● ACサーボモータを利用した各種ロボットや搬送システムのデモ
幕張メッセにおいて4月18日から4月20日までの3日間、エレクトロニクス・メカトロニクスの要素技術が一堂に集まった「TECHO-FRONTIER 2007」が開催された。このイベントでは、モータ、ボードコンピュータ、電源、熱対策、ノイズ対策などエレクトロニクス・メカトロニクスに関連する11個の展示会やシンポジウムが同時に開催され、合計781社の企業が参加した。
本レポートでは、ロボットに関わりのある「第25回モータ技術展」「第16回モーション・エンジニアリング展」「リニアモーションと応用技術」など、主に7・8ホールでの展示会を中心に紹介する【写真1】【写真2】。
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【写真1】幕張メッセにおいて4月20日まで開催されていた「TECHO-FRONTIER 2007」。モータ、ボードコンピュータ、電源、熱対策、ノイズ対策など、エレクトロニクス・メカトロニクスに関連する11個の展示会やシンポジウムが同時に開催された
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【写真2】本レポートでは、主として7・8ホールで開かれていた「第25回モータ技術展」「第16回モーション・エンジニアリング展」「リニアモーションと応用技術」などについて紹介する
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ロボット要素技術としては、センサ、モータ・ドライバ・コントローラなどの駆動制御系、ギヤ・ボールネジ・ベアリングなどの機械要素部品が数多く展示されていた。モータ・ドライバ関連のメーカーでは、安川電機、日本サーボ、山洋電気、マクソンジャパン、三菱電機、富士電機、日機電装、オリエンタルモーター、マブチモーター、多摩川精機など、国内の代表的な産業用サーボモータメーカーが集結していた。
安川電機の目玉製品は、ACサーボドライブ・Σ‐VシリーズとACサーボモータをパックにした製品群【写真3】。Σ‐Vシリーズは、高応答のアンプによって、整定時間を4ms以下に短縮できる性能を備えている。またACサーボモータには約100万pprの分解能を持つエンコーダを標準装備。稼働までの時間が掛からない点も本製品のウリだ。取り付け・配線から、基本パラメータの設定、試運転までのセットアップにおいて、一度に配線を確認できる機能や、ウィザード形式の「かんたんパラメータ設定機能」が用意されている。また、サーボモータの調整で要となるゲインやフィルタの調整も整定時間のレベルに合わせて自動チューニングが可能。簡単に実運転できる工夫がなされている。
同社のブースでは、話題の双腕ロボット「MOTOMAN-DA20」のデモンストレーションを実演【写真4】【動画1】。こちらは人の上半身をイメージして開発されたもので、本体の回転機構を備え、各腕は6つの関節がある。それぞれで20kg(両腕で40kg)の重量物を持ち上げられる。
また、同社のACサーボモータの安定性と制御性を実証するデモもあった。こちらは、ACサーボモータに取り付けたエンコーダのパルスの揺らぎから振動を検出して、安定制御させるしくみ。同社のモータと従来のモータで駆動させたテーブルにカメラを設置して、文字を読み取る実験だ【写真5】。同社のACサーボモータではカメラの振動が少なく、安定した制御が行なわれてることがよく分かるものだった【動画2】。
これ以外にも、2つのリニアスライダーを対向させ、同期を取りながらモータを回転させるデモも面白かった。それぞれのモータに付いているフランジ部にシャープペンシルの芯をつけて連結させ、モータを回転させながらXY方向に移動を繰り返しても、同期が取れているため芯が折れることはなかった【動画3】。
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【写真3】先ごろ発売されたばかりの安川電機の目玉製品、ACサーボドライブ・Σ‐Vシリーズ。高性能に加え、稼働までが簡単に行なえる点がポイントだという
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【写真4】双腕ロボット「MOTOMAN-DA20」。各腕は6つの関節で、それぞれで20kg(両腕で40kg)の重量物を持ち上げられる
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【動画1】話題の双腕ロボット「MOTOMAN-DA20」のデモンストレーション。同社の小型インバータで制御
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【写真5】ACサーボモータに取り付けたエンコーダのパルスの揺らぎから振動を検出して、安定制御させるデモ
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【動画2】リニアガイドがスライドしながらカメラで文字を映す。同社のモータでは振動が抑えられており、動画後半のモニターではっきり文字が読み取れることが分かる
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【動画3】ACサーボモータの同期実験デモ。対向する2つのモータに取り付けられたシャープペンシルの芯が折れずに回転・移動している
