Robot Watch logo
記事検索
最新ニュース
【 2009/04/21 】
ロボットビジネス推進協議会、ロボ検を開始
~メカトロニクス・ロボット技術者の人材育成指標確立を目指す
[17:53]
グローバックス、名古屋にロボット専門店をオープン
~5月2日~5日にプレオープンイベントを開催
[17:05]
「ロボカップジュニア九州ブロック大会」開催
~ジャパンオープン大会の出場チームが決定
[14:32]
【 2009/04/20 】
研究者たちの「知りたい」気持ちが直接わかる
~理研一般公開でのロボット
[15:15]
【やじうまRobot Watch】
巨大な機械の「クモ」2体が横浜市街をパレード!
~横浜開港150周年記念テーマイベント「開国博Y150」プレイベント
[14:20]
【 2009/04/17 】
第15回総合福祉展「バリアフリー2009」レポート
~ロボットスーツ「HAL」や本田技研工業の歩行アシストも体験できる
[19:46]
「第12回 ロボットグランプリ」レポート【大道芸コンテスト編】
~自由な発想でつくられた、楽しい大道芸ロボットが集結!
[14:57]
【 2009/04/16 】
北九州市立大学が「手術用鉗子ロボット」開発
[14:34]
ROBOSPOTで「第15回 KONDO CUP」が開催
~常勝・トリニティに最強のチャレンジャー現る
[13:17]
【 2009/04/15 】
「第15回ROBO-ONE」が5月4日に開催
~軽量級ロボットによる一発勝負のトーナメント戦
[18:50]
ヴイストン、秋葉原に初の直営店舗「ヴイストンロボットセンター」、29日オープン
[13:37]
【 2009/04/14 】
大盛況の「とよたこうせんCUP」レポート
~ロボカップにつながるサッカー大会が愛知県豊田市で開催
[11:34]

「ヨコハマ・ヒューマン&テクノランド2007」レポート
~ロボットテクノロジーでつくる福祉の未来とは?


ロボットスーツを装着した友人と共に、4,000m級の登山に挑む!

 7月5日から7日までの3日間、パシフィコ横浜において、「ヨコハマ・ヒューマン&テクノランド2007」が開催された【写真1】。このイベントは、福祉を支える人々とテクノロジーの素晴らしさ、可能性を広く伝えるために催されたもの。主催は、社会福祉法人 横浜市リハビリテーション事業団。本イベントでは、会場展示のほか、スペシャルトークショー、企業プレゼンテーション、ライブ・コンサートなど、たくさんの催しも実施されていた。

 初日のスペシャルトークショーでは、2006年8月に、ロボットスーツを装着した友人に背負われ、スイス・イタリア国境にあるブライトホルン峰にチャレンジした内田清司さんが招かれた。このような試みは、世界で初めてとなるもので、メディアでも報道され大きな反響を呼んだ。内田さんは、協力者・支援者と共に、さまざま試練を乗り越え、山頂付近に到達するまでの軌跡を振り返った【写真2】。


【写真1】パシフィコ横浜において7日まで開催された「ヨコハマ・ヒューマン&テクノランド2007」 【写真2】スペシャルトークショーの模様。内田清司さん(写真右)と、司会進行役の田中理さん(写真左、ヨコハマ・ヒューマン&テクノランド総合プロデューサー兼、横浜市総合リハビリテーションセンター長)。背景のスライドは内田さんの心を動かした風景

 いまから24年前に交通事故に遭い、頸髄損傷で四肢が不自由になってしまった内田さん。精神的にどん底の状態で入院していたとき、ふと目に映った1枚のカレンダーの写真を見て、涙が止まらなくなったという。それは、スイスの湖に映るマッターホルンの写真だった。ほんの少しでも風が吹いて波立てば、雄大な山もまったく映らなくなってしまう水面。「寝たきりの状態で、誰かの助けがなければ何もできない。自分は生きていて一体何になるのだろうか」――そんな気持ちと重なり、その風景は鏡に映るもう一人の自分のような象徴として、心に飛び込んできたという。

