6月21日から23日の3日間、北九州市小倉北区浅野にある西日本総合展示場新館で、ロボット産業マッチングフェア北九州が開催された。主催は北九州ロボットフォーラム。
ロボット産業マッチングフェアは、ロボットを製造している企業、ロボットに応用できる技術を持った企業、それにロボットを研究している団体が集まり、それぞれが持っている技術を「マッチング」させ、新たなロボット産業の創設につなげようとする展示会だ。
ロボット産業マッチングフェアは去年までは単独で開催していたが、今年はナノテクフェアなどの他の工業系展示会と一緒に「西日本機械総合機械展」の一部として開催された。
ロボット産業マッチングフェアとしては20団体ほどがブースを出展。初日にはビジネスディという企業の講演会、2日目にはアカデミックディという大学の講演会も開催された。また3日目にはイーケイジャパン(福岡県太宰府市にある教育用ロボットキットの会社)による子供向けのロボットアーム工作教室が行なわれた。
● パワーアップしたスマートパル
北九州市最大のロボット企業といえば安川電機だが、やはりロボット産業マッチングフェア北九州の最大の目玉は、安川電機が開発したサービスロボット「スマートパル」の新型だった。
今回の発表された新型スマートパルの特徴は、多指ハンドが装着されたことだろう。今までのスマートパルはHRP-2が装着しているような、上下からはさみこむタイプの手を持っていたが、今回のスマートパルは3本の指(指はそれぞれ3自由度で、片手で9自由度)のハンドを装着している。
初日は指を動かしてみせるだけだったが、3日目はペンをつかんで自分の名前を書くパフォーマンスを披露。その能力の高さを見せていた。
初日のビジネスディで、安川電機の松熊研司氏によるスマートパルについての講演があった。スマートパルの活動を紹介すると同時に、安川電機が目指している「RTユニット・RTコンポーネント」というビジネスモデルについての説明がなされた。
「RTユニット・RTコンポーネント」は、ロボットを組み立てる要素を「コンポーネント、ユニット、システム」の三段階に分類。「コンポーネント」はアクチュエーターなどのロボットを構成する各部品のこと。ユニットは部品を組み合わせて「作業を行なう腕」「クローラのような移動するためのユニット」など「ある作業を行なえる単位での機械製品」を意味する。システムはユニットを組み合わせての「ロボット製作」だ。
ロボットを製造する企業はコンポーネントやユニットの開発に携わる必要はない。特定の技術を持った企業がコンポーネントの開発に専念し、別の企業がその部品を使って、特定の作業を行なうことのできるロボットユニットを製造販売する。そしてロボットを製作する企業は、どういうロボットを作るかという目的でユニットを選択し、ロボットを組み立てて販売する。
スマートバルはいくつかのユニットを組み合わせて作られたロボットだが、ユニット単独の使用例として「移動するためのユニット」を使用した、北九州空港で実験が続けられている荷物運搬ロボット「SmartGuide」を上げていた。
ロボットを産業として成立させるためには、この「RTユニット・RTコンポーネント」方式はかなり有力だと思われる。
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新型スマートパル。腕にそれぞれ7自由度を持ち、オムニホイールで移動する
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上半身のアップ。手には3自由度の指が3本ついている
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手のアップ。指先の力を高めるため、爪がついているのがわかる
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スマートバルの手の説明
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スマートパルの動作映像。左手の指を添えて、右手の指でトレイを引き寄せている
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テープカットに参加したスマートパル。開発者いわく「試しに鋏を持たせてみたら持てた」とのことだった
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3日目に行なわれたスマートパルのサイン会(?)
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まず腹部の距離センサーで、テーブルとの位置を計測(テーブルの脚についている板との距離を把握)して接近
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頭部にあるカメラで色紙のある場所を把握。ペン自体は「そこにあるもの」としてプログラムしている
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青い楕円形をターゲットとして、文字を書いていくスマートパル。文字は一文字ずつ動きをプログラミングして、それらをつなげている
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サインが終了すると、色紙をたぐりよせて手に持つ
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安川電機の松熊氏とスマートパルのサイン。ちなみにサインは一番よく書けたもの
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安川電機の双腕ロボット「MOTOMAN-DA20」
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安川電機の案内ロボット「SmartGuide」。スマートパルと同じオムニホイールで移動する
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やはりオムニホイールで動く、北九州空港で実験中のRoboPorter。北九州空港ではいくつかの指定された場所へ荷物を運んでいるようだ
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● 柔らかい指
北九州市立大学国際環境工学部ゴドレール研究室は、ギアを使用しないモーターで動くロボットハンドを出展していた。まだまだ研究開発で、指1本だけのハンドだったが、「柔らかい指」の動きはなかなか興味深いものだった。
「特許申請も考えている」とのことで詳しいことは教えてもらえなかったが、一部をワイヤーで引っ張って指を動かしているらしい(なお、フェア中に一度ワイヤが切れたそうだが、すぐにつなげてデモを続けたとのこと)。
最大の特徴はその「柔らかさ」だろう。動作中であっても、指の背中側から押せば指は簡単に曲がる。また曲げ動作が大きくなればなるほど、その力は小さくなるので、「物理的に握りつぶすことがない」そうだ(動作中にハンドに触ってみたが、確かに痛い感じはしなかった)。強い把持力を出せない欠点はあるが、逆に人の中で使用するロボットハンドとしては安全なものができる。
まだワイヤーの強度に問題があるそうだが、ゴドレール教授は2年後を目処に柔らかい指を使ったロボットハンドを完成させたいとのことだった。
前回取材したアイランドシティでの講演会も含めて感じたことだが、これからのロボットのトレンドは「腕」ではないだろうか。それも今までの産業用ロボットの腕とは違う、人の間で使うことのできる「柔らかい腕」だ。ロボットを工場だけでなく、人間の暮らす社会生活の中で使うためには必要な技術だろう。
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北九州市立大学ゴドレール研究室のロボットフィンガー
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このように背中側から押すと、簡単に曲がる
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丸めた紙を持たせてみたところ
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ロボットフィンガーの関節曲げ角度とトルクのグラフ
