 現時点で、衛星開発の過程で必要な振動試験、熱試験、真空試験などの環境試験を学内で実施したという。このほかにも、マイコンを選定するための放射線試験や、熱真空試験をつくば宇宙センターで行なった【写真29】。また、伸展回収の挙動解析をする航空機実験、落下塔による微小重力実験なども行ない、衛星の姿勢制御なども確認している【動画1】。


【写真26】ロボットアーム駆動機構を持つ子機の動作機構。テザーの伸展回収機構にはリールを用いる。テザーの張力を一定に保つ機構も搭載 【写真27】テザーとロボットアームによる姿勢制御。ベースの姿勢角(θ)をフィードバックし、アームの傾斜角(φ)を決定。発生する回転力を利用して衛星の姿勢を安定させる 【写真28】親機と子機の協調制御を実施するために、Bluetoothで通信を行なう。地上との通信はアマチュア無線

【写真29】EM(Enginering Model)試験の様子。耐環境試験や航空機実験もすでに行なわれているという 【動画1】航空機実験による微小重力下での伸展回収の模様。実験では子機の回収時に振動がなくピタリと止まっているが、宇宙では若干振動すると予想している

民間企業で子供たちの夢を運ぶ宇宙活動を企画

【写真30】ソランの小型衛星「かがやき」。子供たちの夢を運ぶ宇宙活動を展開するという
 民間企業で相乗りミッションに参加するのはソランだ。同社の宇宙システム事業部は、東海大学とウェルリサーチとともに小型衛星「かがやき」を開発している【写真30】。

 ソランは、難病や障害をもつ子供や家族を支援するプログラムとして「ソラン・キッズ」を実施している。「これまでも毎年キャンプを行ない、クルマイスで搭乗できる熱気球のイベントなどを開催してきた。今回のかがやきの打ち上げも、子供たちの夢をつなげる活動を行なう」(同社システム開発グループシニアマネージャ 村田祐介氏)という。

 具体的な衛星利用ミッションとしては、自律型システムによって宇宙やオーロラの写真を撮影すること、子供たちの記念作品を宇宙で展示する「宇宙キャンパス」などを計画中だ。宇宙キャンパスでは、衛星を大気圏に落とす際に使われるパラシュートに、子供たちが描いた絵や手形などをコピーし、ブームの先端のカメラで映像を送る【写真31】。また、子供たちのメッセージを録音し、それを衛星軌道上から地上にアマチュア無線で送信する「宇宙ボトル」も企画している。

 このほか衛星打ち上げ前の段階でも、衛星の製造見学会やセミナーも実施。これらの活動を通じて、子供たちや家族に宇宙を身近なものとして感じてもらい、宇宙開発の裾野を広げたいと考えている。

 かがやきのサイズは約300mmの立方体で、重量は20kg程度。衛星の姿勢制御には、重力傾斜方式と磁気トルカ(2軸)を利用する。重力傾斜には、インレータブル式の伸展ブームを使った実験を行なう予定だ。打ち上げ時にはブームは畳まれているが、軌道上でガスを送り込んでブームを伸ばして姿勢制御を行なう【写真32】。また、ブーム伸展時には、衛星本体の磁気モーメントの計測もあわせて行なうそうだ。伸展部の重さは1mあたり8gと超軽量であるため、将来的には衛星搭載用の大型伸展構造への応用も期待されている。


【写真31】難病や障害をもつ子供や家族を支援するプログラム「ソラン・キッズ」において展開するミッション例。宇宙キャンパスでは、子供たちが描いた絵や手形などをパラシュートにコピーし、映像を地上に送る 【写真32】インレータブル式の伸展ブーム。打ち上げ時にはブームはコンパクトに畳まれている。、軌道上でガスを送り込んでブームを伸展させる

 地上との通信は他の衛星と同様にアマチュア無線帯を使う。同社のグループ会社の社屋などを利用し、東京の管制センターのほか、札幌、松本、宮崎などに地上局を設置する予定だ。