 時を経て15年後、特別な想いとしてずっと心に焼きついたこの風景を一目見るために、内田さんは意を決して旅に出た。しかし、その願いは叶うことはなかった。湖に至る道のりは急峻な下り坂で、あと一歩というところで断念せざるをえなかったのだ。悔しい気持ちで眺めた遥かその先。そこには、あのブライトホルン峰が立ちはだかっていた。内田さんは新たな決意を胸に秘め帰路に着いた。「いつの日にか、この山をめざしたい」と。

 その日から内田さんのチャレンジが始まった。どうやって、この山に登ればよいのか。相手は富士山よりも高い4,164mの峰だ。毎日のように山に登る方法を考える日々だったという。そして、その夢が現実のものとして動き出すことになったのは、二人のスペシャリストとの出会いだった。

 とあるニュース番組で、内田さんは偶然にロボットスーツのことを耳にした。それが、筑波大学の山海嘉之教授が研究していた「HAL」だった。HALは、脳から筋肉に送られる微弱な生体電気信号をセンシングして、人間の動きをアシストする画期的な装着型ロボットスーツだ。身体機能を拡張したり、増幅できる装置として紹介されていた【写真3】。

 「このスーツで筋力が増強されるのであれば、私の体重を支えてくれる人の負担も数分の1に減るかもしれない」と考えた内田さん。20年以上追い続けてきた夢の実現に向け、2005年7月に山海嘉之教授の研究室のドアをたたいた。「願い出たというよりも、むしろ押し掛けたというほうが正確だった。破天荒で無茶苦茶なお願いだと思われたかもしれない」と、当時の様子を振り返る。山に登るためには、安全で手早く実現できる別の方法もあったからだ。たとえばヘリコプターに乗って途中まで行き、斜面はスノーモービルで移動し、登坂ではウインチを使って引き上げてもらうという方法もあった。

 しかし、内田さんは「登山隊の仲間と一歩一歩、同じ時間と苦しさを共有できる形でチャレンジしたい」と考えていた【写真4】。具体的な計画は何もなかったが、とにかく熱意だけで説得したという。山海教授も夢のあることに応援したいと、最終的に快諾してくれた(別のイベントで、山海教授はこのときの様子を冗談交じりに次のように語っていた。「最初は首を横に振っていたものの、話を聞いているうちに、だんだんと首が斜めに傾いてきて、気づいたら縦に振っていた」)。


【写真3】筑波大学の山海嘉之教授が開発した装着型ロボットスーツ「HAL」。脳から筋肉に送られる微弱な生体電気信号をセンシングして、人間の動きをアシストできる画期的な装置 【写真4】ロボットスーツ「HAL」を装着した友人に背負われ、スイス・イタリア国境にあるブライトホルン峰にチャレンジした内田さん。写真左は、登山隊長を務めたアルピニストの野口健さん

 もうひとりの大きな協力者は、アルピニストの野口健さんだった。内田さんは、もし山海教授が自分の願いを受け入れてくれたら、かねてから尊敬していた野口さんに登山隊長をお願いをしたいと思っていたという。もし何かトラブルがあった場合でも「すべては内田さんの自己責任で行なうことだ」と認めてくれる人に依頼したかったからだ。その旨を手紙に綴って届けると、野口さんも引き受けてくれた。

 野口さんは後日、自身のWebサイトで「当初は困惑したが、日本は障害者が挑戦することに消極的です、と書かれた一文を読んで登山隊長を引き受ける決心をした」と述べている。海外では目や両足が不自由であったり、末期癌におかされた人でも、登山仲間のサポートを得ながら、自身のハンディを乗り越えて、エベレスト登頂を果たしている例も数多くあるそうだ。


「Live every moment like it's the last」に込められたメッセージ

 そして、いよいよ夢を実行にうつす時が来た。2006年8月のことだ。内田さんは、山海教授や野口さんらのグループとは別に、自分と一緒に登山にチャレンジしてくれる地元の仲間11人に声をかけた。友人の中には、進行性筋ジストロフィーを患っていた高校生もいた。出家前の後輩、看護士や医学療法士、フリーのカメラマン、教員など10代から40代まで、職業も異なる世代を越えた仲間たち。彼らは登山経験もあまりない普通の人たちだった。結成された登山隊は「子どもたちへ届け with dreams 登山隊」と名付けられた。

 登山には、もちろん大きな不安もあった。あらゆることが前例のないことばかりだったからだ。登山時に気温が高くなれば、雪山にクレバスもできる。内田さんと友人、さらにロボットスーツを合わせ、150kg以上にもなる重量に雪面が耐えられるかどうか。