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マクソンジャパンでは、同社のブラシレスDCサーボモータやコアレスモータのほか、PLC(Programmable Logic Controller)機能を追加した新製品の位置決めドライバ「EPOS P」などを出展【写真6】。同社のモータ/ドライバ類は、千葉工業大学、東京大学、東北大学、JAXAなど、研究開発機関で多くの実績がある。実際に、床下点検ロボット【写真7】や、火星探索ロボットの模型もブースで展示されていた。また日立プラントテクノロジーのパワーアシスト型チェーンブロック(吊搬装置)で実装されているモータの紹介もあった【写真8】。こちらの装置は1.5tまで吊搬できる仕様になっている。
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【写真6】マクソンジャパンのブースでは多数のブラシレスDCサーボモータや新製品の位置決めドライバなどを展示
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【写真7】マクソンジャパンのモータを採用した研究機関の成果物も。千葉工業大学の床下点検ロボットや、JAXAで開発された惑星探査ロボット「ミネルバ」などの模型もあった
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【写真8】日立プラントテクノロジーのパワーアシスト型チェーンブロック(吊搬装置)。こちらもマクソンの製品が利用されているという
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ダナハーモーションジャパンのブースでは「セグウェイ」が展示されていた【写真9】。同社はセグウェイの駆動系を提供している企業だという。セグウェイに組み込まれた実際の製品は展示されていなかったが、カスタムメイドのダイレクトドライブや、多軸サーボアンプなどを出展【写真10】【写真11】。後者のサーボアンプは、小型ながら最大8軸まで接続でき、1軸あたり20kWまでのモータに対応できるという。
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【写真9】ダナハーモーションジャパンのブースで展示されていた「セグウェイ」。同社の製品はセグウェイに組み込まれているそうだ
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【写真10】ダナハーモーションジャパンのカスタムメイドモータ。シャフト径に合わせてさまざまな仕様に対応できる
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【写真11】多軸サーボアンプ。デモでは小型モータを6軸ぶんドライブしていた。小型ながら、最大20kWまでのモータを8台まで駆動できる
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このほか、目についた製品としては、サーボモータとドライバ、コントローラが一体となった「スマートモータ」(多摩川精機)や超小型超音波モータ(テクノハンズ)などもあった。
ダイナックスは、ロボットアームやスカラーロボットのデモを行なっていた。スカラーロボットは主に組み立て作業によく用いられる。同社のロボットはACサーボモータとハーモニックドライブを採用しているが、ローコストであることが特徴だという【写真12】【動画4】。
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【写真12】ダイナックスのスカラーロボット。ACサーボ2軸をベースにして、エア駆動から、上下、回転にパルスモータを使用した4軸構成まで、各種組み合わせが可能
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【動画4】水平多関節ロボット(スカラーロボット)と、垂直多関節ロボットの連携によるハンドリング操作のデモ
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● 最小のハーモニックドライブや、ギヤ、ボールネジ、リニアガイドなどが目白押し
ギヤ、ボールネジ、ベアリング、リニアガイドなどの機械部品関係では、ハーモニック・ドライブ・システムズ、ツバキエマソン、NSK(日本精工)、NTN、THKなどの大手メーカーが製品を出展していた。
ハーモニック・ドライブ・システムズのブースでは、外形角13mmの最小ハーモニックドライブをACサーボモータに組み込んだアクチュエータ「RSF-3A」が目をひいた【写真13】【写真14】。ハーモニックドライブは、いわゆるノンバックラッシュ(少バックラッシュ)でガタがない機構が大きな特徴だが、複雑な構造をこのサイズまで小さくできる技術に驚いた。このアクチュエータには専用ACサーボモータドライバも用意されている。
また、ハーモニックドライブを2段構成にした超高減速比(1/38560)の参考出品も行なわれていた【写真15】【動画5】。さらにハーモニックドライブを利用したロボットハンドの動態展示もされていた【動画6】。こちらも同社のギアや専用ドライバが利用されている。
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【写真13】ハーモニック・ドライブ・システムズのブース。同社のハーモニックドライブが多数展示されていた
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【写真14】外形角13mmのACサーボアクチュエータ「RSF-3A」。ギア比は30/50/100の3タイプがあり、許容連続トルクは0.03/0.06/0.08N・m。ブレーキ付の製品を標準でラインナップ
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【写真15】ハーモニックドライブを2段構成にして、1/38560の超高減速比を実現した参考品。起動・停止時の許容ピークトルクは176N・m
