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「日本SGI ソリューション・キュービック・フォーラム2008」レポート
~ロボット・フォーラム編


【写真1】日本SGIの執行役員 営業統括本部 戦略事業推進本部長、大塚寛氏
 日本SGIは6月14日と15日の両日、恵比寿のウェスティンホテル東京において、「日本SGI ソリューション・キュービック・フォーラム2008」を開催した。ここでは、2日目に催された「ロボット・フォーラム」の内容について報告する。

 日本SGIは、2000年よりロボット事業に参入。ロボットマーケットをIT分野の視点から見つめて、事業を推進してきた。現在、同社が考えているロボット事業の戦略とは一体どのようなものであろうか? 基調講演では、大塚寛氏(執行役員 営業統括本部 戦略事業推進本部長)がトップに登場し、この点について説明した【写真1】。

 同社はすべての事業を進める際に、「発想力」「先進性」「オープン性」という3つの点に注力しているという。これはロボット事業においても同様だ。大塚氏は「発想力ではインテリジェンス、先進性ではモビリティ、オープン性ではプラットフォームをターゲットとし、ロボット事業を組み上げようとしている」と語った。

 現在、事業戦略推進本部にはユーザーインターフェイス事業、ロボット事業、Segway事業の3つの柱がある。SGIといえば、3DやCGの文化を担ってきた企業として有名であった。CUIからGUIへの変革期においても、インターフェイスの確立に積極的に尽力してきた。「そういう意味では、我々がインテリジェンスを備えたユーザーインターフェイス事業を進めることは、理にかなっている」(大塚氏)という。

 ユーザーインターフェイス事業部で取り組んでいる事業の1つに、ロボットの要素技術として重要な「感情認識」と「音声認識」を利用したテクノロジーがある。これらのテクノロジーを用いて、コンサルティングビジネスを推進しているところだ。


 同社が狙う次世代インテリジェント・インターフェイスは、GUIから変革を起こす「阿吽の呼吸」のコミュニケーションを実現するもの。ロボットと人の距離感が縮まらなければ、親しみやすが生まれてこないからだ。まず感情認識の技術によって、人とロボットの接点を縮めるアプローチを考えている【写真2】。

 感情認識技術(Emotion Recognition)は、人の声からコンピュータが6つの感情(喜び、怒り、哀しみ、平常、笑い、興奮)をリアルタイムに認識するものだ。大きな特徴は、音声認識ではないため、辞書を持たずエンジンが軽い点だ。独自の関数処理によってパラメータを抽出し、その遷移状態の群を変化として捉えて、感情を認識する仕組み。

 大塚氏は、このエンジンを利用して、感情を可視化する「EmotionViewer for ST Emotion」のデモを実施した。これは、前述の6つの感情を、タイムラインに沿って色で表わすインターフェイスだ【写真3】【動画1】。「最新バージョンでは、感情を色で表すのみならず、それぞれの感情の強さを10段階のレベルで表現できるようになった」(大塚氏)という。

 さらに、この感情認識に音声認識を組み合わせることで、たとえば元気のある「おはよう」と、悲しみの込められた「おはよう」というように、同じ言葉でも微妙なニュアンスを区別できる【写真4】。人間とコンピュータのコミュニケーションが、さらに自然で柔軟性に富んだものへと進化するのだ。同社のインテリジェント・インターフェイスによって、将来のコンピュータは、「SUI」(Sensiblity User Interface)を搭載した感性を持つものに変貌を遂げるという。

 同社では、最終的にはこの技術をロボットのインターフェイスに取り込みたいと考えている。とはいえ、ロボット産業がまだ発展途上段階であるため、他分野での転用も考えている。たとえば、コールセンター事業では、ユーザーやオペレータの発声から感情をモニタリングするニーズがあり、この技術が大きな反響を呼んでいるそうだ【写真5】。