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北九州市立大学のゴドレール・イヴァン教授。ロボカップ中型リーグの強豪チーム「Hibikino-Musashi」の監督でもある
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ボールを蹴りまくるHibikino-Musashiのサッカーロボット
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● さまざまなロボット
その他にもマッチングフェアにさまざまなロボットが出展していた。それを写真で紹介する。
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九州工業大学情報工学部大川研究室の屋外サービスロボットOSR-O2(左)とOSR-01(右)
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OSR-01のカメラが認識したペットボトル
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OSR-01のカメラで見た商店街の路面。路面が濡れているかどうかの違いだけで、ペットボトルの認識が難しくなるという
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九州工業大学生命体工学研究科石井研究室のジャンピングジョー・ジュニア
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ジャンピングジョー・ジュニアの前転宙返り
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石井研究室の群体知ロボットによる障害物回避
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福岡県工業技術センターが開発した全方向移動型球体カメラロボット「くるめットくん」(口の真ん中にある穴がピンホールカメラになっている)
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くるめットくんはたった二つの車輪でアクリル製のボールを動かして移動する。操縦にはラジコンのプロポを使用
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くるめットくんの左の車輪。なお、くるめットくんは福岡県久留米市にある福岡県青少年科学館のキャラクターだ
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九州エレクトロニクスシステムの監視ロボット
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新日本非破壊検査のプラント配管検査ロボット。配管内に体を押し付ながら、配管内を移動する
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たまに福岡県内の商店街のイベントにも顔を出す、ロボット振興産業会議のRIDC-01
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今回のテムザックの展示は、番竜とロボリアの定番(?)だけだった
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神戸市から参加したビーエルオートテックのブース
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イーケイジャパンによるロボットアーム工作教室
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● 大暴れ! 九州練習会
ロボット産業マッチングフェアの会場で一番注目されていたのは、九州練習会の二足歩行ロボットだったのかもしれない。
九州練習会はホビー用二足歩行ロボットの愛好会だが、リーダーの水井氏が九州共立大学としてマッチングフェアに参加。同じくメンバーの湯前氏もHotproceedとして九州共立大学のブースに共同参加し、プレイステーション用のコントローラーでロボットを操縦できるボード「TEC-1・2・3」を出展していた。
ヒューマノイドロボットはどこの展示会でも人気はあるが、静態展示だとさほどお客は興味を示さない。それに対して九州共立大学は、ROBO-ONEの決勝トーナメントにも進出した九共大ー疾風をひたすらブースの周りで歩かせ続けていた。通路を小型二足歩行ロボットが歩いている姿に通行人は驚き、足を止めて見入っていた。
3日目には、ロボット工作教室の生徒に「よりロボットに興味を持ってもらいたい」ということで、ロボット工作教室のあいまに、九州練習会の他のメンバーも参加してのロボットパフォーマンスを披露し、注目を集めていた。
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通路を歩き回っていた九共大ー疾風
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プレステのコントローラーで操縦できるようになる制御ボード「TEC-2」を組み込んだクローラー車。高専ロボコンが無線操縦になったため、このTEC-2を使用したいと考えている関係者もいた
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スローインでボールを投げまくって、周囲を驚かせていたAutomoNico
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工作教室のパフォーマンスに集結した九州練習会のロボット(下にいる白いロボットは九産大のしろがねKSR)
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ミニバトル大会も行なわれた(写真はAutomoNico VS 成龍)
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パフォーマンスの後、マッチングフェア最大の珍事が発生。なんと九州練習会のロボットと、福岡県工業技術センターの全方向移動ロボット「くるめットくん」がなりゆきで対決することになってしまったのだ。
最初はくるめットくんを押し返せれば勝ちというルールで始まったが、球体のくるめットくんは横方向にすべってしまい、うまく押せない。仕方なく、くるめットくんが九州練習会のブロックを突破して向こうまでたどりつければ勝ちというルールに変更しての対決となったが、球体のロボットは転倒して操縦不能になることはないので、くるめットくんが余裕で勝利した。
全く設計コンセプトの違うロボット同士がゲームで対決するとは、さすがに「マッチングフェア」ならではの珍事といえるだろう。
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「くるめット、俺たち三枚の壁は破れないぜ!」(右端のロボットはGパワーローダーネクスト)
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破られました(笑)
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今回のロボット産業マッチングフェアは、他の工業系展示会との合同開催となり。また産官学の人たちが二足歩行ロボットを見て関心を示していた。今回はまさしく「マッチングフェア」に相応しいイベントだったと思う。
■URL
北九州ロボットフォーラム
http://robotics.ksrp.or.jp/robotforum/
ロボット産業マッチングフェア北九州
http://robotics.ksrp.or.jp/robotforum/2007matting_fair/2007fair.files/slide0001.htm
【2006年2月23日】ロボット・関連産業マッチングフェア2006開催(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0223/robofair.htm
( 大林憲司 )
2007/06/28 14:39
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