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【動画5】ハーモニックドライブを2段構成のデモ。入力軸と出力軸の回転の違いを見ると、かなり減速されていることがわかる
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【動画6】ハーモニックドライブを利用したロボットハンドのデモンストレーション。ボールをピックアップ。左に見える基板が、使われているACサーボドライバ
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NSKでは、高速かつ低騒音のボールネネジを従来品と比較してデモ展示していた【写真16】。許容回転数は5,000rpmで、騒音は6dBも低減できるという。また同社の主力製品のひとつ、リニアガイドも多数紹介されていた【写真17】。同社ではダイレクトドライブ(DD)モータも初期の頃から開発している。メガトルクモータ「PSシリーズ」は、微小な角度を最短時間で位置決めできるDDモータ【写真18】。負荷イナーシャ(慣性)が小さく、位置偏差が少ない高追従制御や、整定時間を短縮させる摩擦抑制制御を実現している。デモでは、定まった角度での繰り返し位置決め動作をさせていた【動画7】。
ギヤ、ベアリングなどの機械要素は縁の下の力持ち的な存在であるため、どうしても地味になりがちだが、NSKのブースではアート的な要素を盛り込み、ビジュアル的にも面白い展示をしていた。たとえば、ボールベアリングとサーボモータを利用して水流を拡げ、クラゲのようなオブジェのウォータアート(杉原有紀氏作)は眺めているだけで楽しいものだった【動画8】。また、本物のベアリング製品はもちろん、米粒で作ったベアリングも展示されていた【写真19】【写真20】。こちらはボールが摺動するものではないが、ベアリングが「機械産業の米」のような役割を果たすことをモチーフとしているアイデアはユニークだと感じた。
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【写真16】NSKの展示ブース。従来と比べて騒音を大幅に減少させたボールネジ類は目玉のひとつだ
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【写真17】高防塵ボールネジとNSKリニアガイド「V1シリーズ」。日刊工業新聞社の第4回モノづくり部品大賞において「機械部品賞」を受賞
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【写真18】同社のDDモータ「PSシリーズ」。メガトルクモータという呼称。慣性が小さく、高トルクで高応答性
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【動画7】メガトルクモータによる繰り返し位置決め動作のデモ。ダイレクトドライブのため、高精度な位置決めが可能だ
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【動画8】クラゲのようなオブジェによるウォータアート。台の下にあるボールベアリングとサーボモータで駆動。とてもキレイで癒される
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【写真19】NSKのベアリング類の展示。工作機械用の高剛性複列円筒ころ軸受け、ボールねじサポート用のシール付きスラスト/アンギュラ玉軸受けなどを紹介
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【写真20】米粒で作ったベアリングの模型。ボールは摺動しないが、アイデアは大変ユニークで目をひいた
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ツバキエマソンでは、サーボモータのシャフトをクランプする機構を標準装備した各種ギアヘッドや、小型ギヤドモータ、ウォームギアモータ、遊星ギヤ、ヘリカル・ベベルギアボックス、リニアアクチュエータ、カップリング、パワーロック(締結器)など、さまざまな機械要素部品を出展していた【写真21】【写真22】。こちらのデモも面白かった。2つのリフトテーブルの昇降を同期させたり、回転寿司のベルトコンベアなどのデモを実施しており、かなり目をひいた【写真23】【写真24】。
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【写真21】ツバキエマソンのブース。サーボモータ用の各種ギアヘッド。サーボモータの急峻なトルクにも耐えられる高信頼性、耐久性を実現
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【写真22】入力軸と出力軸の方向を変えるヘリカル・ベベルギアボックスも用意
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【写真23】2つのリフトテーブルの昇降を同期させるデモ。締結部にはパワーロック、連結部にはフレキシブルなカップリング、駆動部にはサーボ減速機、昇降にはリニアパワージャッキが用いられている
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【写真24】回転寿司のベルトコンベア。駆動源には同社の小型ギアモータ(パルサシオン仕様)が用いられている。あらかじめモータ内部に磁気エンコーダ(分解能50ppr)を組み込んでおり、エンコーダを外付けする必要がないため省スペース