 一方、内田さん自身も、呼吸器系や足の血行が悪く、過酷な環境に最後まで体が耐えられるかどうかわからなかった。「しかし、このチャレンジに失敗してしまえば、あとに続く人が希望を失ってしまう。山海教授や野口さんほか、協力してくれたすべての人にも大きな迷惑を掛けてしまうことになる」という思いも強かったという。さまざまなリスクやプレッシャーの中での登山だった。


【写真5】ブライトホルン峰の頂上付近を征した瞬間。登頂にチャレンジした全員の熱い喜びが伝わってくるシーンだ。横断幕にかかれた「Live every moment like it's the last」が、登頂のすべてを表現するメッセージだという
 最後に、内田さんは1枚の写真を示し、「これが我々の登山のすべて」と語った【写真5】。それは、4,000mを超える山頂付近までたどり着いた喜びが凝縮された、まさにその瞬間をとらえたものだった。仲間たちは互いに抱き合い、喜びの涙を流した。内田さんは、普段の目線を離れて、高い目線から4,000mの大パノラマを見たとき、本当に夢を見ているような感じを受けたという。「二十数年前は一生寝たきりだろうと言われ、ベッドで横になっていた。ロボットスーツの力を借りて、ずっと想い焦がれてきた場所に立てたことは、夢の中で自分がさらに夢を見ていなければ実現できないこと」と思っていた。

 一番伝えたかった登山の意義、それは登頂時に広げた横断幕に綴られた言葉「Live every moment like it's the last」に込められていた。「この一瞬一瞬を最後だと思って精一杯生きること」――それは、内田さんが、親友の突然の死や、自分が入院していた時期に汚染された血液製剤で命を落としてしまった仲間を目の当たりにして心に刻んだことだった。内田さんは「明日は何が起こるか分からないということを身をもって体験した」という。しかし、時間が経てば、人はそういった気持ちが徐々に忘れてしまう生き物でもある。「明日も一生懸命頑張ろう」という想いで、日々を精一杯生きていた結果が、この登山につながったのだ。


【写真6】ブライトホルン峰にチャレンジした内田清司さん。単独でのインタービューにも快く応じてくれた
 昨年、内田さんは双子の赤ん坊を授かった。その子たちも山の中腹まで一緒に連れて行ったという。「彼らが将来、悩んだり壁にぶつかった時に、勇気をもってその困難に立ち向い、乗り越えていけるように何かを残したかった。自分の生き様を感じてもらえれば」と内田さんは語る。そして、その願いは内田さんの子息だけでなく、すべての子供たちへのメッセージでもあった。「子どもたちへ届け with dreams 登山隊」という名称も、そんな想いがあって付けたものだという。

 人は皆、生まれながら育った環境も立場も、背負っているものも違う。その先にどのような運命が待ち受けているのか誰にも分からない。当事者でなければ決して分からない苦しみや痛みや悩みがある。ある意味では人は孤独な生き物なのかもしれない。それでも、絶望の暗闇の中から一途に何かをつかもうとする真摯な姿勢は、私たちを大きく鼓舞してくれる「見えない力」になり、心を大きく打つ。

 今回の内田さんの体験談を聞いて、利便性という側面だけでなく、さらにもう一歩踏み込んで、人を支える真のロボットテクノロジーとは何か、それらが私たちにもたらす未来についても、もう一度深く考えなければいけない時期に来ているのではないかと強く感じた。


リハビリや日常生活を支援する機器が目白押し

 特別企画ゾーンでは、「ロボットテクノロジーとリハビリテーション~テクノロジーとつくる福祉の未来~」をテーマに、前述のロボットスーツ・HALなど、人の生活を支えるさまざまなロボットが展示されていた。以下、企画ゾーンのブースほか、ロボット関連で目を引いた内容について紹介する。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のブースには、ロボットスーツHAL、上肢・下肢リハビリロボット、上肢機能支援ロボットやトイレアシストなどがあった。