 また、コンシューマ向けには、ニンテンドーDS用のエンタテインメントソフト「ココロスキャン」というタイトルが、8月に発売される予定だ。


【写真2】感情認識(Emotion Recognition)の技術を応用して、インテリジェントなインターフェイスを開発。辞書機能ではなく、リズムからの感情認識を利用するため、エンジンは軽い 【写真3】「EmotionViewer for ST Emotion」のデモ。感情認識技術によって、タイムラインに沿って色で6つの感情を表わす 【動画1】「EmotionViewer for ST Emotion」のデモ。サンプルの音声の感情レベルを時系列で分析しているところ

【写真4】感情認識と音声認識を組み合わせると、同じ言葉でも微妙なニュアンスを区別できるようになる 【写真5】ST Emotionの利用実績。特にコールセンター事業において、音声で感情をモニタリングするニーズがあるという

オープンな新しいロボットプラットフォームでロボット開発を後押

 次にモビリティ分野では、現在、台車型ロボットやSegwayを中心に展開している。昨年10月にはSegwayの国内総販売代理店となり、すでに100台以上の販売実績があるという【写真6】。だが、同社の狙いはSegwayの拡販だけではない。「Segwayのロボットプットフォームを展開していきたい」と大塚氏は語る。つまり、もう1つのSegwayのプロダクトライン「RMPシリーズ」にも着目しているのだ【写真7】【写真8】。

 2輪の倒立型ロボットにおいて、同社のインターフェイス技術を加えることで、エンハンス(拡張)されたロボットを簡単に製作できるからだ。たとえば、このロボットプラットフォームにビジョンセンサを載せて、対象物に追従するロボットもつくれる。

 RMPシリーズは倒立振子の制御機構を備えた2輪駆動タイプのほかに、4輪駆動タイプもある。こちらは、2輪の倒立型ロボットが前後に2つ装備されているイメージだ。もちろんジャイロセンサも搭載されているため、前後関係の姿勢を制御して、階段などの急斜面や悪路でもスムーズに移動できる【動画2】。


【写真6】Segwayが利用されると考えられる分野。現在は警備・セキュリティ分野の需要が進んでいるが、工場・倉庫などのロジスティック分野や、アミューズメント分野も期待できる 【写真7】Segwayのもう1つの製品ライン「RMPシリーズ」。こちらは乗り物ではなく、ロボットという位置づけだ

【写真8】展示ブースで紹介されていたRMP。正面から見たところ。倒立振子の制御機構によって自立している 【動画2】4輪駆動タイプのRMP。ジャイロセンサが搭載され、階段などの急斜面や悪路でも安定し、優れた走破性能を発揮

 さらにオープン性という観点では、誰でも利用できる共通のロボットプットフォームが重要だ。大学関係者の間でも「レスキューロボットを開発したいが、駆動系のハード開発に時間を取られて、そのほかの研究ができない」という声もあった。そのため、同社では、移動用ロボットプラットフォーム「Blackship」を電気通信大学と共同開発した【写真9】【写真10】【写真11】。さらにハードだけではなく、ミドルウェアもオープン化して、センサ類などを簡単に実装できるようにしたいという【写真12】。

 たとえば、前述のBlackshipにレーザーレンジセンサとノートPCを載せて、自律的に屋内を移動して地図を作成する応用事例もある【動画3】。地図は2次元データだが、実は3次元でのマッピング技術も研究中だ【写真13】。また、ロボットがオフィスや家庭などで移動する場合には、位置データをマッピングしたあとに、実際にどのように動けるのか、事前シミュレーションも必要だ。そのため3Dのシミュレータも開発している【写真14】。

 また、人とのコミュニュケーションをとるロボットとして「Posy」も展開。こちらは「2030年までに、パリのオペラ座でバレリーナと踊ることが最終ゴール」(大塚氏)という。バレリーナは指先まで美を表現するため、微に細にわたる指の動きをロボットによってチャレンジしていきたい意向だ。【写真15】。

 さらに、2年前に発表したマネキン型ロボット「Palette」は量産モデルができあがり、いよいよ今年から本格的な展開を図るそうだ。「まだ正式リリースはされていないが、間違いなく本年中に発表する」(大塚氏)。モーションキャプチャによって専属モデルの動きを取り込んで再現するマネキンロボットを、百貨店・ブランドショップなどに売り込んでいく構えだ。