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リニアガイドで有名なTHKは、ボールリテーナ入りのLMガイドを中心に展示。ボールリテーナの効果により、グリースの保持力が向上し、長寿命・長期メンテナンスフリーを実現。高速なサーボモータにも対応できる。これ以外にも、高精度θテーブルや高加速・低発塵・低騒音のリニアモータアクチュエータなども紹介していた【写真25】【写真26】【動画9】。
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【写真25】THKのブース。クリーンアクチュエータとFA用のアクチュエータ
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【写真26】アキシャル方向、ラジアル方向のブレが業界最小の5μmという高精度なθテーブル。特許出願中だという
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【動画9】THKブースでのデモンストレーション。スムーズかつキビキビとした動作で位置決めを繰り返す。騒音も小さい
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変わりどころとしては、共栄通信工業が形状記憶合金のような「バイオメタル」を利用したアクチュエータでロボットのデモを行なっていた【写真27】【動画10】。バイオメタルは、電流を流すと生物のようにしなやかに動く、細い金属繊維状のアクチュエータ。電流を流すとピアノ線のように強靱になり、強い力で収縮するが、電流を止めると再び柔らかくなり、元の長さに戻る【写真28】。100gぐらいまでの重量を引っ張ることができるそうだ。現在、ホビー用など応用範囲を模索しているという。こういった素材でマリオネットを作れば面白いと感じた。
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【写真27】「バイオメタル」を利用したアクチュエータでロボットハンドを製作。ホビー用など応用範囲を模索しているという
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【動画10】ロボットハンドをバイオメタルのアクチュエータで動作させるデモ。ショップのディスプレイなどに良いかもしれない
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【写真28】細い金属繊維状の「バイオメタル」。電流を流すとピアノ線のように強靱になり、強い力で収縮する。意外と張力が大きい
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計測機関連では、小野測器がモータシャフトの回転ぶれや振動などを解析するための2ch・FFTアナライザーを参考展示【写真29】。回転信号をピックアップして、回転を上げたときの変動や周波数成分を表示する。入力が2chぶん用意されているので、2軸間の相関分析も可能だ。また、一方向に負荷をかけてモータのトルクを計測するメータや、微小なコギングトルクを測定するメータなども展示していた【写真30】。
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【写真29】モータシャフトの回転ぶれや振動などを解析する2chのFFTアナライザー。トラッキング分析が可能。ちなみにFFTは高速フーリエ変換のこと
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【写真30】微小なコギングトルクを測定するメータ。モータメーカーなどにおいて、モータの開発・評価などに利用されるもの
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横河電機は、モータやインバータの評価に欠かせないプレシジョンパワーメータを出展。このほかにも多くのメーカーで、モータの性能を計測・解析する測定器が紹介されていた。センサ系では、やはりエンコーダやポテンショメータなど、角度や位置を検出するための製品が多かった。エンコーダはパルスを分割し、100万ppr以上の高分解能を備えるタイプや、周波数応答性に優れたシリアル通信タイプも見られた。
● ユニークな次世代アクチュエータ研究で新技術の萌芽も
モーション・エンジニアリング展の一角では、「ブレイクスルーを生み出す次世代アクチュエータ研究」と題された展示ブースが設けられていた。ここでは、文部科学省の科学研究費補助金特定領域に選ばれ、各大学や公的機関で進めらている研究が紹介されていた。
研究対象は、ナノメートルレベルで移動できる「超精密アクチュエータ」、マイクロメートルオーダの構造を持つ「小型アクチュエータ」、高度な情報通信機能をベースにした知的な「スマートアクチュエータ」、力を要する分野に用いられる「パワーアクチュエータ」、極低音・高温・真空・強磁場などの環境下でも使用できる「特殊環境アクチュエータ」の5つ。いずれもユニークな研究で、新技術の萌芽として注目されるものが多かった。
岡山大学では、空気圧ゴムの人工筋肉を利用したパワーアシストウェア【写真31】や、センサ・CPU・通信機能などを備えた電磁インテリジェントアクチュエータ/シリンダ、直径1.8mmの円筒型マイクロ超音波モータ、マイクロポンプなどを紹介していた【写真32】【写真33】【写真34】。岡山大学の円筒型超音波モータは、電極を4分割し、90度の位相差を持った交流電圧を加えている。すると、その方向に円筒が屈曲し、上部で接触しているロータとの摩擦によって回転運動をする仕組み。
