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「次世代ロボット共通プラットフォーム技術」平成18年度成果報告会レポート


 2007年2月16日、東京・機会振興会館において、総合科学技術会議 科学技術連携施策群 次世代ロボット連携群 平成18年度成果報告会「次世代ロボット共通プラットフォーム技術」が開催された。主催は内閣府。共催は総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省。

 総合科学技術会議とは、内閣府へ平成13年に設置された、4つある「重要政策に関する会議」のひとつである。この中にある“科学技術連携施策群”は、この会議によって国家的・社会的に重要かつ関連府庁が連携して進めるべき、と決められた8テーマで構成されている。次世代ロボット連携群はその1つとして「次世代ロボット共通プラットフォーム」を社会に提供することを中核的なミッションとして平成17年度から展開しているものだ。今回は2年目となる平成18年度の成果報告と、関係各省の担当者が出席したパネルディスカッションが行なわれた。


共通プラットフォームでロボット開発を効率的に

次世代ロボット連携群 主監 谷江和雄氏
 まず、次世代ロボット連携群の主監をつとめる谷江和雄氏(首都大学東京教授)が、全体の成果報告とあわせて、この連携群が何を意図しているのか、何が行なわれているのかといった概略の解説があった。

 この連携群の実際的な目的は「各省で行なわれる次世代ロボットの研究でムダな重複をなくそう」というものだ。日本の行政はどうしても縦割りになってしまう傾向にあり、ともすれば同じ内容の研究を複数の省で行なう可能性があるので、こういった横のつながりの場を作って、ムダ(=つまり税金のムダ)を減らそうという意図である。これについて谷江氏は「ヒアリングなどで調査した結果、ロボットに関しては不必要な重複はなかったし、不足している部分もなかった」と述べた。

 一方、課題として浮かび上がったのは「共通基盤技術」の必要性だという。

 例えば現状ではヒューマノイドに腕を付けるときに、すでにいい“腕”が開発されていても、ソフト部分が独自開発のために他のプロジェクトでその“腕”を利用することができない。共通基盤技術としてのミドルウェアを共有することができれば、この“腕”もミドルウェアを介して別のプロジェクトで利用できるようになる。これがソフトウェア面での共通プラットフォーム技術だ。

 そして、ロボットを周囲からセンサなどで支える「環境」が共通プラットフォームになれば、さまざまなロボットが環境情報を利用して動くことができるようになる。そのためにも「環境の情報構造化」を行なうことが重要なので、この連携群では「次世代共通プラットフォーム」を主なミッションとして活動することになったのだという。


現在までのロボット開発の流れ。各省をつなぐラインがない 共通プラットフォームのイメージ この連携群が直接何かをするのではなく、各省庁間の連携をサポートするのだ

成果報告会

九州大学大学院 システム情報科学研究院 教授の長谷川勉氏
 次に、課題報告として4つの報告が行なわれた。

 まず九州大学大学院 システム情報科学研究院 教授の長谷川勉氏が登壇し、「ロボットタウンの実証的研究」における開発状況などの紹介を行なった。

 従来のロボットはロボット自身にセンサを搭載し、情報処理までロボット自身が行なうものだったが、それではロボットが情報処理だけに追われてしまうため、環境そのものが外界センサを持ち、ロボットに状況を知らせる“ロボットタウン”として機能することが理想なのだという。

 この“ロボットタウン”は、それぞれのロボットが別々の規格でセンサを埋め込んでいてはあまりに無駄が多くなる。そこで、センサの情報を受け取る共通の規格を設定し、それに沿っていればどのロボットでも「環境」から得られた情報を利用することができるようにしようというプロジェクトなのである。

 現在福岡市と、同市も参加するロボット産業振興会議、九州経済産業局の3者が連携し、福岡市のアイランドシティに研究開発フィールドとして実験住宅が建設されているほか、道路や公園も含めてセンサ類を埋め込んだ環境を整備しているという。「実験住宅などは誰でも使える公開施設として考えており、環境情報取得用のAPIライブラリも公開・提供する」(長谷川氏)ということなので、別々のプロジェクトで開発されたロボットが同じ環境を利用して実験できるということだ。