【写真9】展示ブースで紹介されていた移動用ロボットプラットフォーム「Blackship」の事例その1。全景。後ろにはパナソニックのタフブックを搭載。ロボットに搭載しても壊れない、耐振性・対衝撃性に優れた頑強なつくり 【写真10】展示ブースで紹介されていた移動用ロボットプラットフォーム「Blackship」の事例その2。前面にはカメラとレーザーレンジセンサを搭載している 【写真11】展示ブースで紹介されていた移動用ロボットプラットフォーム「Blackship」の事例その3。駆動系はマクソンのギヤドDCモータを採用。エンコーダも付いている

【写真12】センサ類などを簡単に実装できるように、インターフェイスのオープン化を進めているところだ。搭載されるセンサはカメラ、距離センサ、熱センサ、姿勢センサなどを想定 【動画3】Blackshipを応用したマッピング作成の事例。自律的に屋内を移動して、地図を作成しているところ 【写真13】Blackshipの応用事例。レーザーレンジセンサとノートPCを搭載。TOF法によって、物体までの距離を計測する。センサを左右に高速に振って面状のデータを得る

【写真14】3Dのシミュレータも開発。実際の走行前に障害物などをシミュレートすることで、うまく走れるかどうか検証 【写真15】人とのコミュニケーションをとれるロボットも開発している。マネキン型ロボット「Palette」は量産モデルができあがり、いよいよ今年から本格的な展開を図るという

ロボット産業のクラスターを形成し、国際競争力を強化

【写真16】経済産業省 中部経済産業局 ロボット技術推進チームリーダー、総務企画部 企画課長の佐々木昌子氏
 次に経済産業省の佐々木昌子氏(中部経済産業局 ロボット技術推進チームリーダー、総務企画部 企画課長)が、ロボット技術クラスター形成の取り組みについて紹介した【写真16】。

 人口減少や少子高齢化、国際競争の激化など、いま日本が抱えている問題は大きい。このような問題を解決するためには、質・量ともに不足する労働力を補い、従来の製造業の集積を維持・再構築することで、世界最高の生産効率を維持していく必要がある。日本が「世界のイノベーションセンター」として活躍していくためには、さまざまなテクノロジーが集まったロボット技術(RT)が大きな役割を果たすと同省では見ている。

 ロボット専業でない産業分野でも、数多くロボット要素技術が取り入れらている。大企業だけでなく、中堅・小企業やベンチャーが独自技術を有していることも多い【写真17】【写真18】。これまでも日本の産業用ロボットは世界の40%(2005年調査)を占め、自動車、電機・電子などの製造現場で、省力化や生産効率の向上に貢献してきた。


【写真17】総合技術としてのロボット関連技術。ロボットの要素技術は多岐にわたるが、大手企業だけでなく、中堅・小企業やベンチャーが独自技術を有していることも多い 【写真18】日本国内企業によるロボット関連技術の特許取得状況。ロボット専業メーカーだけでなく、自動車メーカーや情報通信、精密機器といったメーカーなども特許が多い

 その一方で、国内では製造業に比べて、サービス業の労働生産性が低く、他国と比べても伸び悩んでいる。しかし、単純作業の繰り返しや労働環境が過激なサービスの需要は大きい。したがって、このような分野で、サービス提供のプロセスを分析し、ロボットで代替できる部分を拡げていくことで、生産性が向上できると期待されている。

 とはいえ、サービスロボット分野は、何かができるという段階から、何に使えるかという段階にレベルアップしていなければならない。このような背景を踏まえて、経済産業省では、ロボットを活用したビジネスの振興、実用的なロボット開発の推進、人がロボットをうまく使える社会環境づくりなど、新しい政策を進めている。

 また日本全体の取り組みだけではなく、広域経済圏の視点からのアプローチも必要だ。たとえば、同省の中部経済産業局では、産業用ロボットの製造業が多く集まる「グレーター・ナゴヤ周辺」において、「東海ものづくり創生プロジェクト」を展開している。このプロジェクトにおいて、ロボット技術をテーマにしたクラスター形成を推進しているところだ【写真19】。

