7月17日、北九州のロボットベンチャー・株式会社テムザックは、北九州市消防局消防訓練研修センターにて、防災ロボット開発会議のメンバーと共同開発したレスキューロボット「T-53援竜」を発表した。昨年12月に発表した「T-53」の正式リリース版。
「T-53援竜」はクローラ走行式双腕ロボット。大きさは140×232×280cm(幅×奥行き×高さ。重量は2.95t。自由度は合計18で、うち、腕の自由度は6自由度+手部1。
動力源は水冷3気筒過流式ディーゼルエンジンで、燃料を満タンにすれば6時間稼動できる。コンピュータそのほかの電気も発電してまかなう。駆動方式は油圧。操作は搭乗、または無線LAN経由の遠隔操縦にて行なう。片腕の把持力は100kg。頭部とアーム先端部にCCDカメラ、胴体の前後左右それぞれに広角カメラを装備している。このうち頭部のカメラのみ38万画素ズーム機能つきとなっている。
人が近づけない危険な地域で、人の代わりに作業をすることをコンセプトに製作されたレスキューロボットの3代目。2004年に開発した全長3.5m、重量5t、片腕9自由度の大型のロボット「T-52援竜」の性能テストや訓練を消防関係者と実施、そのデータや意見を元に開発した。迅速な救助を最大の目的とし、サイズダウンして機動性を向上させた。
また、京都大学大学院工学研究科准教授の横小路泰義氏らの協力を得て腕部の操作と公正に「同期動作制御」を導入することで、直感的な作業ができるようになった。これまでの援竜は各関節を1つずつ指定して腕を動かさなければならなかったが、同期動作制御を使うことで、他の自由度の動きをオペレーターが指示しなくても、手先が向いている方向に対して、腕を一直線にターゲットに向けて動かすことが可能になった。これにより、より早く物体まで手を伸ばすことができるようになったという。特に、手先をターゲットに向けてまっすぐ動かすことで、車の窓から手を突っ込むような動きができる。
なお、今回はハンド部分に爪がついていたが、既存の建設機械の各種アタッチメントとも交換可能とのこと。
また、今回、小型特殊車両に必要なウインカー、ブレーキランプ、車幅灯、ヘッドライト、反射板などを一通り供えることで、「ロボット初」の車両ナンバーを取得することができた。これにより、一般道路の走行が可能になった。ロボット特区以外の場所であっても活動できる。
デザインは、株式会社モノリスのシモダユウスケ氏が行なった。
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トラックの後ろに積まれたT-53
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全身
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腕を伸ばしたところ
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把持力は片腕100kg
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手も含めて7自由度の腕部
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各シリンダーにオイルを送る油圧ホース
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腕の先には照明灯とCCDカメラが取り付けられているが、手先部の角度によっては見えにくいことも
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頭部照明灯と頭部CCDカメラ
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後部の無線LANアンテナ
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前部ドーザーと照明灯、カメラ
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後部カメラ、ブレーキランプ、ナンバープレート。緑色は小型特殊車両を示す
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胴体側面部にもカメラが設置されている
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操縦席
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オペレーター1人が搭乗して直接操作できる
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デモはT-52とT-53が共同して現場から瓦礫を撤去し、不審物を取り除くという想定で行なわれた。まずT-53は軽量で機動性にまさることを示すために小型トラックの後ろに積まれた状態で会場に到着。その後、オペレーターの操縦で荷台から降り、進路をふさぐバイクを撤去したのち、T-52が排除した車のなかから、両腕を使いながら不審物を取り除いた。
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【動画】トラックから降ろされる
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【動画】アームを引き上げて荷台から降りるT-53
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【動画】前進。かなり揺れるが普通の建機とさして変わらないという
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【動画】進路をふさぐバイクを持ち上げる
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【動画】旋回してバイクを撤去
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【動画】T-52との連携作業。T-52が車を撤去する
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【動画】その車の中からT-53が不審物を取り出すというシナリオ。片腕で扉をおさえ、もう片方の腕で物をとる
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【動画】各関節の同期によって腕をターゲットに対してまっすぐ伸ばすような動作が簡単にできるようになった
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【動画】腕の動き
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【動画】T-53に乗り込んだオペレーターからの視点
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操縦席。ジョイスティックの各ボタンを押すことでどの関節を動かすか決められる
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遠隔操作装置はコントローラー、メインモニター、2つのサブモニター合計4つのトランクからなる。合計重量は68kg。ジョイスティックを使ってロボットを操作できる。
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4つのトランクから構成される遠隔操作装置
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遠隔操縦用のコントローラー
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ロボットに接続する前のコントローラー画面
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それぞれのモニターにはロボットアームの姿勢やカメラ画像が映し出される
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今後は、災害救助現場だけではなく、建設現場、土木現場、廃棄物のリサイクル現場などでの活用を視野にいれ、実用化を目指す。また、小型から大型まで、援竜のバリエーションをそろえることで、さまざまな災害現場に対応できるようにしていきたいという。
開発費用は、2000年11月の「ROBODEX 2000」にて発表された水圧駆動レスキューロボットのコンセプトモデル「T5」から数えると、およそ4億円程度。販売時には4,000万円~5,000万円を目指したいという。
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2000年に発表されたT-5
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側面。いまは北九州市消防局消防訓練研修センター保管されている
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2004年に発表されたT-52
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共同開発した北九州市消防局警防課の小田氏は「安全性やシステム全体の安定性の性能と費用対効果を見ながら、よりよいものを開発していきたい」と述べ、「隊員が入っていけない危険な場所で活躍できるものができれば」と期待をにじませた。
テムザック代表取締役の高本陽一氏は「やっと商品に近い物ができた。建機よりも操作性は良いと思う」と語り、また昨今の災害についても触れ「現時点でもできることはあると思うので、要望さえあればお手伝いしたい」と述べた。
これからはさまざまな課題をクリアしていく予定。たとえば、泥濘地での走破性を高めるならばより大きなクローラーが必要になるし、またスピードを求めるならばやはり車輪のほうが適している。用途やニーズに応じて開発を進めていきたいという。
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テムザック代表取締役の高本陽一氏と北九州市消防局警防課 小田氏
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発表会場となった北九州市消防局消防訓練研修センター。「日々新風」のスローガンが目を引く
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研修センターに張られていたポスター
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テムザックの車両後部ガラス。右隅に注目
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■URL
テムザック
http://www.tmsuk.co.jp/
援竜
http://www.enryu.jp/
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・ テムザック、新型援竜「T-53」による土質調査実験を実施(2006/12/13)
( 森山和道 )
2007/07/18 01:11
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