 神戸ロボット研究所は、NEDOの「リハビリ支援ロボット及び実用化技術の開発プロジェクト」のもと、橋本義肢製作や医療・大学機関などと共同開発した下肢支援ロボットを出展【写真7】。これは、MR流体(Magneto-Rheological Fluid)のブレーキを組み込み、足が不自由な人の歩行訓練を支援するもので、足関節の底背屈を自動的に調整できるという。MR流体は、磁力によって液体から半固体に粘性の特性が変化するため、これをブレーキとして利用する【写真8】。ブレーキに磁力を利用するため、エネルギー消費が少なく、長時間にわたり連続での利用が可能だ。

 また、脳卒中で不自由になった上肢の機能回復訓練を実施できる支援ロボットも紹介されていた【写真9】。こちらは、不自由な片側の腕を、正常な腕と同期して動かすことで訓練が行なえる機構を採用。正常な腕に力センサを取り付けてマスター側とし、その信号にあわせて、スレーブ側のゴム人工筋肉が空気圧縮で動くようになっている。


【写真7】神戸ロボット研究所が、橋本義肢製作や医療・大学機関らと共同で開発した下肢支援ロボット。MR流体を利用したブレーキを組み込み、麻痺のある人の歩行訓練を支援する 【写真8】MR流体は、直径数μmの鉄の粒子を油やシリコン、水などを主成分とする溶液に混ぜてつくる。磁力を掛けると、液体から半固体に粘性の特性が可逆的に変化し、ブレーキとして機能する 【写真9】上肢の機能回復訓練が可能な支援ロボット。正常な腕と同期して不自由な片側の腕を動かすことで、機能回復訓練が行なえる

 セコムは、手の不自由な人が自分で食事を摂れる食事支援ロボット「マイスプーン」のデモを行なっていた【写真10】。これは、専用トレイに入れた食物をロボットハンドが口元まで自動的に運んでくれるもの【動画1】。アーム先端にはスプーンとフォークが付いており、スプーンに口を付けると、フォークがスライドする仕組み。

 デモではジョイスティックによって、上下左右に4分割されたトレイから食物を取り出せる「半自動モード」になっていたが、ボタンを押すだけですべての動作をサポートできる「全自動モード」も用意されている。

 駆動系にはステッピングモータを利用しており、万が一、スプーンなどが人に当たっても、強い力が掛からないようになっており安全だ。この製品は、日本身体障害者団体連合会の食事支援福祉機器助成事業に選ばれ、販売価格の9割が助成されるため4万円程度。福祉ロボットの中でも今後普及が見込まれる製品だ。


【写真10】セコムの食事支援ロボット「マイスプーン」。専用トレイに入れた食物をロボットハンドが口元まで自動的に運んでくれる 【動画1】「マイスプーン」のデモンストレーション。ジョイスティックを利用した「半自動モード」のほか、ボタンを押すだけで動作する「全自動モード」などでも操作できる。ロボットの駆動系にはステッピングモータを採用

 このほかにも、生活に密着した便利な機器もあった。シンテックスは、足の不自由な人でも階段を移動できる直線スライダー式昇降機「タスカル」をデモンストレーションしていた【写真11】。折りたたみ式イスに座って、スムーズに階段を移動できる。

 また、福祉用具の販売・レンタル・住宅改修工事などを行なうホクゼン・アメニティ・サービスは、足の不自由な人をリフティングしてトイレへ導く装置を展示【写真12】。

 ロボットテクノロジーを使った優しい排泄介護支援機器を目指している東陶機器(TOTO)は、ベッドサイドでも用を足せるウォシュレット付きのポータブルトイレなどを出展していた【写真13】。


【写真11】シンテックスの家庭用階段昇降機「タスカル」。足の不自由な人でもラクに階段を移動できて、本当に助かるからタスカルという名称にしたという 【写真12】ホクゼン・アメニティ・サービスのトイレ用リフティング装置。足の不自由な人をリフティングしてトイレへと導く。簡単に設置できるというメリットがある 【写真13】東陶機器(TOTO)のウォシュレット付きポータブルトイレ。ベッドサイドでも用が足せる便利なトイレだ

【写真14】大学の研究室で開発中のロボットがパネルで紹介されていた。広島大学が研究しているサイバネティック・インターフェイス「バイオリモート」が特に目を引いた
 大学のロボット研究も紹介されていた【写真14】。実物はなかったが、東京理科大学のマッスルスーツや、神奈川工科大学のパワーアシストスーツ、東北大学のパートナーロボットなどの内容をパネルで説明。特に興味を引いた内容は、広島大学が研究している「ハイパーヒューマンビジョンのロボットへの応用」と、生体信号で生活を支援するサイバネティック・インターフェイス「バイオリモート」だった。