超音波モータは、低速・高トルク、高保持トルク、低騒音といった特徴がある。慶応大学では、小形化の方向ではなく、ロボットのパワーアクチュエータとして、応用製品を研究。市販の超音波モータを20個ほど装備した5指ロボットハンドを展示していた【写真35】。
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【写真31】岡山大学の立ち上がり動作支援装置。空気圧ゴム人工筋肉を身体着用人間動作支援ロボットに応用。このほかにも、上肢動作支援装置なども展示されていた
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【写真32】電磁インテリジェントアクチュエータ。アクチュエータに通信機能や分散的な制御機能を持たせ、制御性能の向上を目指しているという
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【写真33】電磁インテリジェントアクチュエータの基板部。PSoCマイコン内部に、カウンタ、ADC、PWM制御、通信機能などを実装。メカはV字リンク機構を採用し、大きく変形できる
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【写真34】センサを内蔵したインテリジェント空圧シリンダ。シリンダロッド部にYAGレーザーで微細な加工を施し、ラインの反射をセンサで読み取って制御するしくみ。このインテリジェント空圧シリンダを多面体構造にして、力覚提示装置への応用も
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【写真35】慶応大学の5指ロボットハンド。市販の超音波モータを20個ほど装備している
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東北大学は、繊毛を全身に備えた「能動スコープカメラ」のデモを実施。一見するとヘビのようなロボットだが、全身が繊毛で覆われており、30~40cm間隔で取り付けらた振動機構によって、繊毛が振動して推力を発生する仕組み【写真36】【動画11】。床面で角度のついた繊毛がたわんだり、元に戻ったりしながら、上下に振動して進んでいく。最大進行速度は46mm/secとかなり速い。災害現場や入り組んだ狭路などで活用が期待される。
ユニークなロボットとしては、空気圧によって駆動するフレキシブルマイクロアクチュエータ(FMA)を利用したマンタ型遊泳ロボットもあった【写真37】【動画12】。こちらは有限要素法によって応力などを解析して形状を決めたという。
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【写真36】東北大学が開発している繊毛振動駆動型の能動スコープカメラ。繊毛振動によって全面が推進力を持つ構造
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【動画11】挿入部分の長さは8mで、先端部に90度の首振り機能を備えている。200mmの段差も乗り越えられるという
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【写真37】空気圧によって駆動するFMAを用いた、ユニークなマンタ型遊泳ロボット。実際に水中で泳ぐことができるそうだ
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【動画12】デモを見ると、本当のマンタのように柔軟に動いていることがよくわかる
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山形大学・東北工大・室蘭工大では「ジャイロモーメント・モータ」と呼ばれるモータを研究【写真38】。互いに直交する3軸のうち2軸にモーメントを与えると、もう1軸にジャイロモーメントが発生する現象を応用したものだ。
たとえば、電気的にパルスを印加し、X-Y軸を交互に傾ければ、Z軸が回転しだす。プロトタイプのジャイロモーメント・モータは4極・2相励磁方式を採用し、円板を揺動させる。円板の中心にはピボットベアリングがあり、そこにシャフトを立てZ軸を回転させる仕組み【動画13】。同様の原理で、内部に水を充填したパイプ形状のスクリューモータもあった。こちらはマイクロポンプなどに応用ができるという。このほか、同極・電磁石を対向に配置して磁束密度を高め、従来より約4倍の効果を発揮できる携帯電磁発電方式も紹介されていた【写真39】
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【写真38】山形大学・東北工大・室蘭工大で開発している各種ジャイロモーメント・モータ。一番手前がパイプ形状のスクリューモータ
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【動画13】試作したジャイロモーメント・モータのデモ。互いに直交する3軸のうち2軸にモーメントを与えると、もう1軸にジャイロモーメントが発生する現象を応用
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【写真39】従来より約4倍の効果を発揮できる携帯電磁発電方式。懐中電灯や携帯電話のストラップなどに応用できる
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豊田工業大学では、アザラシ型の精密位置決め機構を開発中だという【写真40】。従来のインチワーム機構による位置決めでは、両側をオンオフさせて移動させるが、このアザラシ型機構では片側をオンオフ制御させ、もう片側は摩擦機構によって地面を擦るかたちで移動する。制御するアクチュエータが少なくシンプルな構造ながら、高分解で広範囲での移動が可能になる。動きがアザラシの移動形態に似ているため、アザラシ型機構と呼んでいるそうだ。