環境にセンサを埋め込むことでロボットの負担が減る 福岡市に設置された“ロボットタウン”の概要 九州大学付属病院内にある研究開発フィールドのマップ

独立行政法人産業技術総合研究所 知能システム研究部門 副研究部門長 比留川博久氏
 独立行政法人産業技術総合研究所 知能システム研究部門 副研究部門長 比留川博久氏は、「蓄積と再利用可能なロボット用ソフトウェア基盤の確立」と題した報告を行なった。

 比留川氏は「昔は時間がかかったが、現在の産総研は新しいハードが来ても一週間で動かすことができる。それはRTミドルウェアが共通だから」と、シミュレーターや制御ソフトなどを同じプラットフォームで開発することで得られるメリットを実体験から紹介した。

 また、産総研と東京大学はこれまで動力学シミュレーターOpenHRP2を国内外150以上の機関に提供したが、対象となるロボットが限定的だったと指摘。次世代ロボット開発を効率化するためにも、移動ロボットやマニュピレーター、多脚などさまざまなロボットを対象にできる「OpenHRP3」の開発に取り組んでいるという。すでに単純な機構からヒューマノイドまでのシミュレートを行なう際に並列計算で高速化することは実装されており、さらに今後はプロジェクト参加者などにソースを開示することで、多くのプロジェクトに提供する予定だという。


2006年9月にソフトウェア標準化財団OMGで採択されたOpenRTM-aist-0.4.0の特徴。2007年末ごろに仕様公開予定 【動画】シミュレーターの結果が実機と一致するデモ映像 単純なリンク機構からヒューマノイド、人体骨格まで高速化している

株式会社国際電気通信基礎技術研究所 知能ロボティクス研究所 所長 萩田紀博氏
 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 知能ロボティクス研究所 所長 萩田紀博氏は、「室内外を移動する人にサービスを提供するための環境情報化」について報告した。

 ロボットは「人がどこにいるのか」をセンサやカメラで認識するが、実際のサービスでは、例えば人間は人を絶対座標で認識することよりも、「周囲の状況」や「その人の行動」を情報として取り込んでいる。これらの情報をロボットが取り出せる共通プラットフォームができれば、街や家庭で新たなサービスが普及するだろうとした。

 「ロボットであれば案内ひとつ取っても、どこが混んでいるのかや、(お客さんが)どの展示をすでに見たのか、どんな展示を探しているのかというような情報をRFIDタグなどを使って活かすことができる」(萩田氏)

 成果報告としては、人位置の計測システムプロトタイプを構築したことが1つ。また、ロボットの認識段階を4層に分けたもののうち、先に挙げた「周囲の状況」や「その人の行動」にあたる空間・行動プリミティブの抽出方法は、大阪市科学館における実験を通して可能だと確認された。

 また、このシステムは実際にNICTけいはんな情報通信ラボで構築・管理・運営されており、ロボットサービス開発者の一時利用も可能にしていくという。これについては本プロジェクトの3年目となる次年度を目標として行なうと述べた。


環境情報を4層に分けたモデル。ロボットのサービスに大事なのは上の2層だという 大阪市科学館で得られた実験データ。これをロボットが参照できるようにすることが目標 3年間の研究計画。3年目となる来年度の実証実験が注目だ

独立行政法人産業技術総合研究所 知能システム研究部門 グループ長 大場光太郎氏
 独立行政法人産業技術総合研究所 知能システム研究部門 グループ長 大場光太郎氏は「作業空間における物体操作のための環境構造化」についての報告を行なった。

 大場氏は「共通プラットフォーム」を「ユニバーサルデザイン」と置き換え、ロボットがさらに普及するためにはロボットにとっての非整備環境である人間の生活空間を、両者が簡便に使える「環境構造のユニバーサルデザイン化」をすることが必要だと位置づけた。同時に、異なる構造のロボットが作業を効率化するための「作業構造のユニバーサルデザイン」も必要不可欠であり、この2つのユニバーサルデザインがロボットの活用範囲を広げるとした。