 「ロボット技術を有する企業、サービス業など、ロボットの活用現場に関わる企業や関係者がそれぞれの強みを持ち合って、新しいロボットビジネスを創出していく出会いの場となるものだ」(佐々木氏)という。新しいロボットビジネスをサービス業まで波及させるには、製造業だけでなく、異業種との交流が重要になるからだ。

 さらに異業種との出会いだけでなく、交流の場から、ビジネスのアイデアや手法を理解した上で、それを実現していくインテグレータも大切だ。そこで「場づくり」と「人づくり」の両輪でクラスター形成を進めているそうだ。

 佐々木氏は、ロボット技術を利用して新しいビジネスを創出する可能性について説明し、グレータ・ナゴヤにおけるロボット開発やサービスの具体例を示した。昨年のロボット大賞で優秀賞を受賞した「人の能力を超えた高速高信頼性検査ロボット」(デンソー)、似顔絵を描くロボット(ユニメックと中京大学の共同開発)、内視鏡手術支援ロボットアーム(アスカと岐阜大学の共同開発)、昨年オープンした名古屋のロボットミュージアムなど、さまざまな取り組みを挙げた【写真20】。

 このような既存のロボット技術やサービスを実際のビジネスに近づけるために、今年の初めに「ビジネスマッチング・フォーラム」を開催。商談も進み、継続的な場をつくって欲しいという要望も出たという。

 さらに、ロボット技術を活用したイノベーションを次々と生み出し、国際競争力を高めるために「ロボット技術(IRT)クラスターロボットビジネスフォーラム」も発足。「2025年には、グレータ・ナゴヤが世界のロボット産業の集積地になることを目指したい」(佐々木)とした。なお、中部経済産業局では、このフォーラムに関連した本格的なイベントを9月11日、12日の両日に名古屋のミッドランドスクエアで開催する予定だ【写真21】。


【写真19】ロボット技術(IRT)によるクラスターの形成に向けた取り組み。異業種との交流といった「場づくり」と「人づくり」の両輪でクラスター形成を進めていく 【写真20】グレータ・ナゴヤにおけるロボット開発やサービスの具体例。愛知県は産業用ロボットの生産台数(12.3%)が国内で一番の地域。優れた技術も多い 【写真21】「ロボット技術(IRT)クラスターロボットビジネスフォーラム」を発足し、9月には大規模なイベントを開催する予定だ

無形ロボットを開発できる専門コンサルティングファームを目指す

【写真22】ジャイロウォーク代表取締役社長の石古暢良氏。ロボットミュージアム設立の立役者
 3番目に登場したのは、ジャイロウォークの石古暢良氏(代表取締役社長)【写真22】。同氏は名古屋のロボットミュージアムを設立した立役者である。ロボットミュージアムの運営に携わり、さまざまな企画展を実施している。

 まず石古氏は、「ロボットに夢と希望をのせて、人間と共生できる豊かな社会を創造したい。さらに我々のライフスタイルに近づける次世代ロボットマーケットを作っていきたい」と、企業理念を述べた。では、同社が考える次世代ロボットビジネスとは一体どのようなものだろう? それは「人に代わって、あるいは協調しながら、人にベネフィットを提供するシステムだ」(石古氏)という。

 同社では、有形ロボットと、無形ロボットに分けてビジネスを考えている【写真23】。前者は、ロボットを組み込んで新たなサービスプロセスや社会システムを提供するもの。一方、後者はロボットの要素技術を再構築して、統合システムを開発・提供するサービスビジネスだ。同社はロボットミュージアに代表されるように、サービス(コンテンツ)プロバイダーとしてビジネスを展開しているところだ。だが、2010年を目標に「形のないロボットを開発できるロボット専門コンサルティングファーム(商社)にしたい」(石古氏)と語る。