展示では、XYθの3自由度を持つ機構が紹介されていた。この機構とパラレル機構による微動ステージを組み合わせ、走査型プローブ顕微鏡などにおいてナノメートルオーダーからの移動が可能になるという。
東京工業大学は、弾性表面波モータ【写真41】【写真42】やECFモータ【写真43】などを出展していた。弾性表面波モータは、弾性体の表面だけにエネルギーが集中して伝搬する振動(レイリー波)を駆動源とするもの。最大推力10N、移動速度1m/secと高速で、サブナノオーダーの分解能で制御できる見通しだという。
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【写真40】豊田工業大学で開発しているアザラシ型の精密位置決め機構。シンプルな構造ながら、従来のインチワーム機構と同等以上の性能を発揮
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【写真41】東京工業大学の弾性表面波モータ。レイリー波を駆動源とし、最大推力10N、移動速度1m/secと高速
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【写真42】弾性表面波素子のアプリケーション例。光シャッターや光スイッチなどに応用が利く
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【写真43】東京工業大学のECFモータ。不均一な電界を発生させるとジェット流を生じるECF(電界共役流体)を利用したもの
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一方、ECFモータは、機能性流体として、不均一な電界を発生させるとジェット流を生じるECF(電界共役流体)を利用したもの。直径数mm以下のマイクロモータやマイクロポンプを展示していた。
名古屋大学では、人の触覚の知見から、触覚センサやディスプレイに応用するさまざまな研究を進めている。触覚部で圧力とすべりを検出できるポイントを開発し、それをアレイ状に多数配置した触覚センサやディスプレイの研究を紹介。たとえば、41個の3軸触覚センサを搭載したロボットフィンガーでは、【写真44】のように、柔らかい紙製の箱をつぶさずにハンドリングすることができるという。
高温・強磁場などの特殊環境下で利用できる静電・磁気・熱駆動型のアクチュエータを研究しているのは東京大学の研究室。静電フィルムアクチュエータは、薄型軽量の非磁性材で構成されるリニアモータとして機能する【写真45】。
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【写真44】3軸触覚センサを搭載したロボットフィンガー。実物は展示されていなかったが、微妙な力のコントロールができるという。写真は柔らかい紙製の箱をつぶさずにハンドリングしているところ
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【写真45】東京大学の静電フィルムアクチュエータ。薄型軽量の非磁性材で構成されるリニアモータで、強磁場での使用が可能
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一般的な電磁モータでは永久磁石が用いられるが、高温では磁化が失われてしまう。一方、強磁場では周囲の磁場にって、モータ性能が発揮できなくなる。逆にモータから磁場を発生すると、MRIなどの医療機器では利用できない。この静電フィルムアクチュエータは、駆動に磁場を必要とせず、なおかつ高電圧・小電流で駆動するためモータ自体から磁場の発生が少ないという特徴がある。
また、熱駆動型のアクチュエータとして、バイメタルを用いて推進力を発生させる研究のデモも行なわれていた【写真46】。高温(60度以上)のアルミ平板の上に、丸めたバイメタルを置くと、温度差によってバイメタルが湾曲し、非対称な曲げ変形が起こる。そこで推進力が発生するので、一方向に移動させたり、円板の中に重りを置いて振り子運動をさせることが可能になる【動画14】。構造がシンプルで安価、高温で使用できるというメリットがあるという。このほかに、磁歪・圧電材料を複合させて、消費電力ゼロで磁気力を保持できるアクチュエータや、250度で利用できる高温用磁気センサも紹介されていた。
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【写真46】バイメタルを用いて推進力を発生させる熱駆動型のアクチュエータ。構造がシンプルで安価、高温で使用できるというメリットがある
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【動画14】振り子のように左右に動くバイメタルのアクチュエータ。一方向への移動も可能
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このように現在、各大学や研究機関ではロボット要素技術の研究開発を推進している。ロボットというと、どうしても完成された機能に目が向きがちだが、これらを支える基礎的な研究はとても重要なものばかり。基礎研究の中からブレークスルーとなる次世代アクチュエータが生まれてくることを期待したい。
■URL
TECHNO-FRONTIER
http://www.jma.or.jp/TF/
( 井上猛雄 )
2007/04/23 19:40
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