 全体のシステムとしては、統合制御ユニット、自律型オンボード官制システム「E-MAX」、送受信機、電源系統などを搭載している【写真33】。E-MAXはソランで新規に開発したもの。これは人工衛星の機器からデータを収集し、テレメトリとして通信装置を経由して地上側に送信する役割や、地上からのコマンドに基づいた衛星機器の制御を担う。同社は以前からJAXAで地上衛星管制システムを担当しており、その技術を軌道上でも応用する方針だ。「従来このようなコントローラは衛星ごとに製作されていた。E-MAXではシステムに汎用性を持たせ、どのような衛星でも対応できるようにする」(村田氏)という。

 かがやきでは科学的なミッションも実行する。こちらは東海大学が担当する。具体的には、スペースデブリやオーロラ電流などを観測するそうだ。衛星にデブリが衝突した際の衝撃波や、プラズマの観測によって、デブリの空間分布をつくる。一方、オーロラ観測のほうは磁場をセンサで検出し、オーロラの発生原因となる電流構造を解明する【写真34】。

 ただし、オーロラはいつ発生するか分からない。また発生する緯度条件もある。そのため、かがやきではGPSとカメラを搭載し、60度以上の緯度になったら探索を開始し、センサの検出電流が閾値以上の場合にカメラが作動するように工夫している。現在は、制御系、電源系、通信系などのサブシステムを製作しており、10月からFM(フライトモデル)の製作と試験を行なう予定だ。


【写真33】かがやきのシステムブロック図。大きなポイントはソランが開発している自律型オンボード官制システム「E-MAX」 【写真34】オーロラ電流の観測装置は東海大学の担当。このほか、スペースデブリの分布も調査する

伸展ブームの屈折光学系で、高解像度の地球画像を撮影

【写真35】東京大学の小型衛星「PRISM」。本体サイズは200×200×250mm、重量約5kgと小型軽量ながら、地球画像を最高10mの分解能で撮影することを目的としている
 東京大学の中須賀研究室では、これまでも「CubeSat」といった超小型衛星プロジェクトを推進しており、宇宙の実利用への道を拓こうとしている。今回の相乗りミッションで搭乗する衛星は「PRISM」と呼ばれるものだ【写真35】。

 主なミッションは、地球画像を最高10mから30mまでの分解能で撮影することにある。衛星の姿勢制御に重力傾斜方式と磁気トルカ(3軸)を用いる。本体サイズは200×200×250mm、重量約5kgと小型軽量だが、30mの分解能は一昔前のランドサットなどの大型衛星で実現できたレベル。これを5kgの小型衛星で実現するのは難しいという。

 ミッション遂行の上で何よりも重要となるのは、柔軟な伸展ブームで構成するコンパクトな屈折光学系にある。この光学系は打ち上げ時には衛星内部に収納されているが、同大学大学院工学研究科の小松満仁氏(航空宇宙工学専攻博士課程1年)は、「軌道上でブーマを伸ばすことで、大きな焦点距離を確保して、高分解能の画像を取得する」と説明する【写真36】。

 伸展ブームは、回転しながら伸び、ねじると縮むような構造を考えているが、製作精度と伸展時の再現精度を確保することが最大のポイントになるという【写真37】。そのため、熱などの原因で部材の弾性力に変化が起きても、ブームの形状を保持できるロバスト的な力学設計を施している。また、伸展時にかかる衝撃を吸収する機構も搭載。さらにブーム伸展時に残る誤差をフォーカス機構とアルゴリズムによって補償する。

 将来的に、このような衛星を低コストで短期間に開発して多数打ち上げれば、災害救助などでの迅速な対応に役立てられるという。また、前述の伸展技術が確立されれば、小さな衛星を大きなサイズで使うことも可能になる。

 製作中のPRISMは、放射線、振動、真空試験などを実施している。航空機による微小重力実験によるブームの挙動解析から、高い振動収束性が得られることも確認済みだ。現在は電気的な動作確認を進めており、この9月までに最終的なFMのコフィグレーションを反映し、2回目の航空機実験も実施する予定だ【写真38】。


【写真36】柔軟な伸展ブームで構成するコンパクトな屈折光学系。ブーマを伸ばして大きな焦点距離を確保する 【写真37】同大学大学院工学研究科の小松満仁氏(航空宇宙工学専攻博士課程)。伸展ブームの仕組みをモデルで説明 【写真37】同大学大学院工学研究科の小松満仁氏(航空宇宙工学専攻博士課程)。伸展ブームの仕組みをモデルで説明