 ハイパーヒューマンビジョンのロボットへの応用として、必ず勝つジャンケンロボットや、ボールを打ち返すバッティングロボットがパネルとビデオ映像で紹介されていた。これらは、人間の眼では追いきれない高速な動きを瞬時に認識技術によって実現するもの。

 一方、バイオリモートは、指先の細やかな動きや筋肉の収縮、首の傾き、まぶたの動きなどを入力スイッチとして、ロボットやPC、家電製品などを制御する仕組み。前述のロボットスーツ・HALと同様に、生体信号を利用している。

 人によって身体的な特徴が異なるため、コア技術として生体信号の個人差を確率分布として学習する「人間適合アルゴリズム」を開発したという。生体信号の特徴を抽出し、パターン識別してからコマンドを決定する。応用分野として、筋電信号で操作できるクルマイス型ロボットエージェントシステムも研究しているそうだ。

 産総研のアザラシ型ロボット「パロ」や、ビジネスデザイン研究所の「よりそいIFBOT」(イフボット)、「ハローキティロボ」のような、人に癒しを与えるコミュニケーションロボットも展示されていた【写真15】【写真16】【写真17】。いずれも病院や高齢者施設でのパートナーやセラピー用として活躍している。一方、ホビー系ロボットとしては、京商が二足歩行ロボット「マノイ」を出展。陸上競技のデモンストレーションをしていた【写真18】。


【写真15】ビジネスデザイン研究所の「よりそいIFBOT」(イフボット)。老人性うつや認知症の予防などを目的にしたパートナーロボット。なぞなぞや歌、発声練習など、脳のトレーニングが可能だ 【写真16】同じくビジネスデザイン研究所の「ハローキティロボ」。首や腕の動きとLEDで感情を表現するほか会話もでき、病院や高齢者施設でのロボットセラピーとして活躍中

【写真17】産総研のアザラシ型ロボット「パロ」。人に楽しみや安らぎなどの精神的な働きかけをするメンタルコミットロボットだ。世界一の癒しロボットとしてギネス世界記録にも認定。アニマルセラピーとしての効果は海外でも注目されている 【写真18】京商の二足歩行ロボット「マノイ」。陸上競技のデモンストレーションを実施。左側のロボットは、同社の社員が改造したカスタムモデルが目を引く

クルマイスに搭載されたロボットのテクノロジーとは?

 本イベントでは、さまざまなロボットのテクノロジーがクルマイスに利用されていた。やはり、このような応用事例を見ていると、ロボットが活躍すべき場の1つが福祉分野であることを再認識できる。

 ロボットの音声認識技術を応用していたのは産業技術総合研究所だ。産総研は、雑音に強い音声認識技術を利用した電動クルマイスを展示【写真19】。これは、音声で操作できる電動車イスだが、人込みなどの雑音の中でも、ヘッドセットマイクを装着せず肉声を認識できる工夫が凝らされている。

 合計8個のマイクを搭載したアレイをイスの両肘掛に装備し、操縦者の方向から発せられる音声を的確に捕捉する【写真20】。さらに音声認識技術では、細かく音声をサンプリングをすることで、詳細な辞書データを構築。これらのテクノロジーにより、70dB程度の騒音下でも、肉声のみならず、不明瞭な発音での操縦も可能にした。


【写真19】雑音に強い音声認識技術を搭載した、産総研の電動クルマイス。人込みなどの雑音の中でも、ヘッドセットを装着せずに肉声や曖昧な発音で操作できる 【写真20】肘掛部分に装備されているマイクアレイ。両サイドで計8個の小型マイクを内蔵。操縦者の方向から発せられる音声を的確に捕捉する仕組み

 山梨大学発のベンチャー、ロッタ有限会社による、自律制御機能をクルマイスに取り入れたインテリジェント・クルマイス「ひとみ」もユニークだった【写真21】【動画2】。これは、視覚障害者を目的地まで誘導する眼を持つ「ハイテク盲導犬ロボット」。近隣への散歩や買物などに利用できる。