 実際の実験でも複数の構造化された環境をで何種類かのロボットを使い、数種類の作業を行なうことでユニバーサルデザイン化できる部分の洗い出しが行なわれている。

 平成19年度は実証スペースでの実証実験を行なうが、センサやアルゴリズムの組み合わせや入れ替えを容易にするために各要素をRTコンポーネント化して行なう予定だ。また、ロボットの位置情報計測技術として平成18年度に開発した屋内GPSの擬似衛星(発信機)を受け、今年度は受信機の開発にも取り組むという。


現在産総研で行なわれる実証実験の意識 例えば食器の片付けと書類の整理で似ているところはどこなのかという……を実験で洗い出している 屋外のGPSと同じ規格で発信するものを作ることで、携帯電話に搭載されているGPS機能でも測位できるようなものを研究している

パネルディスカッション

 続いて、“次世代ロボット連携群”で横の連携を強めていこうとしている総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の各担当者が出席したパネルディスカッションが行われた。

 ロボットを開発する際、ニーズがある現場と技術(シーズ)がある現場が同じ管轄でないために不便を強いられたことは少なくないという。例として挙げられていたのは、例えば医療用・介護用ロボットを作ったとしても、それを現場で使うためには厚生労働省の管轄である病院に入らなければいけないため、思うように実証実験ができない、というような面である(厚生労働省はこの連携群にオブザーバーとして参加している)。まさに“縦割り”行政といえる。

 そういった壁をこの連携でなくすための取り組みとして行なわれているのがこの連携群だが、実際に連携して何かが動いているというよりは、お互いに「我々のところではこういった研究開発が行なわれている」、「我々はこういったニーズがある」ということを同じ場で公開することで、シーズとニーズの「お見合い」をさせていると考えているようだ。

 また、現場レベルで見ると、今回出席した国土交通省港湾局の担当者からは「我々の現場は特殊なので、現場を良く知っている使う人が作るものか、作って機械を良く知っている人が使うかといった2択になってしまう」ということもあり、技術の交流ももちろんだが、人材レベルで各省の間で交流できるこういった場は、かなり貴重なのだという意見も出されていた。


農林水産省が開発しているという「いちご収穫ロボット」。「耕うんロボット」もあるが、価格が問題だという 国土交通省で開発したロボット建機の技術 国土交通省港湾局がロボットの開発に使っている港湾空港技術研究所のプール。こういった施設も連携で他省が使えるようになるのかも

まとめ

 成果報告会のまとめとして主幹の谷江氏は「今回報告した(共通プラットフォームの)報告は途中経過であり、来年度に最終報告を行なう予定だ。また、プロジェクトが終わった後には世の中に公開して皆さんに使ってもらおうと思って開発しているものなので、ロボットサービスの未来のために活用していただきたいと思っている」と述べた。

 今回の成果報告会は、各省がそれぞれ独自にロボットを研究していては効率が上がらないと考え、連携しようとしている動きそのものだといえるだろう。パネルディスカッションでは「現在日本のロボット技術は世界トップレベルだが、トップレベルだと言っているうちにいつの間にか追い越されてしまうのが最近の日本だ」と、危機感を持っていることをうかがわせる発言もあった。

 また、共通プラットフォームに関する報告では、米Microsoftが公開した「Microsoft Robotics Studioを意識している」という発言もあり、次世代ロボット開発の共通規格を、国内だけでなく国際的な標準として押し上げていこうという意識も大きいようだ。

 これからは単体の「ロボット」を開発するだけではなく、環境を含めて整えていこうという時代になっていく。その環境も、道に電子タグを埋め込むとか、カメラ・センサを設置するというハード的なことはもちろんだが、ロボットが動ける法規的な環境といった、ソフト面という、2面がある。それらも各省が連携することでスムーズに行なうことができるだろう。時間的にも費用的にもムダが少なくなり、さらに加速する次世代ロボット開発に注目していきたい。


URL
  総合科学技術会議 科学技術連携施策群
  http://www.jst.go.jp/renkei/


( 梓みきお )
2007/02/23 16:01

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