 現在、同社の事業基軸となるものは、マーケティング販売、メディアコンテンツ、ロボット教育普及、IRT推進という4つの事業だ【写真24】。

 マーケティング販売では、ロボットの小売販売の拠点を整備。これにはロボットミュージアム内にあるロボット未来デパートメントや、ロボカフェ・サイエンス(香川)のほか、ロボットブックカフェとしてリニューアルするロボカフェ(大阪)、8月上旬にオープンするロボッチャ(福岡)なども含まれている【写真25】。


【写真23】ジャイロウォークが考える次世代ロボットビジネス。有形ロボットと無形ロボットのビジネスがある。「将来は、形のないロボットを開発できるロボット専門コンサルティングファーム(商社)になりたい」という 【写真24】現在のジャイロウォークの事業機軸。マーケティング販売、メディアコンテンツ、ロボット教育普及、IRT推進という4つの柱がある 【写真25】マーケティング販売の主な内容。現在、ロボットの小売販売の拠点を整備しているところだ

 このほか、海外も視野に入れたWeb販売、Segwayやパロ、教育教材のB2B販売なども展開【写真26】。B2B分野ではSegwayのような新製品を分析して、ビジネスモデルを立案し、収益を生むような提案も積極的に行なっている。

 メディアコンテンツ事業については、前述のロボットミュージアムを横展開したり、各種のイベントを開催している。ロボットミュージアムは、ゴールデンウィークの来場者数が1日で1万人を記録し、大盛況だったそうだ【写真27】。石古氏は、「実際にミュージアムをオープンして感じた点は、産業振興だけでなく、観光振興の重要性だ。来場者はファミリーだけでなく、高齢者の方が8%、外国人が12%もいることに驚いた」という。

 そこで、ロボットミュージアム事業の横展開として、ロボットカルチャーミュージアム「ROBOTHINK」にて企画展を立案したり、期間限定でロボビル大阪プロジェクトなども計画中だ。少し先の話だが、2011年にオープンする大阪北ヤードでのロボット施設や、韓国ロボットランドへのアドバイザリー参画、米国ケネディジャパンのプロジェクトなども進行中だという【写真28】。

 ロボット教育普及事業では、ワークショップや独自のカリキュラム、教育キットの開発などを、NPO法人とのタイアップで実現していく。また、IRT推進事業では、大学や研究室の優れた技術や知財をビジネスへ転換できるように、各企業とのアライアンスを組んで展開していく方針だ。


【写真26】Web販売事業とB2B販売事業なども展開。B2B販売では、Segwayのような新製品を分析して、ビジネスモデルを立案し、収益を生むような提案も積極的に行なう 【写真27】ロボットミュージアムの概要。日本の代表的なロボット博物館だ 【写真28】ジャイロウォークのメディアコンテンツ事業。ロボットミュージアムを横展開したり、各種の企画、プロジェクトを推進中

医療福祉分野での許認可も。HAL実用化へ向けた体制も整備

【写真29】筑波大学大学院システム情報工学研究科教授兼CYBERDYNE CEOの山海嘉之教授。ユニークな語り口で来場者を沸かせた
 最後の講演では、筑波大学大学院の山海嘉之教授(システム情報工学研究科教授、CYBERDYNE CEO)が、話題のロボットスーツ「HAL」(Hybrid Assistive Limb)」の実用化へ向けた試みについて紹介した【写真29】。

 RobotWatchでも以前よりHALについては詳細なレポートがなされているので、ご存知の方も多いと思うが、HALは人間の身体機能を増幅・拡張する装着型ロボットスーツだ【写真30】。なぜHALが注目を浴びているのか。それは、いままでのパワーアシストロボットとは一線を画しているからだ。従来のパワーアシストは、人間の筋肉の動きをトリガーとして駆動させるものだった。

 ところが、HALの場合は、脳から筋肉に送られる微弱な生体電気信号をセンシングして、筋肉が動き出すよりも前に人間の動きをアシストできる画期的なテクノロジーを取り入れている【写真31】。脳から出た電気信号を基にロボットを動かし、さらに筋肉が動かされることによって、人の感覚神経から信号が脳に戻る。脳→ロボット→脳という信号ループが生成されることによって、「真の意味で人の意思によるロボット動作が可能になった」(山海教授)という。