 肘掛に取り付けられた支柱に、ビデオカメラと光サンサが取り付けられており、点字ブロックや縁石、横断歩道などを検知。予め記憶した経路に沿って自動的に走行する。玄関やドアなどにQRコード(2次元バーコード)を貼り付けておけば、現在位置や目的位置も確認できる。

 また、前方に障害物があれば一時停止し、障害物を回避することも可能だ。足元にはバンパーセンサが取り付けられており、壁や路面の段差を検知し、障害物に当たると急停止する。クルマイスの後ろにつかまって歩き、疲れたら乗るような使い方もできる。すでに数多くの老人ホームなどでの実績があるという。


【写真21】山梨大学発のベンチャー、ロッタのインテリジェント・クルマイス「ひとみ」。視覚障害者を目的地まで誘導する眼(ひとみ)を持つハイテク盲導犬ロボットだ 【動画2】クルマイスに、ビデオカメラ、光サンサ、バンパーセンサが取り付けられ、予め記憶した経路に沿って自動的に進む。前方に障害物があれば、一時停止し、障害物を回避することも可能

 玉川大学では、階段を自在に昇降する電動クルマイスを展示【写真22】【写真23】。人を乗せて階段を昇降できる4脚型ロボットなども開発されいるが、こちらのほうが安定して高速に移動できるかもしれない。階段を昇降できる秘密は特殊な駆動系にある。先端に3つの車輪が付いた3角アームがあり、これがチェーンによって回転することで、車輪が押し上げられる仕組み。昇降時には姿勢保持アームが収縮し、イスの角度を保ちながら移動できる【写真24】。

 また関東自動車工業は、プロトタイプながら姿勢を自在に変えられる多機能電動クルマイス「パトラ」を出展していた【写真25】。走行時の標準位置から、本体の形状を昇降アップ&ダウン、スタンドアップ、チルト、リクラインニングまで、用途に合わせて変形できるロボットイスだ【写真26】。

 アローワンは、悪路でもスムーズに移動が可能な電動クルマイス「Ω3C」のデモを実施【写真27】【動画3】。高さ10cm程度の段差をラクラクと乗り越えられ、しかも体にショックもほとんどなく安定走行が可能だ。肘掛部には、走行時に発生する振動を和らげる対策もなされている。


【写真22】階段を自在に昇降できる電動クルマイス。玉川大学が開発しているもの。安定した高速移動が可能だ 【写真23】実際に階段を昇降しているところ(実験中のビデオ映像)。昇降中は、姿勢保持アームが収縮するため、イス本体の角度が保たれている 【写真24】昇降時および姿勢維持の仕組み。昇降時には、先端に3つの車輪が付いた3角アームがチェーンによって回転し、車輪が押し上げられる

【写真25】関東自動車工業の多機能電動クルマイス「パトラ」。プロトタイプだが、本体の形状を変形させ、さまざまな姿勢を取れる。変形ロボットのようだ 【写真26】パトラのバリエーション。昇降アップ&ダウン、スタンドアップ、チルト、リクラインニングなどに対応する

【写真27】アローワンの電動クルマイス「Ω3C」。悪路でもスムーズな移動が可能。回転時には一部の車輪が浮き上がり、小回りが利くようになっている 【動画3】段差を乗り越えるデモ。実際に試乗してみたが、段差を乗り越えても体にショックもほとんどなく安定していた

 栗本鐵工所は、燃料電池を搭載した電動クルマイスとカートを出展していた【写真28】。燃料電池として水素吸蔵合金ボンベ×4本を採用し、時速6kmで連続10時間ほど走行できるという。2次電池も搭載されているハイブリッドタイプなので、たとえメイン電池が切れても、電源を切り替えて走ることが可能だ。

 クルマイスではないが、乗り物としてユニークだったのが、コーヤシステムデザインと職業能力開発総合大学校が開発した「マジックカーペット」【写真29】【動画4】。子供の自立移動を支援する装置で、名称のとおりカーペット状の広いスペース上で座位保持装置を載せて座ったり、あるいは寝転んだりと、いろいろな姿勢で移動できる点が特徴だ。操作インターフェイスも4方向スイッチ、ジョイスティック×2、PS2用無線コントロ-ラから選択できる。決まった動作を自動実行したり、動作時間を制限することも可能だ。