 小型衛星は1機あたり数千万円ぐらいで製作でき、一般の企業や人々を巻き込んで、宇宙ビジネスを大きく広げる可能性を秘めている。ただし、障害となる問題もないわけはない。たとえば、地上通信のための周波数獲得の問題だ。現在、このような衛星の通信にはアマチュア無線を利用するケースがほとんど。というのも、周波数の獲得には総務省への申請が必要だからだ。さらに、もし他国と周波数のバッティングがあれば、その調整に手間がかかるという問題もある。今後のビジネスを展開していく上では、アマチュア無線は商用利用できないため、周波数獲得の問題を行政側でもしっかり考えてもらう必要があるだろう。


地上での検証の繰り返しと前倒しのスケジュールが大切

【写真39】パネルディスカッションの模様。写真左から、東北大学の高橋幸弘氏、東大阪宇宙開発協同組合の杉本日出夫氏、都立産業技術高等専門学校の石川智浩氏、香川大学の能見公博氏、ソランの山本勝令氏、東京大学の中須賀真一氏、JAXA産学連携部の吉川健太郎氏
 最後にGOSAT相乗りミッションに選定された6機関によるパネルディスカッションと、参加者による質疑・応答の場が設けられた【写真39】。

 まず6機関の代表が、それぞれの小型衛星について簡単に紹介した。その上で、今後課題となる問題について、いくつかの意見交換がなされた。教育機関のプロジェクトとして「宇宙技術の伝承についてどうすればよいか?」という問題が投げかけられた。

 東京大学の中須賀真一教授は「非常に難しい問題。我々の場合は、先輩たちが新人のために研修プログラムを組んで基礎を覚えさせる。3年生、4年生の段階では、ジュース缶サイズの衛星を作らせてトレーニングをして、その過程で基板製作などのものづくり体験や各種試験の方法を勉強させる。このように下から順に積み上げるプロセスをつくって、技術を伝承している。同時にドキュメントの制作も重要だ。どのような不具合があったのか、回路設計のノウハウなど、検索しやすい形で残すように心がけている」と語る。

 東北大学の高橋幸弘氏(大学院理学研究科講師)も同様に、学生からの継承が重要だという。「ただし、学生が3人以上集まっていないと伝承性がなくなるのではないか。また、いろいろな技術を共通化して、みんなで共有したほうがよい。自分のミッションだけでなく、他人のミッションも積極的に関わっていくことが必要」と述べた。

 都立産業技術高等専門学校の石川智氏は、「工業高専の場合は教育機関が5年間あるので、重要なのは教師よりも友達だ。友人関係や先輩から教えを請うのがもっとも頭に入るようだ。また、失敗を繰り返さないために、失敗データを残すことが重要。技術を継承する上では、成功したデータよりも、生々しいデータのほうが役立つ」と指摘する。

 また、教育機関とは異なる立場で、東大阪宇宙開発協同組合の杉本氏が「個人的な見解では長期的な意味での継承は難しいかもしれない。ただし、産学連携で推進しているので、そのノウハウがそれぞれの機関や企業で伝承されていくだろう」と語った。

 「宇宙開発と日本の伝統文化」という大局的な話題も飛び出した。JAXA産学連携部の吉川健太郎氏(部長)は「実はユーザーという観点で見たとき、日本は面積が小さすぎて衛星利用には不向きな点もある。アジア全体でのサービスなども視野に入れなければいけない。一方、技術的には日本人は小さくて品質の高い製品をタイムリーにつくる能力に長けている。ものづくり分野は、我々の民族性にマッチしているだろう。小型衛星という分野では、世界を制覇できるのではないかと考えている」という。

 最後に本ミッションを成功させる注意点についてアドバイスが挙がった。「設計したものが、そのまま動くことはあり得ないので、とにかく地上で実証を積んでいくことが重要。すべての検証をやりつくして、もう何もすることがないという状態でも、最後の段階でバグが出てくることも多い。これが最終的に信頼度を高める重要なファクターになる。前倒しでスケジュールを進めていくことが大事だ」(中須賀真一教授)と述べた。


URL
  JAXA
  http://www.jaxa.jp/
  JAXA 産学官連携部
  http://aerospacebiz.jaxa.jp/


( 井上猛雄 )
2007/08/06 17:29

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