【写真30】人間の身体機能を増幅・拡張する装着型ロボットスーツ「HAL」 【写真31】脳から筋肉に送られる微弱な生体電気信号をセンシングして、人間の思いどおりに動作できる画期的な仕組み

 パワーアシストをする際にも、人間の一連の運動パターンの特徴を抽出し、最小単位のフレーズに分解して、モーションディクショナリーとしてデータベース化している。HALでは、このフレーズを再構成し、パワーアシストによる動作を実現【写真33】。また、HALの関節は、重力モーメントや粘性摩擦を自由に変えることができる。HALを装着する際に違和感をなくす工夫もなされている。

 「いろいろな研究をしているうちに、摩擦をなくてスムーズに動かせれば良いというものではないことがわかった。動きが良すぎると自分でブレーキをかけて逆に負荷が掛かってしまう」(山海教授)という。

 1992年よりHALの基礎研究が開始されたが、「完成に至るまでには数え切れない苦労があった」と山海教授は語る【写真35】。漫画の世界ならサイボーグ型ロボットは簡単に実現できるが、実際に皮膚の内側に何かテクノロジーを入れようとすると、とたんに生体防御システムによってすべてが排除されてしまう。そのため、このような技術を実現するためには、皮膚に密着させるまでがギリギリの限界であったという。

 さらに技術的な側面だけでなく、心理的な影響、感性や脳・生理学などさまざまな問題もある【写真36】。人間・ロボット・情報という分野の難関をほぼクリアして、やっとできあがったのがHALなのだ。


【写真33】フレーズシーケンスによるパワーアシストの仕組み。人間の一連の運動パターンの特徴を抽出して最小単位のフレーズに分解し、それを再構成することで、パワーアシストによる動作を実現 【写真35】HALの研究の歩み。1992年よりHALの基礎研究が開始され、10年以上の歳月を経て完成にたどり着いた 【写真36】HALのテクノロジーを支えるバックグラウンドには、ロボット技術や情報技術だけでなく、医学や福祉など人間に関わる領域も多く含まれている

 現在、このHALは医療・福祉分野や重作業支援、エンターテインメント、レスキュー活動での活用が考えられている【写真37】。特に有用と思われるのが医療・福祉分野だ。次世代のリハビリテーション、自立動作、介護動作などのサポート応用範囲も広い。

 実際に山海教授は、脊椎損傷や筋ジストロフィーなどによって体が不自由になった人たちにHALを付けてもらい、自分の意思で足を動かせることを確認した。HALの最新バージョンでは、稼働範囲をさらに拡張し、正座までできるようになったそうだ【写真40】。

 また、ポリオ(小児麻痺)によって、脊髄前角の運動神経細胞が破壊され、手足の運動機能に障害を持つ患者に対しても、HALを適用したという。この人は46年間、足を動かせなかったが、HALによって自由に足を曲げられるようになった。

 ここで、とても興味深い点は足からの運動信号が脳にフィードバックされ、「脳のリハビリテーション」にもつながるということだ。かつて競馬の旗手が落馬して植物人間になってしまったとき、全身の体をマッサージすることで、脳を活性化させ奇跡的に回復したという話を聞いたことがある。HALによるリハビリテーションは、このような脳神経系のリハビリにも役立つものと考えられる。

 現在、HALのランンナップには、各関節用、上半身用、下半身用、全身用がある。これらを支えるテクノロジーのバックグラウンドには、ロボット技術や情報技術だけでなく、医学や福祉など人間に関わる領域も多く含まれている。山海教授は「既存技術の延長線としてのロボティクスだけでは、フロンティア領域を拓くことは難しい。イノベイティブなチャレンジには、さまざまな技術が良いスパイラルで回り続けることが重要」とした。