 またプレイエリアでは、電動クローラ体験コーナーが設けられており、子供が搭乗できるライントレースロボットもあった【写真30】【写真31】。


【写真28】水素吸蔵合金を利用した燃料電池を採用した電動クルマイス(左)と電動カート(右)。大阪の栗本鐵工所の製品だ 【写真29】コーヤシステムデザインと職業能力開発総合大学校が開発したユニークな「マジックカーペット」。子供の自立移動を支援する装置 【動画4】広いスペースの上で、いろいろな姿勢で移動できるカーペット状の移動装置だ。これならば、子供だけでなく、クルマイス利用者でも使えるだろう

【写真30】プレイエリアの体験コーナーにあった子供用の電動クローラ。ラインに沿って移動する搭乗型のロボット 【写真31】ライントレース部のアップ。複数の赤外線センサによって、ラインからのズレを計測して位置を制御する仕組み

体の不自由な人でも自動車やバイクを運転できる

 トヨタレンタリース神奈川は、クルマイス仕様車などを出展【写真32】。後ろのドア部にスロープが付いており、クルマイスを容易に取り出せる。また、リモコン操作でセカンドシートを回転させ、車外へシートをスライドダウンさせるサイドリフトアップシート車も展示されていた【写真33】。

 NPO法人アニミは、クルマイス利用者が乗れるサイドカーを展示していた。このサイドカーは側車の後部が倒れてスロープとなり、クルマイスごと乗り込める。さらに側車にクルマイスを固定して、運転席に移動できるようになっている。同法人理事長の服部タロ(一弘)氏は、このサイドカーを利用して、2004年に自動2輪小型免許を取得。クルマイス利用者にとって大きな朗報となった。現在、神奈川県警察の二俣川運転免許試験場では、クルマイス利用者の原付・2輪免許受験も受付ているという【写真34】【写真35】。


【写真32】トヨタレンタリース神奈川など、体の不自由な人でも乗れるクルマイス仕様車の展示も。これらのクルマは実際にレンタルできるという 【写真33】リモコン操作でセカンドシートを回転させ、車外へシートをスライドダウンさせるサイドリフトアップシート車

【写真34】クルマイス利用者が乗れるサイドカー。NPO法人アニミによる展示。側車の後部が倒れてスロープとなり、クルマイスごと乗り込める。クルマイス利用者の自動2輪小型免許取得への道を切り拓いた 【写真35】同法人理事長の服部タロ(一弘)さんの3輪バイク(トライク)。サイドにクルマイスを固定できる。タロさんも内田さんと同様に困難を乗り越え、さまざまなチャレンジをしている方。このバイクで北米や韓国などを巡った

 また、下肢が不自由な人でも運転できるように改造したハンドカートもあった【写真36】。このカートは、ハンドルの奥にあるレバーによってアクセルとブレーキを操作できる。スーパーGT選手権で、ハンドカートを使用するエキシビジョンレースも行なわれているそうだ。

 イベント会場には、来場者が体験して楽しめるアトラクションも数多く見られた。今関商会は、リハビリセンターが開発した釣りマシーン「釣りゾウ君」を出展【写真37】。釣り船に水をため、中にいる魚をうまく釣り上げている来場者もいた。

 このマシーンは、釣竿をジョイスティックで操作でき、電磁シリンダの動作で魚のアタリを取ることが可能だ。魚が針に引っかかったら、ボタンを押すとリールの糸が巻き取られるようになっていた。

 また湘南工科大学は、NHKの教育番組「ピタゴラスイッチ」のように、身近な素材を利用した「からくり装置」のデモを実施していた【写真38】。


【写真36】下肢が不自由な人でも運転できるように改造したハンドカート。スーパーGT選手権で、ハンドカートを使用するエキシビジョンレースも開催 【写真37】イベント会場には、来場者が体験して楽しめるアトラクションも。リハビリセンターが開発した釣りマシーン「釣りゾウ君」は、自動で釣りができる装置。今関商会のブースにて 【写真38】湘南工科大学のからくり装置のデモ。NHKの教育番組ピタゴラスイッチのような作品。見ているだけでも楽しかった

URL
  ヨコハマ・ヒューマン&テクノランド2007
  http://yotec.jp/


( 井上猛雄 )
2007/07/10 00:07

- ページの先頭へ-

Robot Watch ホームページ
Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.