 HALの実用化は、産官学民ベンチャーの新連携体制によって着々と推進中だ。基礎技術については、筑波大学、および同大ベンチャーのCYBERDYNEによって足固めをしている。今年の8月から筑波地区に研究開発センターと生産施設の建設がスタートする予定。また、行政面での整備も進んでいる。この秋には医療福祉分野の許認可が下りるそうだ。さらに秋には、欧州への展開も図り、拠点を設けるそうだ。いよいよHAL実用化へ向けた動きが加速しそうだ。


【写真37】医療福祉分野での活用事例。特に体が不自由だった人にとっては、自立動作支援で大きな期待がふくらんでいる 【写真40】HALの最新バージョンでは、稼働範囲をさらに拡張し、正座までできるという

感性を取り込むインターフェイス関連ソリューションも展示

 また、本イベントでは特設ブースもあり、さまざまな製品が展示されていた【写真44】。ここでは展示品の中からロボットを支える関連製品や要素技術について紹介しよう。

 最も目を引いたのが、日本SGIが進めている感性を取り込むためのインターフェイス関連ソリューションだ。感性認識技術開発ソフトウェアキット「ST Emotion SDK」を応用した事例としては、NECデザインが開発した「言花」(KOTOHANA)【写真45】や「dew」【写真46】が興味深かった。

 前者は、花のようなオブジェ(端末)がセットになっており、ユーザーからの感情を認識して信号を送信する。もう一方のオブジェに信号が伝わると、その感情を花の色で変化させて表現するもの。どちらかというとメディアアートに近い製品という印象だ。

 後者は、言花のコンセプトを応用したもの。喜び・怒り・哀しみ・平常心・興奮の5つの感情を10段階で認識し、喜びと興奮の度合いが振り切れると、カメラの映像をサーバに記録して共有できるシステム。つまり、感情と映像が紐付けられ、楽しくて記憶に残るような映像などを選択して保存できるシステムだ。瞬間なシャッターチャンスを逃さず、さらにまわりの状況に合わせて取り込めるので、記憶のアルバムにもなるだろう。


【写真44】イベント会場に設けられた展示ブース。SGIの技術を応用したさまざまな製品やソリューションが紹介されていた 【写真45】「ST Emotion SDK」を応用した事例その1。NECデザインの「言花」(KOTOHANA)は、ユーザーからの感情を認識して、それを花の色で変化させて表現する 【写真46】「ST Emotion SDK」を応用した事例その2。NECデザインの「dew」は、5つの感情を10段階で認識し、カメラの映像を感情にあわせてサーバに記録して共有できるシステム

 また、アドバンスト・メディアでは、同社の音声認識技術「AmiVoice」の応用事例を紹介していた【写真47】。2005年の愛知万博で出展されていた、4カ国語(英語、中国語、韓国語、日本語)対応の受付案内ロボット「アクトロイド」の音声認識エンジンは、同社が開発したものだ。

 今回の展示では携帯電話(スマートフォン)から、音声によって地図上の場所を検索して表示するデモが行なわれていた。男女を問わずどんな声でも、話し言葉でも認識できる。ただし、スマートフォンでの利用の場合は、辞書機能をサーバ側に持たせて音声認識の処理を行ない、結果を返すという。

 このほか、ロボットとは直接関係ないが、日本SGIのリアルタイム4次元人体モデル「Virtual Animation」の精緻な画像には驚かされた【写真48】。この人体モデルは骨格系、内臓系、血管系など421のパーツから構成されているが、実際に人体をMRIでスキャンしてデータを取っているため本当にリアルだ。心臓も拍動し、内部の動態も観察できる。ユーザーインターフェイスも簡単にできており、画面をドラッグすると、人体モデルが回転する。博物館や大学の研究機関などでの利用を想定しているという。


【写真47】アドバンスト・メディアが開発した音声認識技術「AmiVoice」の応用事例。携帯電話(スマートフォン)から、音声によって地図上の場所を検索して表示する 【写真48】日本SGIのリアルタイム4次元人体モデル「Virtual Animation」。MRIでスキャンした人体データをベースにしているため、本当に精緻な画像だ

URL
  日本SGI
  http://www.sgi.co.jp/

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( 井上猛雄 )
2007/06/20 00:00

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